平成7年版 通信白書

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第3部 マルチメディア化と情報通信市場の変革

4 ハードウェア技術

 

(1)  ビデオサーバ


 ビデオサーバは、汎用のデータサーバをベースにした映像用のサーバで、映像制作のための編集・特殊効果等の分野で導入されたり、ビデオ・オン・デマンドを始めとする映像配信用の分野で導入されたりしている。ビデオサーバには数十台のクライアント(利用者)に対応する企業・公共向けのシステムから、数千を超えるクライアントに対応する事業者向けのビデオ・オン・デマンド用システムといったバリエーションがあり、それぞれ各企業において研究開発、製品化が進められている。
 映像をはじめとする様々な情報をデジタル化し、そのデータを分散して蓄積し、複数の利用者の要求に応じて映像情報等をクライアントのもとに伝送する機能をビデオサーバが持っている点を考慮すると、その製品化に必要な技術は、映像や放送に関連する技術よりオンライン・データベース技術に近い。また、近年のコンピュータの高性能化やダウンサイジング化により、コンピュータメーカーにとっては自社がラインアップするワークステーションや汎用機を使ったビデオサーバの製品化が可能となった。これらを背景に、ビデオサーバの開発はソフトウェア会社、コンピュータメーカーを中心に進んでいる。
 米国では、1994年後半から1995年にかけて米国各地で始まるビデオ・オン・デマンドやホーム・ショッピング等の試行サービスに向けて、コンピュータメーカー各社が開発したビデオサーバが、ケーブルテレビ事業者、通信事業者に納入されている。
 また、従来スーパーコンピュータや大型汎用コンピュータを製造してきたメーカーも、大型コンピュータ機器にビデオサーバ用プラットフォームとしての需要が期待できるため、ビデオサーバの開発に取り組んでいる。
 また、ソフトウェア会社では、大規模ビデオサーバ用システム・ソフトウェアを開発し、スーパーコンピュータに移植している。さらに、パーソナルコンピュータを組み合わせてビデオサーバを構成するシステム・ソフトウェアの開発も行われている。
 日本企業において製品化されている小規模ビデオ・オン・デマンド用のビデオサーバは、米国企業の開発するビデオサーバソフトを搭載する例が多い。また、自社がラインアップするワークステーションをベースにビデオサーバを開発するメーカーもある。
 

(2)  セット・トップ・ボックス


 もともとセット・トップ・ボックスは、ケーブルテレビ事業者が視聴者を特定し番組の盗聴を防ぐための装置として登場したもので、テレビの上に設置することからこう呼ばれている。既存のセット・トップ・ボックスは、ケーブルテレビや衛星放送サービスを受ける際に、テレビ受像機に不足する機能(例えば、スクランブル解除機能等)を受け持つ。
 マルチメディア時代に向けた次世代セット・トップ・ボックスは、ビデオ・オン・デマンドなどの双方向サービス、さらにはホーム・ショッピングやゲーム配信等のサービスに対応する機能を備え、家庭でのマルチメディアサービスには不可欠な端末である。
 次世代セット・トップ・ボックスにおいては、ビデオ・オン・デマンドを対象にして考えると、デジタル動画の圧縮・伸長、大量データの伝送、双方向通信等の技術が必要であり、これはコンピュータの製品化に必要な技術と似ている。また、セット・トップ・ボックスがマルチメディア時代の“家庭の基本的な端末”として位置付けられ、セット・トップ・ボックス市場を押さえることで、家庭に入る情報機器、映像機器など他の市場でも主導権を握ることができるとの期待から、これまでケーブルテレビ関連機器メーカーの独壇場であったセット・トップ・ボックス市場に、コンピュータメーカー、家電メーカー等が続々と参入している。
 米国では、ケーブルテレビ関連機器メーカーが開発するセット・トップ・ボックスが、双方向サービスの実験用の端末としてケーブルテレビ会社に納入されるなど実績が作られている。また、米国の企業が開発したセット・トップ・ボックス用のOSは、異なるアーキテクチャのマイクロプロセッサに対応し、いろいろなアプリケーション開発環境に対応するという特長があり、機器メーカー等にライセンス供与されている。また、ビデオサーバの開発を手掛ける企業との連携により、セット・トップ・ボックス市場への参入を表明しているコンピュータメーカーもある。
 日本では、米国企業よりセット・トップ・ボックス用のOSの供与を受けて、製品の開発を行っているケースが多い。また、米国のコンピュータメーカーとの提携により、ゲーム機をベースにセット・トップ・ボックス市場に参入を図る日本の家電メーカーの動きもある。
 また最近では、セット・トップ・ボックス市場の制覇を目指して日米の大手メーカーによる共同開発の動きも表面化し、セット・トップ・ボックスをめぐる開発競争はますます激しくなることが予想される。そうした一方で、国際的な標準作りを目指す民間団体のDAVIC(後述)が、セット・トップ・ボックスを含めたビデオ・オン・デマンドシステムの標準を作ろうと活動を始めている。
 

(3)  携帯情報機器


 携帯情報機器は、常に携帯できる大きさ(小型・軽量)で、個人のスケジュールや電話帳を管理(PIM機能)し、いつでもどこでもコミュニケーション(通信機能)できるといった特長を有し、将来的にはさらに多くの人に普及する情報ツールになると考えられている。
 このように、携帯情報機器は将来大きな市場を築くとの予測から、日米の各企業により携帯情報機器の開発が行われている(第3-3-1-2図参照) 。各企業は、携帯情報機器の製品化にあたっては、様々なコンセプトによりアプローチを行っている。具体的には、パーソナルな情報機器として電子手帳の機能からのアプローチ、電子手帳とパソコンの機能を融合するアプローチ、通信機能を最重要視したアプローチである。
 既に日米の市場において、いくつかの製品が登場しているが、日米とも大きな市場を形成するには至っていない。そこで、携帯情報機器市場をさらに拡大するために、誰もが簡単に利用できるようにコミュニケーション機能を強化した製品の出荷も始まっている。その筆頭にあがるのが、「通信ソフトウェア」技術で述べた、米国のあるベンチャー企業が提案するシステム・ソフトウェアを使った製品群である。これらは、「パーソナル・コミュニケータ」としての新たな方向性を拓くものと期待されている。また、日本の大手企業2社の技術提携によるパソコン通信サービスへのアクセス機能を強化した携帯情報機器も発表されている。


第3-3-1-2図 携帯情報機器市場の予測
 

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