平成7年版 通信白書

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第3部 マルチメディア化と情報通信市場の変革

2 主な情報通信政策

 

(1)  電気通信改革法案


  ア 背景
 米国における電気通信事業は、情報通信に関する基本法的性格を有する「1934年通信法」に基づき設立されたFCCによる規制の下で、旧AT&T(ベル・システム)を初めとする民間事業者によって市場の拡大が図られてきた。
 しかし、1960年代末から1970年代にかけて、技術革新による通信の高度化、利用者ニーズの拡大等を背景に、電気通信政策は規制の緩和及び競争の促進の方向へ転換され、1982年のMFJに基づき、1984年に旧AT&Tは、長距離・国際通信事業を行うAT&Tと、地域通信事業を行う22社のベル電話会社(BOC:Bell Operating Company)を傘下に持つ7社のRHCとに分割された。
 これを発端として、長距離通信事業者間の競争が進展し、長距離通信事業者及び利用者の双方において、より良質かつ低廉な地域通信網へのニーズが高まったこと等を背景に、地域通信事業においても、都市部を中心に新たに光ファイバ網を敷設し、長距離通信事業者へのアクセスサービス、市内通信サービス等を行う競争アクセス事業者(CAP:Competitive Access Provider )が出現し、BOCとの競争が進展している。
 一方、RHCが自社営業エリア内でケーブルテレビ事業を行うことは、「1984年ケーブル通信政策法」によって禁じられていたこともあり、実質的にほぼ独占かつ料金に関しては非規制という状況にあったケーブルテレビ事業者により、料金の大幅な値上げ等が行われた。このため、「1992年ケーブルテレビ消費者保護及び競争法」が成立し、料金規制を中心にケーブルテレビ事業者に対し規制が行われた。また、これに先立ち、FCCが電話会社による映像番組の伝送を許可する「ビデオ・ダイヤルトーン裁定」(1992年)を下し、これを受け、RHC等によるビデオ・ダイヤルトーン実験や商用化の動きが見られる。
 米国では、このようなRHC等において指向されている事業の拡大への制度的対応の気運が高まってきている。
  イ 電気通信改革法案の概要
 1994年6月、連邦議会下院において、電気通信の改革に関する2つの法案が相次いで可決された。一方は、RHCによる長距離通信及び機器製造の禁止を条件付きで解除することを主な内容としており、他方は、RHCによる自社営業エリア内でのケーブルテレビ事業の兼営を条件付きで認めることを主な内容としている。可決された両法案は一本化され、同様の趣旨を内容として上院で審議されている「1994年通信法案」との調整を待つこととなった。
 しかしながら、同法案は、BOCの独占となっている地域通信市場に競争原理を導入することの見返りとして、他分野への進出を認めていこうとする意図があったため、法案中に盛り込まれていたBOCに対する独占力濫用の防止策等について、RHC等が反対していた。このため、上院における同法案の審議は9月に打ち切られ、下院で可決された法案との一本化による包括的な電気通信改革法案は、1994年末で終了する会期においては廃案となった。
 なお、1995年1月に、新会期の開会に伴い、前掲の法案を一部修正した新法案が下院で再提出されるとともに、上院においても同様な内容の法案が提出されるなど、競争を促進する動きが強まっており、今後の電気通信改革法案の行方が注目されている。
 

(2)  情報通信基盤の整備構想


  ア 背景
 米国における財政収支の状況をみると、1993年度に約2千5百億ドルの赤字を抱えており、現政権においても、財政赤字の削減が優先課題として取り上げられている(第3-1-1-1図参照) 。歳出の内訳をみると、保健福祉費の占める割合が年々増加しており、現政権は当該分野の制度改革等の実施による歳出の削減を図ろうとしている。
 一方、米国における失業率をみると、1994年において 6.1%となっている。前年に比べ 1.3ポイント下がっているものの、依然として深刻な問題となっている(第3-1-1-2図参照) 。
  イ NII構想の概要
 現政権がNTIAを中心として設置した情報基盤タスクフォース(IITF)は、「全米情報基盤(NII)」の促進により社会・経済構造の変革を目指し、その構築のための民間部門の取組を補完・強化するため、政府が9つの目標に向かって行動することを表明した「NIIに関する行動アジェンダ」を1993年9月に発表した。
 NIIの整備は、米国の国際競争力の強化及び市場の拡大による、雇用の創出と経済成長の促進を主な目的としており、医療、教育、研究、行政等のサービス改善によって国民生活水準の向上等をもたらし、米国が抱える諸問題の解決に大きく貢献するものとして位置づけられている。
 「NIIに関する行動アジェンダ」に示された政府による9つの行動目標に関連し、1994年9月、NII構想に基づき過去1年間に進展があった事例に関するプログレス・レポートが発表された。同レポート中では、民間企業の研究開発に対する優遇税制の施行、地方の学校・病院に対する補助金の交付、NTIAによる双方向情報基盤へのアクセスを促進するための提案の募集等を挙げている。


第3-1-1-1図 米国における財政収支の推移

第3-1-1-1図 米国における失業率の推移
 

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