地方行革をともに考えるシンポジウムin香川

日時:平成19年2月14日(水)
場所:かがわ国際会議場
主催:総務省、四国新聞社、全国地方新聞社連合会
後援:香川県、香川県市長会、香川県町村会、NHK高松放送局、西日本放送、共同通信社

基調講演

公認会計士・東京都会計基準委員会委員  鵜川 正樹 氏
テーマ:「新しい自治体会計と行財政改革 東京都の会計改革を事例として」

自治体の財務状況を正しく把握するために有効な「発生主義会計」

 公会計制度については、海外では企業会計と同じように発生主義会計を使っている団体がほとんどで、現金主義会計を使っているのは、わが国の政府・地方自治体と、ドイツ連邦政府だけです。
 現金主義会計は、現金の収入と支出を記帳する方法ですが、そうすると固定資産を買っても、人件費を払っても支出になりますし、逆に借入金も税金も収入になります。また、自治体は道路や学校などの大きなストック、資産を持っていますし、大きな負債も抱えています。それら全体の状況を把握するための会計方式として、複式簿記・発生主義会計があります。発生主義会計は、現金主義会計に不足しているストック、資産、負債の情報を把握し、コスト情報にしても、減価償却費や職員の退職給与の引当金などを入れた本当のコストを出します。それによってマネジメントの改革や費用対効果の分析をきちんとやっていき、無駄な支出を減らすといったことを、住民に知らせていくことができるわけです。
 行政サービスの効率化や有効性の向上、つまり無駄な支出をなくしてより有効性の高いものに戦略的に資源を配分していくとか、サービスの給付と負担とが公平になっているかどうかをきちんと住民に説明して理解を得ていくことが会計の役割であり、そのために発生主義会計が必要だと考えております。

マネジメント機能の強化につながる「発生主義会計」の導入

 東京都では、平成18年4月から複式簿記・発生主義会計のシステムを導入しています。このシステムの開発にかかった費用は約22億円です。ただ、これによって年間維持費が約5億円節約できますので、5年間で投資費用を回収できると計算しています。
 システムの概要ですが、特徴としては目別、事業別があり、現在の官庁会計の予算体系は款・項・目になっていますので、こちらでいう目別までは全部システムで財務諸表をつくることができます。それに加えて、事業別ということで、例えば各施設別のコスト計算もできるという、管理目的に役立つようなシステム設計になっています。また、現在、「機能するバランスシート」としてつくっているものを12月頃に公表していますが、システムを活用することにより、平成18年度決算からは8月に作成し、9月議会に報告するといった具合に、スケジュールを短縮できる予定です。
 活用の全体像ですが、マクロとミクロといったように、全体の財政状況を説明していくことと個別の事業を分析していくことと、両方やっていきます。例えば東京都の場合、平成11年度から第一次財政再建推進プラン、平成16年度から第二次財政再建推進プランに取り組んでおりまして、大きな財源不足がありましたが、中長期的な視点で財政支援をやっていくことに取り組んでおります。同時に各局の主体的な取り組みも推進し、マクロ、ミクロの両方でこういった構造改革をしていく財政運営を行っています。こういった自治体の財務運営においては、マネジメントの強化とアカウンタビリティの充実は必須です。
 事例を紹介しますと、1つには多摩ニュータウン事業というのがあります。これは多摩地域の再開発事業ですが、財務諸表・バランスシートをつくることで、大幅な債務超過になるということが判明し、事業自体を縮小、終息する判断を取りました。
 それから江戸東京博物館のケースですが、現金主義会計だと総事業費が39億円、入場者1人当たり2,850円、収入347億円になります。ところが、発生主義ベースで見ますと、運営費や減価償却費、資本コストを含めた行政コストが約93億円になり、1人当たりのコストは6,800円かかっているということが分かりました。こういった正確なコスト分析によって、事業をより正しく評価していくことができます。
 また、東京都版市場化テストを行った際も、民間とのコストの比較に活用しています。
 事業別財務諸表の作成は、最終的に各事業を所管する局が、自ら評価して予算等の計画に反映していくといったマネジメントサイクルを確立する上でも非常に重要です。現在は予算編成が中心で、予算とそれを執行した結果とを事後的に検証していくということが不足しています。事後検証の徹底により、税金の無駄使いをなくし、遊休資産の処分や活用を進めるといったことが可能になります。
 公会計制度改革が、行革の新たなテーマとして取り上げられていますが、会計改革は単に記帳方式を変えるのが目的ではなく、マネジメントサイクルの確立や、中長期の財政フレームの策定といったものと一体となって初めて効果が発揮されるものと考えます。

事例プレゼンテーション

香川県総務部 税務課長  畑山 栄介 氏
テーマ:「滞納整理推進機構・インターネット公売」

 三位一体改革の1つである税源移譲により、全国で3兆円、香川県分で148億円、県内市町分で85億円の住民税の増収が見込まれていますが、実際には市や町の徴収努力がないと税源移譲が実りあるものとなりません。そこで、今後県と市町とが連携するために、香川滞納整理推進機構をつくりました。
 機構には3つの特徴があります。1つは、一部事務組合ではなく任意団体であること。2つ目は県内市町や広域組合すべての団体と県の徴収職員の一部が併任していること。3つ目は、構成団体の新たな人的・財政的負担が不要ということです。
 効果としては、1点目にアナウンス効果が挙げられます。滞納者に対し、県職員と一緒に市町職員が徴収するという「業務予告書」を送るだけで納付されることもあります。2点目が機構業務実施市町の徴収額・徴収率の向上で、3点目がこれまでほとんど実施されなかった、捜索、差押、公売等の積極的実施です。4点目が職員や住民の意識の変化です。職員の間では滞納処分に対する抵抗感が薄れ、住民の方も、納税意識が前向きになってきました。
 また、滞納整理推進機構の業務として、県が市町から地方税法第48条により滞納案件を引き継ぎ、インターネット公売を実施しています。県外の落札割合が9割と入札参加者が全国規模になり、有利高価な換価が可能になっているほか、中古スニーカーや文房具、チェーンソーといったものも売れるなど、捜索・公売物件の対象が拡大してきています。

神戸市交通局経営企画調整課 計画係長  菅野 孝 氏
テーマ:「バス停ネーミングライツ」

 バス停名に社名や店舗名を「副停名」として併記するネーミングライツを導入しました。 バス停名の具体的な使用方法は、停留所の標柱に副停名を掲示するのをはじめ、隣のバス停にも次停名として掲示します。また、車内アナウンスや、交通局で毎年8万部発行している「市バスご利用ガイド」にも副停名を入れることにより、企業にとっては広告宣伝になります。バス停は700カ所ありますので、これを積み上げるとかなりのスポンサー料になるのではないかと考えています。
 導入までの流れですが、初めに一般公募を行い、募集終了後、審査会で審査を行います。昨年はスーパーから応募、提案を受けました。提案内容は、1つには年額36万円のスポンサー料。それに加えて、バス停の上屋や標柱、ベンチを新設することや、バス停の掃除をするといったことも提案していただきました。このような内容で、3年間の契約を締結し、新バス停名が命名されました。
 このように、企業に本来の命名権プラスアルファの取り組みをしていただくことにより、経費の節減と企業のイメージアップも図られています。
 また、ネーミングライツとは別に「広告付きバス停」という事業も行っていますが、今後はこれらの事業を連携させることにより、経費節減とともにより親しみやすいバス停、使いやすいバス停を整備していこうと考えています。

高知県総務部業務改革推進室主幹   池澤 博史 氏
テーマ:「行政経営の改革を目指したアウトソーシング」

 アウトソーシングについては、県民サービスの向上、民間との協働による人材育成・雇用創出、県民の参画と地域の活性化、県庁の自発的なスリム化という4つの目的に主眼を置いて進めています。行政が何でも抱え込むのではなく、地元の企業や住民団体などと手を組んで地域を支え合う仕組みづくりを進めていこうという考え方です。
 具体的な取り組みですが、1つは庁内向けの環境づくりです。これは、職員のアウトソーシングに対する不安を解消するとともに、取り組みを進めながら今までの仕事のまずいところを変えていこうというものです。もう1つは庁外向けの環境づくりです。アウトソーシングの説明会や個別相談会のほか、テレワークを使った方式で発注する「地域版アウトソーシング」や、民間の方々と仕様書や発注方法について話し合う「業務再編ワーキンググループ」などを実施しています。職員にとっては民間の方とお話しすることによって意識も変わります。
 質の高いアウトソーシングを進めるためには、職員一人ひとりが自分のこととして考えないといけません。単純にコスト削減だけをねらった取り組みだと、結局丸投げになってしまいます。県庁内部だけでなく、みんなで「公共」を再構築していくために、外部の方と対話をしながら進めていくことが大切です。そうすることで、官民双方にとって良好なWin−Win関係を築いていくことを目指しています。

パネルディスカッション

テーマ:「分権型社会に求められる新しい地方自治体のすがた」

パネリスト
●鵜川 正樹 氏 公認会計士・東京都会計基準委員会委員
◆錦 美弥子 氏 前香川県PTA連絡協議会副会長
■山下 幸男 氏 香川県政策部長
▲小暮 純也 氏 総務省自治行政局市町村課長
コーディネーター
○池谷 忍 氏 共同通信社論説委員兼内政部長

○池谷
「香川県の行財政改革の状況についてお聞かせください。」
■山下
「「地方分権時代」ということで、自分で決定して自分で責任を取る経営主体をつくり上げていくことと、人口減少時代にどう対応していくかということが大きな課題になっています。これからは自立した地域経営を行えるようなシステムをつくっていく必要があると考え、1つは人の改革、意識改革、もう1つは資源、地域資源の活用、3つ目は財源や権限。これらを基本に改革を進めていく必要があると考えています。
一方、地方の場合は収入の約4分の1が地方交付税ですが、三位一体改革の結果として、その地方交付税が大分減っているという状況ですので、財政状況はかなり厳しいものになっており、その中で行革を進め、なおかつ経費の節約を進め、歳入、歳出すべての面で改革を進めなければならないという状況にあります。」
○池谷
「一般住民の一人として見た地方行革の必要性をどのようにお考えになっていますか。」
◆錦
「行革というと、総論としては誰もが無駄なことは省けばいいという思いがあると思います。でも我々にしてみれば厳しい財政状況というのが言葉では分かるのですが、実際にそれがどこまでどの程度なのかというのが実感として分からない。1つ心配しているのは、最近、教育や人を育てる分野にも行革の波が押し寄せてきています。やはりそこは優先順位をつけていただいて、教育や福祉はなるべく後にして欲しいと思います。」
○池谷
「自治体の財政状況をどう評価していくのかということの1つが、発生主義会計のお話だと思いますが。」
●鵜川
「日常的に自治体の財政状況がいいのか悪いのかといったことや、サービスに無駄がないかどうかといったことが分かる情報を、住民に対して提供していくのが自治体会計の目的だと考えます。中期的な目標値に対して、現在どういう状況なのかということを住民に分かりやすく説明していくことも必要だと思いますし、身近な事業にどれだけの税金が使われているのかということをきちんと開示して、「本当にこの事業は必要なのか」とか、「もっと大事なことにお金をシフトすべきじゃないか」といった議論をするために情報提供をしていくことも必要ではないかと思います。」
○池谷
「地方行革に関する現状の認識や課題についてお話を進めてみたいと思います。」
▲小暮
「平成7年に「地方分権推進法」ができた際、議論の中で、地方自治体のあり方について2つの論点が出てきました。1つは市町村合併、そしてもう1つが行革です。いずれも分権を進めていく上で主体となる地方自治体が、どう自立的な経営主体になれるのかということが重要な視点になってくると思います。地方分権を進めていくためには、行革は当然必要だし、地方分権が進めばますます行革が必要だということになってきます。」
○池谷
「正しいコストを割り出して、住民が事業の必要性などについて判断するために、発生主義会計だけでなく、新しい指標を今後もつくっていかないといけないのでしょうか。」
●鵜川
「いずれにしても情報公開を進めるというのが重要なポイントだと思います。いわゆる「非財務情報」と言っていますが、お金だけではなく、サービスの質や量についての情報も提供し、どういった予算配分にするのがいいのかを検討する際にも、利用していただくことが必要だと思います。」
◆錦
「やはりいろいろな価値観の方がいらっしゃいますので、すべての人が納得できるような優先順位というのは有り得ないのだろうと思います。ただ、私達も納税者として、税金の行方や財政のことをもっと真剣に考えなければいけないなと改めて思いました。」
○池谷
「これからの地方行革といいますか、地方自治体はどうあるべきかということについて、お聞きしたいと思います。」
●鵜川
「財政運営における資源配分というのは必ずしも経済的な合理性だけで決まるものではなく、住民の意思や心理的要素などでも決まってきますので、そういった情報をきちんと出していくというのが会計の役割だと思います。自治体運営は本来住民の監視に基づいて行われていくべきものなので、そのようなガバナンス強化のためにも、情報提供が重要です。
それから、自治体で連結財務諸表をつくりましょうという話をしていますが、本当は国と県と市と、全部縦に連結したものも本来できるはずです。そうすると地域において、ある政策に対して国と県と市が、それぞれどういうことをやっているのかといった、事業の内容とコストが全部縦に出てきますので、非常に分かりやすいのではないかと思います。」
◆錦
「これから行政と住民とが協力していくためにも、住民のいろいろな意見をまとめてコーディネートしていける、人間力豊かな行政マンを育てていただきたいと思います。それと同時に、地域のために一緒に活動する仲間のつながりを広げていきたいです。
それから、子供たちが将来就職で地元に帰ってこられるような状況をつくっていただきたい。そのためにも、故郷のために力を尽くそうという人間の育成を図る、長い視点で見た政策をとっていただいて、行政も住民も一緒になって取り組んでいけたらと思います。
また、地域の問題解決のため、世代間を越えた地縁のネットワークをつくり、人と人との関わりの大切さや地域の大切さというものを伝えていくことも大切ではないかと思います。」
■山下
「県庁も市町も基本は「人」だと思います。人が仕事をしているわけですから、その人たちがどう変わっていくかというのが1点。それからもう1つは、いかに地域住民と協働して物事をやっていくかということです。できるだけ身近なところで身近な人達がお互いに支え合い、助け合うような、昔風の田舎っぽいシステムも非常に大事だと思います。
それから、地方分権を目指すのであれば、今の税財源システムをもう少し地方が自立できるようなシステムに変えていかないといけません。もう少し中期的に交付税の状況などが分かるようにして欲しいと思います。
やはり、お金と権限とがセットで移ってこないと真の地方分権にはならないし、そこはぜひ地方に任せていただきたいところです。」
▲小暮
「地方自治には、団体自治と住民自治という2つの側面があります。特に第一次分権改革は団体自治の面が多かったと思います。これからの3年間で新しい分権一括法の議論が進みますし、合併新法の期限もきます。そして次のステップとして道州制の議論があります。そのような中、これからは特に基礎自治体である市町村の役割は、増えることはあっても減ることはない。そうすると、地方自治体は住民に対する説明責任を果たしながら責任を持って自らのマネジメントを行うことがますます重要になってくると思います。
それからもう1つは、住民自治のことです。これまでは行政が何でもやるという形があったのですが、これからは発想を変えて、行政が「コア」として責任を持つ分野と、民間、NPO、自治会などに主役になってもらう分野との整理をやっていかないといけない。民間、NPOも含めて、それらの力をどう結集していくのかが住民自治の観点からも重要です。その2つが揃って初めて、これからの新しい自治体の姿が見えてくるのではないかと思います。」
○池谷
「ありがとうございました。これでパネルディスカッションを終了させていただきます。」

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