平成3年版 通信白書

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第2章 豊かな生活と情報通信

(1)ライフスタイルの変化

 ア ライフスタイルの変化にかかわる社会経済的要因
 ライフスタイルの変化には、多くの社会経済的要因が深くかかわっている。ここではまず、ライフスタイルの変化にかかわると考えられる主な社会経済的変化を概観する。
(ア)高齢化の進展と世帯構成の変化
 我が国の80年代における人口・世帯数の変化をみると、人口の増加率は一貫して低下しており、出生率の低下が進んでいる。一方、核家族化の進展、高齢者世帯の増加あるいは性別を問わない晩婚化の進行による単身者世帯の増加などにより、世帯数の増加率は人口の伸びを上回っている。この結果、1世帯当たりの構成人員については減少を続けており、元年3月末には2.98人と3人台を初めて割っている(第2-1-38図参照)。
 また、高齢化の進展は先進国共通の現象であるが、我が国については、現在の高齢者の比率が主要先進国間の水準を若干下回るものとなっているが、特に高齢化の進展のスピードが速いこと、後期高齢者と呼ばれる75歳以上の人口の割合が増加していくことが特徴的であるといわれている。
 総務庁の推計によれば、2年9月15日現在65歳以上人口は12%であった。一方、厚生省人口問題研究所の団本の推計将来人口(昭和61年12月推計)」によれば、65歳以上人口は、22年には20%に、32年には23.6%(ほぼ4人に1人の割合)になると見込まれている。特に、後期高齢者人口は、2年の4.8%(65歳以上の40.2%)から、22年には9.2%(同46%)に、32年には11.3%(同48%)に達するといわれている。
(イ)女性の社会進出の進展
 80年代における女子雇用者は一貫して増加しており、2年にはl,834万人となっている。雇用者全体に占める割合も年々増加しており、2年には37.9%となっている(第2-1-39図参照)。
 このうち、いわゆる「パートタイム労働者」(注)について、ここでは週間就業時間が35時間未満の短時間雇用者(非農林業の女子)をみると、2年の雇用者数は501万人であり、女子雇用者に占める割合は27.3%となっている。
 総理府の「女性の就業に関する世論調査」(元年10月調査)によれば、女性の望ましい就業形態は、「就職(業)し、結婚や出産などで一時期家庭に入るにしても、再び働く」という女性が64.2%と過半数を大きく超えており、「就職(業)し、長く働く」という者も14.4%と、意識の上でも就業継続希望が強いことが分かる。
 一方、家計における女性の収入も大きな割合を示しており、総務庁の家計調査によると、2年の勤労者世帯の実収入に占める妻の収入は月平均4,4万円(8.5%)、夫婦共働き世帯では月平均10,8万円(19.4%)を占めている。
 このように、女性の社会進出は意識面、実態面ともに進展しており、近年においては就業単身女性が、消費支出における新たなターゲットとして注目されるなどの現象もみられている。
(ウ)労働時間の短縮と週休2日制の進展
 80年代における労働時間の変化については、事業所規模30人以上の企業に勤務する労働者の1人平均月間労働時間でみると、所定内労働時間は減少したが、所定外労働時間の増加がみられており、総実労働時間では昭和55年の175.7時間からほとんど変化がみられながったが、昭和63年以後は、同年の改正労働基準法の施行等もあり、着実な減少がみられ、2年には171.0時間となっている(第2-1-40図参照)。
 一方、週休2日制の導入については、元年には金融機関の完全週休2日制が実施され、官公庁についても、元年に第2,第4,土曜閉庁が実施されるなど進展している。労働省の調査によると、元年度において何らかの週休2日制を実施しているのは、企業数で58.3%、労働者数では82.7%となっている(第2-1-41表参照)。
(エ)国際化の進展
 急速な円高の影響もあり、企業の国際化の進展は、商品の輸出から海外直接投資へと変化してきている。一方、いわゆるNIEs商品の輸入の増加や海外ブランド商品の日本販売店の開設等、我が国への外資系企業の進出も盛んである。
 また、人の交流も頻繁になっており、近年では海外旅行等による渡航者数の増加が顕著である。元年度の海外渡航者数は966.3万人を数えており、その中でも観光を目的とした者の数は810.7万人と83.9%を占めるに至っている。また、外国人の入国者数(注)も増加しており、元年度には298.6万人の外国人が入国し、そのうち観光等の短期滞在を目的とする者は221.9万人と、初めて200万人台を超える状況となっている(第2-1-42図参照)。
 イ ライフスタイルの変化
 次に、家庭生活におけるライフスタイルの変化を、時間、支出及び意識の面においてみてみることとする。
(ア)家庭生活における生活時間面の変化
 生活時間面の変化として特徴的なこととしては、生活時間帯の深夜化、深夜・早朝なども含めた時間の有効活用志向が強くなっていることが挙げられる。このような変化に対応して24時間営業のコンビニエンス・ストア等のサービス産業も進展している。
 郵政省の調査(付注1参照:本項において以下同様)においても、「午前0時以降に仕事・遊び等で起きている者」の割合は、「どちらかというと起きている」者も含め28.6%と高率である。これを都市規模別にみてみると、東京特別区を筆頭に町村以外ではすべて30%を越えるなど、生活時間帯の深夜化は全国規模で顕著である(第2-1-43表参照)。生活時間帯の変化を睡眠時間でみてみると、NHKの「国民生活時間調査」によれば、昭和55年に7時間52分であった平日の睡眠時間が昭和60年には7時間43分に、さらに2年には7時間39分にと着実に減少している。
 また、早朝のジョギングや始業前のアスレチック・クラブの利用、あるいは深夜開演の映画館利用者の増加等、趣味に、健康維持活動にと、時間の有効活用志向も進展している。郵政省の調査においてもの傾向は明らかであり、「時間をかなり有効に使っている」者は52.5%、「家事労働等はできるだけ省力化したいと考えている」者は73.2%という結果となっている。
 このような生活時間面における変化の要因としては、婚姻年齢の高齢化に伴い、独身者など比較的時間に拘束されない者の増加の影響が大きいと考えられるほか、東京などの都市部における遠距離通勤者の増加が早朝通勤者(起床者)の増加をもたらしたこと、企業における事業活動の国際化に伴い、時差のある海外との連絡をとる必要から、早朝・深夜の勤務(在宅時の電話連絡も含む。)の増加がみられること、あるいは就業形態としてもフレックスタイム制の導入等の影響が考えられ、今後この傾向はますます進展するものと思われる。
(イ)支出面における変化
 支出面における変化としては、まず、多機能、高性能、高品質又は高級(高額)商品の購入意欲が強いことが挙げられる。また、一人一人の個性に合わせた購買行動が増加しており、携帯性やパーソナル性の高い商品か注目を集めている。
 例えば、自動車の高級化は近年顕著であり、高排気量の商品の人気が高まっている。また、先に郵政省の調査で紹介したように、近年の電話機やテレビジョン受信機の購入時においては、多機能で、携帯性・パーソナル性に富んだコードレス電話機、あるいは大画面で衛星放送チューナー内蔵の大型テレビなどの購入意欲が高いこと、その他音響製品におけるヘッドホン・ステレオの普及等に現れている。
 また、生活全般における支出傾向としては、第2-1-44図にみられるような80年代における実収入及び可処分所得の増加(注)に伴い、生品必需品の購入よりも、スポーツ観覧、スポーツ用品、ステレオ等音響製品、旅行関連品目といった自由時間活動に関連した消費支出が伸びており、特に80年代後半において増加傾向が顕著であった(第2-1-45表参照)。
 高級化や個性重視の生活志向は、近年の衣生活におけるブランド商品志向、食生活におけるグルメブーム、住生活におけるインテリア商品の高級化・多様化あるいは海外旅行ブームなどからもうかがわれ、この傾向は今後も当分継続する,ものと考えられる。
 その他、支出面に関するものとしてはキャッシュレス時代の進展が挙げられる。クレジットカードやプリペイドカードに代表されるカード社会の到来であるとも言えるが、クレジットカードについては、その時点で携行している金額以上のものを購入でき、分割払いも可能であるという利便性が広く支持されて、消費支出を押し上げる一因ともなっている。また、海外での利用も可能であり、円高の進行とともに国内の円口座において決済されるクレジットカードの仕組みは、消費拡大の一翼を担っている。
(ウ)意識面での変化
(全体的な傾向)
 総理府の「国民生活に関する世論調査」(2年5月調査)によると、80年代における生活程度の中流意識は安定的に高い数値を示しているが、生活の満足度では昭和60年をピークとして低下傾向がみられる。一方、充実感についでは安定的なものとなっている(第2-1-46図参照)。
 「どのような場面において充実感を感じるが」を経年的にみてみると、「家族団らんの時」が一貫して最も多く、「仕事にうちこんでいる時」は減少傾向を示しており、「ゆったりと休養している時上「友人や知人と会合・雑談している時」及び「趣味やスポーツに熱中している時」が増加傾向にあるなど、労働と余暇・自由時間に関する意識の変化がみられる(第2-1-47図参照)。
 一方、労働省の「新規学卒者の労働観・余暇観」調査によれば、「どんなにきつい仕事でもやりがいの感じられる仕事をする方が良い」と回答した者が70.8%、「自由時間が減るくらいなら、それほど収入は多くなくても長い」が66.2%、「仕事が多少きつくても、労働時間の短い方が良い」では66.7%という結果となっており、この調査からは、仕事へのやりがい志向は若年労働者においても高いが、時間的ゆとり志向も強いことがうかがわれる。
 また、悩みや不安について総理府の「国民生活に関する世論調査」(2年5月調査)をみると、80年代を通じた傾向としては半数以上(平均52.8%)が悩みや不安を感じており、その内容としては、自分の健康(同36.8%)、家族の健康(同35.9%)、老後の生活設計(同26.9%)の順に高率となっているなど、今後の高齢化社会に向けての不安が読み取れる。
(余暇・自由時間志向)
 余暇・自由時間志向は生活意識の面においても現れており、総理府の「国民生活に関する世論調査」(2年5月調査)によれば、「今後の生活の力点をどこに求めるか」については第2-1-48図のとおりであり、80年代を通じて衣食住生活あるいは耐久財の購入において減少傾向にあるのに対し、レジャー・余暇生活については昭和58年に住生活を抜き、急激な伸びを示している。しかし、去年に比べて悪くなった生活面としては、他の項目が1桁台であるのに対し、レジャー・余暇生活を挙げる者は80年代を通じて10%以上(平均13.2%)みられ、余暇志向が強い反面実態上は満足できる水準にないと考えていることが読み取れる。
 次に、余暇生活の中身について郵政省の調査でみてみると、現在の余暇の利用方法及び今後希望する利用方法は第2-1-49図のとおりとなっている。最も多い余暇の利用方法は「家でのんびりする(現状75.2%、希望14.9%)」であり、「国内外の旅行(現状7.2%、希望44.0%)」、「展覧会・音楽会等を楽しむ(現状17.8%、希望32.5%)」と、外出を伴う文化接触型の希望も強い。
 観光旅行に関して総理府の「余暇と旅行に関する世論調査」(昭和63年11月調査)をみると、この1年間に観光旅行をした者のうち94.9%が満足感をおぼえており、充実感の高い余暇利用方法と考えられるほか、今後1泊以上の観光旅行をしたいと回答した者の今後の希望は、「旅行の回数を多くし、1回の旅行日数も多くしたい」とした者が43.3%となっている。また、余暇の妨げとなる事項については、「平日の自由時間が少ない」30.0%、「金銭的余裕がない」26.8%、「休日が少ない」19.5%、「長期休暇がない」19.4%の順となっており、潜在的な余暇・自由時間の志向はかなり強いと考えられる。

第2-1-38図 人口及び世帯数の推移

第2-1-39図 男女別雇用者数の推移

第2-1-39図 男女別雇用者数の推移

第2-1-40図 労働時間の推移

第2-1-41表 週休2日制の推移

第2-1-42図 出入国者数の推移

第2-1-43表 午前零時以隆の活動率

第2-1-44図 家計収入の推移

第2-1-45表 自由時間関連品目等の年平均実質増加率(年率)の相関(全国・全世帯)

第2-1-46図 生活程度の推移と充実感及び満足感

第2-1-47図 充実を感じる時(複数回答)

第2-1-48図 今後の生活の力点

第2-1-49図 余暇時間の利用方法と今後の希望(3つまでの複数回答)

 

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