平成3年版 通信白書

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第2章 豊かな生活と情報通信

第3節 経済と情報通信

 1 経済活動と情報通信

 ここでは、産業連関分析の手法を用いて、我が国の経済活動と情報通信のかかわりを、経済における情報化の進展と情報通信産業の成長という2つの側面から概観する。
 ア 情報通信経済の構造
 郵政省では、昭和61年〜昭和63年の通信白書において産業連関分析の手法により昭和60年における情報通信経済の分析を行っているが、今回、部門分類の範囲等について若干の見直しを行い、また、昭和60年の産業連関表等を基に(昭和61年〜昭和63年の通信白書においては、昭和55年の産業連関表等を基にしていた)、新たに昭和60年から昭和62年までの分析を行った。
 情報通信の視点からみた経済の構造は、第2-3-1図のとおりである。
 ここでは、全産業を情報通信サービス部門、情報通信支援財部門及び非情報通信関係部門の3部門に分け、このうち情報通信支援財部門及び非情報通信関係部門における組織内情報通信部門を特に独立した部門として取り上げ、合計5部門とする。
 情報通信サービス部門は、情報を提供又は伝達することを業として行い、そのサービスを市場に提供している部門である。情報の提供は、情報の創造、収集、分析、加工、処理というプロセスを含むが、最終的には情報の市場への提供という形に収れんされる。
 情報通信支援財部門は、情報通信サービス部門及び組織内情報通信部門が生産活動を行うときに必要とする財・サービスを生産する部門である。
 非情報通信関係部門は、情報通信サービス部門及び情報通信支援財部門を除くすべての内生部門である。
 組織内情報通信部門は、情報通信支援財部門及び非情報通信関係部門内にあって、自らの組織内に情報を提供する部門であり、市場に情報を提供しない点において情報通信サービス部門と区別される。
 以上の区分に従い、情報通信サービス部門及び情報通信支援財部門を第2-3-2図のとおりとした。
 また、情報通信にかかわる産業という観点から情報通信サービス部門と情報通信支援財部門を併せて情報通信産業とし、情報通信を行う部門という観点から情報通信サービス部門と組織内情報通信部門を併せて情報通信活動とする。
 イ 経済の情報化の進展
 情報通信活動は、市場にサービスを提供する産業としての活動(情報通信サービス部門)と、企業内取引による活動(組織内情報通信部門)を併せたものである。この両部門による情報通信活動が経済において広範囲に利用され、高度化していくことにより、経済の情報化は進展している。ここでは、国内生産額の推移から、情報通信活動及び情報通信産業が我が国経済に占める位置を概観する。
(ア)部門別国内生産額(注2)
 昭和62年における我が国経済の国内生産額は765兆4,070億円(対昭和60年比1.04倍)である。そのうち、情報通信サービス部門は29兆7,820億円(我が国経済に占める比率3.9%)、情報通信支援財部゛門は30兆6,870億円(同4.0%)、企業内取引による情報通信活動(組織内情報通信部門)は74兆9,240億円(同9.8%)である。
 我が国経済に占める各部門の構成比を昭和60年と比較すると、情報通信サービス部門が0.4ポイント、組織内情報通信部門が1.1ポイント上昇しており、企業内取引による情報化が進展していることがうかがわれる(第2-3-3図及び第2-3-4表参照)。
(イ)情報通信活動による国内生産額
 情報通信サービス部門と組織内情報通信部門を併せた、昭和62年の情報通信活動の国内生産額は104兆7,060億円(対昭和60年比1,17倍)、であり、我が国経済の13.7%(昭和60年は12.2%)となっている。そのうち、組織内情報通信部門によるものが7割を超えており、組織内情報通信活動が経済の情報化の中心であることが分かる。昭和60年がらの推移では、我が国経済の国内生産額における構成比は2年間で1.5ポイント上昇している。
(ウ)情報通信産業の国内生産額
 情報通信サービス部門と情報通信支援財部門を併せた、昭和62年の情報通信産業の国内生産額は60兆4,690億円(対昭和60年比1.10倍)であり、我が国経済の7.9%(昭和60年は7.5%)となっている。情報通信産業における各部門の割合をみると、情報通信機器製造業、情報関連サービス、通信・放送の順に大きい。個別部門別では、印刷・製版・製本、国内第一種電気通信、情報サービスの順になっている(第2-3-5図参照)。
 また、情報通信産業の2年間の増加率は、10.2%であり、我が国経済の増加率4.1%の2.5倍の高さとなっている。部門別では、情報通信機器賃貸業、情報ソフト及び情報関連サービスが増加率が大きく、個別部門別にみると、事務用機器賃貸業、ソフトウエア業、電子計算機賃貸業、情報サービス等が大きい。
 ウ 情報通信産業の生産活動による我が国経済への波及効果
 情報通信産業が財・サービスの供給を行う一方で、他の産業から調達する財・サービスは、それを直接的に供給する部門ばかりでなく、産業間の相互依存の網の目を通して広く我が国経済全体に影響を及ぼしている。ここでは、このような影響を産業連関分析の手法によりみることとする。
(ア)情報通信サービス部門の波及効果
(生産誘発効果)
 情報通信サービス部門の昭和62年の生産誘発効果(注3)は1.376であり、この部門が生産を行うことにより他の部門に11兆2,968億円の生産誘発をもたらした(第2-3-6表参照)。
 産業別では、全費用のうち中間投入率(注4)の高い広告(昭和62年の生産誘発効果2.34)、出版(同2.19)、新聞(同1.93)、国内第二種電気通信(同1.87)、民間放送(同1.84)等がもたらす波及効果が大きい。
 一方、設備集約型の国内第一種電気通信及び国際電気通信、労働集約型のソフトウェア業、ニュース供給・興信所、、情報サービス等は、中間投入率が低いため波及効果は小さい。
(粗付加価値発生分布)
 生産誘発に伴い、その誘発された産業において粗付加価値(注5)も発生する。情報通信サービス部門は、29兆7,820億円の生産を行うことにより、自部門へ16兆5,890億円、他部門へ生産誘発を通して5兆1,666億円、輸入を通して外国へ5,619億円の粗付加価値の発生をもたらした。
 生産誘発によって各産業が得られる粗付加価値の発生分布を、通信・放送部門、情報ソフト部門及び情報関連サービス部門の3部門について示したものが第2-3-7図である。いずれも第三次産業に多く発生している。
(イ)情報通信支援財部門の波及効果
 情報通信支援財部門の昭和62年の生産誘発効果は1.604であり、この部門が30兆6,870億円の生産を行うことにより、他の部門に18兆5,467億円の生産誘発をもたらした。
 情報通信支援財部門の中では、中間投入率の高い有線電気通信機器(昭和62年の生産誘発効果2.35)、ラジオ・テレビ受信機(同2.33)、電気音響機器(同2.33)等の波及効果が大きい。
 一方、中間投入率の低い電子計算機賃貸業、事務用機器賃貸業等は、サービス供給にあたって他部門の需要を喚起する額が小さく、波及効果も小さい。
 また、情報通信支援財部門の生産による粗付加価値の発生については、自部門へ12兆3,110億円、生産誘発を通して他部門へ7兆8,047億円及び外国へ1兆3,764億円の粗付加価値の発生をもたらした。
(ウ)通信・放送部門の設備投資による生産波及効果
 ここでは、通信・放送部門の元年度における設備投資(注6)が、どのように我が国経済及び海外に影響を及ぼしているのかを分析する。
 通信・放送部門の元年度設備投資額は総額2兆4,830億円である。この投資は5兆1,438億円の生産を誘発し、2兆2,824億円の粗付加価値を生み出した。また、これによる雇用誘発数(注7)は、29万5,000人であった(第2-3-8図参照)。
 産業別にみると、生産誘発は、電気通信機器(21.3%)、電気通信施設建設(13.2%)等の情報通信支援財部門の産業に多く発生している。雇用誘発は、電気通信施設建設(20.8%)、商業(18.7%)、電気通信機器(7.6%)等で大きく発生している。
 エ 情報通信産業の利用分野
(ア)情報通信産業の利用分野
 昭和62年における情報通信サービス部門及び情報通信支援財部門の利用分野は、第2-3-9図のとおりである。
(情報通信サービス部門の利用分野)
 昭和62年において情報通信サービスは、産業で82.7%、家計で15.8%、その他の最終需要(注8)でその残りが利用されている。産業での利用の内訳は、物財を生産する産業が17.4%、サービスを生産する産業が65.3%となっている。
 通信・放送部門については、家計で消費される割合が比較的高い。
 情報ソフト部門については、情報通信サービス部門に含まれるサービス業で利用される割合が全体の3分の1を占めている。
 情報関連サービス部門については、家計で消費される割合が低いのに対し、製造業で18.2%、サービス産業で70.0%と他の情報通信サービス部門に比べて高い比率となっている。
 (情報通信支援財部門の利用分野)
 情報通信機器製造業部門の利用については、最終需要部門である輸出が25.9%、民間固定資本形成が25.4%、家計消費が7.0%、公的固定資本形成が5.7%であり、内生部門である産業が35.7%である。生産の4分の1ずつが輸出、民間の設備投資で利用されている。
 情報通信機器賃貸業部門については、その99.1%が産業分野において利用されている。
 電気通信施設建設部門については、そのすべてが民間の設備投資で利用されている。
(イ)単位生産当たりの情報通信費用
 ここでは、各産業部門における、生産費用に占める情報通信関連費用の比率、また、生産額に対する情報通信産業からの購入比率を分析し、経済活動の情報化をみることとする。
(情報化係数)
 情報化係数とは、各産業が財・サービスを生産するときの総費用のうち、情報通信関連費用の比率を示す指数である。この情報通信関連費用は、情報通信サービス購入のための費用(情報通信サービス費用)、情報通信にかかわる労働者め賃金(情報労働費用)、情報通信関連設備の滅価償却費(憤報資本費用)、情報通信支援財のうちの部品以外のものの購入費用(情報通信支援財費用)の四つに大別できる。昭和62年の各部門の情報化係数の推移は、第2-3-10図のとおりである。
 昭和62年の産業全体の情報化係数は14.0であり、昭和60年がら1.9ポイント上昇している。昭和62年の情報化係数の内訳は、情報通信サービス費用が4.5(昭和60年は3.8)、情報労働費用が6.9(同6.2)、情報資本費用が2.2(同1.8)、情報通信支援財費用が0.4(同0.3)であった。情報通信サービス費用と情報労働費用がともに0.7ポイント増加しており、情報通信サービス部門がらの財・サービスの購入費用と情報通信活動に携わる労働者の賃金が、同じ金額だけ増加している。
 情報通信サービス部門の情報化係数は53.9であり、総費用の過半数が情報通信関連の費用である。特に情報労働費用が大きく、この部門の労働集約性の高さを示している。
 情報通信支援財部門の情報化係数については、情報資本費用が6.7であり、この部門の情報通信関連費用は、情報通信関連設備によるものが大きく、5割近くを占めている。
 非情報通信関係部門の情報化係数の内訳をみると、情報労働費用が6.9であり、情報通信関連費用の過半数を情報労働費用が占めている。経済活動の中で大きなウェイトを占める非情報通信関係部門における情報労働費用の増大は、雇用の拡大にも寄与している。
(国内生産額に占める情報通信サービス費用)
 ここでは、情報通信関連費用のうち情報通信サービスの費用が生産額1万円当たりでどれくらいであるかを比較し、情報化の進展状況を概観する。
 我が国経済において、生産を行うために必要となる情報通信サービスの費用は、1万円当たりで計算すると、昭和62年では362円であり、昭和60年と比較すると、2年間で46円(14.6%)上昇した。情報通信サービスの費用のうち、通信・放送、情報ソフト、情報関連サービスのいずれも、産業全体において単位生産当たりの費用が上昇する傾向がある(第2-3-11表参照)。
 また、家計消費総支出に占める情報通信サービスへの支出額は、昭和62年で支出額1万円当たり236円であり、昭和60年から大きな変化はない。なお、そのうち150円は、通信・放送への支出である。
 さらに、情報通信サービス費用のうち通信部門へ支出した費用については、全産業の生産額1万円当たりでみると、67円である。その内訳は、郵便が15円、電気通信が52円である。
 通信費用のうち郵便費用を個別部門別にみると、ニュース供給・興信所、研究、対事業所サービス、公共放送、金融の順に大きい。一方、電気通信費用の大きい部門は、民間放送、ニュース供給・興信所、公共放送、研究、保険、有線放送、広告、商業、金融、新聞の順である(第2-3-12図参照)。
 各部門の郵便費用と電気通信費用の比率の違いから、民間放送、有線放送及び商業は電気通信に、対事業所サービス及び公務は郵便に利用が特化している傾向がある。
 オ 産業及び家計の情報通信関連需要のもたらす波及効果
 ここでは、政府及び民間企業が行う情報通信機器への設備投資並びに家計による情報通信関連消費支出がもたらす波及効果について分析し、情報通信にかかわる最終需要が経済活動にどれほど影響を及ぼしているかを概観する。
(ア)情報通信機器への投資がもたらす波及効果
 政府及び民間企業が行った情報通信機器への設備投資が、我が国経済及び海外へもたらす波及効果を示したものが、第2-3-13表である。
 昭和62年を例にとると、我が国経済に7兆9,722億円(雇用誘発数89万4,000人)の粗付加価値額と、8,772億円の輸入を誘発している。この誘発された粗付加価値額が、我が国経済全体に占める割合は、2.2%であった。
 また、この投資によって最も影響を受けるのは、情報通信機器製造業であり、11兆7,405億円(全生産誘発額の62.7%)の生産誘発を受ける。さらに、その他の製造業にも、原材料及び部品の供給を通して2兆9,770億円の生産誘発があり、製造業全体で生産誘発額の78.6%を占める(第2-3-14図参照)。
 一方、この投資によってもたらされた生産額が、当該産業の国内生産額において大きいウェイトを占める産業は、電子応用装置(国内生産額に対する生産誘発額の比率91.3%)、電子計算機本体(同80.9%)、他の電気通信機器(同72.8%)、無線電気通信機器(同71.3%)、有線電気通、信機器(同64.2%)及び電子計算機付属装置(同54.3%)である。これらの産業は第一次波及を受ける情報通信機器製造業であり、生産額の大半を情報通信機器への投資に依存している。
 サービス産業においては、国内生産額に占める生産誘発額の比率の大きい産業は、研究(同11.5%)及びソフトウェア業(同6.3%)である。特に、研究については、この需要によって、その生産活動の11.5%がなされており、情報通信機器が、研究による先端技術を駆使した産業であることを示している。
(イ)家計の情報通信関連消費支出がもたらす波及効果
 家計の情報通信関連消費支出(情報通信機器の購入及び情報通信サービスの購入)による我が国経済及び海外への影響を示したものが、第2-3-15表である。情報通信関連消費支出は、全家計消費支出の3.3%〜3.4%であり、3年間であまり大きな変動はない。
 昭和62年の我が国経済への影響を粗付加価値額でみると、6兆4,280億円(雇用誘発数69万1,000人)であり、我が国経済の粗付加価値額のうち1.8%は、この消費支出によってもたらされる。
 また、通信部門には、全生産誘発額の23.5%が発生する。この他には、情報通信機器製造業、情報関連サービス等への影響が大きい(第2-3-16図参照)。
 家計の情報通信関連需要から誘発される生産額が、国内生産額に占める比率の大きい産業は、公共放送(国内生産額に対する生産誘発額の比率97.3%)、音声情報ソフト業(同69.6%)、映画館・劇場等(同59.7%)、国内第一種電気通信(同46.5%)、ラジオ・テレビ受信機(同42.9%)、新聞(同39.7%)の順になっている。これらの産業は、家計による情報通信関連消費への依存度が大きい。

第2-3-1図 情報通信の視点からみた経済構造

第2-3-2図 情報通信経済の部門構成

第2-2-3図 我が国経済における部門別国内生産額の推移

第2-3-4表 情報通信経済からみた産業関連表(昭和62年)

第2-3-5図 情報通信産業の国内生産額の推移

第2-3-6表 情報通信サービス部門のサービス供給の生産誘発効果

第2-3-7図 情報通信産業のサービス供給による付加価値発生分布

第2-3-8図 通信・放送部門の元年度の設備投資による生産波及効果

第2-3-9図 情報通信産業の利用分野(昭和62年)

第2-3-10図 部門別情報化係数の推移及び構成比

第2-3-1表 生産額1万円当たりの情報通信サービス費用

第2-3-12図 生産額1万円当たり通信費用の大きい産業

第2-3-13表 情報通信機器への投資がもたらす波及効果

第2-3-14図 昭和62年における情報通信機器への投資による生産波及効果

第2-3-15表 家計の情報通信関連消費支出がもたらす波及効果

第2-3-16図 昭和62年における家計の情報通信関連消費支出による生産波及効果

 

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