■電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(平成16年8月31日総務省告示第695号)の解説


     目次
第1章  総則
  第1条(目的)
  第2条(定義)
  第3条(一般原則)
第2章  個人情報の取扱いに関する共通原則
  第4条(取得の制限)
  第5条(利用目的の特定)
  第6条(利用目的による制限)
  第7条(適正な取得)
  第8条(取得に際しての利用目的の通知等)
  第9条(正確性の確保)
  第10条(保存期間等)
  第11条(安全管理措置)
  第12条(従業者及び委託先の監督)
  第13条(個人情報保護管理者)
  第14条(プライバシーポリシー)
  第15条(第三者提供の制限)
  第16条(個人情報に関する事項の公表等)
  第17条(個人情報の開示及び訂正等)
  第18条(理由の説明)
  第19条(開示等の求めに応じる手続)
  第20条(手数料)
  第21条(苦情の処理)
  第22条(漏えい等が発生した場合の対応)
第3章  各種情報の取扱い
  第23条(通信履歴)
  第24条(利用明細)
  第25条(発信者情報)
  第26条(位置情報)
  第27条(不払い者情報)
  第28条(電話番号情報)





     第1章 総則
  (目的)
1条 このガイドラインは、電気通信事業の公共性及び高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることにかんがみ、通信の秘密に属する事項その他の個人情報の適正な取扱いに関し、電気通信事業者の遵守すべき基本的事項を定めることにより、電気通信サービスの利便性の向上を図るとともに、利用者の権利利益を保護することを目的とする。
(解説)
  電気通信事業は、通信の秘密と直接かかわる事業であって極めて高い公共性を有しており、そこで取り扱われる個人情報を保護する必要性は大きい。また、電気通信サービスの高度化・多様化は、大量かつ高度に処理された情報の迅速かつ広範囲な流通・利用を可能とする高度情報通信社会を実現し、その結果、国民生活に大きな利便性をもたらしているが、その反面、これらの電気通信サービスの提供に伴い取得される個人情報が不適正な取扱いをされたり、これらの電気通信サービスを利用して個人情報が不適正な取扱いをされると、個人に取り返しのつかない被害を及ぼすおそれがある。
  こうしたことを踏まえ、本ガイドラインは、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」という。)及び個人情報保護法第7条の規定に基づき平成16年4月2日に閣議決定された「個人情報の保護に関する基本方針」並びに通信の秘密に係る電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第4条その他の関連規定を踏まえ、電気通信事業者に対し、通信の秘密に属する事項その他の個人情報の適正な取扱いについてできるだけ具体的な指針を示すことにより、その範囲での自由な流通を確保して電気通信サービスの利便性の向上を図るとともに、利用者の権利利益を保護することを目的とするものである。


  (定義)
2条 このガイドラインにおいて、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
  電気通信事業者 電気通信事業(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第4号に定める電気通信事業をいう。)を行う者をいう。
  電気通信サービス 電気通信事業者が業務として提供する電気通信役務(電気通信事業法第2条第3号に定める電気通信役務をいう。)及びこれに付随するサービスをいう。
  利用者 電気通信サービスを利用する者をいう。
  加入者 電気通信事業者との間で電気通信サービスの提供を受ける契約を締結する者をいう。
  個人情報 生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。
  本人 個人情報によって識別される特定の個人をいう。
(解説)
(1)   本ガイドラインで使用する基本的用語を定めるものであるが、電気通信事業を行う者が取り扱う個人情報を広く対象とするため、電気通信事業法の用例とは必ずしも一致しない。
(2)   「電気通信事業者」とは、電気通信事業法上は、電気通信事業を営むことについて、登録、届出という行政上の手続を経た者をいうが、同じサービスを提供しながら本来行わなければならない手続を経ていないという理由でガイドラインの対象外となるのは不合理であるので、本ガイドラインでは、こうした手続の有無にかかわらず、電気通信事業を営む者を対象とすることとした。なお、電気通信事業法の適用除外とされている同法第164条第1項各号に定める事業を営む者についても、同法第4条(秘密の保護)の規定の適用があり個人情報保護の必要性に差はないことから、本ガイドラインの対象とすることとした。また、営利を目的とせずに電気通信事業を行う者についても、個人情報を適正に取り扱うことは求められることから、本ガイドラインの対象とすることとした。
(3)   電気通信事業者の事業の中心は、電気通信役務(電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の用に供すること。)を他人の需要に応じて提供することであるが、それ以外にもこれに付随するサービスを行っており(電話帳発行業務等はこれに当たる。)、これらの業務の過程において取り扱う利用者の個人情報についても適正な取扱いが要請されることから、これらを含めたものを「電気通信サービス」とし、ガイドラインの対象とすることとした。
(4)   「利用者」とは、電気通信事業法上は、電気通信事業者との間に電気通信役務の提供を受ける契約を締結する者をいうが、加入電話にみられるように契約者でなくとも電気通信サービスの利用は可能であることから、これらの者の個人情報をも保護するため、単なる電気通信サービスの利用者を「利用者」としてガイドラインの対象とすることとした。
(5)   「加入者」とは、電気通信事業法上の「利用者」に該当する者をいう。
(6)   本ガイドラインは個人の権利利益を保護することを目的とするものであるから、個人に関する情報であっても特定の個人を識別し得ないものを対象とする必要性は認められない一方、個人を識別することができる情報を更に限定する合理性も認めがたい。そこで、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものを「個人情報」としている。
  「個人」とは、日本国民に限られず、外国人も含まれる。また、公務員及び公人も「個人」に当たる。法人その他の団体は「個人」に該当しないため、法人等の団体に関する情報は個人情報に含まれない。ただし、法人等の役員に関する情報は個人情報に当たる。
  「個人に関する情報」とは、氏名、性別、生年月日等個人を識別する情報に限られず、個人の身体、財産、社会的地位、身分等の属性に関して、事実、判断、評価を表すすべての情報をいい、評価情報といわれるものも含まれる上、公刊物等によって公にされているものも含まれる。
  「その他の記述等」とは、氏名、生年月日以外の記述又は個人別に付された番号、記号その他の符号等をいう。映像、音声もそれによって個人の識別に至る限りは「等」に含まれる。
  本ガイドラインは、個人の権利利益の保護を目的とすることから、個人を識別することができない情報は除く一方、他の情報と照合することによって個人を識別することができる場合は対象としている。もっとも、他の情報との照合が容易でない場合については、個人の識別が容易ではなく、個人の権利利益を侵害するおそれも小さいと認められることから、個人情報の範囲から除外している。具体的には、他の電気通信事業者への照会を要する場合のほか、内部でも取扱部門が異なる等の事情により照会が困難な場合がこれに当たる。
  なお、本ガイドラインでは、死者に関する情報は、死者と生存する者の双方に関する情報を除き、対象としていないが、死者に関する情報についても適正に取り扱う必要があることは生存する者に関する情報と同様であり、死者に関する情報についても、安全管理措置の実施等基本的には生存する者に関する情報と同様に本ガイドラインに定める措置をとり適正に取り扱うことが求められる。また、電気通信事業法の通信の秘密の保護の対象は、生存する者に限定されていないことにも留意する必要がある。
(7)   第6号の「本人」は、第5号で「個人情報」を、「個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」と定義した裏返しとして同号で定義される個人情報により識別されることとなる特定の個人を「本人」と定義し、本ガイドラインの規定により権利利益の保護が図られる対象として規定するものである。


  (一般原則)
3条 本ガイドラインの規定は、個人情報の適正な取扱いに関し、電気通信事業者の遵守すべき基本的事項を定めるものとして、解釈され、運用されるものとする。
  電気通信事業者は、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)の規定及び通信の秘密に係る電気通信事業法第4条その他の関連規定を遵守するほか、このガイドラインに従い個人情報を適正に取り扱うものとする。
  電気通信事業者は、第3章に規定する各種情報については、第2章に規定する個人情報の取扱いに関する共通原則を遵守するほか、第3章の規定に従い適正に取り扱うものとする。
(解説)
(1)   本ガイドラインは、電気通信事業者に対する個人情報保護法の適用の基準を明らかにするとともに、通信の秘密に係る電気通信事業法第4条その他の関連規定を踏まえ、特に個人情報の適正な取扱いの厳格な実施を求められる電気通信事業者が、個人情報の取扱いに当たり遵守すべき基本的事項を明らかにするものである(第1項)。
(2)   第2項は、個人情報の取扱いに関し、個人情報保護法の規定及び通信の秘密に係る電気通信事業法第4条その他の関連規定と本ガイドラインの規定の適用関係を明確にするものである。
  上記(1)で述べたとおり、本ガイドラインは、電気通信事業者に対する個人情報保護法の適用の基準を明らかにするものであるので、電気通信事業者は、本ガイドラインの規定を遵守すれば電気通信事業に関しては個人情報保護法の規定は遵守したこととなる。
  一方、通信の秘密に係る電気通信事業法第4条その他の関連規定については、通信の秘密に属する事項については、個人の情報であるか、法人その他の団体の情報であるかの区別なく保護されるものであることから、法人その他の団体に関するものも保護の対象となる(下記図参照)など、その対象及び規律の内容について、本ガイドラインの範囲を超える場合がある。
 
●個人情報と通信の秘密との関係
イメージ 個人情報と通信の秘密との関係
(3)   第3項は、第3章に規定する各種情報の取扱いに関し、同章の規定と第2章の規定の適用関係を明確にするものである。第3章の規定は、同章に規定する各種情報について、第2章の共通原則に対する特則的な規定であり、第3章に規定する各種情報についても、同章に特に規定されていない事項については、第2章の共通原則によるべきものである。





     第2章 個人情報の取扱いに関する共通原則
  (取得の制限)
4条 電気通信事業者は、電気通信サービスを提供するため必要な場合に限り、個人情報を取得するものとする。
  電気通信事業者は、次の各号に掲げる個人情報を取得しないものとする。ただし、自己又は第三者の権利を保護するために必要な場合その他社会的に相当と認められる場合はこの限りでない。
  思想、信条及び宗教に関する事項
  人種、門地、身体・精神障害、犯罪歴、病歴その他の社会的差別の原因となるおそれのある事項
(解説)
(1)   第1項は、電気通信事業者が個人情報を取得できる場合を電気通信サービスの提供上必要な場合に限ることにより、不必要な個人情報の取得を防ぐこととするものである。ただし、「電気通信サービスを提供するため必要な場合」には、現在提供している電気通信サービスのために直接必要な場合に限らず、それと関連性を有する場合(例えば、新サービス提供のためのアンケート調査を行う場合等)も含まれる。
(2)   第2項は、センシティブとされる個人情報(思想、信条及び宗教に関する個人情報や社会的差別の原因となるおそれのある社会的身分に関する個人情報)については、原則として取得を禁止することとするものである。しかし、例えば、移動体通信事業者が契約締結の際に本人確認のため提示を要求する免許証や健康保険証にはセンシティブな情報が含まれることがあり、また、宅内機器の割引使用料を適用するために利用者が身体障害者である旨の情報を得ることもある。加入者の使用言語などの情報も場合によれば社会的差別の原因となる事項といえるが、国際通信事業者等がそのサービス向上のためにこれを取得することは可能というべきであろう。さらに、電気通信事業者が加入者と紛争関係に立った場合に自己の権利を守るためにその者に関する個人情報を広く取得する必要がある場合もある。したがって、これら社会的に相当と認められる場合には例外を認めることとした。なお、この場合においても、こうした情報に基づいて、電気通信事業者が不当な差別的取扱いをすることは許されず、電気通信事業法上も同趣旨の規定がある(同法第6条及び第29条第1項第2号)。


  (利用目的の特定)
5条 電気通信事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定するものとする。
  電気通信事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行わないものとする。
  前2項の規定により特定する利用目的は、電気通信サービスを提供するため必要な範囲を超えないものとする。
(解説)
(1)   本条は、個人情報の適正な取扱いを実現するための前提として、電気通信事業者に対して、その利用目的をできる限り特定させるとともに、その変更も一定の合理的な範囲に留めるものとすること、及び、利用目的が電気通信サービスを提供するため必要な範囲を超えないものとすることを規定するものである。なお、本条や次条等の個人情報の「利用」とは、第15条の第三者への提供を含む概念である。
(2)   「その利用の目的を…できる限り特定」するとは、個人情報がどのような目的で利用されるかをできるだけ具体的に明確にするという趣旨である。したがって、単に「サービスの提供のため」や「業務の遂行のため」といった抽象的な目的では足りず、例えば、「加入者の本人確認、料金の請求、料金・サービスの変更及びサービスの休廃止の通知のため、加入者の氏名、住所、電話番号を利用します。」のように具体的に特定すべきである。
(3)   第2項は、いったん特定された利用目的が無限定に変更されることとなれば、利用目的を特定させる実質的意味は失われることから、利用目的の変更は認めるものの、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲に留めるべきであることとするものである。変更の許容範囲を超えた利用目的で個人情報を利用する場合には、本人の同意を得るか、新たに利用目的を定めて再度個人情報を取得する必要がある。
  「相当の関連性を有する」とは、いったん特定された利用目的からみて、想定されることが困難でない程度の関連性を有することをいう。また、「合理的に認められる」とは、社会通念上妥当であると客観的に認識されるとの趣旨である。
(4)   第3項は、前条第1項の個人情報の取得は電気通信サービスを提供するため必要な場合に限るとの規定を受けて、第1項及び第2項の規定により特定する利用目的も電気通信サービスを提供するため必要な範囲を超えないものとすることを確認的に規定するものである。


  (利用目的による制限)
6条 電気通信事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱わないものとする。
  電気通信事業者は、合併その他の事由により他の電気通信事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱わないものとする。
  前2項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。
  法令に基づく場合
  人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
  前項の規定にかかわらず、電気通信事業者は、同項各号に掲げる場合であっても、利用者の同意がある場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いては、前条の規定により特定された利用目的の達成の範囲を超えて、通信の秘密に係る個人情報を取り扱わないものとする。
(解説)
(1)   本条は、電気通信事業者に対して、個人情報の取扱いを利用目的の達成に必要な範囲内に限ることにより、無限定な個人情報の取扱いを排除することを通じて、本人の権利利益侵害を防止しようとするものである。
  「個人情報の取扱い」とは、個人情報に関する一切の行為を含む概念であることから、何が「必要な範囲」かについては、様々な側面からこれを判断する必要がある。すなわち、個人情報の取扱いの手段、方法はもちろん、取り扱う個人情報の内容、量等についても、必要な限度を超えないことが必要である。したがって、利用目的に照らして過剰な個人情報の取得も本条によって規制されることになる。例えば、加入者の本人確認のために、加入者の収入や学歴等は必要とはいえず、取得は制限される。
(2)   合併や営業譲渡などにより事業の承継があった場合、通常その承継資産には顧客情報等の個人情報が含まれると考えられ、必然的に個人情報が移転する。この場合において、事業を承継した電気通信事業者が自由に利用目的を設定することとなれば、本人にとって不測の権利利益の侵害が生じるおそれが高まることとなる。このため、合併その他の事由により他の電気通信事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合には、事業承継後においても、本人の同意なく当該個人情報に係る承継前の利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはならないこととする。
(3)   電気通信事業者が取得した個人情報については、電気通信サービスの円滑な提供のため、又は本人の利益や社会公共の利益のために目的外利用が要請される場合もあるので、そうした場合を目的外利用の禁止の例外として第3項各号に定めている。
  なお、同項各号に該当する場合の本人の同意なき個人情報の目的外利用については、個人情報保護の要請が特に高い電気通信事業者としては、本人の同意を得ずに目的外利用を行うことが真に必要であると慎重に判断した上で行うこととすべきである。
  なお、本項各号の規定により目的外で利用する必要性がある場合の多くは、個人情報を第三者に提供する必要性がある場合と想定されることから、第1項の「本人の同意」の趣旨及び本項各号の規定内容の趣旨については、第15条の解説を参照されたい。
(4)   第4項の規定は、第3項各号の規定の適用がある場合であっても、個人情報が通信の秘密にも該当する場合には、通信当事者の同意なき利用は、違法性阻却事由がある場合を除き許されないことについて念のため確認する趣旨の規定である。


  (適正な取得)
7条 電気通信事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得しないものとする。
(解説)
  個人情報の取得は、適法かつ公正な手段により行わなければならず、偽りその他不正の手段によることは許されない。


  (取得に際しての利用目的の通知等)
8条 電気通信事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表するものとする。
  電気通信事業者は、前項の規定にかかわらず、本人との間で契約を締結することに伴って契約書その他の書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。以下この項において同じ。)に記載された当該本人の個人情報を取得する場合その他本人から直接書面に記載された当該本人の個人情報を取得する場合は、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示するものとする。ただし、人の生命、身体又は財産の保護のために緊急に必要がある場合は、この限りでない。
  電気通信事業者は、利用目的を変更した場合は、変更された利用目的について、本人に通知し、又は公表するものとする。
  前3項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。
  利用目的を本人に通知し、又は公表することにより本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
  利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該電気通信事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合
  国の機関又は地方公共団体が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
  取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合
(解説)
(1)   本条は、電気通信事業者に対して、利用目的を通知・公表させることにより、本人の不安感を緩和するとともに、本人自らが必要な注意を払うための契機を提供することにより、本人の権利利益侵害を予防しようとするものである。
(2)   「通知」とは、例えば、郵便、電話、電子メール等によって利用目的を知らせることが想定される。「公表」とは、例えば、インターネット上での公表、パンフレットの配布、事業所の窓口等への書面の掲示・備付け等が想定される。
(3)   第2項は、契約や調査等のため、書面やコンピュータを用いて直接本人から個人情報を取得する場合には、個人情報を取得した後に利用目的を通知・公表することで足りることとはせず、原則として取得前に本人に対して利用目的を明示するものとすることとするものである。明示の方法としては、契約締結時に契約内容を説明する書面に利用目的を記載し、それを契約締結前に交付して示すことなどが想定される。
  同項ただし書は、人の生命、身体又は財産の保護のために緊急に必要がある場合にまで、あらかじめその利用目的を明示するものとすることは合理性に欠けることから、このような場合には、取得前の明示は免除するものである。なお、このような場合には、第1項の規定に従って、取得後速やかにその利用目的を通知・公表するものとすることとなる。
(4)   第3項は、利用目的を変更した場合にも通知・公表する必要があることを確認的に規定しているものである。なお、この場合の「利用目的の変更」は、第5条第2項に規定する「変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲」内で行わなければならないことは当然である。


  (正確性の確保)
9条 電気通信事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人情報を正確かつ最新の内容に保つよう努めるものとする。
(解説)
(1)   本条は、電気通信事業者が、個人情報を取り扱うに当たり、個人情報の正確性の確保に努めるものとすることを規定したものである。
(2)   誤った個人情報、現行化されていない個人情報が利用・提供されたときは、その個人の権利利益が侵害されるおそれが生じるので、個人情報は、利用目的に応じ正確かつ最新の状態に保たれる必要がある。


  (保存期間等)
10条 電気通信事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、原則として利用目的に必要な範囲内で保存期間を定めるものとし、当該保存期間経過後又は当該利用目的を達成した後は、当該個人情報を遅滞なく消去するものとする。
  前項の規定にかかわらず、電気通信事業者は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、保存期間経過後又は利用目的達成後においても当該個人情報を消去しないことができる。
  法令の規定に基づき、保存しなければならないとき。
  本人の同意があるとき。
  電気通信事業者が自己の業務の遂行に必要な限度で個人情報を保存する場合であって、当該個人情報を消去しないことについて相当な理由があるとき。
  前3号に掲げる場合のほか、当該個人情報を消去しないことについて特別の理由があるとき。
(解説)
(1)   取得された個人情報については、その目的を達成すれば保存の必要性がなくなることから速やかに消去すべきであるところ、その趣旨を徹底する観点から、利用目的に応じ保存期間を定めることを原則としている。こうすることは、正確性、最新性確保の観点からも望まれるほか、個人が不利益を被る機会を減少させるためにも有用である。ただし、個人情報によっては、一律に保存期間を定めることが難しいものもあり、すべての個人情報について保存期間を定めることまでは要求しないこととする。しかし、この場合でも、利用目的を達成すれば遅滞なく消去すべきものとする。また、保存期間内であっても利用目的を達成した後は消去するものとする。
(2)   保存が求められる「法令の規定」としては、例えば、法人税法(昭和40年法律第34号)第126条、法人税法施行規則(昭和40年大蔵省令第12号)第59条や電話加入権質に関する臨時特例法施行規則(昭和33年郵政省令第18号)第4条等がある。
(3)   「本人の同意があるとき」とは、例えば、本人から特に保存しておくよう要請があった場合等が考えられる。なお、「本人の同意」の趣旨については、第15条の解説(2)を参照。
(4)   「業務の遂行に必要な限度で個人情報を保存する場合であって、当該個人情報を消去しないことについて相当の理由があるとき」とは、例えば、過去に料金を滞納し利用停止となった者の情報を契約解除後においても保存しておくこと等が考えられる。
(5)   「消去しないことについて特別の理由があるとき」とは、例えば、捜査機関から刑事事件の証拠となり得る特定の個人情報(通信の秘密に該当するものを除く。)について保存しておくよう要請があった場合等が考えられる。
(6)   なお、通信履歴についての保存期間等に関する取扱いについては、第23条の解説(5)も参照されたい。


  (安全管理措置)
11条 電気通信事業者は、個人情報へのアクセスの管理、個人情報の持出し手段の制限、外部からの不正なアクセスの防止のための措置その他の個人情報の漏えい、滅失又はき損(以下「漏えい等」という。)の防止その他の個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置(以下「安全管理措置」という。)を講ずるものとする。
  電気通信事業者は、安全管理措置を講ずるに当たっては、情報通信ネットワーク安全・信頼性基準(昭和62年郵政省告示第73号)等の基準を活用するものとする。
(解説)
(1)   本条は、電気通信事業者が、個人情報を取り扱うに当たり、個人情報を安全に管理するための措置を講ずるものとすることを規定したものである。
  安全管理措置は、技術的保護措置及び組織的保護措置に大きく分類され、その双方を適切に実施することが必要である。
  その際には、本人の個人情報が漏えい等した場合に本人に与える影響等を考慮し、通信の秘密に該当するもの等、より重大な影響を及ぼす可能性がある個人情報については、より厳格に取り扱うこととする等の措置をとることが適当である。
(2)   技術的保護措置とは、
1)   個人情報へのアクセスの管理(アクセス権限者の限定(異動・退職した社員のアカウントを直ちに無効にする等の措置を含む。)、アクセス状況の監視体制(アクセスログの長期保存等)、パスワードの定期的変更、入退室管理等)
2)   個人情報の持出し手段の制限(みだりに外部記録媒体へ記録することの禁止、社内と社外との間の電子メールの監視を社内規則等に規定した上で行うこと等)
3)   外部からの不正アクセスの防止のための措置(ファイアウォールの設置等)
などの内部からの情報漏えい及び外部からの不正アクセスの双方を防止するための物理的・技術的措置を指すが、上記1)〜3)のほか、情報通信ネットワーク安全・信頼性基準その他の国内・国際の公表されている情報セキュリティーに関する基準を活用して、各電気通信事業者が適切な内部規程・マニュアルを策定し、実施することが必要である。
  なお、事業用電気通信設備(電気通信回線設備及び基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業の用に供する電気通信設備)に関する技術的保護措置については、事業用電気通信設備を設置する電気通信事業者に対し、事業用電気通信設備規則(昭和60年郵政省令第30号)に定める技術基準の適合維持義務が課されている(電気通信事業法第41条)ことにも留意する必要がある。
(3)   組織的保護措置とは、
1)   安全管理に関する従業者・委託先の責任と権限を明確に定めること
2)   安全管理に関する内部規程・マニュアルを定め、それらを従業者に遵守させるとともに、その遵守の状況について適切な監査を行うこと
3)   従業者・委託先と秘密保持契約を締結すること等により安全管理について従業者・委託先を適切に監督すること
4)   安全管理について従業者に対し必要な教育研修を行うこと
などの人的・組織的な措置を指すが、これらの事項については、次条及び第13条に詳細な規定がおかれているので、それらの規定の解説を参照されたい。


  (従業者及び委託先の監督)
12条 電気通信事業者は、その従業者(派遣労働者を含む。以下同じ。)に個人情報を取り扱わせるに当たっては、当該個人情報の安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行うものとする。
  電気通信事業者は、安全管理措置の実施その他の個人情報の適正な取扱いの確保のため、その従業者に対し、必要な教育研修を実施するものとする。
  電気通信事業者は、個人情報の取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人情報の安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行うものとする。
  電気通信事業者は、前項の場合は、個人情報を適正に取り扱うと認められる者を選定し、委託契約において、安全管理措置、秘密保持、再委託の条件(再委託を許すかどうか並びに再委託を許す場合は再委託先の選定及び再委託先の監督に関する事項等)その他の個人情報の取扱いに関する事項について適正に定めるものとする。
  電気通信事業に従事する者及び電気通信事業者から委託された個人情報の取扱いに係る業務に従事する者は、その業務に関して知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせないものとし、また、不当な目的に使用しないものとする。その職を退いた後においても同様とする。
(解説)
(1)   第1項は、電気通信事業者が、個人情報を取り扱うに当たり、前条の安全管理措置のうちの組織的保護措置の一環として、特に電気通信事業者は従業者に対して必要かつ適切な監督を行う責任があることを規定したものである。
  「従業者」とは、電気通信事業者の組織内にあって直接間接に事業者の業務に従事している者をいい、電気通信事業者との間の雇用関係の有無は問わないので、雇用関係にある従業員(正社員、契約社員、嘱託社員、パートタイマー、アルバイト等)及び役員(取締役、執行役、監査役、理事、監事等)のほか派遣労働者も含まれる。
  従業者に対する必要かつ適切な監督には、従業者との秘密保持契約の締結(派遣労働者については、派遣元との秘密保持契約の締結及び派遣元と派遣労働者の間の適切な秘密保持契約の締結の確保等の措置)等が含まれる。
(2)   第2項は、安全管理措置の実施その他の個人情報の適正な取扱いの確保のため、電気通信事業者は、従業者に対し、必要な教育研修を実施することを規定している。教育研修の内容としては、安全管理に関する内部規程・マニュアルの周知等が考えられる。
(3)   第3項は、電気通信事業者が個人情報の取扱いを他の者に委託する場合に、前条の安全管理措置のうちの組織的保護措置の一環として、特に電気通信事業者はその委託先に対して必要かつ適切な監督を行う責任があることを規定したものである。
  「委託」とは、契約の形態・種類を問わず、電気通信事業者が他の者に個人情報の取扱いの全部又は一部を行わせることを内容とする契約の一切を含むものである。具体的な委託先としては、契約代理業者(電気通信事業者の電気通信役務の提供に関する契約の締結の媒介、取次ぎ又は代理を業として行う者)や電気通信事業者の顧客の個人情報の入力、編集、出力等の処理を行う者や料金の回収・決済を代行する者などがあげられる。
(4)   第4項は、第3項の委託に当たって、個人情報を適正に取り扱うと認められる者を選定すること、及び、委託契約において、安全管理措置、秘密保持、再委託の条件(再委託を許すかどうか並びに再委託先を許す場合は再委託先に個人情報を適正に取り扱っていると認められることを選定すること及び再委託先の監督に関する事項等。なお、二段階以上の委託を許す場合は同様に再々委託先等の選任監督に関する事項を定める必要がある。)その他の個人情報の取扱いに関する事項を適正に定めることを規定したものである。
(5)   第5項は、電気通信事業法第4条第2項において、電気通信事業に従事する者に対し、「通信に関して知り得た他人の秘密」を守るべき義務が課されているが、個々の通信に関係ない個人情報については、かかる守秘義務は及ばないと考えられる。しかし、個人情報保護の観点からは、同様に保護することが適当であることから、電気通信事業に従事する者(電気通信事業者及びその従業者)及び電気通信事業者から委託された個人情報の取扱いの業務に従事する者(受託者及びその従業者)について、個人情報を適正に取り扱うべき責務があることを明らかにしたものである。


  (個人情報保護管理者)
13条 電気通信事業者は、個人情報保護管理者(当該電気通信事業者の個人情報の取扱いに関する責任者をいう。)を置き、このガイドラインを遵守するための内部規程の策定、監査体制の整備及び当該電気通信事業者の個人情報の取扱いの監督を行わせるものとする。
(解説)
  個人情報保護措置の実施に関する責任の所在を明確にし、第11条の安全管理措置の実施その他の個人情報の適正な取扱いについて電気通信事業者の内部における責任体制を確保するため、電気通信事業者は、当該電気通信事業者の個人情報の適正な取扱いの確保について必要な権限を有する者(個人情報保護管理者)を置いて、個人情報保護管理者において責任をもって必要な個人情報保護の取扱いの監督等を行わせるものとした。


  (プライバシーポリシー)
14条 電気通信事業者は、プライバシーポリシー(当該電気通信事業者の個人情報の取扱いに関する方針についての宣言をいう。)を公表し、これを遵守するものとする。
(解説)
(1)   本条は、電気通信事業者の個人情報保護についての社会の信頼を確保するため、電気通信事業者は自らの個人情報の取扱いに関する方針についての宣言をプライバシーポリシーとして公表し、これを遵守するものとすることを規定したものである。
(2)   プライバシーポリシーは、それぞれの電気通信事業者が、自らの個人情報の取扱いに関する方針を分かりやすい表現で記載すべきものであるが、プライバシーポリシーに記載すべき事項としては、次のようなものが考えられる。
1)   個人情報保護法及び通信の秘密に係る電気通信事業法の規定その他の関係法令の遵守
2)   本ガイドラインの遵守
3)   第16条第1項各号に定める公表すべき事項
(i1)   電気通信事業者の名称
(ii2)   個人情報の利用目的
(iii3)   利用目的の通知又は開示若しくは訂正等の本人からの求めに応じる手続
(iv4)   苦情の申出先
(v5)   認定個人情報保護団体の名称及び苦情の解決の申出先
4)   第11条の安全管理措置に関する方針


  (第三者提供の制限)
15条 電気通信事業者は、次の各号のいずれかに該当する場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人情報を第三者に提供しないものとする。
  法令に基づく場合
  人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
  電気通信事業者は、第三者に提供される個人情報について、本人の求めに応じて当該本人が識別される個人情報の第三者への提供を停止することとしている場合であって、次に掲げる事項について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置いているときは、前項の規定にかかわらず、当該個人情報を第三者に提供することができる。
  第三者への提供を利用目的とすること。
  第三者に提供される個人情報の項目
  第三者への提供の手段又は方法
  本人の求めに応じて当該本人が識別される個人情報の第三者への提供を停止すること。
  電気通信事業者は、前項第2号又は第3号に掲げる事項を変更する場合は、変更する内容について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くものとする。
  次に掲げる場合において、当該個人情報の提供を受ける者は、前3項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする。
  電気通信事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人情報の取扱いの全部又は一部を委託する場合
  合併その他の事由による事業の承継に伴って個人情報が提供される場合
  個人情報を特定の者との間で共同して利用する場合であって、その旨並びに共同して利用される個人情報の項目、共同して利用する者の範囲、利用する者の利用目的及び当該個人情報の管理について責任を有する者の氏名又は名称について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置いているとき。
  電気通信事業者は、前項第3号に規定する利用する者の利用目的又は個人情報の管理について責任を有する者の氏名若しくは名称を変更する場合は、変更する内容について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くものとする。
  電気通信事業者は、個人情報を第三者に提供するに当たっては、通信の秘密の保護に係る電気通信事業法第4条その他の関連規定を遵守するものとする。
(解説)
(1)   第1項は、個人情報は、原則として本人の同意なく、第三者に提供できないことを規定したものである。ただし、自己又は他人の権利利益や社会公共の利益のために第三者提供が要請される場合もあるので、そうした場合を第1項各号に例外として定めている。
(2)   「本人の同意」については、個別の同意がある場合だけでなく、電気通信サービスの提供に関する契約約款において、個人情報の第三者提供に関する規定が定められており、当該契約約款に基づき電気通信サービス提供契約を締結している場合、当該規定が私法上有効であるときも、「本人の同意」がある場合と解される。
  この理は、契約約款が変更される場合も変わりはないので、契約約款の変更により個人情報の第三者提供に関する規定が設けられた場合であっても、当該変更が私法上有効であり変更前に契約締結を行った当事者にも変更後の規定が効力を有すると判断される場合には、「本人の同意」がある場合と解される。
  なお、同意は有効なものでなければならないので、民法第90条の公序良俗に反する場合や同法第95条の要素の錯誤がある場合、消費者契約法第10条の消費者の利益を一方的に害するものとされる場合など同意が私法上無効とされる場合は、有効な同意があるとは言えないので、同意がある場合とは言えないことは当然である。
  また、無制限に第三者提供を認める規定等契約約款の規定が、利用者の利益を阻害していると認められるときは、電気通信事業法上の業務改善命令の対象となりうる。
(3)   「法令に基づく場合」とは、例えば、裁判官の発付する令状により強制処分として捜索・押収等がなされる場合や法律上の照会権限を有する者からの照会(刑事訴訟法第197条第2項、弁護士法第23条の2等)がなされた場合である。前者の場合には、令状で特定された範囲内の情報を提供するものである限り、提供を拒むことはできない。これに対し、後者の場合には、原則として照会に応じるべきであるが、電気通信事業者には通信の秘密を保護すべき義務もあることから、通信の秘密に属する事項(通信内容にとどまらず、通信当事者の住所・氏名、発受信場所及び通信年月日等通信の構成要素並びに通信回数等通信の存在の事実の有無を含む。)について提供することは原則として適当ではない。他方、個々の通信とは無関係の加入者の住所・氏名等は、通信の秘密の保護の対象外であるから、基本的に法律上の照会権限を有する者からの照会に応じることは可能である。もっとも、個々の通信と無関係かどうかは、照会の仕方によって変わってくる面があり、照会の過程でその対象が個々の通信に密接に関係することがうかがわれる場合には、通信の秘密として扱うのが適当である。いずれの場合においても、本人等の権利利益を不当に侵害することのないよう提供等に応じるのは、令状や照会書等で特定された部分に限定する等提供の趣旨に即して必要最小限の範囲とすべきであり、一般的網羅的な提供は適当ではない。
(4)   「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」とは、自己又は他人の権利利益を保護するため、個人情報を第三者に提供することが必要であるものの、本人の同意を得ることが困難である場合について手当てするものである。人の生命、身体又は財産といった具体的な権利利益が侵害されるおそれが高まっており、これを保護するために個人情報の利用が必要である場合には、個人情報を第三者に提供することに一定の合理性があると考えられる。一方こうした場合であっても、本人の権利利益侵害の予防という観点からは同意を得るべきとの原則が変わるものではないことから、本人の同意を得ることが困難である場合に限って本条の規定の適用を除外するものである。したがって、人の生命、身体又は財産の保護のために、他の方法によることが十分可能である場合にまで本人の同意なき第三者への提供を認めるものではない。
  なお、通信の秘密に属する事項については、この場合も通信当事者の同意なき第三者提供が許されるのは、緊急避難の要件に該当する場合等違法性阻却事由がある場合に限られる。
(5)   「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成のために、特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難なとき」とは、個人情報保護法第23条第1項第3号と同様の規定であるが、これは個人情報保護法第16条第3項第3号及び第23条第1項第3号は、疾病の予防や、治療に関する研究や、心身の発達途上にある児童の健全な育成のため、社会全体の組織的な協力により個人情報を相互に提供して活用する必要がある場合の規定であり、具体的には、疾病の予防や治療に関する研究のために、病院や医療研究機関が情報を交換する場合や、児童虐待に対応するために、学校、施設、病院、警察等がネットワークを形成する必要がある場合等が想定されている。
  これらの規定が、電気通信事業者にも適用されるかについては、個別具体的に判断する必要があるが、上記の趣旨を踏まえれば、これらの規定が電気通信事業者に適用されることは基本的には想定されないと考えられる。
(6)   なお、第1項各号に該当する場合の本人の同意なき個人情報の第三者提供については、個人情報保護の要請が特に高い電気通信事業者としては、本人の同意を得ずに第三者提供を行うことが真に必要であると慎重に判断した上で行うこととすべきである。
(7)   第2項及び第3項の規定は、個人情報保護法第23条第2項及び第3項と同様の規定であり、いわゆるオプトアウトの仕組みによる第三者提供を認めたものであるが、電気通信事業者が加入者の個人情報を第三者提供する場合は、契約約款により本人の同意を得て行うことが一般的に可能である(上記(2)参照)ので、基本的には本人の同意を得て行うこととすることが望ましいと考えられる。ただし、契約約款により本人の同意を得て行う場合でも、電話帳に掲載する場合など本人の意思をできるだけ尊重すべきものについては、本人の申出により提供を停止するという扱いにすることが望ましい。
(8)   第4項第1号については、現在、民間企業等においては、顧客情報等大量の個人情報を利用するために必要となる編集・加工等の処理を他の企業に委託することが一般化しつつある。こうした取扱いを第三者提供とした場合、第1項に基づき、処理される個人情報の本人に対し個々に同意を取る必要が生じることとなり、事実上委託行為自体が不可能となるおそれがある。一方、電気通信事業者が個人情報の取扱いを委託した場合には、第12条により、適切な委託先を選定し、委託先に対し必要かつ適切な監督を行う責任が生じ、これらの責任を果たしていない結果、問題が生じた場合には委託元である電気通信事業者も責めを負うこととなる。これらの事情を勘案し、電気通信事業者が利用目的の達成に必要な範囲内で個人情報の取扱いを委託する場合には、電気通信事業者が行う取扱いの一部とみなし、委託先は第三者には該当しないこととしている。なお、一般に個人情報の処理を委託され、その成果物たる処理データを委託元に返すような場合は、そもそも第三者への提供であるとは解されない。
(9)   第4項第2号については、合併や営業譲渡などにより事業の承継があった場合、通常その承継資産には顧客情報等の個人情報が含まれると考えられ、必然的に個人情報が移転する。仮にこれを第三者提供として第1項及び第2項を適用した場合、移転される個人情報の本人すべてから同意を取る必要が生じ、事実上事業承継が困難になるおそれがある。一方、事業承継に伴って個人情報が移転する場合には、第5条第2項により利用目的も引き継がれることとなるため、本人との関係においては、単に取扱いの主体となる事業者の名称が変更したに過ぎず、個人情報の取扱いに伴う権利利益の侵害のおそれが増大することは考えにくい。これらの事情を勘案し、事業を承継する者は本条の対象となる第三者には該当しないこととしている。
(10)   第4項第3号及び第5項については、個人情報保護法第23条第4項第3号及び第5項と同様の規定であり、これらの規定を満たす形で特定の者との間で個人情報を共同利用することは本人の同意なく行うことができることを認めたものであるが、電気通信事業者が加入者の個人情報を共同利用する場合は、契約約款により本人の同意を得て行うことが一般的に可能である((2)参照)ので、基本的には本人の同意を得て行うこととすることが望ましいと考えられる。ただし、契約約款により本人の同意を得て行う場合でも、不払い者情報の交換の場合のように(第27条参照)、本人の権利利益に重大な影響を及ぼす可能性がある情報を交換する場合などには、第4項第3号に掲げられている情報をあらかじめ本人に通知又は本人が容易に知り得る状態に置くなどの措置をとり、本人の権利利益を不当に侵害することのないようにすることが求められる。なお、「本人が容易に知り得る状態に置く」とは、公表が継続的に行われている状態をいい、具体的には、ホームページへの掲載、官報・新聞等への継続的な掲載、事務所の窓口等への書面の掲示・備え付け等の措置をとっていることをいう。
(11)   第6項の規定は、第1項から第5項までの規定の適用により第三者提供(第4項各号の規定により提供する場合を含む。)が認められる場合であっても、個人情報が通信の秘密にも該当する場合には、通信当事者の同意なき第三者提供(同上)は違法性阻却事由がある場合を除き許されないことについて念のため確認する趣旨の規定である。


  (個人情報に関する事項の公表等)
16条 電気通信事業者は、個人情報に関し、次に掲げる事項について、本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む。)に置くものとする。
  当該電気通信事業者の氏名又は名称
  すべての個人情報の利用目的(第8条第4項第1号から第3号までに該当する場合を除く。)
  次項又は次条第1項若しくは第3項の規定による求めに応じる手続(第20条第2項の規定により手数料の額を定めたときは、その手数料の額を含む。)
  当該電気通信事業者が行う個人情報の取扱いに関する苦情の申出先
  当該電気通信事業者が認定個人情報保護団体(個人情報の保護に関する法律第40条の認定個人情報保護団体をいう。以下同じ。)の対象事業者である場合にあっては、当該認定個人情報保護団体の名称及び苦情の解決の申出先
  電気通信事業者は、本人から、当該本人が識別される個人情報の利用目的の通知を求められたときは、本人に対し、遅滞なく、これを通知するものとする。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
  前項の規定により当該本人が識別される個人情報の利用目的が明らかな場合
  第8条第4項第1号から第3号までに該当する場合
  電気通信事業者は、前項の規定に基づき求められた個人情報の利用目的を通知しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知するものとする。
(解説)
(1)   第1項各号に掲げる事項は、開示等の求めを本人が行う上での実効性を確保し、また、電気通信事業者による個人情報の取扱いを公平性の確保を図ろうとする観点から必要不可欠な事項を掲げているものである。
(2)   「本人の知り得る状態」とは、本人が知ろうとすれば知ることができる状態をいい、ホームページへの掲載、パンフレットの配布、書面の掲示・備付け等の措置をとっていることをいい、本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む。
  なお、「本人の知り得る状態」とは、第8条等の規定における「公表」の概念とは一部、異なり、その時点で本人が知ろうと思えば知り得ることを指す。したがって、数年前に官報や新聞に一度掲載されたということは、「公表」とは言えるが、「本人の知り得る状態」とは必ずしも言えない。
  また、「本人の知り得る状態に置くものとする」とは、その時点において正確な情報を正確な状態で本人の知り得る状態に置くことをいうものであり、内容に変更があった場合には、必ずその内容を変更し、常にその時点での正確な内容を「本人の知り得る状態」におくことが要請される。
  本条において、「本人の知り得る状態」に「本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む」こととしているのは、電気通信事業者の規模や個人情報の取扱いの態様等からみて、一律に本人の知り得る状態に置くこととすることは、負担が過重となる場合があることを考慮したものである。
  ただし、非常に問い合わせが多いことが予想される電気通信事業者においては、ホームページへの掲載、パンフレットの配布、書面の掲示・備付け等の措置の方が、個別の求めへの回答より負担が軽い場合もある。また、当該電気通信事業者が電子商取引を行っているかどうかといった事業形態によっても、措置の形態の妥当性(ホームページへの掲載、パンフレットの配布、書面の掲示・備付け等の措置のうちいずれの措置が妥当か等)が変わってくることが考えられる。したがって、本条については、「本人の知り得る状態に置かなければならない」方法を限定するものではないが、当該電気通信事業者が、その事業形態や個人情報の取扱いの態様等を踏まえ、できるだけ本人が容易に知り得るような状態としていくことが望ましいと考えられる。
(3)   第1項第2号については、個人情報に関し、その取扱いについて、利用目的による制限を実効あらしめるようにするために、括弧書きの場合を除き、すべての個人情報の利用目的を明らかにすることを求めているものである。利用目的に第三者提供が含まれる場合には、その旨も明らかにする必要がある。
(4)   第1項第3号については、開示等の求めに応じる手続は、第19条の規定等に基づき電気通信事業者が個別に定めることとなるが、求めを受け付ける場所、方法、本人確認の方法等の手続について定めた場合には、本条の規定により本人の知り得る状態に置く必要がある。
  また、本人の求めに応じる際に第20条の規定に基づき手数料を徴収する場合、手数料の額が事前に明らかにされていることが本人の求めの実効性を確保する上で必要であり、括弧書きの規定はその旨を確認的に規定したものである。
(5)   第2項は、電気通信事業者が、本人から、当該本人が識別される個人情報の利用目的の通知を求められたときは、本人に対し、その利用目的を通知するものとすることを規定するものである。


  (個人情報の開示及び訂正等)
17条 電気通信事業者は、本人から、当該本人が識別される個人情報の開示(当該本人が識別される個人情報が存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を求められたときは、本人に対し、書面の交付による方法(開示の求めを行った者が同意した方法があるときは、当該方法)により、遅滞なく、当該個人情報を開示するものとする。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部について開示しないことができる。
  本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
  当該電気通信事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
  他の法令に違反することとなる場合
  電気通信事業者は、前項の規定に基づき求められた個人情報の全部又は一部について開示しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知するものとする。
  電気通信事業者は、本人から自己に関する個人情報の訂正等(訂正、追加若しくは削除又は利用の停止若しくは第三者への提供の停止をいう。以下同じ。)を求められたときは、遅滞なく調査を行うものとする。この場合においてその求めに係る個人情報の内容が事実でないとき、保存期間を経過しているときその他当該個人情報の取扱いが適正でないと認められるときは、遅滞なく訂正等を行うものとする。
  電気通信事業者は、前項の規定に基づき求められた個人情報の内容の全部若しくは一部について当該個人情報の訂正等を行ったとき、又は訂正等を行わない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨(訂正等を行ったときは、その内容を含む。)の通知を行うものとする。
(解説)
(1)   第1項は、電気通信事業者は、個人情報に関し、本人の求めにより開示するものとすることを規定するものである。「開示」とは、開示を求められた個人情報の存否を含めてその内容を知らせることを指す。なお、電気通信事業者が開示すべき個人情報は、当該電気通信事業者が開示の権限を有している個人情報である。
(2)   「遅滞なく」とは、事情の許す限り最も速やかにという意味であり、正当な又は合理的な理由に基づく遅滞は許されると解されている。したがって、例えば、同一主体からの大量の開示請求があった場合には開示が遅れてもやむを得ない。
(3)   「本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合」とは、例えば、本人に関する情報の中に第三者の情報が含まれており、これを開示することが当該第三者の不利益となるような場合などが考えられる。
  また、個人情報保護法施行令第3条第1項各号に該当するような場合、すなわち
1)   当該個人情報の存否が明らかになることにより、本人又は第三者の生命、身体又は財産に危害が及ぶおそれがあるもの
2)   当該個人情報の存否が明らかになることにより、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの
3)   当該個人情報の存否が明らかになることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあるもの
4)   当該個人情報の存否が明らかになることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が及ぶおそれがあるもの
も、これに該当することとなると考えられる。
(4)   「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあるとき」とは、例えば、開示の対象が特定されていない場合や個人データに該当しない個人データベース等を構成していない個人情報(Webサーバに一時的に保存されているクッキー情報である個人情報等)の開示が求められた場合などこれに応じて開示を行うことが電気通信事業者に過大な負担となるような場合や電気通信事業者において独自に付加した信用評価等の開示が求められた場合をいう。
(5)   第3項は、電気通信事業者に対し、本人の求めにより訂正等を行うものとすることを規定するものである。なお、電気通信事業者が訂正等を行うべき個人情報は、当該電気通信事業者が訂正等の権限を有している個人情報である。
(6)   訂正等を行うべきなのは、当該個人情報の内容が事実でない場合のほか、当該電気通信事業者が当該個人情報を第10条の規定に違反して保存期間経過後も消去しない場合、第6条の規定に違反して目的外に利用している場合、第15条の規定に違反して本人の同意なく第三者に提供している場合など本ガイドラインに違反した取扱いを行っている場合である。
(7)   本ガイドラインに違反した取扱いを行っている場合には、本ガイドラインに違反している取扱いを是正すれば足り、必ずしも当該個人情報のすべての取扱いをやめる必要はない(例えば、第6条の規定に違反して目的外に利用している場合は目的外利用を停止すればよく、利用目的の範囲内の利用まで停止する必要はない。)。なお、「第三者への提供の停止」とは、新たな提供を停止することを意味し、既に第三者に提供された個人情報を回収することは含まれない。


  (理由の説明)
18条 電気通信事業者は、第16条第3項又は前条第2項若しくは第4項の規定により、本人から求められた措置の全部又は一部について、その措置をとらない旨を通知する場合又はその措置と異なる措置をとる旨を通知する場合は、本人に対し、その理由を説明するよう努めるものとする。
(解説)
  本条は、電気通信事業者が、本人からの開示等の求めに対して、第16条第3項又は第17条第2項若しくは第4項の規定により、本人から求められた措置の全部又は一部について、その措置をとらない旨を通知する場合又はその措置と異なる措置をとる旨を通知する場合は、本人に対し、その理由を説明するよう努めるものとすることを規定したものである。なお、本人の求めに応じた措置をとる場合は、本人の求めによることがその措置をとる理由であり、理由が自明であることから、理由を説明することとはしていない。


  (開示等の求めに応じる手続)
19条 電気通信事業者は、第16条第2項又は第17条第1項若しくは第3項の規定による求め(以下この条において「開示等の求め」という。)に関し、その求めを受け付ける方法として次の各号に掲げるものを定めることができる。この場合において、本人は、当該方法に従って、開示等の求めを行うものとする。
  開示等の求めの申出先
  開示等の求めに際して提出すべき書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。)の様式その他の開示等の求めの方式
  開示等の求めをする者が本人又は第3項に規定する代理人であることの確認の方法
  次条第1項の手数料の徴収方法
  電気通信事業者は、本人に対し、開示等の求めに関し、その対象となる個人情報を特定するに足りる事項の提示を求めることができる。この場合において、電気通信事業者は、本人が容易かつ的確に開示等の求めをすることができるよう、当該個人情報の特定に資する情報の提供その他本人の利便を考慮した適切な措置をとるものとする。
  開示等の求めは、次に掲げる代理人によってすることができる。ただし、第17条第1項の規定による開示の求めについては、本人の具体的な委任によらない代理人に開示することにより、本人の通信の秘密を侵害する場合等同項各号のいずれかに該当する場合はこの限りでない。
  未成年者又は成年被後見人の法定代理人
  開示等の求めをすることにつき本人が委任した代理人
  電気通信事業者は、前3項の規定に基づき開示等の求めに応じる手続を定めるに当たっては、本人に過重な負担を課するものとならないよう配慮するものとする。
(解説)
(1)   「求めを受け付ける方法」とは、求めを受け付けるための申請書の様式、窓口の特定、郵送等による受付を認めるかどうかといったことを想定している。第1項については、電気通信事業者は必ずしも申請書の様式や窓口の特定等を定める必要があるものではなく、定めない場合には自由な申請を認めることとなる。一方、電気通信事業者が同項の規定に基づき申請書の様式等の求めを受け付ける方法を定めたときは、本人は、当該方法に従って、開示等の求めを行う必要がある。
(2)   「対象となる個人情報を特定するに足りる事項の提示を求めることができる」とは、電気通信事業者が事業部門や営業所ごとに個人情報を保有している場合や、取得年月日別に個人情報を保有している場合等において、電気通信事業者は、開示等の求めについて、具体的にどの区分の個人情報を対象とするものなのかについて、特定を求めることができることとするものである。また、「特定に資する情報の提供その他本人の利便を考慮した適切な措置をとる」とは、電気通信事業者が、本人に対し、対象となる個人情報を特定するに足りる事項の提示を求める場合においては、個人情報の区分を本人の知り得る状態に置くこと等により、本人が容易に特定し得るような措置をとる必要があることを規定したものである。
(3)   開示等の求めに関しては、本人が遠隔地にいる場合や傷病の場合等において、本人の便宜の観点から、代理人による求めを認める必要があるため、第3項各号に掲げる代理人によって開示等の求めをすることができることとしている。なお、同項ただし書は、本人の具体的な委任によらない代理人に利用明細を開示する等本人の通信の秘密を侵害することとなる場合や代理人による開示の求めを認めることが本人と利益相反となるおそれがある場合等第17条第1項各号のいずれかに該当する場合には、代理人による求めは認められないことを念のため確認的に規定したものである。
(4)   電気通信事業者は、第1項から第3項までの規定に基づき開示等の求めに応じる手続をそれぞれ定めることとなるが、本人に過重な負担を課するような手続を定めた場合、事実上開示等の求めを制限することとなるおそれがあることから、第4項の規定を置いたものである。「本人に過重な負担を課する」手続は、個人情報の性質又は利用方法により、ある程度異なるものと考えられるが、必要以上に煩雑な書類を書かせることや、求めを受け付ける窓口を他の業務を行う拠点とは別にいたずらに不便な場所に限定すること等はこれに該当するものと考えられる。


  (手数料)
20条 電気通信事業者は、第16条第2項の規定による利用目的の通知又は第17条第1項の規定による開示を求められたときは、当該措置の実施に関し、手数料を徴収することができる。
  電気通信事業者は、前項の規定により手数料を徴収する場合は、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内において、その手数料の額を定めるものとする。
(解説)
  本条は、電気通信事業者が第16条第2項の規定による利用目的の通知又は第17条第1項の規定による開示を求められたときは、その実施に関し、手数料を徴収することができること、また、手数料を徴収する場合は、実費を勘案して合理的に認められる範囲内において、その手数料の額を定めるものとすることを規定するものである。


  (苦情の処理)
21条 電気通信事業者は、個人情報の利用、提供、開示又は訂正等に関する苦情その他の個人情報の取扱いに関する苦情を適切かつ迅速に処理するものとする。
  電気通信事業者は、前項の目的を達成するために必要な体制を整備するものとする。
(解説)
(1)   本条は、電気通信事業者は、個人情報の取扱いに関する苦情について、適切かつ迅速に処理するものとすることを規定したものである。
(2)   「個人情報の取扱いに関する苦情」とは、個人情報の取扱いに関する不平不満をいう。
(3)   苦情を適切かつ迅速に処理しているか否かについては、電気通信事業者によって提供する電気通信サービスの内容、利用者層、利用者数等が様々であること、また苦情の内容も様々であることから、「適切かつ迅速な処理」の具体的な内容をすべての電気通信事業者等について一律に定めることは困難であり、個別具体的に判断する必要があるが、少なくとも、以下の場合には、適切かつ迅速に処理を行っているとはいえないと考えられる。
1)   苦情に対する対応窓口を設けていない場合
2)   苦情に対する対応窓口が設けられていても、その連絡先や受付時間等を一般に明らかにしていない場合
3)   苦情に対する対応窓口が明らかにされていても、実際にはその対応窓口がほとんど利用できないような場合(例えば、電話窓口に頻繁に電話しても繋がらない場合やメール相談窓口にメールで繰り返し相談しても連絡がない場合)
  一方、本条は、無理な注文をつけてくる場合その他のいわば行きすぎた苦情についてまで対応することを求めるものではなく、このような場合に要求を拒む等しても本条に違反することにはならない。


  (漏えい等が発生した場合の対応)
22条 電気通信事業者は、個人情報の漏えいが発生した場合は、速やかに、当該漏えいに係る事実関係を本人に通知するものとする。
  電気通信事業者は、個人情報の漏えい等が発生した場合は、二次被害の防止、類似事案の発生回避等の観点から、可能な限り、当該漏えい等に係る事実関係その他の二次被害の防止、類似事案の発生回避等に有用な情報を公表するものとする。
  電気通信事業者は、個人情報の漏えい等が発生した場合は、当該漏えい等に係る事実関係を総務省に直ちに報告するものとする。
(解説)
(1)   第1項は、個人情報の漏えいが発生した場合は、その個人情報の本人が適切に対応できるようにするため、電気通信事業者は事実関係を本人に速やかに通知することを規定するものである。なお、利用者が住所、電話番号、メールアドレスの変更等をし、これを電気通信事業者に通知していないときなど本人の連絡先が不明である場合には、通知できなくてもやむを得ないと考えるが、こうした場合はできるだけ本人が個人情報の漏えいの事実を把握できるように第2項に従って公表を行うことが求められる。
  なお、個人情報の「滅失又はき損」は、個人情報の本人の権利利益には影響がない場合もあるので、本ガイドラインでは、個人情報の滅失又はき損が発生した場合に一律に本人への通知を要するものとはしていない(第2項及び第3項との違いに留意)が、個人情報の本人の権利利益に影響が生じるような場合には本人に通知することとすべきであろう。
(2)   第2項は、個人情報の漏えい等が発生した場合は、二次被害の防止、類似事案の発生回避等の観点から、可能な限り事実関係等を公表することを規定するものである。なお、「漏えい等」とは、「漏えい、滅失又はき損」を指す(第11条参照。第3項も同じ。)。「可能な限り」とは、セキュリティーの観点から公表するとかえって二次被害の拡大や類似事案の増大につながるようなものは公表することは要しないが、それ以外の事実関係等については二次被害の防止、類似事案の発生回避等に有用な情報をできるだけ公表すべきとの趣旨である。また、事実関係のほかに公表すべき「二次被害の防止、類似事案の発生回避等に有用な情報」には、再発防止策などが含まれる。
(3)   第3項は、個人情報の漏えい等が発生した場合は、事実関係を総務省に直ちに報告することを規定するものである。





     第3章 各種情報の取扱い
  (通信履歴)
23条 電気通信事業者は、通信履歴(利用者が電気通信を利用した日時、当該通信の相手方その他の利用者の通信に係る情報であって通信内容以外のものをいう。以下同じ。)については、課金、料金請求、苦情対応、不正利用の防止その他の業務の遂行上必要な場合に限り、記録することができる。
  電気通信事業者は、利用者の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合、正当防衛又は緊急避難に該当する場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いては、通信履歴を他人に提供しないものとする。
(解説)
(1)   通信履歴は、通信の構成要素であり、電気通信事業法第4条第1項の通信の秘密として保護される。したがって、これを記録することも通信の秘密の侵害に該当し得るが、課金、料金請求、苦情対応、自己の管理するシステムの安全性の確保その他の業務の遂行上必要な場合には正当業務行為として少なくとも違法性が阻却されると考えられる。
(2)   電気通信事業者は、利用明細(第24条第1項参照)作成のため必要があるときは、加入者の同意の有無にかかわらず、通信履歴を記録し保存することができると解される。電気通信事業者が利用明細を作成するために通信履歴を記録・保存することは、料金請求の根拠を示し得るようにするという点で、債権者たる電気通信事業者の当然の権利であり義務でもあると考えられるから、加入者の同意がなくとも、必要な限度で記録・保存することは正当業務行為として許されると考えられる。ただし、加入者が通信履歴を残さないことを特に望んだ場合には、これに従って記録・保存しない扱いをすることは可能であると考えられる。この場合、当該加入者は、信義則上、料金の明細について争うことはできなくなる。
(3)   発信者を探知するための通信履歴の解析は、目的外利用であるばかりでなく通信の秘密の侵害となることから、違法性阻却事由がある場合でなければ行うことはできないと解される。例えば、インターネットのホームページ等の公然性を有する通信において、違法・有害情報が掲載され、その発信者に警告を行わないと自己のサービス提供に支障を生じる場合(自己のサービスドメインからの通信がアクセス制限される場合等)に、自己が保有する通信履歴などから発信者を探知することは、正当業務行為として行うことができるものと解される。
(4)   通信履歴は、通信の秘密として保護されるので、裁判官の発付した令状に従う場合等、違法性阻却事由がある場合を除き、外部提供は行わないこととする。法律上の照会権限のある者からの照会に応じて通信履歴を提供することは、必ずしも違法性が阻却されないので、原則として適当ではない(第6条解説参照)。なお、電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法第234条の2)に該当するような大量の無差別のダイレクト・メールが送りつけられ、自社のネットワークやサービスが脅威にさらされており、自己又は他人の権利を防衛するため必要やむを得ないと認められる場合には、発信元の電気通信事業者に通信履歴(発信者のIPアドレス及びタイム・スタンプ等)を提供することは許されると考えられる。
(5)   いったん記録した通信履歴は、第10条の規定に従い、記録目的に必要な範囲で保存期間を設定することを原則とし、保存期間が経過したときは速やかに通信履歴を消去(個人情報の本人が識別できなくすることを含む。)する必要がある。この保存期間については、提供するサービスの種類、課金方法等により各電気通信事業者ごとに、また通信履歴の種類ごとに異なり得るが、その趣旨を没却しないように限定的に設定すべきであると考えられる。また、保存期間を設定していない場合には、記録目的を達成後、速やかに消去する必要がある。ただし、法令の規定による場合その他特別の理由がある場合には例外的に保存し続けることができると考えられる。自己又は第三者の権利を保護するため緊急行為として保存する必要がある場合は、その他特別な理由がある場合として保存が許されると考えられる。


  (利用明細)
24条 電気通信事業者が利用明細(利用者が電気通信を利用した日時、当該通信の着信先、これらに対応した課金情報その他利用者の電気通信の利用に関する情報を記載した書面。以下同じ。)に記載する情報の範囲は、利用明細の目的を達成するため必要な限度を超えないものとする。
  電気通信事業者が利用明細を加入者その他の閲覧し得る者に閲覧させ又は交付するに当たっては、利用者の通信の秘密及び個人情報を不当に侵害しないよう必要な措置を講ずるものとする。
(解説)
(1)   利用明細は、事業者にとっては料金請求の根拠を示すものであり、加入者にとっては料金を確認することを可能とするので、双方にとって重要な意味を持つが、一方で、利用明細の内容は、通信の秘密に属する通信履歴にほぼ等しいので、通信の秘密や本人のプライバシーに対する配慮が必要となる。
(2)   利用明細に記載される事項は、料金の支払いに関して利用状況が確認できるための情報であり、通信開始日時、通信時間、相手先電話番号、個々の通信の金額、国際通信の場合の対地等に限定するのが適当である。また、加入者が希望すれば、末尾4桁の電話番号を省略するなどの措置をとることが望ましい。さらに不必要に通信の相手方のプライバシーを侵害するような情報も記載することは適当ではない。例えば、相手方が携帯電話・PHSを利用している場合の着信地域の表示は、これらの料金体系が距離段階で設定されていることから、料金請求の根拠の一つとして必要な情報であり、単位料金区域程度を表示することは可能であるが、それ以上に詳細な着信地情報は不当に通信の相手方のプライバシーを侵害するおそれがあり不適当であると解される。
(3)   利用明細を閲覧し得る者とは、基本的には加入者である。ただし、加入者からの申告等により加入者とは別に恒常的利用者の存在が判明した場合には、その者や、閲覧することにつき正当の利益を有する料金支払者も含まれる(なお、加入者以外の者に閲覧させる場合は、加入者の同意を得ることが求められる。)。利用明細を加入者等に交付するに当たっては、通信の秘密や個人情報保護の観点から、封書で送付する等の配慮が必要である。また、利用明細には当該加入者等以外の利用者の通信に関する情報も含まれていることがあることから、電気通信事業者としては、これらの利用者の通信の秘密を不当に侵害しないよう、必要な措置を講ずる必要がある。


  (発信者情報)
25条 電気通信事業者は、発信者情報通知サービス(発信電話番号、発信者の位置を示す情報等発信者に関する情報(以下「発信者情報」という。)を受信者に通知する電話サービスをいう。以下同じ。)を提供する場合には、通信ごとに、発信者情報の通知を阻止する機能を設けるものとする。
  電気通信事業者は、発信者情報通知サービスを提供する場合には、利用者の権利の確保のため必要な措置を講ずるものとする。
  電気通信事業者は、発信者情報通知サービスその他のサービスの提供に必要な場合を除いては、発信者情報を他人に提供しないものとする。ただし、利用者の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合、電話を利用して脅迫の罪を現に犯している者がある場合において被害者及び捜査機関からの要請により逆探知を行う場合、人の生命、身体等に差し迫った危険がある旨の緊急通報がある場合において当該通報先からの要請により逆探知を行う場合その他の違法性阻却事由がある場合はこの限りでない。
(解説)
(1)   「発信者情報」とは、発信者に関する情報であって、当該情報に含まれる電話番号、氏名、住所、生年月日その他の記述、個人別に付された番号、記号その他の符号、映像又は音声により当該発信者を識別できるものをいう。これには、発信電話番号通知サービスによって通知される発信電話番号や発信者名通知サービスによって通知される発信者名等が該当し、発信者の顔写真や発信者の位置等の情報が伝達される場合には、これらも含まれる。なお、「電話サービス」とは、加入電話、ISDN、携帯電話、PHSのほかIP電話なども含まれる。
(2)   発信者情報は、通信の秘密に該当するが、発信者情報の通知を通信ごとに阻止する機能を設けて、発信者情報を通知するかどうかの判断を発信者に委ねることにより、発信者がこれを阻止しない場合には、発信者が発信者情報を相手方に対して秘密にする意思がないと認められるから、通信の秘密侵害には当たらないことになる。
(3)   発信者が発信者情報を相手方に対して秘密にする意思がないと認められるためには、発信者が発信者情報通知サービスの内容について十分理解している前提となるため、電気通信事業者は、利用者の権利を確保するため、通知される情報、通知を阻止する方法等について利用者に十分周知を行う等の措置を講ずる必要がある。
  なお、緊急通報については、発信者は、通常の場合は、緊急通報受理機関の迅速な対応を受けられるように、通報現場の位置や自らの所在位置を緊急通報受理機関に通知する意思があると考えられるため、緊急通報以外の一般の通話については発信者情報を原則非通知とする設定をしていたとしても、緊急通報については通常の場合は発信者情報が原則通知されるものとし、通信ごとに通知を阻止する機能を利用した場合のみ通知を行わないという取扱いとすることも認められると考えられる。しかしながらこのような取扱いを行う場合は、1) 緊急通報以外の一般の通話については発信者情報を原則非通知とする設定としていたとしても緊急通報については通常の場合は発信者情報が原則通知するという取扱いとしていること、2) 緊急通報において発信者情報の通知を通信ごとに阻止する方法について利用者に十分周知する必要がある。
(4)   なお、発信者情報通知サービスについては、平成8年(1996年)に「発信者情報通知サービスの利用における発信者個人情報の保護に関するガイドライン」が策定されており、同サービスを提供するに当たっては、加入者に対し、その尊重を求める必要がある。
(5)   「その他のサービスの提供に必要な場合」とは、例えば、電気通信事業者間で課金等の目的や通信網の運用等に必要な範囲で発信電話番号情報を送受信することや、コレクトコールにおいて着信者に対して発信者を特定できる情報を提供すること等が考えられる。
(6)   発信者情報は、通信の秘密に該当するので原則として外部提供は適当ではないが、緊急行為としての逆探知等の場合には可能と解される。


  (位置情報)
26条 電気通信事業者は、利用者の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いては、位置情報(移動体端末を所持する者の位置を示す情報であって、発信者情報でないものをいう。以下同じ。)を他人に提供しないものとする。
  電気通信事業者が、位置情報を加入者又はその指示する者に通知するサービスを提供し、又は第三者に提供させる場合には、利用者の権利が不当に侵害されることを防止するため必要な措置を講ずるものとする。
(解説)
(1)   本条でいう「移動体端末」とは、移動電話端末(端末設備等規則(昭和60年郵政省令第31号)第2条第2項第5号)及び無線呼出端末(同規則第2条第2項第7号)のほか、広く電波等を用いて通信を行うために用いられる端末をいう。また、本条にいう「位置情報」とは、移動体端末の所持者の所在を表す場所を示す情報(基地局エリア若しくは位置登録エリア程度又はそれらより狭い範囲を示すものをいい、利用明細に記載される着信地域(単位料金区域等)のようなものは含まない。)をいい、端末設備等規則第22条にいう位置情報よりも広い概念である(なお、発信者の位置を示す情報については、前条にその取扱いが規定されているため、位置情報の定義からは除いている。)。電気通信事業者が保有する位置情報は、個々の通話に関係する場合は通信の構成要素であるから電気通信事業法第4条第1項の通信の秘密として保護されると解される。これに対し、通話時以外に移動体端末の所持者がエリアを移動するごとに基地局に送られる位置登録情報は通話を成立させる前提として電気通信事業者に機械的に送られる情報に過ぎないことから、サービス制御局に蓄積されたこれらの情報は通信の秘密ではなく、プライバシーとして保護されるべき事項と考えられる。位置情報を通信の秘密に該当しないと解する場合であっても、ある人がどこに所在するかということはプライバシーの中でも特に保護の必要性が高い上に、通信とも密接に関係する事項であるから、通信の秘密に準じて強く保護することが適当である。したがって、外部提供できる場合も通信の秘密の場合に準ずることとした。
(2)   位置情報サービスを自ら提供し、又は第三者と提携の上提供するに当たっては、その社会的有用性と通信の秘密又はプライバシー保護とのバランスを考慮して、電気通信事業者は、利用者(ここでは当該移動体端末の所持者を指す。)の権利が不当に侵害されないよう必要な措置を講じなければならないものとした。「必要な措置」の具体的内容としては、契約約款又は協定書等において、1) 利用者の同意が十分に担保できると考えられる範囲で運用すること、2) 加入者の義務として利用者の同意を求めること、3) これらの規定に違反したときは当該サービスの提供をしないこと、4) 加入者が位置情報サービスの提供を受ける場合において、当該移動体端末が位置情報の送出の可否を随時選択できる機能を有しない場合には当該サービスの提供をしないこと等を定めることが考えられる。また、この他、移動体端末に位置情報の送出を行える旨の表示を行うことや位置情報の送出時にその旨の画面表示を行う等の利用者の保護措置を実施することが望ましい。なお、移動体端末を物体に設置して、その物体の所在地の情報を把握するような場合であっても、物体を通してその所持者の権利が不当に侵害されるおそれがあることから、上記に準じた必要な措置を講じることが適当であると考えられる。
(3)   情報の適正管理という観点からの「必要な措置」としては、第三者が移動体端末の位置情報のモニターができないよう、暗証番号の設定、アクセス端末の限定等の措置が考えられるほか、他の電気通信事業者等が位置情報サービスを提供する場合等において、自社の管理する基地局情報が第三者に不当に利用されることのないよう、基地局情報の管理について規程を設けるなどの措置が含まれる。


  (不払い者情報)
27条 電気通信事業者は、電気通信サービスに係る料金不払いの発生を防ぐため特に必要であり、かつ適切であると認められるときは、他の電気通信事業者との間において、不払い者情報(支払期日が経過したにもかかわらず電気通信サービスに係る料金を支払わない者の氏名、住所、不払い額その他の不払い者に関する情報をいう。以下同じ。)を交換することができる。ただし、交換の対象とすることが本人の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない
  電気通信事業者は、不払い者情報を他の電気通信事業者との間で交換する場合は、その旨並びに交換される不払い者情報の項目、交換する電気通信事業者の範囲及び交換される不払い者情報の管理について責任を有する者の氏名又は名称について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くものとする。
  電気通信事業者は、前項に規定する交換される不払い者情報の管理について責任を有する者の氏名又は名称を変更する場合は、変更する内容について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くものとする。
  不払い者情報の交換をした電気通信事業者は、当該情報を加入時の審査以外の目的のために使用しないものとする。
  不払い者情報を提供し又は提供を受けた電気通信事業者は、当該情報の適正な管理に特に万全を期すものとする。
(解説)
(1)   不払い者情報は、料金請求・回収の過程で把握する個人情報であり、それ以外の目的での外部提供は、目的外提供ということになり許されないのが原則である。ただし、例えば移動体事業においては、料金を支払わずに放置するのみならず、契約解除となっても別の事業者と契約する「渡り」と呼ばれるケースが増加し、大きな経営問題となっており、こうした問題に対処するという特別の必要性が認められるところであり、本人(不払い者)の保護に値する正当な権利も守られるならば、不払い者情報の交換も可能であると考えられる。特に、基礎的電気通信役務又は指定電気通信役務を提供する電気通信事業者及び認定電気通信事業者は、正当な理由がなければ、その業務区域における電気通信役務の提供を拒んではならないとされており、加入の申込みを受けた場合には基本的にはこれを承諾しなければならないことの代償措置として、最小限の不払い者情報の交換により、経営リスクを軽減することには合理的な理由があると考えられる。
  ここで、「不払い者情報」とは、不払い者の氏名、住所、生年月日、不払い額及び滞納額に争いがある場合等におけるその旨の情報などが含まれるものと考えられる。
(2)   「本人の権利利益を不当に侵害する」ことのないようにするためには、交換の対象を契約解除となり現に不払いがある者に限定する、契約約款に明記することにより加入者の同意を得る(したがって、第15条の適用上は同条第1項の「あらかじめ本人の同意」を得て第三者に個人情報を提供する場合に該当する。)、第2項及び第3項の規定に従い加入者に対し交換の仕組みの周知を行う、交換したデータについては十分な安全保護措置をとる等のことが求められる。また、交換したデータの活用に当たっては、電気通信事業法上の提供義務に反しないよう、交換した不払い者情報を利用して加入を承諾しない場合を一定額以上の滞納者に限定し、一定額未満の者については預託金等を活用する等、慎重な取扱いが求められる。
(3)   交換された不払い者情報については、一種の個人信用情報であり、目的外利用は許されない。
(4)   不払い者情報が最新かつ正確なものでなかったり、漏えい等した場合には、本人の権利利益を侵害するおそれが強いので、適正な管理に特に万全を期すべきことを特に定めた。


  (電話番号情報)
28条 電気通信事業者が電話番号情報(電気通信事業者が電話加入契約締結に伴い知り得た加入者名又は加入者が電話帳への掲載、電話番号の案内を希望する名称及びこれに対応した電話番号その他の加入者に関する情報をいう。以下同じ。)を用いて電話帳を発行し又は電話番号案内の業務を行う場合は、加入者に対し、電話帳への掲載又は電話番号の案内を省略するかどうかの選択の機会を与えるものとする。この場合において加入者が省略を選択したときは、遅滞なく当該加入者の情報を電話帳への掲載又は案内業務の対象から除外するものとする。
  電気通信事業者が電話帳発行又は電話番号案内業務を行う場合に提供する電話番号情報の範囲は、各業務の目的達成のため必要な限度を超えないものとする。ただし、加入者の同意がある場合はこの限りでない。
  電気通信事業者が電話帳発行又は電話番号案内を行う場合の電話番号情報の提供形態は、本人の権利利益を不当に侵害しないものとする。
  電気通信事業者は、電話帳発行又は電話番号案内業務による場合を除き、電話番号情報を提供しないものとする。ただし、次に掲げる場合はこの限りでない。
  電話帳発行又は電話番号案内業務を外部に委託する場合
  電話帳を発行し、又は電話番号案内の業務を行う者に提供する場合
  その他第6条第3項各号に該当する場合
  電気通信事業者が電話番号情報を、電話帳発行又は電話番号案内業務を行う者に提供する場合は、当該提供契約等において、前各項に準じた取扱いをすることを定めるものとする。
(解説)
(1)   電話番号情報は、個人情報ではあっても、一般に公開が要請され、電話帳又は電話番号案内によって知り得るものとなっている。これは、ある人に電話をかけたいというときに電話番号が分からなければコミュニケーションをすることができないからである。ただし、こうした要請も加入者のプライバシーに優先するものではないので、電気通信事業者としては、加入者に対して電話帳への掲載又は電話番号の案内を省略するかどうかの選択の機会を与えるべきである。
  なお、電話サービス以外の通信サービスにおけるID(電子メールアドレス等)については、電話番号ほどの公開の要請はないのが現状であるため、本条の対象とはしないこととした。したがって、これらの取扱いについては、第2章の共通原則によることとなる。
(2)   電話帳には、加入者を特定するための最低限の情報は掲載されるべきであり、氏名、住所、電話番号については掲載される必要があるが、それ以上の個人情報を掲載するのは適当ではない(もとより、職業別電話帳に職業を記載するのは可能である。)。また、住所の一部を削除するなどのオプションを設けることなども検討に値する。
(3)   従来、電話帳は紙媒体で、電話番号案内はオペレーターによりなされるのが通常であったが、電子計算機処理が進む中で、CD−ROMによる電話帳、パソコン通信やインターネットによる電話番号案内といった形態が出現しつつある。こうしたものは、利便性を向上させるという点では利用者の利益になるが、他方、加入者のプライバシーへの配慮が必要となる。例えば、50音別電話帳のCD−ROM化についていえば、電子データの加工・処理による個人情報の不当な二次利用の防止という観点から、データのダウンロードや逆検索の機能を設けないといったことが少なくとも必要であろう。他方、CD−ROM化に際して、改めて掲載の可否の意向を確認する必要があるかどうかについては、ヨーロッパ各国その他諸外国の動向にも注意しつつ、社会的コンセンサスの有無を判断していく必要がある。なお、職業別電話帳については、掲載情報が社会的に広まることについてメリットが大きく、また、同情報には個人情報として保護されるべき内容も多くはないことから既にCD−ROMでの提供やインターネット上での提供が実施されている。
(4)   電話番号情報の外部提供については、外部提供の一般原則による。例えば、この通話における発信者電話番号に対応する加入者は誰かという照会の場合は、通信の秘密に属する事項に関するものなので裁判官の発付する令状等が必要であるが、この電話番号に対応する加入者は誰かといった照会であれば、通信の秘密を侵害するものではないので、法律上の照会権限を有する者からのものであれば、応じることも可能である。
(5)   電話帳発行又は電話番号案内業務を行おうとする者に対して提供することは、目的の範囲内の行為として許されると考えられる。この場合における提供の媒体については、磁気媒体での提供も可能と考えられる。ただし、被提供者に対しては、情報の利用を電話帳発行事業又は電話番号案内事業に限定すること、本来の電話帳等と同等の形態を維持すること、情報流出防止のための措置を講ずること等、情報の取扱いに関する協定等を締結する必要がある。