平成7年版 通信白書

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第2部 情報通信政策の動向

2 急速に進展する国際環境の変化への対応


 

(1)  ITUの動向


  ア ITU全権委員会議の日本開催
 国際電気通信連合(ITU)の最高意思決定機関である全権委員会議が、1994年9月19日から10月14日まで京都市で開催された。
 同会議がアジア・太平洋地域で開催されるのは、ITU創立以来初めてであり、全加盟国 184か国中 151か国の代表者のほか、12の国際機関・地域機関のオブザーバーを含め、合計 1,083名が参加した。
 全権委員会議において、我が国が提案していた、世界的な電気通信の政策及び規制問題を検討すること等を目的とする「世界電気通信政策フォーラム」の設置が決議された。同フォーラムへの参加は、主管庁を中心として民間企業等に対してもオープンとし、具体的なテーマ、日程等は理事会において決定されることとなっている。
 また、主管庁以外の民間企業等のITU活動への参加の拡大については、認められた事業体(ROA:Recognized Operating Agency )及び学術団体・工業団体(SIO:Scientific or Industrial Organization )等が全権委員会議にオブザーバーとして参加可能となったほか、研究委員会での勧告策定の際に、民間企業等がある程度意思決定に参画できるようになり、各部門においてその具体的手続を検討していくことで合意した。
 このほか、1995年から1999年までの間のITUの戦略政策・計画の決議及び予算シーリングの決定、技術協力活動の拡充、国際通信におけるコールバック・サービス問題に対する措置、衛星通信に関する周波数調整手続等の見直し、ITU憲章・条約の改正、ITU役員・理事国等の選挙等が行われた。
  イ ITU各部門の活動動向
  (ア)  電気通信標準化部門
 ITU電気通信標準化部門(ITU-T)は、電気通信の技術・運用・料金等の標準化に関する研究及び勧告の作成を行っており、世界電気通信標準化会議(WTSC:World Telecommunication Standardization Conference)を4年ごとに開催することとしている。次回のWTSCは1996年に開催が予定されている。
 現在、各研究委員会(SG:Study Group )において、広帯域ISDN等多くの研究課題について検討が行われている。
  (イ)  無線通信部門
 ITU無線通信部門(ITU-R)は、無線通信の技術・運用等の問題の研究、勧告の作成、無線通信規則の改正、周波数の割当て・登録等を行っており、無線通信総会(RA:Radiocommunication Assembly )及び世界無線通信会議(WRC:World Radiocommunication Conference )を通常2年ごとに開催することとしている。
 現在、1995年に開催予定の第2回RA及びWRCに向け、各議題への対応及び各SGの無線通信等に関する研究課題について検討等が行われている。
  (ウ)  電気通信開発部門
 ITU電気通信開発部門(ITU-D)は、開発途上国に対する電気通信開発の促進のための技術協力等を担当しており、世界電気通信開発会議(WTDC:World Telecommunication Development Conference)を全権委員会議から全権委員会議までの間に開催することとしている。
 現在、1994年3月開催の第1回WTDCにおいて決定されたITU-Dの行動計画に基づき、開発途上国に対する専門家の派遣、研修セミナーの実施等の協力プロジェクト等を推進している。
 

(2)  WTOの動向


 関税及び貿易に関する一般協定(GATT)の第8回目の多角的貿易交渉として、21世紀に向けた新たな世界貿易体制を作り上げるために行われたウルグァイ・ラウンド交渉は、1993年12月の実質妥結を受け、1994年4月、モロッコのマラケシュにおいて、交渉の成果をとりまとめた「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO協定)」等を添付した「最終文書」の署名により正式に終了した。WTO協定は、各国の国内手続を経て1995年1月に発効し、これにより世界貿易機関(WTO)が発足した。
 WTO協定の附属書に含まれている協定の一つである「サービスの貿易に関する一般協定(GATS:General Agreement on Trade in Services)」は、国際的にサービスの貿易を規律する初めての協定であり、通信分野についても、公衆電気通信へのアクセスと利用に関するルールを規定する電気通信附属書が作成されている。
 また、米国、EU等の主要先進国間で、高度電気通信サービスの自由化が約束され、我が国も、既に 100%の外資参入を認めている第二種電気通信事業者のVANサービス等について自由化を約束している。
 一方、音声電話サービス等のいわゆる「基本電気通信」の分野については、現状では、各国とも国の重要なインフラとしての規制があるが、このような各国の現状を踏まえ、引き続き自由化に向けた交渉を継続し、1996年4月までに結論を出すこととなっている。
 放送、映画等の音響・映像サービスの自由化については、EUが域内作品の保護等を目的とする域内の放送番組時間規制等の措置を維持する必要から強く反対し、EU、カナダ、オーストラリア等は我が国をはじめとする国々が自由化約束した音響・映像作品の制作・配給等についても自由化約束を行わなかった。また、放送についてはその社会的影響力が大きいことから、我が国を含む大部分の加盟国が、現時点で自由化約束を行っていない。
 

(3)  OECD/ICCP委員会の動向


 経済協力開発機構(OECD)の情報・コンピュータ・通信政策(ICCP)委員会は、情報・コンピュータ・通信に係るシステム及びサービスの分野において、技術政策及びその応用がもたらす政策問題及び経済的社会的影響についての検討を行っており、同委員会において、我が国はOECD加盟国間との政策の調和を推進している。
 OECDでは、1994年3月のG7雇用サミットのフォローアップの一環として、「技術、生産性及び雇用」をテーマに、以下の5つの活動に分けて研究・分析を進めている。
 [1] 技術・生産性と雇用         [2] 技術政策の有効性
 [3] 技術的かつ構造的な変化と労働需要  [4] 情報インフラストラクチャ
 [5] 新しい成長産業
 このうちICCP委員会では情報インフラストラクチャを担当し、検討を進めている。
 また、OECDは、1995年2月に開催された「情報社会に関する関係閣僚会合」で示された諸課題についても、ICCP委員会が中心的役割を担い、他の関連する国際機関と協調しながら、フォローアップを進めることが期待されている。
 このようにOECDでは、国際的な調整が必要な問題を、先取りする形で先進国間で議論しており、我が国としても、これらの議論を国内政策に反映させるとともに、国際政策協調の推進に向けての積極的な参画が今後とも必要となっている。
 

(4)  UPUの動向


 1994年8月、韓国のソウルで開催された万国郵便連合(UPU)の第21回万国郵便大会議において、民間のクーリエ(国際宅配便)の進出による競争の拡大等、郵便事業を取り巻く厳しい環境変化に対応し、国際郵便の新たなサービスを機動的に展開するため、万国郵便条約及び小包郵便物に関する約定の簡素化が行われるとともに、UPUの組織及び機能の見直しが行われた。
 見直しの結果、執行理事会が管理理事会に改組され、大会議から次の大会議までの間のUPUの事業の継続を確保することを任務とすることとなった。また、郵便研究諮問理事会が郵便業務理事会に改組され、郵便業務に関する諸問題を扱うこととなった。
 同大会議において、我が国は郵便業務理事会の理事国に選出され、同理事会の第4委員会(EMS等急送業務を担当)の議長国に任命された。
 また、UPU、郵政庁等の今後5年間の活動指標となる、「UPU戦略計画」及び「ソウル郵便戦略」とともに、国際郵便の品質管理の強化のための活動計画、印刷物の差出重量制限の引き上げ等の国際郵便サービスの改善、到着料制度の見直し等が決定され、これらを内容とする万国郵便条約等の諸文書が採択された。
 今回採択された諸文書は、各国における批准・承認手続を踏まえ、1996年1月に発効する予定である。
 

(5)  APECの動向


 アジア・太平洋経済協力(APEC)は、アジア・太平洋地域の成長と発展の持続、開かれた多角的貿易体制の推進強化、貿易・投資における障壁の削減等を目的とした構想であり、その討議の場である閣僚会議が1989年以来毎年開催されている。
 1994年11月、インドネシアのジャカルタにおいて第6回閣僚会議が開催され、APECの将来の活動においてGIIの概念に関する研究を奨励すること等を盛り込んだ閣僚声明が採択された。
 一方、APECの電気通信専門家会合は、国別・地域別の電気通信情報収集、人材育成、インフラ整備、EDIの導入等について検討を進めている。1994年8月の電気通信専門家会合では、国際VANサービスと電気通信機器の認証に関するガイドラインが採択され、第6回閣僚会議において了承された。
 

(6)  二国間政策協調の推進


  ア 日米電気通信ラウンド・テーブルの開催
 情報通信基盤は経済社会の発展の重要な要素であるとの認識の下、日米両国政府が全国情報通信基盤整備政策について民間部門及び有識者を交えて情報交換を行うとともに、今後の協力の在り方について意見を交換するため、「地球的展望に立った協力のための共通課題-全国情報インフラ推進に関する日米二国間協議」(日米電気通信ラウンド・テーブル)が1994年11月に米国のワシントンにて開催された。
 同ラウンド・テーブルでは、情報通信基盤構築の原則、日米パイロット・プロジェクト間の協力等、両国の情報通信基盤整備に関する幅広い問題が取り上げられ、活発な意見交換が行われた。
  イ 日欧電気通信フォーラムの開催
 日欧間においても、郵政省及び欧州委員会が中心となって推進してきた日欧間の相互理解及び協力関係の促進を目的とする官民共同の情報交換の場として、1994年6月、フランスのパリにおいて「日欧電気通信フォーラム」が開催された。
 同フォーラムでは、新たな情報通信インフラの整備、マルチメディアの発展とこれに向けての対応等、電気通信に関する幅広い問題が取り上げられた。なお、次回フォーラムは、1995年9月に日本で開催する予定である。
  ウ 二国間郵政定期協議の推進
 社会経済の国際化の進展に伴い、多くの課題が相互に密接に関連し合い、複雑化している状況に対し、国際機関等において、多くの国々の間で調整を図るほか、二国間で相互の現状や政策課題等について協議を行う場の重要性が増大している。
 郵政省は、10か国1機関(第2-2-2-2表参照) との間で原則毎年1回定期協議を開催し、情報通信及び郵政事業の現状と課題について、情報及び意見の交換を行い、国際的な相互理解と協調関係を促進している。
 1994年度においては、情報通信基盤の整備や新しい移動体通信システムの開発・市場動向、APEC及びGATTにおける対応、「国境を越えるテレビ」等、電気通信、放送及び郵政事業に関する様々な情報や意見の交換が行われた。
 

(7)  国際衛星通信をめぐる動向とその対応


  ア インテルサットとインマルサット
 国際電気通信衛星機構(インテルサット)は各国の電気通信事業者等に対して宇宙部分を提供するために、国際海事衛星機構(インマルサット)は海事通信の改善に必要な宇宙部分を提供するために発足した国際機関であり、ともに各国の電気通信事業者等の共同出資によっている。
 これまで国際衛星通信は、両機構によって、安定的な世界通信を確保する観点に立ち運営されてきた。しかしながら、近年の衛星通信技術の進歩、サービスに対する需要の多様化等を背景に、両機構とは別個の私企業による国際衛星通信システムが相次いで出現してきており、今後、これら「別個システム」の動きが活発化することと予想されている。
 この動きを受け、インテルサットは1994年10月に開催された第19回締約国総会において、別個システムとの経済的調整手続の大幅な簡素化の推進及び今後の組織の在り方に関する検討等を行っている。
 また、インマルサットは1994年12月の第10回臨時総会において、将来の組織の在り方に関する検討等を行うほか、中軌道(ICO:Intermediate Circular Orbit )に合計12機の周回衛星を打ち上げ、小型携帯端末により、地球のほぼ全域をカバーする移動衛星通信サービス(インマルサットPサービス)を提供することを計画中であり、1999年に開始する予定で準備を進めている。
(コラム参照)
  イ 別個システムの動向とその対応
 1980年代から、民間企業等が自ら衛星を打ち上げて多種多様な国際通信サービスの提供を行う別個システム構想が打ち出され、そのうちのいくつかは実用化されている。さらには、低軌道周回衛星システム(LEO:Low Earth Orbit )を利用して国際移動通信サービスを行う構想もあがっており、その一部には構想実現に向けて実質的な作業が始まっているものもある。
 アジア・太平洋地域においても、既に多くの別個システム計画が発表されている。しかしながら、有限な静止軌道位置に無秩序に数多くの衛星が打ち上げられることとなると、衛星相互に有害な電波干渉を引き起こしかねない。ITU憲章・条約の無線通信規則(RR:Radio Regulations )では、この衛星間の混信問題を解決するための国際的な調整手続が規定されており、郵政省はこの調整手続に従い、我が国の衛星通信網を混信から守るとともに、我が国の新しい衛星軌道位置確保のために外国との調整を行っている。


ITU全権委員会議

日米電気通信ラウンド・テーブル

第2-2-2-2表 二国間郵政定期協議の開催状況(1994年度現在)

 

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