平成3年版 通信白書

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第2章 豊かな生活と情報通信

(1)産業分野における情報通信ネットワークの役割

 ア 産業分野における情報通信ネットワーク
 現在、産業分野では多様なネットワークが構築され、様々な業務に利用されている。
 ここでは、ヒアリング調査の結果を基に、金融・保険業、製造業、卸売・小売業、サービス業等において構築されているネットワークの特徴等について考察する。
(ア)金融機関のネットワーク
 前項でみたように、金融・保険業については様々な側面における情報化が顕著であり、ネットワークも多様に構築されている。金融機関の情報化の推移について概観してみると、他の分野に比べて比較的早い段階からその取組が進められている。金融機関内部の単科目のコンピュータ処理が進められた第1次オンライン化、金融機関の主要勘定業務の連動処理及び金融機関相互間のネットワーク化が進められた第2次オンライン化を経て、現在、勘定系、情報系、国際系、資金・証券系、対外接続等の各サブシステムを有機的に結合した第3次オンライン化時代を迎えている(第2-2-10図参照)。
 金融機関のネットワークについては、金融機関内部で構築されるネットワークのほか、大きくは国内の金融機関相互間のネットワーク、顧客との間のネットワーク、海外と結ぶネットワーク等に分けてみることができる。
 (金融機関相互間のネットワーク)金融機関相互間を結ぶネットワークとしては、全国銀行データ通信システム(以下「全銀システム」という。)、日本銀行ネットワークシステム(以下「日銀ネット」という。)、CD/ATMのネットワーク等がある。
 全銀システムは、内国為替制度の加盟銀行間で為替業務を正確かつ迅速に処理するためのネットワークであり、昭和48年に稼働を開始している。財団法人金融情報システムセンター資料によれば、元年度末現在、4,846行、43,769店舗と、全国の民間の金融機関のほとんどが加盟している(第2-2-11表参照)。
 日銀ネットは、日本銀行が構築して運営している民間金融機関との間の取引等を処理するネットワークであり、昭和63年に稼働を開始している(第2-2-12図参照)。
 日本銀行資料によれば、日銀ネットの利用先は、当座預金システムのみであった稼働開始時の332先がら、外為円決済システム、国債システムと、順次対象業務が拡大されたこともあり、2年12月末現在で448先と増加している。
 またミCD/ATMのネットワークについては、端末の導入が進められているだけでなく、業態内及び業態間でそのネットワークの提携が進められており、2年からは全国的な業態間CDオンライン提携として、「全国キャッシュサービス(MICS:Multi Integrated Cash Service)」が開始されている(第2-2-13表参照)。
(海外と結ぶネットワーク)
 海外と結ぶネットワークとしては、1973年に設立され、国際間の資金決済のための銀行間の情報伝達に利用されているSWIFT(Societyfor Worldwide Interbank FinanciaI Telecommunication)がある。1990年9月末現在、73か国、1,618行で稼働しているが、我が国は昭和51年に加盟、昭和56年に稼働、2年9月末現在の我が国における参加銀行数は174行、そのうち邦銀加盟行は106行となっている(第2-2-14表参照)。
(顧客との間のネットワーク)
 前項でみたように、昭和57年の「公衆電気通信法」の改正等により、金融機関と企業の間のオンライン・データ伝送が可能となったことなどを背景に、銀行と企業のコンピュータ又は端末を通信回線で結び、資金の移動や残高照会等の各種データのやりとりを行うファームバンキングが積極的に推進されている。ファームバンキングは、銀行にとっても企業との取引関係の強化や手数料収入の増加にっながるという利点がある一方、企業にとっても種々のデータの入手が容易となり、経理事務の合理化、資金の効率的運用が可能となってくるというメリットがある。最近の動向としては、低価格の専用端末の出現や、他のサービスとの組合せ等、企業のニーズにこたえる動きも活発である。
 一方、銀行のコンピュータと家庭に設置された端末を通信回線で結ぶことにより、家庭にいながらにして預金の残高照会や振込・振替等を行うことができるホームバンキングについては、ビデオテックス端末を利用したサービスが昭和59年に開始され、元年度からは家庭用のテレビゲーム機やワードプロセッサ等の端末を使用したサービスも開始され、今後の動向が注目されている。
 また、銀行のコンピュータと小売店などに設置した企業の端末とを通信回線で接続し、キャッシュカードを利用して販売代金を顧客の口座から即時に引落として企業の口座に入金するシステムである銀行POSのネットワークについては、利用者にとっては現金を持たずに買い物ができるという利点があり、その導入が進みつつある。
(イ)製品開発のためのネットワーク
 消費者の嗜好の多様化により、製造業においては従前にも増してその変化を的確に把握し、これに合致した製品を迅速に開発することが求められている。電子計算機製造業者のA社では、世界各地に開発拠点を展開しているが、自社で構築した電子メール網を利用して各国の任意の事業所と製品開発にかかわる情報等をやりとりしているほか、このネットワークを通じて、データベース化された最新の技術動向等各種の情報を共有することなどにより、「世界各地の市場の動きをにらんだ製品開発が可能となっている。」(A社)ことを指摘している。
(ウ)畳登沖のためのネットワーク
 消費者に商品を提供する製造業及び卸売・小売業にとっては、多様化する消費者のニーズにこたえることが重要な課題となっている。これらの業種では商品の受発注を主目的とした多様なネットワークを構築し、積極的に利用している。これらのネットワークを構築主体によって分類し、その構成や特徴についてみてみる。
(製造業者を構築主体としたネットワーク)
 製造業の分野では、製造業者と卸売業者、あるいは製造業者と小売業者を結んでいるネットワークがみられる。これらのネットワークには、製造業者が1社で構築するネットワークと、いわゆる業界VANと呼ばれるような複数業者間で構築するネットワーク等がある(第2-2-15図参照)。
 また、製造業においては、消費者の嗜好に対応するために製品数が増加し、これに伴って部品点数も飛躍的に増加していることから、部品製造業者への発注及び販売店からの受注処理を目的としたネットワークを構築し、活用している事例が多くみられる。自動車製造業者のB社及びC社では、このようなネットワークの活用により、「部品調達に要する時間が短縮化し、販売店からの受注への対応にも柔軟性が向上し、消費者の好みにあった製品を幅広く提供することが可能になった。」(B社及びC社)という効果を指摘している。
(小売業者や卸売業者を構築主体としたネットワーク)
 小売業者を構築主体としたネットワークの例としては、いわゆるコンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーン等において、その本部と契約業者とを結ぶネットワークがみられる(第2-2-16図参照)。
 また、小売業者同士、あるいは卸売業者も含めた小売業者間の提携によるいわゆるボランタリー・チェーン等においても、その本部と加盟業者とを結ぶネットワークがみられる。
 一方、卸売業者を構築主体としたネットワークの例としては、大手の製造業者や地域外の大手の卸売業者のネットワークに対抗して、地域の卸売業者を主体として構築されるネットワークがある。これらは、複数の卸売業者がVAN会社の協力を得て運営するネットワークで、一般的には地域VANと呼ばれている。
 これらのネットワークの中には、POS等を積極的に取り入れ、活用している例もみられる。いわゆるコンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーンの本部であるD社では、小売店の店舗に商品発注の専用端末を設置し、商品の発注情報を本部に送信するネットワークを自社で構築しているが、本部では同時にいわゆるPOS情報を収集・分析してその結果を小売店に提供しており、「売れ筋商品・死に筋商品の把握とそれに即した迅速な品揃えが可能になった。」(D社)ことを指摘している。また、いわゆる地域VANを運営するE連盟やF社でも、卸売業者と小売業者の間に構築したネットワークによって同様の効果を目指している。
(エ)在庫照会や予約のためのネットワーク
 商品在庫の照会や商品の予約等を主な目的として構築されるネットワークについても多くの例がみられる。旅行業や航空会社においては、各種旅行情報の提供、宿泊施設の予約、航空券の発券等を目的としたネットワークが数多く構築されており、倉庫業や道路貨物運送業においては、荷主からの間合せに対して即時に応答することを目的としたネットワークの例がみられる。
 これらのネットワークについては、旅行業における本店と支店間のネットワークのように企業内で構築される場合と、倉庫業や道路貨物運送業における荷主と業者間のネットワークのように企業間で構築される場合に分けられる。
 いわゆるフランチャイズ・チェーンの展開を進めるホテル業G社の系列では、VANサービスを利用して予約システムを構築しており、空室情報を共有することにより任意の系列店相互間の予約を可能としてぃる。
 イ 産業分野におけるネットワーク化の効果産業分野において構築されている様々な形態のネットワークの例についてみてきたが、ここでは、ネットワーク化動向調査の結果から、企業が実感しているネットワーク化の効果について概観する。
 ネットワークを利用する立場からみた効果として企業が最も実感しているのは「事務処理・業務処理の迅速化」であり、全体の約8割の企業が回答として挙げている(第2-2-17図参照)。
 また、「事務処理・業務処理の省力化」、「事務処理・業務処理の正確化」がこれに続いており、「顧客サービスの改善・充実」や「サービス地域の拡大・サービス時間の延長」よりもその効果を高く評価している。
 一方、企業の管理上の立場からみたネットワークの効果としては、「企業競争力の強化」が最大で、企業規模別にみても、従業員千人以上の企業の約7割、従業員千人未満の企業の約6割が回答として挙げている。これに続く効果は「顧客の確保・取引の拡大」であり、従業員規模にかかわらず6割近い企業が回答している(第2-2-18図参照)。

第2-2-10図 第3次オンライン化の概要

第2-2-11表 全国銀行データ通信システムの利用状況

第2-2-12図 日銀ネットのシステム構成

第2-2-13表 金融機関における業態別CDオンライン提携状況(元年度末現在)

第2-2-14表 SWIFTシステム利用状況

第2-2-15図 業界VANの構成例

第2-2-16図 コンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーンにみられるネットワーク構成例

第2-2-17図 ネットワークの利用による効果(利用上の立場)

第2-2-18図 ネットワークの利用による効果(管理上の立場)

 

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