平成3年版 通信白書

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第2章 豊かな生活と情報通信

(2)ハイビジョン技術

 ア ハイビジョンの動向
 ハイビジョンはNHK等が開発したHDTV(高精細度テレビジョン)の方式の名称である。
 現在のテレビジョン放送の画質の改善を図ることを目的として、既に地上系においてクリアビジョン(EDTV)が実用化されているが、ハイビジョンはワイドな画面できめ細かな映像と高音質な音声を提供する次世代のテレビジョンとして、昭和40年代からNHKで開発が進められてきた。既にテレビカメラ、VTR、ディスプレイに至る一連のシステムとHDTVを衛星で放送するための帯域圧縮技術(MUSE方式)が開発されている。
 ハイビジョンについては衛星系による実用化を目指して、元年6月からは放送衛星を利用して毎日1時間の定時実験放送が行われている。3年度では、夏打ち上げ予定のBS-3bにおいてハイビジョン専用にトランスポンダ1本を確保しての試験放送の実施が予定されており、このスケジュールをにらんでハイビジョン受信機の低廉化も進んでいる。ハイビジョン受信機は数年前まで数千万円もしたが、3年にはメーカ数社から400万円前後のものが売り出され、今後さらに低廉化が進む見込みである。
 ハイビジョンの特徴は、先に述べたように画面が横にワイドになり、走査線が525本から1,125本となって画質が格段にきめ細かいことである(第2-4-6表参照)。
 ハイビジョンの画質は映画の35ミリフィルムに相当するといわれ、極めて高い映像の再現性を持っている。また、電子的に映像を処理するため、映像の記録、伝送、加工、保存が容易であり、一貫したシステムによって集約的に映像を扱うことができるという利点があることから、放送以外の多彩な分野への応用が注目されている。例えば、映画やコマーシャルフィルムの撮影に35ミリフィルムの代りにハイビジョンが用いられ、コストの削減に効果を上げている。また、高精細度、高解像度である利点を生かして、印刷、出版、美術館・博物館、コンピュータ・グラフィクスや医学・医療分野等幅広い分野での応用が進んでいる。
 HDTVの国際規格づくりについては、CCIRにおいて1972年に日本がHDTVの研究を提案して以来、検討が続けられていたが、1990年5月にHDTVのスタジオ規格(番組制作規格)などの勧告が行われている。勧告では有効走査線数などの4項目については文章による表現となっており、今後も数値化に向けて検討する必要がある。
 HDTVの方式については我が国の開発したハイビジョンのほか欧州の方式があり、米国もいまだ統一的な方式は提案していないもののHDTV規格に強い関心を示している状況にある。
 イ ハイビジョンの未来と技術的課題
 現行のテレビジョンを更に高画質、高音質にするハイビジョン技術は、今後の家庭の情報化の核となると考えられる。また、ハイビジョンは高画質な映像ソフトの流通を通じて放送、印刷、出版、映画等多様なメディアを融合する可能性を持っている。その普及のためには次のような課題がある。
(ア)ハイビジョン端末の開発
 低廉化が進んでいるとはいえハイビジョン受信機は一般家庭に普及するにはまだ高価であり、一層の低廉化を進めていくことが必要である。また、MUSE装置の一体化等による機器の小型化、更にプロジエクター型や壁掛け型の大画面ディスプレイの開発、VTR等の周辺機器の開発を進める必要がある。
(イ)映像ソフトの制作・供給
 ハイビジョンのための質の高い映像ソフトを供給するために、技術者、制作者等の人材の養成、制作・供給体制の構築等を推進する必要がある。
(ウ)他の情報通信機器との接続
 ハイビジョンは将来、家庭の中心的な情報機器となると考えられることから、ISDNとの接続等、他のネットワーク・情報通信機器との接続についても考慮する必要がある。

ハイビジョン

第2-4-6表 現行テレビジョン方式との比較

 

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