平成7年版 通信白書

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第3部 マルチメディア化と情報通信市場の変革

1 ネットワーク技術

 

(1)  ATM技術


 ATM(Asynchronous Transfer Mode)は、21世紀のマルチメディア時代に向けて、音声・テキスト・データ・画像・映像等の多様な情報を一元的に多重・交換・伝送できる方式であり、広帯域ISDNの中核となる技術である。ATMは、高速交換が可能な回線交換の利点(送受する情報をセルと呼ばれる固定長のデータブロックで扱うため、網内のプロトコル処理が簡素化でき、高速通信への対応が可能)と、回線帯域を効率よく利用可能なパケット交換の利点(送出情報がある場合だけ有効セルを送ることで、効率的に回線帯域を利用することが可能)を兼ね備えた転送方式である。
 当初ATMは、1988年にCCITT(現ITU-T)において広帯域ISDNの基盤技術として採用された。最近では、LANの分野での利用が先行しており、公衆網、私設網、私設網-公衆網間にわたるシ-ムレスな通信方式として期待されている。
 我が国では、従来より交換機を手掛けてきた企業により通信事業者、ケーブルテレビ事業者向けの大規模なATM交換機が開発され、米国市場での納入実績をあげている。また、米国が最も進んでいると言われるATM-LANの開発に積極的に取り組む日本企業もあり、既に製品を発表したものもある。また、ATM関連の実験については、関西文化学術研究都市における広帯域ISDN実用化実験、通信事業者によるマルチメディア共同利用実験等が行われている。また、商用ATMサービスは、1995年以降に開始される予定である。
 米国では、主にLAN間を接続するバックボーンとしての利用からATMの製品化が始まり、1992年にATMフォーラム(後述)でUNI(User Network Interface)の実装標準が策定されたのを機に、1993年以降ATMハブ等のATM-LAN関連製品が相次いで発表されている。これに関しては、ATMスイッチを開発する企業を中心とした企業間の技術提携をベースに製品化が進められ、いくつかの企業グループが形成されている。また、商用ATMサービスについては、1993年以降米国の通信事業者数社によりPVC(Permanent Virtual Channel) サービスが提供されている。
 

(2)  伝送技術


 伝送技術のうち光ファイバを伝送媒体とする光ファイバ伝送方式は、大容量の情報を長距離にわたって、経済的に高品質に伝送できる方式であり、ATM技術と同様に広帯域ISDNの中核となる技術である。光ファイバ伝送技術の発展は、伝送路である光ファイバと発光源であるレーザの2つの分野の技術の進展が寄与している。1970年代に低損失の光ファイバ、室温・連続発振のレーザが実現されたことから、急速に光ファイバ伝送方式の実用化が進んだ。
 従来、光ファイバ通信は、高速・大容量で、中継距離が長く取れるなどの特長を持つことから中継系通信網に用いられてきたが、近年のネットワークのマルチメディア化への対応のニーズから、加入者網への適用の実現に向け、研究開発、実験等が精力的に行われている。
 より高速・大容量を目的とした中継系の伝送技術としては、ギガビット、テラビット級の容量を目指し、通信事業者及びメーカー等において時分割多重(TDM)伝送技術、光周波数分割多重(FDM)伝送技術等が研究されている。波長多重による光伝送実験では、米国の通信事業者による80Gb/s -137km や日本のメーカーによる 160Gb/s -150km の光伝送実験の成功が報告されている。また、1995年1月には日本の通信事業者により80Gb/s - 500kmの光ソリトン伝送実験の成功も報告されている。
 加入者系の光化については、現在の電話を中心とする狭帯域サービスや今後の広帯域サービスの提供に柔軟に対応した経済的なネットワークを構築することが課題となる。この観点から各国において、光加入者伝送方式や加入者系光装置の検討、実験等が行われている。
 我が国においては、7年度から新たに加入者系光ファイバ網整備に係る支援措置が開始されるが、これに先立ち、関西文化学術研究都市における新世代通信網パイロットモデル事業において、通信と放送を統合した試行サービスを行い、利用面、制度面、コスト面、技術面等の課題を探るための実験が行われている。ここでは、通信系 1.3μm 、放送系 1.5 μm の光波長分割多重(WDM)伝送方式を用いたシステムが採用されている。
 また、米国における加入者系の光化は、既存のケーブルテレビの設備普及率が90%と高いこともあって、現在のところ既設の設備に光ファイバを組み合わせた光・同軸ハイブリッドシステムを用いる方式に移行しつつある。我が国においても、近年新規ケーブルテレビ事業者を中心に光・同軸ハイブリッドシステムの導入が進んでいる。光・同軸ハイブリッドシステムは同軸部分においても従来より広い帯域を確保することが可能となり、ケーブルテレビの多チャンネル化が容易となる。さらに、光化の初期の段階を想定し、米国の事業者により既存のメタリックケーブルをそのまま利用して、 1.5Mb/s 程度までのデジタル信号を伝送するHDSL(High-bit-rate Digital Subscriber line) 、ADSL(Asymetrical Digital Subscriber line) 技術の検討も進められている。

 

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