「ICTの進展と個人の利用実態について」

 本稿では、総務省で毎年実施している「通信利用動向調査」の結果を踏まえながら「情報通信白書」を読み解き、ICTの進展とともに変化を遂げている個人のICT利用実態について概観します。

1.インターネットの利用動向

 我が国のインターネット利用率は、2008年調査と2017年調査を比較すると10代後半から40代にかけて90%以上でしたが、2017年調査では60代以上の利用率も増加しています。
 
インターネット利用率(2008年・2017年)
(出典)総務省「通信利用動向調査」(各年)より作成

 インターネットの利用状況を端末別に見ると、今回初めてスマートフォンがパソコンを上回りました。年代別に見ると、「スマートフォン」は13〜49歳の各年齢層で70%以上が利用していますが、60代以上ではパソコンが主で、モバイル端末も携帯電話の利用率が高くなるなど傾向が異なっています。
 
インターネット利用端末(2017年)
(出典)総務省「平成29年通信利用動向調査」(2018)により作成

2.情報通信機器の普及状況

 世帯の情報通信機器の保有状況を機器別にみると、「モバイル端末全体」(94.8%)の内数である「スマートフォン」は75.1%となり、初めて「パソコン」(72.5%)を上回りました。スマートフォンを保有している世帯の割合が、固定電話・パソコンを保有している世帯の割合を上回ったことは、情報通信機器の利用状況における一つの大きな転換点だといえます。
 
年齢階層別インターネットの利用目的・用途(複数回答)(2017年)
(出典)総務省「平成29年通信利用動向調査」(2018)より作成

3.個人におけるICT利用の現状

(1)インターネット利用者のインターネットの利用目的・用途

 インターネット利用者のインターネットの利用目的・用途をみると、「電子メールの送受信」の割合が80.2%と最も高く、次いで「天気予報の利用(無料のもの)」(65.8%)、「地図・交通情報の提供サービス(無料のもの)」(63.4%)となっています。
年齢階層別にみると、「電子メールの送受信」がほぼ全ての年齢層で高くなっている一方、「ソーシャルネットワーキングサービスの利用」や「動画投稿・共有サイトの利用」では年齢階層による差が大きくなっています。
 
インターネットで利用した機能・サービス
(出典)総務省「平成29年通信利用動向調査」(2018)より作成
※無回答を除いた集計

(2)ソーシャルネットワーキングサービスの利用状況

 続いて、スマートフォンの利用が増える中、利用が進むソーシャルネットワーキングサービス(SNS)に焦点を当て、ICTによって個人間のつながりを創出、あるいは維持していくことに関する人々の意識や課題について、ソーシャルメディア利用者を対象にしたアンケート調査の結果を踏まえて考察します。
 インターネット利用者に占めるソーシャルネットワーキングサービスの利用者の割合は49.8%となっています。
 ソーシャルメディアの利用状況を国際比較すると、我が国の全体的な傾向としては、「ほとんど情報発信や発言せず、他人の書き込みや発言等の閲覧しか行わない」と回答する利用者の割合が、書き込みなどを行う利用者よりも多いという結果となりました。一方、アメリカ、イギリス、ドイツの利用状況と比較すると、Facebookの利用者が日本と比較して多く、さらに頻繁に書き込みをしている割合が高く、その他のソーシャルメディアに関しても、概して、積極的に情報発信をするために利用している割合が日本と比較して高いといえます。
 
ソーシャルメディアで自ら情報発信・発言を積極的に行っている割合
(出典)「ICTによる院クルージョンの実現に関する調査研究」(2018)

(3)ソーシャルメディア利用のメリット

 ソーシャルメディアによって、利用者は様々なメリットを感じているが、我が国では新しいつながりの創出や既存のつながり強化のような、他人とのつながりを得るためにソーシャルメディアを利用するというよりも、情報の収集や、暇つぶしの手段という受け身の利用をすることにメリットを感じる傾向にあるといえます。
 この傾向は、アメリカ、イギリス、ドイツでの調査結果と比較するとより顕著です。ソーシャルメディアを利用して良かったことを4か国で比較すると、(1)新しいつながり創出及び(2)既存のつながり強化に関する項目についてはいずれも最下位で、他国とは20%程度差があり、割合が大幅に低くなっています。一方、(3)情報の収集、(4)暇つぶしに関する項目についての回答割合は、(3)については我が国が最下位であるものの3位との差は僅差であり、(4)については、ドイツに次いで2番目に高くなっています。
 
ソーシャルメディア利用状況(国際比較)
(出典)「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」(2018)

(4) ソーシャルメディア利用のデメリット

 ソーシャルメディアの利用により、個人が容易に他人とコミュニケーションを取り合うことができるようになったことで、トラブルが生じ、人間関係を悪化させる可能性もあることに留意が必要です。
ソーシャルメディアを利用することで他者との間に摩擦が生じることは決してまれな事ではありません。我が国において、ソーシャルメディアで情報発信を行う利用者のうち、何かしらのトラブルを経験した人々の割合は、23.2%でとなっています。これはアメリカ(56.9%)、イギリス(49.2%)、ドイツ(50.0%)と比較すると低い割合です。
 ソーシャルメディアの情報発信者が多く経験したトラブルは、各国とも、最も経験者の割合が高かったのは、相手から攻撃されたり被害を受けたりすることよりも、自分の発言が異なる意味で取られたり、相手と言い合いになったりする場合です。これらは、互いの顔の見えない、匿名の場合は相手の背景が見えないインターネット特有のコミュニケーションの難しさが原因となっているといえます。
このように、ソーシャルメディア利用によるトラブルの傾向は、国によって多少の順位の違いはあるものの、日本、アメリカ、イギリス、ドイツで共通しており、各国共通の課題となっています。
 
ソーシャルメディアの情報発信者が経験したトラブル(複数回答,国際比較)
(出典)総務省「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」

 さらに深刻な問題としては、ソーシャルメディアの利用によって、さまざまな悪意を持つユーザーとのつながりを得てしまい、犯罪などに巻き込まれる可能性があることが挙げられます。特に、SNSは不特定多数の個人によるコミュニケーションを可能にするサービスであるため、その可能性がより高まります。一例として、警察庁「平成29年におけるSNS等に起因する被害児童の現状と対策について」[1]によると、SNSが起因となった犯罪に巻き込まれた児童の数は2008年から2017年までの間に増加傾向にあり、2017年は1,813人で過去最高を記録しています。
 
[1]警察庁「平成29年におけるSNS等に起因する被害児童の現状と対策について」(2018)
https://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/H29_sns_shiryo.pdf

4.まとめ

 我が国では、インターネットの利用、スマートフォンの普及に伴って、ソーシャルメディアの利用が一層進んでいます。ソーシャルメディア利用のメリットとして、個人間のつながりを創出・強化するよりも情報収集などの役割のほうがより認識されている一方、ソーシャルメディアの利用においては少なからずコミュニケーションのすれ違いが発生してしまうこと、さらに悪意を持つユーザーとの直接のつながりを得てしまう可能性があることがわかりました。スマートフォンをはじめとするインターネットを利用する端末は、いまや私たちの生活に欠かせない存在となりつつありますが、こうしたインターネット上のコミュニケーションにおける課題に留意しながらソーシャルメディアを活用していくことが必要だといえます。

問い合わせ先

連絡先:情報流通行政局
情報通信政策課情報通信経済室
電話:03-5253-5720
FAX:03-5253-6041
Mail:mict-now★soumu.go.jp
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