平成6年版 通信白書

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第1章 平成5年情報通信の現況

(3) 社会の情報化

 地方公共団体によって導入及び開発が行われている情報通信システムの総数は、5年4月1日現在、 5,873件となっているが、このうち、件数の多いものについて分野別に見ると、防災情報システムが 1,688件、医療・保健・福祉分野のシステム(緊急通報システム、保健医療情報システム、救急医療情報システム及び福祉活動支援情報システム)が 1,109件、行政情報提供システムが 746件となっており、これらで全体の半数以上を占めている(自治省「地方公共団体における地域情報化施策の概要」による)。
 このうち、医療・保健・福祉分野のシステムは、他と比較して、近年の取組が際立って多いことがうかがえる(第1-3-31図参照)。
 このことの背景としては、同分野に対し、国民の期待が大きくなっていることが考えられ、総理府の「国民生活に関する世論調査」(5年5月実施)においても、政府に対する要望(複数回答)として「医療・福祉・年金の充実」が61.1%と最も多く、次いで「高齢者・障害者介護など福祉の充実」が47.2%と続いている。
 このように医療・保健・福祉分野の情報化は、今後も重要度が増すであろうと考えられることから、ここでは同分野におけるいくつかの先進的な事例を紹介する。
 ア テレラジオロジー
 北海道の小樽市には、2つの市立病院があり、4年12月からこの2つの病院をISDN回線で結んで、遠隔地にいる専門医がネットワークを利用して伝送されてきたCT(X線診断用装置の一種)画像等をみて、画像を伝送してきた医師に対しコンサルティングを行うテレラジオロジーが実用化されている。
 小樽市の2つの病院では専門領域を機能分担しており、例えば、交通事故で整形外科を担当する病院に運ばれてきた患者が頭部にも怪我をしていた場合、その患者のCT画像を脳神経外科を担当する病院に伝送する。脳神経外科を担当する病院では、専門医が伝送されてきた画像を見ながら、整形外科を担当する病院の医師にアドバイスを行い、応急処置の指示をする。
 従来は、電話による音声のみのやりとり、または、非専門医が専門医のところへわざわざ車でCT画像等を運んでいたが、このシステムを導入することにより、画像を直接相手の病院に伝送することができ、専門医は、画像を見ながらすみやかに適切な指示を与えることができるようになっている。
 イ 3者間通信による救急救命体制の整備
 神奈川県横浜市では、3年8月に救急救命士法が施行されたのをうけ、4年7月から救急救命士を高規格救急車に乗務させ、6年3月現在では36台の高規格救急車に救急救命士を乗務させている。
 横浜市では、5年8月から、消防指令センターの救命指導医、救急車に同乗する救急救命士、さらには、病院の間で迅速かつ適切な連絡・指示が行えるようにするため、これら関係者間を3者通話機能付きの電話で結んでいる。この3者通話機能付きの電話は、3者間で同時に通話ができるものである。
 このシステムを導入することにより、救命指導医が救急救命士に指示をしているのを、病院の医者が聞きながら、受け入れ態勢を確立することができるので、消防指令センターから救急救命士へ連絡し、その後病院へ連絡するといった時間を省略することが可能となった(第1-3-32図参照)。
 ウ 救急医療情報システム
 救急医療情報システムは、救急指定医療機関等から収集する空きベッド等の情報を、運用主体が通信ネットワークを介し、地域の消防本部、救急医療関係機関等に提供することから、住民からの救急患者発生等の問い合わせに迅速に対応し、救急医療の効率的運用に貢献するシステムである。
 昭和57年末にシステムを導入した三重県では、県下15か所の消防本部及びシステム参加医療機関に設置されたコンピュータとホストコンピュータを電話回線によりネットワーク化している。住民から急病人等の発生に係る問い合わせがあった場合、各地域の消防本部は、医療機関の救急患者への対応の可否等の情報を検索し、住民に案内している。その際、あらかじめ患者の病気やけがの重さにより対応する医療機関を3段階に階層化し、最寄りの地域で対応可能な医療機関を、救急車の出動の要否も含め案内しており、全国的にも上位の運用実績を上げている。
 一方、佐賀県では、3年度末に新しい救急医療情報システムへの置換を行っている。新しいシステムでは、住民からの問い合わせ対応を行う消防本部のみならず、救急医療情報を入力・送信する医療機関側の端末においても、他の医療機関の空きベッド、当番医等の状況が検索できるようになり、医療機関同士が行う診療科目に関する照会の手間が省けるなどの効率化が図られている。また、このシステムでは、システム運用実績等の統計情報を作成できることにより、データに基づく正確な統計情報が得られ、救急医療情報システムの運用改善等に役立てられている。
 エ 福祉支援システム
 広島県宮島町では、高齢者宅に設置されている緊急通報用電話機に、「非常ボタン」にあわせ「相談ボタン」が配置されている。相談ボタンというのは、ひとりぐらしの高齢者等が福祉相談等に使用するものである。
 この福祉支援システムでは、高齢者が相談ボタンを押すことによって町の社会福祉協議会に接続される。社会福祉協議会では、コンピュータに高齢者の氏名・住所・年齢・健康状態・かかりつけの医師・その他の最近の生活状況がデータベースとして蓄積されており、高齢者が相談ボタンを押すことにより、その利用者の情報が自動的にリストアップされ、その内容を見ながら社会福祉協議会の職員が相談に応じるというものである。また、希望者には、社会福祉協議会が毎朝(土曜、日曜、祝日を除く)安否確認の電話をし、健康状態などを把握することが行われており、必要に応じてホームヘルパー等を緊急派遣する。実際、高齢者の声の調子から、社会福祉協議会の職員が異常を感じ、適切な処置をとることにより効果を上げた実例がある(第1-3-33図参照)。
 オ 緊急通報システム
 緊急通報システムは、多くの自治体等により運用されているが、宮城県で導入されているシステム例では、ひとりぐらしの高齢者等が身体に異常を感じたり、突発的な事故等で緊急に救助を求めたいときに、緊急通報機器のボタン(ペンダント型小型無線発信器や家庭用緊急通報機器)を押すと24時間体制の緊急通報受信センター(以下「センター」という)に通報される。センターでは、発信者に確認の電話を入れ、応答がない場合は、協力員を派遣したり、救急車の出動等を要請するなどの救援体制を支援するというものであり、宮城県では全県をカバーしている。
 このシステムの特徴は、通常の緊急通報のみならず、センサーによる安否確認機能が付加されていることである。これは、高齢者宅のトイレや寝室などのドアにセンサーを設置し、一定の時刻を基準に直近の24時間の間に開閉されたかどうかをセンターに定時に自動通報し、開閉されなかった場合は、センターから高齢者宅へ確認の連絡を行うというものである(第1-3-34図参照)。

第1-3-31図 地方公共団体による主な情報通信システムの開始年

テレラジオロジーにおける利用

第1-3-32図 3者間通信による救急救命体制のシステム図

第1-3-33図 広島県宮島町のシステム図

第1-3-34図 宮城県仙台市のシステム図

 

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