平成3年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

第1章 平成2年情報通信の現況

(2)通信事業の経営動向

 ア 第一種電気通信事業者の経営状況
 新第一種電気通信事業者も含めた過去10年間の国内電気通信市場の推移をみると、昭和55年度の3兆9,528億円が元年度は6兆1,322億円と1.6倍に拡大しており、その平均伸び率は5.0%であった。しかし昭和60年の電気通信制度の改正後5年間に限ると伸び率は4.5%と小さくなっている。また、10年間の名目国民総生産の伸びは1.7倍で、その平均伸び率は5.8%であった。
 また、新第一種電気通信事業者も含めた過去10年間の国際電気通信市場の推移をみると、昭和55年度の1,546億円が元年度は2,729億円と1.8倍に拡大しており、その平均伸び率は6.5%で国内電気通信市場の平均伸び率及び名目国民総生産の平均伸び率を上回っている。しかし、新第一種電気通信事業者2社が市場に参入した元年度は、単年度伸び率1.9%と過去10年間の平均伸び率を下回った。これは3社の国際電話の総通話回数では対前年度比26.3%増加したものの、総額で昭和63年9月には21.1%、元年11月には14.3%に上る電話料金値下げの影響によるものと考えられる。
 主な電気通信事業者及び放送事業者の財務状況を他の公益事業及び全産業と比較すると、売上高経常利益率及び総資本経常利益率については、ともに全産業、他の公益事業より高くなっている。特に60年度以降参入した長距離及び移動体通信分野においては、黒字を計上する事業者もみられる。総資本回転率については、電気通信事業者は他の公益事業者と同様、設備産業であることから放送事業者及び全産業よりも低くなっている(第1-2-3表善照)。
(ア)NTTの経営状況
 2年度上半期のNTTの経営状況は、総収益は対前年度同期比3.1%増め2兆9,492億円で、総費用は同5.2%増の2兆7,942億円であった。
 このうち営業収益は対前年度同期比3.0%増の2兆9,098億円で、経常利益は同23.7%減の1,549億円で増収減益であった。これは、2年3月に料金の大幅な値下げを行ったものの、電話加入数の順調な増加や、自動車・携帯電話契約数の高い伸び等に支えられたためと考えられる。
 営業収益のうち電気通信事業営業収益は2兆7,669億円であり、これをサービス別にみると、電話収入は対前年度同期比2.1%増で前年同期の伸びと同じであった。しかし、収益全体に占める電話収入の割合は前年同期の81.7%が当期は80.8%と低下している。
 これに対して専用収入、データ伝送収入は、対前年度同期比でそれぞれ5.1%増、12.0%増と企業のネットワーク化が進展する中で依然伸びており、収益全体に占める割合も、前年同期の7.1%が当期は7.3%とわずかながら増加している。
 電気通信事業営業収益に占める電話収入の割合は専用収入等の伸びを反映して過去10年間で8.4ポイント低下している。通信メディアの多様化により電話収入の割合の減少傾向は今後とも続くと考えられる(第1-2-4表参照)。
 元年度の財務状況は、売上高経常利益率は8.4%、総資本経常利益率は4.6%、総資本回転率は0.53回であった。
 また、NTTの公表した元年度の電話役務損益明細表によると、市内通話は138億円の赤字、市外通話は1兆488億円の黒字となっている(第1-2-5表参照)。
 子会社であるエヌ・ティ・ティ・データ通信(株)を含めた連結決算によると元年度の営業収益は6兆223億円(NTTの単独決算は5兆7,692億円)、経常利益は5,105億゛円(同4,847億円)で、売上高経常利益率は8.5%とNTTの単独決算の8.4%より高くなっている。
(イ)長距離系新第一種電気通信事業者の経営状況
 2年度上半期の長距離系新第一種電気通信事業者3社の営業収疏の合計は対前年度同期比67,5%増の1,360億円であった。このうち電気通信事業営業収益の合計は1,143億円で国内の電話及び専用線市場(注)の4.4%を占めており、前年度同期より1.5ポイント増加した。
 各社の経営状況をみると、第二電電(株)の営業収益は対前年度同期比79.0%増の707億円、経常利益は同24.6%増の86億円、日本テレコム(株)の営業収益は同66.0%増の511億円、経常利益は同47.1%増の58億円と大幅な増収増益であった。これに対し日本高速通信(株)の営業収益は対前年度同期比29.8%増の141億円を計上したものの、前年度に黒字へ転じた経常損益は再び5億円の赤字となった。第二電電(株)は元年度、日本テレコム(株)は昭和63年度に累積赤字を解消している(第1-2-6表参照)。
 元年度の3社合計の財務状況をみると、売上高経常利益率は14.9%、総資本経常利益率は13.1%とNTTを大きく上回り、総資本回転率は0.88回であった。総資本経常利益率及び総資本回転率がNTTを上回るのは、長距離系系新第一種電気通信事業者が市内網設備を有しないことが影響している。
(ウ)地域系新第一種電気通信事業者の経営状況
 2年度上半期の地域系新第一種電気通信事業者6社(注)の経営状現は、営業収益の総額は前年度同期の2.8倍の150億円となった。これは、営業収益66割以上を占める東京通信ネットワーク(株)の営業収益が対前年度同期比2.3倍となったこと及び元年度下半期以降新たに3社が参入したことが要因となっている。営業収益の総額のうち電気通信事業営業収益は80億円であった。これは国内の電話及び専用線市場の0.3%、専用線市場に限ると3.6%を占めている。経常損益の合計は63億円の損失、累積欠損額は392億円となっている(第1-2-7表参照)。
(エ)衛星系新第一種電気通信事業者の経営状況
 2年度上半期の衛星系新第一種電気通信事業者2社(日本通信衛星(株)及び宇宙通信(株))の経営状況は、営業収益は122億円、経常損失は37億円であった。
 衛星系2社の営業収益の大部分を占める専用収入の合計は83億円で、2年度上半期の国内の専用線市場の3.9%を占めている。
(オ)自動車電話事業者等の経営状況
 2年度上半期の自動車電話事業者等12社(自動車電話(いわゆる携帯電話を含む(以下同じ。))事業者7社、コンビニエンス・ラジオ・フォン事業者2社、マリネット電話事業者2社、テレターミナル事業者1社)の経営状況は、営業収益が対前年度同期比11.2倍の312億円、営業費用が対前年度同期比4.2倍の277億円で、経常損益は前年度同期44億円の赤字であったものが4億円の黒字となり、大きく市場を拡大するとともに収支を改善した。
 営業収益の大部分を占める自動車電話事業者についてみると、日本移動通信(株)とセルラー電話グループ6社(注)の電気通信事業営業収益は対前年度同期の11.4倍の309億円(1社当たり44億円)と大幅に拡大した。自動車電話収入の合計はNTTを含む自動車電話市場の25,1%を占めており、前年度同期より21.0ポイシト増加した(第1-2-8表参照)。
(カ)無線呼出し事業者の経営状況
 2年度上半期の無線呼出し事業者35社の経営状況は、総収益は対前年度同期比52.6%増の174億円(1社当たり4億円)、総費用は同51.4%増の165億円、経常利益は8億円であった。これはNTTも含めた無線呼出し市場の28.3%で、前年度同期より8.6ポイント増加した(第1-2-9表参照)。
(キ)KDDの経営状況
 2年度上半期のKDDの経営状況は、総収益は対前年度同期比5.8%減の1,283億円、総費用は同1.3%減の1,159億円であった。このうち営業収益は対前年度同期比7.5%減の1,221億円、営業費用は同3.3%減の1,120億円、営業利益は同37.8%減の101億円、経常利益は同34.1%減の124億円であり、減収減益であった。これは2年度4月の総額97億円に上る電話料金値下げの影響が大きいと考えられる。
 営業収益のうち電気通信事業営業収益は1,207億円である。サービス別内訳では、電話収入は対前年度同期比9.4%減、テレックス収入は同14.5%減、電報収入は同7.4%減、データ伝送収入は同47.7%減、また、前年度同期8.9%増であった専用収入は当期は同2,3%増であった。データ通信収入は14.1%増であった。営業収益に占める各サービス収入の割合は、電話収入は前年度同期より1.6ポイント減の77.4%となり、逆に専用収入やデータ通信収入がわずかながら割合を伸ばしている(第1-1-10表参照)。
 元年度の財務状況をみると、売上高経常利益率は11.4%、総資本経常利益率は6.2%、総資本回転率は0.54回であった。
(ク)国際新第一種電気通信事業者の経営状況
 2年度上半期の日本国際通信(株)、国際デジタル通信(株)の経営状況は、総収益は121億円、総費用は186億円、経常損益は65億円の赤字であった。2社の国際電話及び国際専用線市場に占める割合は10.5%となっている。
 イ 放送事業者の経営状況
 過去10年間の放送事業者の動向は、NHKの事業収支の推移をみると、元年度の事業収入は昭和55年度の1.4倍、事業支出は1.6倍になっている。また、受信料改定の推移は第1-2-11表のとおりである。
 一方、民間放送の営業収入の推移をみると元年度は昭和55年度の1.9倍であった。特に昭和63年度及び元年度は広告費の伸びに支えられて前年度比10%を超える伸びとなっている。
(ア)NHKの経営状況
 元年度のNHKの一般勘定(注)の事業収入は対前年度比7.8%増の3,930億円、事業支出は同12.1%増の4,067億円、事業収支差金は136億円の赤字で前年度の80億円より更に赤字を拡大した。これは、元年度収支予算で見込んだ額142億円を5億円下回っている。また、2年度の収支予算は、事業収入は4,845億円、事業支出は4,480億円、事業収支差金は365億円を計上し、同様に、3年度の収支予算では、事業収入は5,427億円、事業支出は4,869億円、事業収支差金は558億円を計上している(第1-2-12表参照)。
 NHKは元年4月に受信規約を変更し、放送受信契約の種別をカラー契約、普通契約、衛星カラー契約、衛星普通契約及び特別契約の5種類とした。ただし、衛星放送の有料化については元年8月からの実施となった。また、2年4月に受信料の改定(例:カラー契約訪問集金28.0%、普通契約訪問集金27.1%)を実施した。
 NHKは公共放送として、視聴者からの受信料収入を主要な財源としており、今後とも、一層の経営合理化、受信料の確実な収納に努める必要がある。
(イ)民間放送の経営状況
 元年度の民間放送の収支状況は、営業収入は対前年度比12.4%増の1兆9,371億円、経常利益は同30.2%増の2,367億円であった。
 ラジオ単営事業者を除く、民間テレビジョン単営事業者及びラジオ・テレビジョン兼営事業者106社について、広域放送事業者(13社)、広域圏独立UHF放送事業者(11社)、県域放送事業者(82社)別の元年度収支状況をみたのが第1-2-13表である。広域放送事業者が全売上高の65.9%を占めている。売上高経常利益率、総資本経常利益率はいずれのグループも全産業平均の2〜4倍となっており、収益水準は極めて高いものがある。
(ウ)CATV事業者の経営状況
 営利を目的としてCATV事業を行う許可施設のうち129社の元年度の経営状況については、総収益は前年度比25%増の215億円、総費用は同37.7%増の285億円であり、経常損失は同2倍の70億円の赤字であった。
 ウ 郵便事業の経営状況
 元年度の郵便事業収益は対前年度比11.3%増の1兆6,991億円、費用が同11,2%増の1兆6,825億円で、差引き166億円の利益となった。
 郵便事業経営については、昭和56年度以降9年連続して単年度損益は黒字を続けており、昭和62年度末には14年ぶりに累積欠損金を解消し、元年度末には累積利益金は559億円となった。
 なお、2年度予算の郵便事業損益は84億円の利益を計上し、同じく3年度には6億円の利益を計上している(第1-2-14表参照)。

第1-2-3表 通信事業者等の財務状況(元年度)

第1-2-4表 NTTの経営状況

第1-2-5表 元年度NTTの電話役務損益明細表

第1-2-6表 長距離系新第一種電気通信事業者の経営状況

第1-2-7表 地域系新第一種電気通信事業者の経営状況

第1-2-8表 新自動車電話事業者の経営状況

第1-2-9表 新無線呼出し事業者の経営状況

第1-2-10表 KDDの経営状況

第1-2-11表 NHKの受信料の改定の推移

第1-2-12表 NHKの経営状況(一般勘定)

第1-2-13表 民間テレビジョン単営放送事業者及びラジオ・テレビ兼営放送事業者の経営状況

第1-2-14表 郵便事業の経営状況

 

第1章第2節1(1)通信事業者の参入状況 に戻る (3)通信事業の設備投資動向 に進む