■ 議会との関係で留意すべき点は何ですか?
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・ 住民による直接選挙で選ばれた議員によって構成される地方議会との関係にも留意する必要があります。
・ 従来、直接民主主義は、住民の意向把握や施策への反映、合意形成などに多くの手間とコストを要するという一面がありました。わが国では、これまで間接民主主義が採用されており、住民の意向把握や施策への反映、合意形成については地方議会や審議会などを通じて行われ、広域的、専門的見地からの問題解決が図られてきました。
・ 一方、地方分権の推進により、住民の意向把握や施策への反映を直接的に行うことが求められるようになってきました。また、ICTの活用により、より少ない手間やコストで、住民が直接意見を述べたり、住民意向の把握や意見交換を行うことが可能になってきました。これらの変化を背景として、間接民主主義中心の現状に対して、どこまで直接的に住民の意向を反映していくかという課題について検討をする必要があります。
・ 課題の解決方策として、議論するテーマによってすみ分けを行う方法が考えられます。例えば、近くの公園の利用規則を決めるようなテーマの場合には、その公園を利用する人、近隣住民、管理する行政担当者などが参加して、当事者同士でルールを作成することが考えられます。このように、課題の所在が比較的小さな地域に閉じており、利害関係者もある程度限定される場面については、当事者である住民が直接参画して議論した結果、方針を決定することになじみやすいです。
・ 一方、ゴミ処分場の建設など、広域的な課題であり利害関係者も不特定多数に及び当該地域への補償の問題など当事者の利害関係の調整が複雑になる場合や、条例制定など専門的な知識が要求される場合については、住民の意見を十分踏まえつつも、地方議会におけるしっかりとした議論が求められます。
・ また、地方議会の議員に地域コミュニティの問題解決のリーダー的役割を担っていただき、住民参画の過程に直接参画していただくという方法もあります。
・ 例えば、スウェーデンのストックホルム市シスタ小市議会地区では、eデモクラシーのサイトを開設し、議会関連情報(議事録など)の公開や、住民からの意見の提案、議員と住民間の意見交換などを実現しました。スウェーデンでは住民が意思決定できる領域と、政治家に意思決定を任せるべき領域が法律で明確に区別されていますが、それを踏まえながらも、あらゆる場面で市民の意思が尊重されるような努力がなされてきました。そしてこの努力は、住民の声を政治家に伝えるルート作りへとつながりました。市民の声をすばやく、きちんと聞き入れる政治家は支持され、そうでない政治家は次第に疎まれていく、この循環が代議制を活き活きとしたものにしていくと考え方にたっています。市民が積極的に意見を述べる行動が先にあり、それに対して政治家や行政側が積極的に対応していくという手順です。ここでは、eデモクラシーは、間接民主主義の代替案ではなく、むしろ代議制を補完、活性化させるものと考えられています。
(※参考文献:「欧州発 eデモクラシーの潮流」 NTTデータ コンセンサスコミュニティ)
http://www.nttdata.co.jp/itinfo/publication/pdf/vol09-01.pdf
・ 韓国ソウル特別区江南(かんなん)区では、高品質の行政サービス提供、住民参加活性化、行政の効率性の極大化、行政の透明性引き上げを目的として、電子政府を推進しています。この中で、江南ポータルサイトを利用した住民意見の直接収集や、電子投票、電子アンケート、電子会議室の運営などが行われており、住民の提案の中から採択されたものは政策に反映されるほか、予算編成の際の事業の優先順位決定にも活用されます。江南区においても予算編成に係る最終的な決定権は地方議会が持っていますが、このように住民によって直接的に優先順位付けされた結果を尊重する形で、地方議会においても決定が下される傾向にあるようです。
(※参考文献:「住民満足志向の江南区電子政府」 大韓民国ソウル特別区江南区)
・ このように、地域SNSなどのICTを活用した新しい住民参画手段は、迅速な情報発信や住民参加による施策検討など、様々な可能性を秘めていますが、一方、既存の制度との間で軋轢を生む場合もありますので十分な事前の検討が必要となります。以下、藤沢市、大和市の事例を紹介します。
・ 藤沢市市民電子会議室では、市内の鵠沼ガーデンプール閉鎖にともなう跡地利用問題が議論されたことがあります(2000年6月〜)。市の担当部署からの「跡地利用は今のところ白紙」の発言を受け、様々な提案、議論がなされ、2000年11月には情報開示や市民の意見を取り入れることなどを盛り込んだ提言書が作成され、市に提出されました。
・ しかしその直後、担当部署から電子会議室に跡地利用計画は既に決まっている旨の発言があり、会議室は紛糾することになります。会議室参加者の間には行政への不信感と失望が広がりました。
・ 後日、市から議会に諮る前に電子会議室に情報公開できなかった旨の説明がなされます。議会での決議前の情報を電子会議室に情報公開できない、決議後に議論しても内容が変わるわけではない、このようなジレンマを電子会議室は抱えることになります。
(※参考文献:「e-デモクラシーへの挑戦 藤沢市市民電子会議室の歩み」 金子郁容・藤沢市市民電子会議室運営委員 著)
・ 大和市(神奈川県)の事例は、電子会議室に直接関係するものではありませんが、住民参画による政策立案と議会との関係という点で注目されます。
・ 2002年4月、「大和市自治基本条例をつくる会」が中心となり、市民からの意見や市民相互の議論(63回の意見交換会などと119回の同会内部の会合)を経て、「大和市自治基本条例素案」が完成、2004年5月に市長に提出されました。
・ その後、市議会で素案の修正が行われたのですが、素案作成者たちにとっては、修正にあたり必ずしも十分な議論がなされたとは思えず、不本意ともいえる修正案となりました。
・ 条例制定は議会の役割であり、住民が作成した素案がそのまま条例となるのなら、議会は不要といわれかねませんが、一方、住民が相当の時間をかけて議論して作成した素案に対し、議会において限られた時間でさらによくするための修正案の作成が本当に可能かといった問題もあります。修正案の作成に対し、素案を作成した住民への説明責任の有無についても、必ずしも明確ではありません。このように、住民参加による政策立案を推進する際、住民参加の方法と議会の関係は、まだまだ今後検討していかなければならない課題のひとつです。
(※参考文献:「ドキュメント・市民がつくったまちの憲法 大和市自治基本条例ができるまで」 牛山久仁彦 監修、大和市企画部 編著、大和市自治基本条例をつくる会 編集協力)
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