平成7年版 通信白書

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第1部 平成6年情報通信の現況

第1節 ユーザー側からみた情報通信の進展の動向


 1 家庭の情報化


 ここでは、過去10年間の家庭の情報化の進展状況を、指標等により概観するとともに、各種情報通信サービス・機器の、家庭生活における普及及び利用の進展について、7年1月に郵政省が委託調査を通じて行った2つの事例の取材結果に基づき紹介する。
 

(1)  データにみる家庭の情報化


  ア 家庭の情報化指標の動向
 我が国の家庭における情報化の進展を、情報の入手手段の多様化、情報を入手するために支出した費用及び各種情報通信メディアからの情報提供の3つの側面から、それぞれ情報装備指標、情報支出指標及び情報入手可能性指標としてとらえたものが、第1-4-1-1図 である(付表5参照) 。
 情報装備指標は、家庭における情報入手手段の多様化の推移を表すものであり、情報通信機器の保有数と情報通信ネットワークへの加入率により構成されている。昭和60年を 100とした5年の指数は、対前年比で 6.1ポイント増加し、 186.0となっている。これは、主として情報通信機器の保有数の増加が要因となっている。
 情報支出指標は、家計消費支出における情報通信関連支出の推移を表すものであり、情報通信機器の購入、情報通信ネットワークへの加入・継続及び情報ソフトウェアの購入に係る名目支出を、品目ごとの消費者物価指数で実質化し指標化したものである。昭和60年を 100とした5年の指数は、対前年比で 5.7ポイント増加し、 124.8となっている。これは、主として情報通信機器の購入に係る実質支出の増加が要因となっている。
 情報入手可能性指標は、家庭において入手可能な情報量の推移を表すものであり、テレビジョン、ラジオ、パッケージ系メディア(音声系・映像系ソフト)、新聞及び書籍・雑誌からの提供情報量により構成されている。昭和60年を 100とした5年の指数は、対前年比で 3.2ポイント増加し、 131.6となっている。これは、主としてパッケージ系メディアからの提供情報量の増加が要因となっている。
  イ 家庭の情報化に関する日米比較
 我が国と米国との間で、家庭を対象とした統計データを用い、比較可能な項目により情報化に関する比較を行ったのが、第1-4-1-2図 である。
 昭和60年度と5年度における、米国を 100とした我が国の指数をみると、電話の普及率は、昭和60年度は86.9であるのに対し、5年度は98.0とほぼ同率まで上がっている。また、パソコンの普及率は、同73.1から同39.7へと低下し、VTRの普及率は、同186.1 から90.6へと低下しているが、これは米国におけるそれぞれの普及率が著しく高まったことによるものと推測される。
 一方、電話通信料及び郵便料の各支出についてみると、5年度はそれぞれ101.5 、89.3と上昇しているが、これは支出額を換算する為替レートの変動によるものと推測される。
 

(2)  家庭における情報通信利用の動向


 ここでは、10年間の家庭における情報通信利用の動向について、具体的に、かつ分かりやすく紹介するため、先進的な2例を取り上げる。
  ア Aさん宅(千葉県市川市)の事例
 Aさん(38歳)が住んでいる千葉県市川市は、江戸川をはさんで東京都東部に隣接する人口約43万4千人の都市である。自宅周辺は、都心まで電車で約1時間の場所で、都心に通勤するサラリーマンの家庭が多く移り住んできており、ここ10年の間に住宅、アパート等が建ち並んだ。
 Aさんは、昭和58年に東京都江戸川区から現住所へ転居するとともに、それまで勤めていた都内の企業を退職し、コンビニエンスストアの経営等を始めた。同居家族は、妻(34歳)、長男(13歳)、長女(12歳)、次女(10歳)及び三女(4歳)の5人である。
  (ア)  情報通信サービス及び機器の購入及び利用
 Aさん宅における情報通信サービス・機器の利用状況は、第1-4-1-3表 のとおりである。
 昭和60年頃、Aさんは、自宅の回転ダイヤル式の電話機を、ボタン式の多機能電話機に換えるとともに、電話回線をプッシュ回線に切り換えた。当時は次女が生まれたばかりであり、実家との電話によるやりとりなども多かったため、多機能電話機の短縮ダイヤル機能等によって電話の操作は楽になった。
 家族はあまり長電話をする方ではないが、4年には、費用も安くいざというときに便利であるということで、通話中着信サービス(キャッチホン)を契約した。
 6年には、コードレス電話機を購入したほか、ファクシミリを店舗の業務用に設置した。ファクシミリでは、時折、友人に家の地図等を送ることもある。
 また、Aさんは、友人が中国に滞在しており、妻の兄も英国(ロンドン)にいることから、国際電話を利用している。初めて国際電話をかけた頃は、時差の確認などもあり緊張したが、国内の電話と同様、明瞭に相手と会話ができ、料金も思いのほか安いことがわかり、気軽にダイヤルできるようになった。現在は1か月に1回程度利用している。
 3年に、Aさんは損害保険会社の代理業務を始め、近郊の家庭等の訪問を行うようになったことから、自宅や店舗との連絡をスムーズにするため、無線呼出しに加入した。Aさんはこの無線呼出しを、家族からの呼出しにも活用している。
 一方、6年10月に、Aさんは携帯電話への加入の勧誘を受け、契約を結んだが、現在、自宅では利用できない。これは、自宅付近にある大きなマンションの影響かと思われるため、Aさんは、電波障害の解決を望んでいる。
 Aさんの住む市川市は、テレビジョン放送については、NHKのほかすべての在京キー局に加え、千葉県内をエリアとするUHFテレビジョン放送が視聴でき、過去10年間のチャンネル数の変化はない。ラジオ放送については、在京AM・FM放送ともに聴取できる。このうちFM放送は、元年に開局した千葉県をエリアとする民間放送1社が聴取できるほか、埼玉県及び神奈川県にて開局した民間放送もほぼ聴取可能である。
 Aさん宅周辺では、近所のマンションの影響で受信障害があるため、同マンションの屋上に立てられた共聴アンテナによりテレビジョン放送を受信している。昭和60年頃は、Aさん宅のテレビは1台だったが、かねてから自宅の中のいろいろな場所で、テレビジョン放送と接していたいと思っていたAさんは、現在は居間、寝室及び食堂にそれぞれ1台ずつテレビを置いている。
 また、2年には、イタリアで開催されたワールドカップ・サッカーの番組を見たいという妻の希望もきっかけとして、衛星放送に加入した。このような中、Aさんは、市川市内で4年から提供されている都市型ケーブルテレビについても知り、番組のメニューの豊富さ及び地域の情報を得られる魅力から、現在、加入を検討している。
 このほか、Aさんは10年以上前からビデオテープレコーダを2台利用しており、昭和61年には、長男の幼稚園の運動会をきっかけに、ビデオカメラを購入している。
  (イ)  情報通信利用の今後に関する展望
 今後Aさんは、仕事や家庭のいろいろな情報の管理をしていくために、パソコンを購入・利用したいと考えている。現在、店舗に設置しているファクシミリの利用頻度が増えており、Aさん自身もファクシミリの利便性を感じている。機器の低価格化も進んでいるため、Aさんは、今後ファクシミリの普及が、一般家庭においても進んでいくだろうと感じている。
 また、Aさんは、家庭における情報通信サービスや機器の普及は、利用頻度と価格のバランス、子供の成長などのライフサイクルの変化等によって進展していくものと考えている。
 一方、放送サービスについて、Aさんは衛星放送が無料で視聴できないかと言いつつも、現実は有料でもよいので、有意義な番組、特に子どもの教育やモラル、心の豊かさといった観点に気遣った番組を選択できることを希望している。
  イ Bさん宅(福岡県春日市)の事例
 Bさん(48歳)が住んでいる福岡県春日市は、福岡市の南部に隣接する、人口約9万4千人の都市である。福岡市の中心部まで電車で約20分であることから、福岡市内への通勤者も多い。
 福岡市内の電機メーカーに勤めるBさんは、約20年前から現住所に住んでいるが、丘陵地である自宅周辺は、Bさんが住みはじめた頃はほとんど家がなかった。しかし、ここ10年間に宅地の造成が進み、景観は大きく様変わりしている。
 同居家族は、妻(48歳)及び大学生である長男(19歳)の2人である。妻は服飾デザイン関係の仕事をしており、自宅の1階に店舗を開いている。
  (ア)  情報通信サービス及び機器の購入及び利用
 Bさん宅における情報通信サービス・機器の利用状況は、第1-4-1-4表 のとおりである。
 昭和60年頃、Bさんは自宅の回転ダイヤル式の電話機をプッシュホンに切り換え、その後、昭和63年にコードレス電話機を購入した。
 元年に自宅の一部を妻の仕事(店舗)用に改修した際、電話回線を1本増設し、電話機と兼用の多機能タイプの家庭用ファクシミリを設置した。ファクシミリは、元々店舗用に設置したものであるが、Bさんが、ゴルフコンペの案内状を送信したり、長男が、ファクシミリによる情報提供サービスを用いてパソコンのカタログ等を入手するなど、電話による会話だけでは要領を得ないことなどでよく用いている。
 このほか、Bさんは3年に無線呼出しに加入したが、これは専ら妻が携帯しており、仕事用と家庭の連絡用に半々程度使っている。なお、Bさんは勤め先から携帯電話を貸与されているが、家庭との連絡には利用していない。
 Bさんの長男は、趣味の自動車レース観戦に関する情報が得られることから、かねてからパソコン通信に関心を持っていた。Bさん自身が、6年3月に仕事上の目的で購入したパソコンは、長男が通信モデムの中古品を安く手に入れ、6年4月に大手パソコン通信サービスに加入して以来、ほぼ毎日、長男のパソコン通信用に占有されている。長男にとってパソコン通信は、自分の趣味や好みに合った情報が得られるのが魅力であり、1日平均6分程度利用している。
 また長男は、友人との間でパソコン用ソフトウェア等のやりとりもすることがあり、その際、先方へ確実に配達されたことを知らせる配達済通知を受けられる郵便小包を利用している。
 Bさんの住む春日市は、テレビジョン放送については、NHKのほか、昭和60年頃には既に開局していた民間放送4社の放送が視聴できた。その後、3年にさらに民間放送1社が開局したことにより、在京キー局の系列の番組はすべて視聴できるようになっている。FM放送については、5年に民間放送が1社開局し、NHKのほか、民間放送2社が聴取できるようになっている。なお、春日市では都市型ケーブルテレビは開局していない。
 Bさん宅では、昭和61年に、それまで1台だったテレビに加え、26インチのテレビを買い増し、元年及び4年には相次いでダイニング・ルーム用及び寝室用に1台ずつ買い増し、これにBさんがゴルフコンペの賞品でもらった小型の液晶テレビを合わせ、現在、5台のテレビを置いている。
 また、Bさんは、元年に衛星放送が開始されるとともに加入した。当初は、仕事に関係する情報が得られることから視聴を始めたが、現在は、主にスポーツ及び映画を視聴している。このほか、Bさん及びBさんの長男は、就寝前にラジオ放送をよく聴いており、BさんはAM放送のニュース番組を、長男はFM放送の音楽番組をそれぞれ好んで聴いている。
  (イ)  情報通信利用の今後に関する展望
 Bさんは、情報通信サービス・機器の進歩及び普及によって、10年前に比べ、生活は便利になってきていると感じている。
 しかし、同時にBさんは、例えば機器類の取扱方法が複雑で、ついていけないといった問題も感じている。長男のような若者世代は、比較的順応性が高いため、現在は心配ないだろうが、今後、社会の高齢化が進むにつれ、新たな情報通信サービス・機器は、誰でも簡単に取り扱えるものでなければ、なかなか家庭には普及しないのではないかとBさんは考えている。
 勤め先企業の本社がある東京へよく出張するBさんは、福岡市及び同市周辺地域と東京との、情報の質・量における格差はあまり感じていないと言う。情報通信は、10年前に比べて一層発達し、身近になっているが、この傾向は今後も続くだろうと考えている。
 また、Bさんの生活圏である九州北部は、地理的に、韓国、中国等に近く、歴史的にも、これらの国々との交流が深い地域だが、Bさん自身も、最近、主にアジアの国々から来た外国人が増え、外国語の案内板、国際通話兼用カード公衆電話等も多く見かけるようになったとの実感がある。Bさんは、今後ますます国際交流の機会が増大する中で、国際通信の果たす役割も一層重要になっていくだろうと考えている。


第1-4-1-1図 家庭の情報化指標

第1-4-1-2図 家庭の情報化に関する日米比較

第1-4-1-3表 Aさん宅における情報通信サービス・機器の利用開始時期

第1-4-1-4表 Bさん宅における情報通信サービス・機器の利用開始時期
 

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