平成9年版 通信白書

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第3章 放送革命の幕開け

(5)放送事業の今後の事業展開

 ア 今後の事業展望
 今後、放送事業において、多事業者間による競争の激化が予想される中で、放送事業者が現在行っている形態以外の放送事業や、その他事業へ積極的に進出を目指す動きが見られている。前述のアンケート調査によると、委託放送事業者の今後の事業運営(複数回答)に関しては、「現在のメディアでチャンネル数を増やしたい」(59.5%)、「他の放送関連業務(データ放送等)にも進出したい」(50.0%)、「海外への放送を実施したい」(38.1%)というように、積極的に経営拡大を考えている先が多くなっている(第3-2-20図参照)。
 ちなみに「通信産業実態調査」(郵政省)により、放送事業者が今後進出を希望しているサービスについて見ると、インターネットサービスを希望する比率が最も高くなっている。地上放送事業者については他の放送事業への参入希望としてBS放送を挙げる比率が高い(第3-2-21図参照)。また、ケーブルテレビ事業者については、特にインターネット接続サービス等のケーブル網を生かした通信事業への参入希望が多くなっており、インターネット接続サービス、ホームセキュリティ、企業間データ伝送等のサービス等により既に通信事業へ参入が実現されている例も多数見られている(第3-2-22表参照)。
 なお、前述のアンケート調査によると、放送産業全体の将来像としては、「放送と通信の融合化が進展し、新しいサービスや事業が誕生する」(78.4%)、「多様な消費者のニーズにこたえ、市場に数百チャンネルの番組が提供されるなど成長が期待される」(67.6%)、「外国企業の参入が増加し影響力が増大する」(45.9%)といった項目の回答が多くなっており、新たな事業者の増加やサービスの展開等、大きな変革を見込む事業者が多くなっている(第3-2-23図参照)。
 イ 新規参入事業者の動向
 CSデジタル多チャンネル放送の開始、多様なサービスの出現により、放送産業以外の資本による放送産業への参入が増加している。CS放送の委託放送事業者数の推移を見ると、アナログ事業者についても順次増加してきていたが、特に、衛星デジタル多チャンネル放送の開始に伴い8年以降事業者が急増している(第3-2-24図参照)。こうした委託放送事業には、他産業からの参入が顕著に見られている。前述の委託放送事業者向けアンケートにより、参入前に営んでいた事業の動向を見ると、放送以外の事業を営んでいた事業者は60%に上り、その事業内容も、新聞、出版、流通、その他(教育、燃料等)と様々である(第3-2-25図参照)。
 前述のアンケート調査により試算すると、委託放送事業者の放送事業への参入に際し、放送事業者以外から約490億円程度の資本の流入が見られている。
 資本を出資している企業の業種を見ると、商社による出資がもっとも多くなっているほか、情報サービス業、製造業、銀行といった職種においても比率が高い。同時に、親族・友人等を含む個人からの出資も多くなっており、個人的な資金調達に依存する姿も見られている(第3-2-26図参照)。
 ウ 新規参入増加の背景
 デジタル化に伴う多チャンネル放送の開始は、放送事業への参入の可能性を飛躍的に増大させており、前項で見たように事業者も著しく増加している。
 今日の多様化した個人のニーズにこたえるためには、地上放送に見られるような総合的な放送に加え、個人の嗜好や時間のニーズに合った専門的な放送を視聴できる環境が必要であり、我が国においても、こうしたニーズに対応できる多チャンネル放送に事業としての可能性を見出している事業者が多いものと予想される。
 こうした要因に加え、デジタル化に伴う多チャンネル化によりハード面での物理的な参入コストが低下し資金負担が低減していることも、その大きな要因の一つであると考えられる。
 CS放送のコストについて見ると、委託放送事業の経費に大きく影響しているトランスポンダ(注13)の利用料金については、従来のアナログテレビジョン放送の場合、1チャンネルの放送を行うために1トランスポンダの利用料金が必要であったため、年間約4億円の負担(トランスポンダ1本分の利用料金)が必要であったが、デジタル化に伴い1トランスポンダで4(6Mbpsの場合)又は6(4Mbpsの場合)チャンネルの放送が可能となっており、実際に要している利用料金としては年間の負担は約3分の1〜5分の1まで低下している(注14)。こうしたコストの低下により従来に比べ少ないコストで放送事業に参入でき、参入の容易化が進展しているのである。また、これは既存の事業者の立場から見れば、従来のアナログ放送1チャンネルと同程度のコストで4〜6チャンネルの放送を実現できることにもなるのである。
 エ 放送サービスの提供形態の多様化
 こうしたコストの低下に伴い、チャンネル数の量的な増加に加え、放送サービスの提供形態にも様々な広がりが見られている。
 コストの低下により従来に比べ相対的に少ない視聴者を対象としても、放送が事業として成立するようになっていることに伴い、限られた一定のニーズに焦点を絞った専門的な放送を行うことも可能である。現在、衛星デジタル多チャンネル放送においては、通信販売のショッピング情報を専門的に放送しているチャンネルや流通販売業務のPR用に製品情報を専門的に放送しているチャンネル等、様々な無料放送が見られている。また、ケーブルテレビやCSのアナログ放送においても映画、スポーツ、ニュース等、個別の分野に特化したチャンネルが存在していたが、衛星デジタル多チャンネル放送においては、個別分野の中でも更に視聴者の範囲を絞った専門性の高い放送が実現されている。
 例えば、教育分野の中でも中学生にのみ対象を絞っているチャンネル、高校生にのみ対象を絞っているチャンネルや、英会話のみを提供しているチャンネル等が存在している。また娯楽分野でも、海外旅行情報のみに限定したチャンネル、囲碁・将棋のみを放送しているチャンネル、カラオケの専門チャンネル等が見られている。その他、特定の国の情報に絞った外国語放送や、気象情報のみを提供しているチャンネル等を含め、多種多様なチャンネルが存在している(第3-2-27図参照)。今後もチャンネル数の増加に伴い、視聴者ニーズに応じて、また事業者のアイディアを生かした様々な専門分野のチャンネルが提供されてくるものと予想される。
 さらに、衛星デジタル多チャンネル放送においては、大量のチャンネルを確保することが可能であるため、数チャンネルを用いて、見たい時間に番組を見ることができるニア・ビデオ・オン・デマンドも提供されている。これは、一つのPPV(注15)番組の放送に数チャンネルを用い時差をつけて放送するものであり、例えば2時間の映画を4チャンネルを用い30分ずつ時差をつけて放送すれば、視聴者は最大30分の待ち時間で最初から番組を楽しむことができるものである(第3-2-28図参照)。
 デジタル化に伴う多チャンネル放送の実現により、こうした多数事業者による多様な番組の提供、新しいサービスの提供が可能となり、視聴者の放送利用の選択肢も更に拡大することとなる。

第3-2-20図 委託放送事業者の今後の事業運営

第3-2-20図 委託放送事業者の今後の事業運営

第3-2-21図 今後新たに展開したい事業(上位5項目)

第3-2-21図 今後新たに展開したい事業(上位5項目)

第3-2-22表 第一種電気通信事業許可を受けたケーブルテレビ事業者

第3-2-22表 第一種電気通信事業許可を受けたケーブルテレビ事業者(9年3月5日現在)

第3-2-23図 委託放送事業による放送産業の将来像に対する見方

第3-2-23図 委託放送事業による放送産業の将来像に対する見方

第3-2-24図 委託放送認定事業者(CS放送)数の推移

第3-2-24図 委託放送認定事業者(CS放送)数の推移(1)

第3-2-24図 委託放送認定事業者(CS放送)数の推移(2)

第3-2-25図 委託放送事業者の参入前の事業内訳

第3-2-25図 委託放送事業者の参入前の事業内訳

第3-2-26図 委託放送事業者の出資元業種比率

第3-2-26図 委託放送事業者の出資元業種比率

第3-2-27図 番組ジャンル別比率の比較

第3-2-27図 番組ジャンル別比率の比較

第3-2-28図 ニア・ビデオ・オン・デマンドのイメージ

第3-2-28図 ニア・ビデオ・オン・デマンドのイメージ

 

 

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