第3章 ユニバーサルサービス確保の新たな枠組み

1 新たな枠組の必要性
(1) 従来の枠組み
  昭和60年以前の日本電信電話公社時代においては、日本電信電話公社は、
 電気通信サービスの独占的な提供が法的に保証される一方で、電気通信サー
 ビスのあまねく公平な提供責務が法定され、独立採算制の下で、採算サービ
 スから非採算サービス又は低コスト地域から高コスト地域間における内部相
 互補助により、その提供が確保されていた。

(2) 現在の枠組み
  昭和60年の電気通信市場の自由化により、電気通信市場全分野へ競争原
 理が導入され、またNTTに対しては、NTT法第2条により、電話役務の
 あまねく日本全国における安定的な供給の確保が責務として課せられている。
  NTTにこうした責務が課せられているのは、NTTが電話サービスを提
 供する上で必要不可欠な全国的電話ネットワークを日本電信電話公社から受
 け継ぎ、事実上、独占的に保有していることに基づくものである。
  なお、電気通信市場における競争は、長距離通信分野や移動体通信分野な
 どの採算サービスを中心に進展し、NTTの移動体通信部門の構造的分離、
 長距離通信料金の値下げ等もあり、NTTでは採算サービスから不採算サー
 ビスへの内部相互補助のための補填原資を失ったことにより、不採算サービ
 ス料金(基本料、公衆電話料金、番号案内料)の値上げを行った。これによ
 り、NTT内部におけるサービス間の内部相互補助の構造が基本的には解消
 されつつある。

(3) 新たな枠組みの必要性
 1) 現在の仕組みの限界
   今後、地域通信市場における競争の進展や移動体通信との競争の本格化
  により、ユニバーサルサービスの提供をNTTの責務と位置付けることに
  よってNTTの経営努力や料金改定によって対応するだけでは構造的に確
  保できなくなるおそれがある。(なお、電気通信サービスにおける競争の
  進展状況については、参考資料「電気通信市場の競争の現状」を参照され
  たい。)
   すなわち、地域間の補填構造がある状況下で、高収益地域を中心に競争
  が進展した場合、NTTは高コスト地域におけるユニバーサルサービス確
  保のための補填原資を失うおそれがある。この場合、NTTとしては、一
  義的には経営効率化により対応すべきであるが、経営効率化の努力には一
  定の限界があり、NTTとしては、
  ア 利用者料金の一律値上げ
  イ コストに基づき、競争地域での値下げ又は高コスト地域での値上げ  
  ウ 基本料の値上げ
  のいずれかにより対応せざるを得なくなる事態となることもあり得るもの
  と考えられる。
   しかし、アの利用者料金の一律値上げでは、一時的には収支均衡させる
  ことができたとしても利用者の負担が増加すること、競争地域における他
  事業者との料金格差が一層拡大することから、ますます市場競争力を失い、
  逆に収益を悪化することとなり得ること。
   次に、イのコストに基づき地域毎に料金格差を設けることは、高収益地
  域においては競争対応型の料金となるが、高コスト地域においては、料金
  の値上げとなり、場合によっては禁止的料金となるおそれがあること。
   また、ウの基本料の値上げについては、移動体通信に対して、競争力を
  弱めることとなるなど一定の限界があり、長期的な対応策とはなり難いこ
  と。
   よって、現状のように、ユニバーサルサービス確保のための何らの措置
  を講じていない状況のままでは、電話サービスについても、現在のような
  形でユニバーサルサービスを維持していくことが困難になるおそれがある。

 2) 利用者利益の保護
   上述のとおり、今後、更に低コスト地域における競争や移動体通信との
  競争が進展した場合、NTTは低コスト地域から高コスト地域に対する補
  填原資を失うことになるため、経営効率化等で対応できなくなれば、料金
  の値上げ又はコストに基づいた地域別料金を導入せざるを得なくなるもの
  と考えられる。
   この場合、競争が成立する収益性の高い地域においては、事業者選択の
  幅が広がり、料金も低廉化することから利用者利益は増大するが、他方、
  競争が成立しない収益性の低い地域においては、料金値上げとなることか
  ら、利用者利益が損なわれることとなる。
   よって、競争の進展により、ユニバーサルサービスの確保が損なわれる
  ことがないよう、その確保のための新たな枠組みについて検討することが
  適当である。

 3) 公正競争条件の整備
   ユニバーサルサービスについては、その高い公共性に基づき、誰もが利
  用できるよう日本全国において提供が確保されるものであるから、事業者
  間の公正な競争条件を確保する観点から、ユニバーサルサービスの提供コ
  ストについては、その提供責務を課せられた事業者と課せられていない事
  業者との間で公平に負担することについて検討することが適当である。
   また、ネットワークの外部性からも全体の事業者の中で、ユニバーサル
  サービスコストを負担することが適当である。

※ ネットワークの外部性
  電気通信ネットワークは、加入者が増加すればするほど、ネットワークの効用
 が高まり、それを利用する者にとってますます価値の高いものになるという
 「ネットワークの外部性」が存在する。
  これは、電気通信サービスがネットワーク上で提供されるサービスであること
 から、送り手だけではサービスを単独に消費することができず、送り手と受け手
 があって初めてサービスが成立するという特質に基づくものである。
  したがって、国民生活に不可欠なサービスについては、その加入者が増加する
 ほど、ユニバーサルサービスとしての効用が高められることから、その維持、拡
 大を図ることが適当である。

 4) 国際的な整合性の確保
   米国、英国等の先進諸外国においても、競争環境におけるユニバーサル 
  サービスの適切な確保を図るための新たな枠組みの導入やそのための検討
  が進められているところであり、我が国においても、公正な競争環境の一
  層の整備を図る観点とともに、我が国の電気通信制度の国際的な整合性を
  図る観点からも新たなユニバーサルサービスの枠組みを検討することが適
  当である。

 5) コンセンサスの醸成
   以上述べたような理由から、ユニバーサルサービス確保のための新たな
  枠組みの検討が必要であると考えられるが、現在、NTTが負担している
  ユニバーサルサービスのコストを他の事業者(若しくは、公的負担とすれ
  ば国民全体)に転嫁することは必ずしも容易ではなく、現実に新たな枠組
  みを作る場合には、ユニバーサルサービスのコストが果たしてどれくらい
  か、また、それが適切なコストか(NTTの経営上の不経済が混入してい
  ないか)について明確にするとともに、コスト負担の在り方についても公
  平なものとすることが必要不可欠であり、これらの点については、具体的
  な数値データを基に徹底した議論を行い、コンセンサスを得ながら進める
  必要がある。

2 新たな枠組みを構築するに当たっての基本原則
 競争の進展に対応したユニバーサルサービス確保の新たな枠組みについては、以
下の事項を踏まえ検討することが適当である。

 1) 競争中立性
   事業者間の負担の公平性が確保され、かつ、新たな枠組みにより、結果
  的に特定の事業者を競争上、不当に有利又は不利とするものでないこと。
 2) 透明性の確保
   補助制度の管理・運営の透明性が確保されていること。透明な手続き・
  基準により、コストの負担や補助金の配分が行われること。
 3) サービス提供事業者の効率性の確保
   補助金を配分することにより、事業者の非効率性を助長させることがな
  く、ユニバーサルサービス提供の効率化を促すインセンティブが働くもの
  であること。
 4) 実施費用が小さいこと
   補助金原資の徴収や配分に係る費用ができる限り小さいものであること
  が望ましい。
 5) 国際的な整合性の確保
   外国通信事業者による国内市場への参入や通信事業者のグローバルな展
  開が一層進展することが予想されることから、できる限り諸外国の制度と
  整合性がとれたものであるとともに、国際的な合意事項に整合したもので
  あること。

  ※ サービスの貿易に関する一般協定の第四議定書 約束表参照文書
   ・加盟国はユニバーサル・サービスの義務の内容を定義する権利を有する。
   ・透明性、非差別性、競争中立性の確保。
   ・必要以上に大きな負担にならないこと。

3 新たな枠組みの概要
 これまで述べたように、現在のユニバーサルサービス確保の枠組みでは、今後、
ユニバーサルサービスを確保していくことが困難になるおそれがある。したがって、
ユニバーサルサービス確保のための新たな枠組みの構築を検討する必要があると考
えられるが、新しい枠組みの構築に当たっては、ユニバーサルサービスの中には、
純粋な市場メカニズムに委ねたのでは必ずしも十分に提供が確保されないおそれの
あるサービスがあるため、それらのサービスについては、ユニバーサルサービスと
しての適切な提供条件(料金、品質、あまねく日本全国での提供など)が確保され
るよう、事業者にユニバーサルサービス提供の責務を課すとともに、提供責務を負
った事業者が、その責務を遂行し得るような枠組みを作ることが基本となる。
 具体的にどのような仕組みが望ましいのかについては、前回の研究会において、
ユニバーサルサービスを確保するための新たな枠組みとしては、基金方式が望まし
いという提言が出されており、本研究会としても、各種方式を比較検討したところ、
基金方式が妥当との結論を得たので、以下では、基金方式を導入することとする場
合の枠組みの概要について検討する。(なお、基金方式が望ましいとの議論の詳細
は、参考資料「ユニバーサルサービス確保の方策」を参照されたい。)

(1) ユニバーサルサービスを提供すべき事業者
  現在、NTTがユニバーサルサービス提供の責務を負っている。しかしな
 がら、今後、新たな無線システムの活用等技術が進歩することやユニバーサ
 ルサービスの範囲が電話以外のサービスにも拡大することなどによって、例
 えば、高コスト地域においてNTTよりも低料金で電話サービスを提供でき
 る事業者が登場する可能性がある。
  したがって、ユニバーサルサービス提供の責務を負う事業者について、特
 定の事業者に限定せず、一定の条件を満たす事業者を対象とすることについ
 ても検討する必要がある。
  なお、現状では、収益性の低い地域に対してユニバーサルサービスの提供
 を行う事業者は、当分の間は、NTTのみであると考えられる。

 ※ 英国はBT(ハル市以外)、フランスはフランステレコムがユニバーサル
  サービス提供事業者。ドイツは、市場において売上高4%以上のシェアを有す
  る事業者及び支配的事業者。
 ※ 加入者系無線アクセスの導入
   現在、無線を利用し、比較的安価に加入者回線の敷設が可能となる加入者系
  無線アクセスの開発が進められており、NTTが平成10年秋から一部地域に
  おいて導入予定。また、長距離系・地域系NCCにおいてもコスト低減化を目
  的に導入を検討中。

(2) ユニバーサルサービスコストの負担者
  ユニバーサルサービスの提供コストの負担は、競争中立性が損なわれるこ
 とがないよう、事業者間の負担の公平性が確保される必要がある。
  ユニバーサルサービスコストの負担者の対象範囲としては、以下の二つの
 考え方がある。
 1) 全ての電気通信事業者
   ユニバーサルサービスコストの負担は、電気通信分野に競争原理が導入
  されたことによって何らかの便益を受けたすべての事業者で負担すること
  が、負担の公平性の観点から適当であるとの考えに基づくものである。

   ※ 米国(連邦レベル)では、提供サービスによらず全ての州際通信サービ
    スを提供する事業者(電話、移動体、専用サービス等を含む)
   ※ フランスでは、電話及びそれ以外にサービスを提供する公衆電気通信事
    業者及び移動体通信事業者(ただし、拠出金の使用目的に応じて、負担方
    法は異なる)
   ※ EUでは、公衆電気通信網提供事業者及び公衆に対する音声電話サービ
    ス提供事業者

 2) 当該サービス提供事業者及びユニバーサルサービス提供事業者のネット
   ワークに相互接続する事業者
   ユニバーサルサービスコストの負担者は、当該サービスを提供する事業
  者全体で負担するとともに、ユニバーサルサービス提供事業者のネット
  ワークに相互接続することにより便益を得ている事業者とすることが適当
  であるとの考えに基づくものである。

 ※ ドイツでは、当該サービス市場において4%以上の売上シェアを有する事業
  者

 3) 検討
   ユニバーサルサービスコストの大きさいかんによっては、事業者によっ
  ては過大な負担となるおそれがあることから、負担事業者の範囲について
  はなるべく広くすることが補助スキームの円滑な運用を確保する観点から
  適当という考えもある。一方、あまり広くし過ぎると事業者間の負担の公
  平性が損なわれるおそれがある。よって、例えば、事業者の規模や提供
  サービスなどにより、事業者のコスト負担の割合を変えたり、コスト負担
  を免除することなどにより、両者のバランスを図ることが適当である。

(3) 具体的な補助対象範囲
  現時点で、ユニバーサルサービスに該当する電話サービスのうち、具体的
 な補助対象範囲について、以下に検討する。

 1) 公衆電話網サービスへのアクセス(加入者回線の提供)
   加入者回線は、市内・市外・国際電話等の電話サービスを利用するため
  のアクセス回線として必要不可欠なものである。現在、加入者回線は、事
  実上、独占状態であり、高コスト地域も含め利用可能な料金によって提供
  されているが、仮にコストに基づき地域別の料金を設定された場合には、
  利用禁止的料金となるおそれがある地域があることから、補助対象に含め
  ることが適当である。

 2) 市内電話サービス
   市内電話サービスは、現在、一部の地域での競争となっているが、高コ
  スト地域も含め利用可能な料金によって提供されている。しかし、収益性
  の高い地域における競争が進展し、仮にコストに基づき地域別の料金を設
  定された場合には、利用禁止的料金となるおそれがある地域があることか
  ら、補助対象に含めることが適当である。

 3) 公衆電話サービス
   公衆電話サービスは、社会生活上の安全及び戸外における最低限の通話
  を確保する観点から、全国において一定数の公衆電話機が設置される必要
  がある。公衆電話機の中には、利用が少なく不採算のものもあると考えら
  れるが、上記の理由から、一定数の公衆電話機については、不採算であっ
  ても維持される必要があり、補助対象に含めることが適当である。

 4) 国際電話、長距離電話サービス
   国際電話、長距離電話サービスは、国民生活に不可欠なサービスである
  が、既に事業者間の競争によってあまねく日本全国において提供されてい
  ることから補助は不要である。

 5) 公益上又は社会福祉上の特別措置
   前述したように、現在、NTT等では、公益上の特別な理由や国等の各
  種施策に対して、利用者間の負担の公平性が損なわれない範囲内で、
  ア 緊急通報サービス(警察・消防機関への無料通報サービス)
  イ 離島通話サービス(離島に対する通話料金の特別措置)
  ウ 福祉サービス(高齢者・身体障害者等への特別措置)
  の料金について特別措置を行っているところである。
   これらのサービスは、本来、国全体の社会福祉政策などの在り方の中で
  検討されるべきとの考えがあり、特にイとウについては、ユニバーサル
  サービスに含まれるかどうか議論があるところである。
   しかしながら、上記サービスは、公益上の特別な理由や国等の要請等に
  基づき提供されていることから、事業者間で公平に負担することには一定
  の合理性があるものとも考えられる。
   したがって、これらサービスの負担の在り方については、事業者間で負
  担することの是非を含め、今後さらに検討を深めていくことが適当である。

(4) ユニバーサルサービスコストの算定方法
  ユニバーサルサービスコストの算定方法は、公正・透明な手続きや基準に
 基づくものでなければならない。

 ア ユニバーサルサービスコストの算定方法
  1) 費用と収入との差額コストに基づく方法
    ユニバーサルサービスコストを、ユニバーサルサービスの提供をやめ
   た場合の回避可能なコストから、ユニバーサルサービスを提供しないこ
   とによって失われる収入を差し引いたものとして算定することとする方
   法である。これは、一般の企業活動において、サービスの提供に要する
   コストが、サービスの提供によって得られる収入を超えた時点で、サー
   ビス提供のインセンティブが働かなくなるとの考えに基づくものである。
    この方法のメリットは、回避可能コストが収入を上回った部分をユニ
   バーサルサービスコストとすることから、下記2)の方法のような基準値
   を設定する必要がないことである。
    デメリットは、収入がユニバーサルサービス提供事業者の料金設定の
   影響を受けてしまうことである。
    なお、回避可能コストの算定方法としては、長期増分費用方式と実際
   の会計データに基づく方式の2つの方式が考えられる。
   (ア) 長期増分費用方式
     回避可能コストの算定には、ユニバーサルサービス提供事業者の非
    効率性を排除した方式とすることが適当であり、その手法として、長
    期増分費用方式によることが考えられる。
     この場合、長期増分費用方式による算定方法の確立が課題となる。

   ※ 長期増分費用方式とは、事業者のネットワーク費用を実際の費用発生額
    ではなく、同能力のネットワークを現時点で利用可能な最も効率的な設備
    と技術で新たに構築するとした場合の費用額に基づいて計算する方式。
   ※ 米国では、長期増分費用モデルに基づき、ユニバーサルサービスコスト
    を把握するため、モデル作成の検討が進められている。
   ※ 英国、EUでは、長期増分費用(投下資本に対する適切な報酬を含む)
    が当該サービスに関連する収入を上回る場合の差額からさらにユニバーサ
    ルサービス提供事業者であることに起因する便益(ブランド効果等)を控
    除した額をユニバーサルサービスコストとしている。  
   ※ ドイツでは、長期増分費用(投下資本に対する適切な報酬を含む)が当
    該サービスに関連する収入を上回る場合の差額に相当する額をユニバーサ
    ルサービスコストとしている。  

   (イ) 実際の会計データに基づく方式
     ユニバーサルサービス提供のために実際に発生した費用に基づく方
    法である。
     この場合、費用から如何にして、ユニバーサルサービス提供事業者
    の非効率性を排除するかが課題となる。

   ※ 実際の会計データに基づく方式の場合、地域別に費用を把握する必要が
    ある。
   ※ 米国では、現在のところ、会計データから地域会社毎の加入者回線コス
    トを算出し、そのコストに応じて補助額を決定している。

  2) 基準値を超えるコストに基づく方法
    基本的な考え方は上記1)と同じであるが、ユニバーサルサービス提供
   事業者の料金設定の影響を避けるため、費用と収入との差額を用いる代
   わりに、ユニバーサルサービスの提供をやめた場合の回避可能なコスト
   について、ある基準値を超えた部分をユニバーサルサービスコストとし
   て算定する方法である。
    この方法のメリットは、コストのみに基づいて算定することから事業
   者料金に左右されず、中立的な算定が可能となることである。
    デメリットは、ユニバーサルサービスコスト算定のための適切な基準
   値の設定方法と回避可能コストの算定に上記1)と同様な課題があること
   である。

    ※ 米国では、地域会社の1加入回線当たりのコストが、全国平均の
     15%を上回るコストの一部について基金からの補助がある。

  3) 検討
    長期増分費用方式は、ユニバーサルサービス提供事業者の非効率性を
   排除するための方式であり、現在、欧米先進国において、ユニバーサル
   サービスコスト算定の際の回避可能コストの把握に利用されつつあり、
   また、我が国においても、現在、接続料の分野でその利用の検討が進め
   られているところである。
    ところで、ユニバーサルサービスコストの算定に当たっては、算定区
   域毎のコストを把握する必要があるが、ユニバーサルサービスコストの
   大きな割合を占めると考えられる加入者回線部分をはじめ、ユニバーサ
   ルサービス提供のための地域別のコストについては、必ずしも十分な情
   報開示がなされていない状況にある。
    よって、仮に最終的には長期増分費用方式を利用するにしても、長期
   増分費用方式の作成に当たって必要な実際の費用情報が十分にユニバー
   サルサービス提供事業者から開示される必要があり、さらに、長期増分
   費用方式に基づき、モデルを作成する場合にはその妥当性を検証する上
   でも、実際の会計データに基づいた費用把握と分析が必要不可欠である。
    したがって、上記1)又は2)のどちらの方式をとるにしても、まずは、
   実際の会計データに基づく費用把握と分析を行うことが適当であり、そ
   の結果を踏まえながら、回避可能費用の把握に長期増分費用方式を利用
   することが適当かどうか、さらに上記1)又は2)のどちらが適当かどうか
   の検討を行うことが適当である。

 イ コスト算定区域の設定方法
   ユニバーサルサービスコストの算定に当たっては、算定区域をどのよう
  に設定するか(業務区域、地方単位、県単位、市町村単位、MA単位等)
  によってコストが変動する。
  1) 一般に、算定区域を細分化するほど、高コスト地域のコストが増大す
   る。ユニバーサルサービスコストの補助は、その額が小さいほど競争を
   歪めるおそれが小さいため、なるべく少額であることが望ましい。 
  2) 一方、算定区域が大きすぎると、コスト算定の適正性の検証が困難と
   なるおそれがある。また、新たにユニバーサルサービスを提供しようと
   する事業者にとっては、直ちに区域全域においてサービスを提供するこ
   とは難しいことから参入機会が減少することとなる。
  3) よって、算定区域の単位については、ユニバーサルサービスコストの
   算定に必要な適正なデータがどの程度の地域区分にまで対応して入手可
   能であるか等を含め、総合的に検討することが適当である。

   ※ 英国及びフランスでは、ユニバーサルサービスの算定区域として市内通
    話区域とされている。
   ※ 米国では、事業者の業務区域が算定区域とされている。しかしながら、
    業務区域の広い地域電話会社の算定区域については業務区域よりも小さく
    すべきとの議論がある。

(5) 負担額の算定方法
  各事業者の負担額の算定は、各事業者の収入割合又はトラヒック割合に基
 づき算定することが適当であるが、どちらが望ましいかについては、負担の
 公平性や実際の算定方法の容易さ等を総合的に勘案して決定することが適当
 である。

  ※ 米国やフランスでは、拠出金の使用目的に応じて、負担方法が異なる。


結 び

(1) これまでの議論を要約すると、まず、今後さらに電気通信市場における競
 争が進展した場合、国民生活に不可欠なサービスである電話についても、ユ
 ニバーサルサービスとしての提供を確保するために新たな枠組みが必要とな
 る可能性があること、また、その際の新たな枠組みとしては基金方式が適当
 と考えられることである。そして、電気通信事業者の拠出による「基金」を
 設立する場合には、基金に拠出する事業者に対してユニバーサルサービスコ
 ストの負担の必要性や補助額の算定に当たって、ユニバーサルサービスを提
 供する事業者の経営の非効率を排除するなどの補助額の正当性などが、納得
 ができる形で示されることが必要不可欠である。
  このためには、なによりもまず、ユニバーサルサービスのコストを明確に
 することが必要であり、その際には、ユニバーサルサービスを提供する事業
 者の経営の非効率性が排除されることが必要である。
  ユニバーサルサービス提供事業者の非効率性を排除するためには、長期増
 分費用モデルを作成してユニバーサルサービスコストを算定することが適当
 と考えられるが、そのためには、まずは、実際の会計データに基づく費用把
 握と分析を行うことが適当であり、その結果を踏まえながら、長期増分費用
 モデルの作成とその妥当性を検証する必要がある。
  接続料の関係では、接続料に長期増分費用方式を導入するための電気通信
 事業法改正案を2000年春の通常国会に提出することが予定されており、
 現在、それに向けて長期増分費用モデルの検討が行われていることから、ユ
 ニバーサルサービスコストの算定にも利用できるモデル作成を行うことが適
 当である。

(2) また、ユニバーサルサービス基金の導入の必要性やその具体的な導入の時
 期については、ユニバーサルサービスコストの算定結果や接続料の見直しに
 よるユニバーサルサービス確保、利用者料金への影響などを総合的に検討し
 た上で判断することが適当である。
  具体的には、1999年夏頃には、上述の長期増分費用モデルが作成され
 る予定であり、ユニバーサルサービスコストの算定、接続料の見直しによる
 ユニバーサルサービス確保、利用者料金への影響などについて必要な基礎
 データを入手することが可能となると思われるので、ユニバーサルサービス
 基金の必要性や導入の時期について総合的に判断することができると考えら
 れる。

(3) 今後、電気通信分野における競争は、一層急速かつダイナミックに進展し
 ていくものと予想されており、行政に対しては、今般本研究会が検討テーマ
 としたユニバーサルサービスの確保という課題に、接続ルールの見直し、新
 たな料金制度の運用、情報公開の推進などの諸課題を含めて、総合的な施策
 の展開を期待したい。
  また、各種施策の展開に当たっては、透明性を高めるために、オープンな
 場における議論が重要である。

(4) マルチメディア時代に向けて、技術の進歩に加え、光ファイバー等の大容
 量の新たなネットワークの整備が急速に進展しており、電気通信サービスは、
 今後、さらに高度化、多様化し、新たなサービスが国民生活に不可欠なサー
 ビスとして広く認識されるようになる可能性がある。
  今回、現時点でのユニバーサルサービスの範囲について検討を行ったが、
 ユニバーサルサービスの範囲は、技術の進歩やサービスの利用状況、国民利
 用者の意識の変化などに対応して、適時、適切に見直すことが必要である。
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