平成元年版 通信白書

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第2章 重層情報社会の形成と通信

(2)情報通信の多様化・高度化

 既に述べたとおり,全国規模の情報圏においては,基幹通信ネットワークの充実により,我々は,全国どの地域からでも郵便や電話等を利用できる。
 これらの基幹通信メディアの充実に加え,近年の様々なニューメディアの登場,多くの通信事業者による多様な通信サービスの提供により,情報通信の多様化・高度化が進んでいる。
 ここでは,全国規模の情報圏を支える通信メディアの多様化・高度化について述べる。
 ア 電気通信メディアの多様化・高度化
 郵便と電話は,全国規模の情報圏においては,基幹的なメディアである。この二つのメディアの特性を比較すると,郵便は文書等をそのまま輸送するため,記録性はあるが,迅速性に乏しい。逆に,電話は電気通信により即座に情報を送受することができるが,音声による情報の伝達であるため,記録性に乏しいといえよう。郵便と電話はそれぞれのメディアとしての長所・欠点を補う関係にあることが分かる。
 我が国の全国規模の情報圏は,この二つのメディアが相互に欠点を補完しながら普及することで,その充実が図られてきた。
 しかし,近年の我が国の社会経済の活性化,国民生活の質的な向上,産業の情報化の進展等により,情報通信メディア,特に電気通信メディアに対して,次のような新しい機能が求められるようになった。
[1] 迅速性と記録性の向上
[2] 高速かつ大量のデータを伝送・処理する機能
[3] 映像情報の伝送
 現在の電気通信メディアの多様化・高度化は,このような機能の需要に応じて展開されている。
(迅速性と記録性の向上)
 郵便と電話の双方の欠点を補うメディアとして,まず登場したのが,ファクシミリである。
 ファクシミリは,テレックスのようにタイピングの必要がなく,文書をそのまま伝送することができ,操作が容易なメディアである。47年にファクシミリと公衆電話回線の接続が認められて以来,ファクシミリは,企業を中心に急速に普及し,それに伴い端末の生産台数も,現在では年間約433万台に達している(63年生産動態統計)。
 また,これまでのG<3>ファクシミリ端末の品質,伝送速度などを飛躍的に向上させたG<4>ファクシミリ端末が,近年実用化され,ファクシミリ通信の高度化が図られている。
 さらに,最近では,家庭用の小型・低価格のファクシミリ端末や,ファクシミリ機能をもった電話機等が開発されている。企業を中心に普及したファクシミリは,今後,一般家庭にも普及し,重層情報社会における基幹通信メディアとして成長していくものと考えられる。
(高速かつ大量のデータを伝送・処理する機能)企業へのコンピュータの導入及びその利活用の活発化等により,産業の情報化は進展している。企業は,大量の情報を蓄積し,情報を加工するため,着実にコンピュータの導入を進め,62年6月末現在,約31万5千台(通商産業省「電子計算機納入下取調査」)の汎用コンピュータが全国で稼働している。
 これに伴い,コンピュータと電気通信が結合したデータ通信が,近年急速に発展してきた。
 データ通信は,大別すると,公衆回線を利用するものと,専用線を利用するものに分かれる。公衆回線を利用するものには,パソコンとパソコンとの間の通信やパソコンと大型コンピュータを結んで通信を行うものがあり,データベースの検索等に用いられている。専用線によるデータ通信には,大型コンピュータどうしを結び,高速でデータの伝送を行う場合が多く,企業内や企業グループのネットワーク化に用いられている。また,専用線を利用して,金融業,証券業,旅行業等の多くの企業がデータ通信ネットワークを形成し,それらのネットワークは,大量の情報を瞬時に処理している。
 データ通信は,高速で大量の情報の伝送に適しており,その利用範囲も幅広い。重層情報社会の発展にとって,データ通信は一層大きな役割を果たすことが期待される。
(映像情報の伝送)
 近年登場してきたテレビ会議システムやテレビ電話は,ある程度低廉な料金で,個人の映像情報の伝送を可能にした画期的なメディアといえよう。
 我が国におけるテレビ会議サービスは59年に登場し,企業を中心に,利用は着実に伸びている。また,テレビ電話は,公衆電話回線を利用する静止画型のものと専用線を利用する動画型のものが63年に登場し,注目を集めている。
 これらのサービスが可能になったのは,[1]通信技術の進歩により,少ない情報量で,映像情報を送れるようになったこと,[2]端末価格が低下したこと,などが主たる理由である。
 これらの映像情報の伝送は,人の面談による直接的な意思疎通の代わりとなり得るものであり,テレビ会議システムやテレビ電話の登場は,全国規模の情報圏を一層密にし,通信の持つ社会的な価値を高めるものである。
 イ 放送メディアの多様化・高度化
 ラジオ,テレビに代表される放送メディアは,多様な情報を極めて広範囲の人々に同時に伝送できるメディアである。
 しかし,放送メディアは,基本的には,情報提供者から視聴者への一方向の通信を行うものであり,視聴者は自分に必要な情報を即座に求められないことが,その短所といえよう。さらに,テレビについては,受信環境の良好でない地域が一部に存在することがメディアとしての問題点としてあげられる。
 放送メディアの多様化・高度化は,メディアとしての質の向上と同時に,これらの欠点を改善する方向で進められてきた。
(テレビジョン放送の高度化・多様化)
 CATVは,テレビの受信障害や難視聴の解消を目的として,30年に開始され,その施設数は,62年度末現在,約4万4千施設に達している。
 これらのCATV施設に対して,通信衛星を利用して全国に番組ソフトを供給する,スペース・ケーブルネット構想が具体化しつつある。
 また,59年に開始された衛星放送は,山岳や高層ビル等によって,電波が遮られることが少ないため,CATVと同じく,当初は,テレビジョン放送の難視聴の解消を主たる目的として開始された。
 しかし,62年7月には,放送に対する高度化・多様化する二ーズにこたえるため,衛星放送独自番組の放送が開始され,これを機に,視聴世帯数は急増している。
 衛星放送は,ハイビジョン放送やPCM(パルス符号変調)音声放送等,現在のテレビジョン放送やラジオの中波放送より,高品質な放送を行うことも可能である。
 CATVや衛星放送は,テレビジョン放送の問題点を補う目的で開始されたものであるが,独自放送の提供により,ラジオ,テレビに次いで,全国規模の情報圏を支える第3の放送メディアとして,今後,発展が期待されるメディアである。
(ラジオ放送の高品質化)
 ラジオ放送については,音質の良い音楽放送等に対する需要から,44年にFM放送が開始された。FM放送に対する需要は,年々着実に増加しており,現在,29社(63年度末)の民間FM放送事業者が放送を行っている。
 そして,近年では,放送衛星を利用した,FM放送の音質を更に向上させたPCM音声放送も考えられており,ラジオ放送の高品質化が図られている。
(効率的な情報提供)
 60年に開始された文字放送は,テレビジョン放送の電波のすき間を利用して,テレビジョン受信機に情報を表示するものであり,得たい情報をいつでも選択でき,受信できるのが特徴である。63年度末現在,23の文字放送事業者により,ニュース,経済情報,生活情報など,多様な情報が全国で提供されており,受信機の出荷台数も63年12月末には,約20万6千台に達している。
 また,63年に開始されたFM音声多重放送は,文字放送と同じく,FM放送の電波のすき間を利用して,音声情報を送るものである。
 これらの新しい放送メディアは,既存の放送メディアを効率的に利用し,新しい情報提供源となることを目指すものである。重層情報社会において,効率的な情報提供がメディアの多様化を促進させている例といえよう。

ファクシミリ機能をもった電話機

テレビ会議システム

テレビ電話システム(動画型)

 

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