平成3年版 通信白書

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第2章 豊かな生活と情報通信

(3)衛星通信・放送技術

 ア 衛星通信・放送の動向
 地上約3万6,000kmの上空から電波を送受する通信衛星は、わずか数個の衛星で、ほぼ地球上の全域をカバーすることができるほか、映像を送ることや一度に多くの地点に情報を送ることができ、災害にも強いという長所がある。加えて地上系のネットワークに比較して、その構築が容易で経済的という利点もある(第2-4-7図参照)。
 反対に、短所としては電波が衛星まで行って帰ってくるのに約0.25秒め時間がかかるため使いにくいことや、衛星の打ち上げや運用に伴うリスクが高いことがあげられる。
 現在我が国には通信衛星が4機、トランスポンダでは88本が稼働しており、CATV番組の配信、放送事業者のサテライト・ニュース・ギャザリング、企業や教育産業の教育番組配信、地上回線のバックアップなどに利用されている。
 また、衛星放送は現在NHKが2チャネル、民放の日本衛星放送(株)が1チャネルの放送を行っており(その一部を利用して衛星デジタル音楽放送(株)がPCM放送を行っている。)、3年2月末現在で約394万世帯が衛星放送を受信している。
 通信衛星を利用した世界的な通信システムとしてはインテルサットとインマルサットが稼働しているほか、各国、各地域で多様なシステムが実施または計画されている(第2-4-8図参照)。
 イ 衛星通信・放送の未来と課題
(ア)利用方法の検討、利用技術の開発
 衛星通信・放送技術の著しい発達により、国内通信と国際通信、通信と放送、固定通信と移動体通信といった技術的差異が縮小してきている。衛星通信、衛星放送は、広域性、同報性、広帯域性といった特徴をいかし、幅広い適用分野と新たな利用分野を切り開く可能性のあるメディアである。地上系も含めた通信・放送システム全体において、その特徴が十分に活用されるような利用方法の検討、利用技術の開発を進める必要がある。
(イ)衛星の大型化・高機能化
 通信需要が増大すると、将来的には静止衛星軌道及び周波数が不足することが考えられる。このため、衛星マルチビーム・アンテナにより周波数の有効利用を図る必要がある。また、衛星規模を大きくし、衛星のトランスポンダ当たりのコストを下げるとともに、トランスポンダを高出力化することにより、地上施設の小型化が可能となリシステム全体のコストを下げることにつながる。
(ウ)移動体通信への対応
 移動体衛星通信としてはインマルサットにより主に船舶を対象とした通信サービスが提供されている。昨年から今年にかけての湾岸戦争においても現地からのレポートに携帯型の地球局が活用されたのは周知のとおりである。2年12月からは航空機を対象とした低速データ通信サービスが可能となった。我が国では、技術試験衛星を用いた移動体衛星通信実験が行われており、陸海空にわたる移動体通信の研究開発を進めている。また、将釆は、周回型小型衛星を用いた通信衛星システムについても検討する必要がある。
(エ)信頼性の向上
 2年12月に宇宙通信(株)のスーパーバードAが故障し、通信が不能になる事故が発生した。この事故の場合、利用者を日本通信衛(株)のJCSATへ移行することで、大きな混乱には至らながったが、しばらくの間CATV事業者への番組配信が途絶えるなど、巨大システムの事故の影響の大きさを確認することとなった。
 通信衛星、放送衛星の信頼性の確保には十分な配慮がなされているが、打ち上げ失敗等のリスクに加えて、宇宙線、激しい温度変化、真空等宇宙空間という過酷な環境条件の下で長期間運用されることから、不測の事態に対する対策が必要である。
 そのためには、事業者が2機以上の衛星を保有すること、事業者間でトランスポンダを相互利用する体制を整備すること等が必要である。
(オ)静止衛星軌道及び周波数の国際的調整
 有限な資源である静止衛星軌道及び周波数については、国際的な協力と協調が必要である。ITUでは、世界無線通信主管庁会議(WARC-ORB)を開催し、1988年に静止軌道及び周波数の割当て計画等を定めた。1992年開催のWARC-92においては、宇宙船と宇宙ステーション間などの宇宙業務応用のための20GHz以上の周波数(準ミリ波・ミリ波帯)の分配や低軌道周回衛星に対する1GHz以下の周波数の分配の検討なども議題にあがっている。
(カ)宇宙における電波利用技術の開発
 その他、宇宙からの地球観測技術や衛星間通信技術等宇宙における電波利用技術についても開発を推進する必要がある。

第2-4-7図 衛星通信の特徴と適用分野

第2-4-8図 宇宙通信の国際展開

 

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