平成7年版 通信白書

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第2部 情報通信政策の動向

6 米国連邦緊急事態管理庁への調査団の派遣

 米国連邦緊急事態管理庁(FEMA:Federal Emergency Manegement Agency )は、1979年(昭和54年)に設立された連邦レベルの災害対応機関であり、災害予防、準備、訓練、応急対策、復旧等の業務を行っており、1994年(6年)には大統領宣言を受けた35の大規模災害対策に出動している。
 政府は、7年2月我が国の今後の防災対策の検討に資するため、国土庁、郵政省等10省庁からなるFEMA調査団をワシントンに派遣し、FEMAの災害初期活動及び被害早期評価システム等について調査を行った。本調査団の報告の概要は次の通りである。
 

(1)  地震に対する初動体制


 ア 初期発災情報源
 国家地震情報センター(NEIC)等からFEMAの24時間監視組織である国家緊急事態調整センター(NECC)に発災情報が入る。死傷者が1人でも確認された場合には、NECCから一定数のFEMA幹部、ホワイトハウスのスタッフに無線呼出し等による連絡が行われ、速やかに電話会談が開かれる。
 イ 災害規模の判断基準
 州、地方からの情報及び連邦所管のリモート・センシングによる情報により、重大な被害が生じているとの感触が得られた場合には、FEMAは、ホワイトハウスのスタッフと密接な連絡をとりつつ、積極的に大統領に大規模災害宣言発令を進言するとともに、連邦対応計画(FRP)に基づく情報収集、救助活動等を開始する。
 ウ 救助活動のための第1次的情報
 FEMA本部に緊急事態情報調整センター(EICC)が設置され、12種類の救助活動(ESF)に関する現地の情報の集約、救助活動の調整を行う。EICCでは、12のESFの主務省庁の課長レベルが集結し緊急事態支援チーム(EST)を編成し、大きく4グループに別れて連絡調整を行う。
 エ 組織の形成手順
 (ア)  連邦レベル
 災害第一報後2時間以内に、EICCの中にESTが設置され、必要に応じて災害対策グループ(CDRG)が召集される。ESTは予め指定された関係省庁の実務者レベルで構成され、CDRGは関係省庁の次官・次官補レベルで構成され、FEMA長官が議長を務める。
 (イ)  地方レベル
 FEMA地域事務所長は、被害状況と人員・物資の必要性の調査等のため、被災地に先遣隊(ERT-A)を派遣する。ERT-Aは、災害現地事務所(DFO)の開設準備を実施するほか、現地被害調査チーム(FAsT)と調整しつつ、被害調査等を行う。
 現地の調整責任者である連邦調整官(FCO)が大統領に任命された後は、ERT-Aは現地緊急事態対策チーム(ERT)に昇格し、DFOにおいて本格的に12種類の救援活動を開始する。
 オ 軍の活動
 各州の州兵は州知事の命令に基づき招来、出動する。連邦軍においては、大統領による大規模災害宣言が発せられた際は、直ちに国防省と陸軍の長官に通報が行われ、CDRGのメンバーの1人である軍事支援ディレクターを中心として救援活動が開始される。
 連邦軍が主として行うこととされている輸送、公共土木工事等のほか、全ての緊急事態支援機能の補助的役割を果たすことが期待されており、それぞれの活動を担当する連邦機関と密接な連携をもって行うこととされている。ただし、有事以外のいかなる場合においても州兵は州知事の下に、連邦軍は大統領及び国防長官の単一指揮系統において行動するとされ、他の機関との関係は常に調整関係を維持している。
 カ 大規模災害に対する特別な措置
 (ア)  連邦緊急事態対策チーム(ERT-N)
 災害が大規模でFEMA地域事務所の対応力を超える場合には、FEMA本部は登録された3つのチームの中から連邦緊急事態対策チーム(ERT-N)を派遣する。予め指定された約 120名のFEMA職員が派遣されるほか、現地で3千〜4千人の臨時職員を雇い入れて救助活動を行う。
 (イ)  都市部捜索・救助活動(US&R)タスクフォース
 米国では伝統的に主として消防機関が人命救助を行っており、警察は主として交通規制、治安維持に当たっている。捜索・救助活動を行うため、FEMAは全米25か所の救助機関(平時は地方の消防機関等)を一時的に管轄下に置き、タスクフォースとする。消防職員が中心の救助隊員のほか、ボランティアが中心の捜索犬専門家、医師、エンジニア等の56名からなり、出動指令から6時間以内に被災地に出発する。必要経費等は連邦が負担するほか、現地への隊員、物資の輸送は軍の協力を得る。
 (ウ)  法的措置
 緊急時には、あらかじめ定められた州法に従い、知事の権限で法執行を停止できる。交通の障害となる車両の除去等の即時強制も人命が危険にさらされている場合には実施するほか、州警察、ハイウェイパトロール等が交通規制を実施する。なお、海上の交通規制等については、沿岸警備隊により実施される。
 

(2)  GISを活用した地震被害早期評価システム


 ア 概要
 地理情報システム(GIS)とは、自然条件、社会条件等の様々なデジタル地理データを分析し、地図上に表示したり、集計を行うシステムである。また、地震被害早期評価システムとは、地盤等の自然条件や居住状況等の社会条件と地震の情報をGISを用いて分析し、現場からの十分な情報が得られない段階で被害の規模を評価するシステムである。なお、FEMA独自では現段階において保有していないため、民間会社(SAIC)に依頼している。
 イ 利用の現状
 (ア)  インプットデータ
 インプットデータは基本的には地形・地質・地盤等の自然的地理的情報、家族数、部屋数等の国勢調査結果を用いた世帯状況、街路図、建物分布、上下水道の敷設状況等の精緻(せいち)な社会的地理情報と米国地質調査所(USGS)、米国海洋大気庁(NOAA)等の外部機関から得られた地震、気象等の情報及び現地から送られる被害の実情に関する情報である。
 GISを稼働させるためのハードはワークステーションやパソコンであり、GIS用プログラムは操作の簡便性を考慮して市販のものを利用している。
 (イ)  地震計
 FEMAの地震情報は、全面的にUSGSからの情報に依存しており、独自の観測網をもっていない。USGSは全国約 1,000台の地震計のデータを利用するネットワークを形成しており、地震活動の活発なカリフォルニア州では、その配置は15〜30km間隔程度である。
 (ウ)  アウトプットデータ
 FEMAでは、初動段階でのモデリング(被害地域の推定)のほか、救援及び復旧計画の策定等にGISが利用されている。初動段階での被害地域を推定するためには、現段階ではデータベース及びUSGSの地震情報(震源の位置、マグニチュード)から地震動の分布を計算し、この結果に人口のデータを重ね合わせることにより、被害想定地域の人口を算出している。
 なお、FEMAでは、上記の地震動データを用いて被害を具体的に推定するシステムの開発を今後1年間を目途に行っており、これが完成すれば、地震発声直後に人的被害やライフラインの被害等を定量的に推定することが可能となると考えられる。

 

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