第V章 上限価格方式の運用の在り方

第2節 特定電気通信役務の範囲

  1. 概要

    (1) 法の趣旨
     加入者回線設備をはじめとする都道府県内の通信を扱う設備は、その設置のために巨額の設備投資を要することやそのために必要な公的空間や公物の使用に制限があるため、新規参入事業者が設置することが容易でなく、現実にも県内通信を扱う設備についてはその大半を日本電信電話株式会社(NTT)が設置しており、基本的には電気通信設備ベースでの競争は進展していない。
     したがって、当該地域の加入者回線総数の2分の1を超える回線数を有する指定電気通信設備を用いて提供される電気通信役務(地域通信)のうち利用者の利益に及ぼす影響が大きいもの(特定電気通信役務)について、上限価格方式の対象とし、料金の低廉化を促すこととしている。

    ※ 電気通信事業法第31条第3項
     指定電気通信設備を用いて提供する電気通信役務であつて、その内容、利用者の範囲等からみて利用者の利益に及ぼす影響が大きいもの
    ※ 指定電気通信設備(電気通信事業法第38条の2第1項)
     全国の区域を分けて電気通信役務の利用状況及び都道府県の区域を勘案して郵政省令で定める区域ごとに、その一端が利用者の電気通信設備と接続される伝送路設備のうち同一の第一種電気通信事業者が設置するものであつて、その伝送路設備の電気通信回線の数の、当該区域内に設置されるすべての同種の伝送路設備の電気通信回線の数のうちに占める割合が郵政省令で定める割合を超えるもの及び当該区域において当該第一種電気通信事業者がこれと一体として設置する電気通信設備であつて郵政省令で定めるものの総体
    (都道府県において5割を超えるシェアを有する加入者回線及びそれと一体となって設置される概ね県域をカバーする電気通信設備であり、加入者回線、加入者交換機、県内伝送路設備のほか、番号案内台などが含まれる。)
    (2) 基本的な考え方
     上限価格方式は、競争が十分進展していないサービスについて市場メカニズムを補完するとともに、事業者に自主的な経営効率化を進める誘因を与えることにより、実質的に料金を低廉化することを目的としていることから、その対象サービスの範囲は、
       競争の進展が不十分であるために、市場メカニズムによる価格形成が期待できないサービス、かつ、
       国民生活・経済に必要不可欠なサービス
    が該当することとなる。
     まず、競争が不十分なサービスとは、指定電気通信設備を用いて提供される都道府県内の通信サービスが該当することとなる。これは、市場においては、価格形成に支配力を有する事業者(支配的事業者)の料金に、それ以外の非支配的事業者は追随せざるを得ないことから、支配的事業者の料金のみを上限価格方式の対象とするものである。
     また、現時点において、国民生活・経済に必要不可欠なサービスには、ほぼ全世帯に普及している電話サービス、急速に利用者数をのばしており、将来電話に匹敵するサービスになると考えられるISDNサービス note1、企業活動における通信手段として幅広く利用され、第二種電気通信事業者の事業基盤にもなっている専用サービスが該当すると考えられる。
     なお、電気通信市場においては、料金・サービスの多様化が著しく、競争の進展状況も時々刻々変化していることから、上限価格方式の対象となるサービスの範囲については、電気通信市場における競争の実情や料金・サービスの普及状況等を踏まえ、柔軟に見直しを行っていく必要がある。
    note1  ISDNのうち高速通信モード、パケットモードのサービスについては指定電気通信設備を用いて提供される電気通信役務とならないことから対象外となる。
  2. 個別論点

    (1) 付加機能(サービス)の取扱い
     指定電気通信設備を用いて提供されるプッシュホン、キャッチホン等の付加機能(サービス)については、その提供を受けなくとも基本的な機能である通信の伝送サービスの提供を受けることは可能であり、利用者の利益に及ぼす影響が比較的小さいと考えられるため、現在、その料金は届出対象料金又は非規制料金とされている。
     付加機能については、電話サービスの周辺的な機能であることから、利用者への影響は大きくなく、特定電気通信役務に含める必要はないとの意見がある。また、付加機能のうちには不在案内機能や簡易会議電話機能などネットワーク側のサービスとして提供しなくとも、端末側の機能として提供できるものもあり、そのような機能については、端末機器メーカーや第二種電気通信事業者と競合状態にあることから、特定電気通信役務とすべきではないとの指摘もある。
     これに対しては、付加機能は、
       プッシュホン接続機能や発信者番号表示機能など、普及率や機能面から見て、基本的な電話サービスといえるものも出てきていること
       通話料、通信料の急速な低廉化により、相対的に利用者が負担する料金に占める付加機能使用料の比重が高まっていること
    から、付加機能であるからといって利用者の利益に及ぼす影響が少ないとは一概に判断できなくなってきており、料金の低廉化がほとんど進んでいないことから、上限価格方式を適用し、料金の低廉化を促すことが必要であるとも考えられる。特に、プッシュホン接続機能については、料金設定の根拠となる原価が不明確であること、欧州主要国においては無料であること、普及率も約47%となっておりユニバーサルサービスに含まれると整理すべきとの議論も出てきつつあることから、将来的には無料化していくべきであり、現状においては、漸進的に料金低廉化を促すため、上限価格方式の対象とすべきとの意見もある。
     したがって、付加機能の取扱いについては、パブリックコメントを踏まえてさらに検討する必要があり、特にプッシュホン接続機能の取扱いについては、利用者や関係事業者の意見を聞いた上で、基本料や通話料の収支に与える影響も考慮してその在り方を判断すべきである。

    ※ NTTの付加機能の現状(平成9年度)
    プッシュホン接続機能
    料金:390円 利用者数:2861万回線 収入:1314億円
    (英、独、仏ではプッシュホン接続機能は無料。米ではニューヨーク州、イリノイ州、カリフォルニア州等多くの州で無料。)
    キャッチホン機能
    料金:300円 利用者数:1718万回線 収入:556億円
    プッシュホン接続機能については、米国ではほとんどの州で基本的なサービスとみなされ、料金規制の対象となっている。 note2
     また、ニューヨーク州、フロリダ州ではプッシュホン接続機能使用料は料金凍結の対象となっている。(ニューヨーク州、フロリダ州のベル系電話会社のプッシュホン接続機能使用料は無料。)
    note2 National Association of Regulatory Utility Commissioners, Utility Regulatory Policy in the United States and Canada 1995-1996
    (2) 番号案内サービスの取扱い
     番号案内サービスについては、特定の者に利用が偏在していることから、利用者の利益に及ぼす影響は大きくなく、特定電気通信役務として上限価格方式の対象とする必要はないとの意見もある。
     しかしながら、番号案内は電話をかける前提となるサービスであり通話サービスと密接不可分な関係にあること、月々の一定回数以内の利用についてはユニバーサルサービスに該当するとも考えられることから、特定電気通信役務として上限価格方式の対象とすべきとの意見もある。
     これについては、番号案内サービスは、今年5月、収支相償を図る観点から料金値上げが行われ、来年5月にも再値上げが行われる予定であり、事実上ほぼNTTの独占サービスであることも考慮すると、当分の間、特定電気通信役務に含め不当に高額な料金設定が行われることを防止することが適当であると考えられる。
     番号案内については月2回以上利用する利用者は全体の約15%に過ぎないが、総利用回数では約83%を占めているなど利用形態が偏在している。
     NTTの番号案内料の値上げの状況
    H2.12 H7.2 H7.10 H10.5 H11.5
    1回30円
    (有料化)
    1回目  30円
    2回目以降60円
    1回目  30円
    2回目以降60円
    深夜早朝 60円
    1回目   50円
    2回目以降 80円
    深夜早朝 120円
    1回目   60円
    2回目以降 90円
    深夜早朝 150円
     イリノイ州、フロリダ州、ワシントンDCでは番号案内料はプライスキャップ規制の対象となっている。
     英国では1989年(番号案内有料化時)から1997年まで番号案内料はプライスキャップの対象となっていた。
    (3) 専用役務のうち特定電気通信役務とすべき範囲の在り方
     専用役務においては、サービスの多様化が進展しており、利用者数が多い一般専用サービスや高速デジタル専用サービスから、特定利用者向けの映像伝送サービス等まで、様々なサービスが提供されている。以下においては、現在指定電気通信設備を用いて提供される専用役務について、サービスの利用者数や利用層、既存サービスとの代替性、競争状況等から、特定電気通信役務の範囲を検討することとする。
    高速デジタル専用サービスの取扱い
     高速デジタル専用サービスについては、地域通信分野においても一定程度競争が進展していることから、特定電気通信役務とする必要はないという意見がある。
     しかしながら、次の理由から、高速デジタル通信サービスについては特定電気通信役務とし、上限価格方式の対象とすることが適当である。
    ア)地域通信分野の高速デジタル専用サービス市場におけるNTTのシェアは依然として高いものであること
    ※ 高速デジタル専用サービス収入シェア(市内、平成8年度末)
    NTT:NCC = 77.7 : 22.3
      高速デジタル専用サービス契約回線数シェア(県内、平成9年度末)
    64kbps  NTT:NCC = 96.7 : 3.3
    1.5Mbps  NTT:NCC = 60.9 : 39.1
    イ)近年、近距離専用線については値上げも行われているなど料金が低廉化傾向にあるとは言えないこと
    ※ NTT近距離専用線の料金推移(64Kbps、15km、月額)
    S60.4 H1.4 H2.3 H3.3 H8.4 H9.4 H10.4
    83,000円 79,000円 61,000円 42,000円 53,000円 65,000円 77,000円
    ウ)高速デジタル専用サービスが第二種電気通信事業者の事業活動の基盤となっていることから、第一種電気通信事業者と第二種電気通信事業者との間の公正競争の確保の観点からも適正な料金設定が行われることを確保する必要性が高いこと

    一般専用、高速デジタル専用以外の専用サービスの取扱い
     一般専用、高速デジタル専用以外の専用サービスについては、利用者に対する影響を勘案して個別に判断していくことが適当であると考えられる。
     具体的には、現在提供されているATM専用サービスについては、高速デジタル専用の代替的サービスと言えることから特定電気通信役務に含めることが適当と考えられる。また、少数の者の限定された用途に利用が限られている現在の映像伝送サービスや一般専用の放送専用サービス等については特定電気通信役務に含める必要はないと考えられる。
     なお、今後新たに提供される専用サービスについても、提供開始の際に個別に判断することとするのが適当であると考えられる。

  3. 特定電気通信役務の範囲に関する具体案

     以上の検討を踏まえると、特定電気通信役務の範囲は、以下のとおりとすることが適当と考えられる。

     NTTが指定電気通信設備を用いて提供する都道府県内の通信サービスのうち、
     電話役務(番号案内サービスを含む。)
     ISDN役務(番号案内サービスを含む。)
     専用役務(利用者に及ぼす影響が比較的小さいもの(映像伝送、放送専用等)は除く。)
     なお、付加機能(サービス)については、パブリックコメントを踏まえて引き続き検討することとする。
     また、新サービスについては、上記1(1)の観点から、個別ケースごとに判断することとなる。




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