平成10年版 通信白書

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第1章 デジタルネットワーク社会の幕開け〜変わりゆくライフスタイル〜

第2節 生活と通信

  2. 家族・友人関係と新しいコミュニティ活動

 ここでは、家族・友人関係の変化、また、地域、ボランティア等の新しいコミュニティ活動について分析を行う。

(1) 一般的動向

ア 家族の役割
 経済企画庁の「平成7年度国民生活選好度調査」によれば、どの年代でも家族の役割として、「経済生活の安定」、「子供を生み育て、教育すること」などの機能より、「互いに助け合い、支え合うこと」、「休息・安らぎを得ること」という精神的機能をより重視する傾向にある(第1−2−8図参照)。

第1−2−8図 重要だと思う家族の役割(グラフ)
重要だと思う家族の役割の表
イ 社会的活動における関心の広がり
 社会的活動とは、総務庁が行った「社会生活基本調査」の定義によれば、「報酬を目的としないで自分の労力、技術、時間を提供して、地域社会や個人・団体の福祉増進のために行う活動」をいう。8年に行われた同調査によれば、何らかの社会的活動を行ったことのある人の割合は、26.9%であり、地域社会への奉仕を行ったことがある人の割合は18.8%となっている(第1−2−9表参照)。

第1−2−9表 社会的行動の種類別行動者率
ウ NPO、NGOの団体数
 市民の社会活動を促進する民間非営利組織、非政府組織の台頭が顕著であるが、経済企画庁が8年に行った「市民活動団体基本調査」によれば、8年9月末現在で日本における、市民活動団体の数は、85,786団体である。また、それらの団体の活動分野は、社会福祉系が37.4%、地域社会系が16.9%、教育・文化・スポーツ系が16.8%、環境保全系が10.0%となっている(第1−2−10図参照)。

第1−2−10図 市民活動団体の主な活動分野(グラフ)
第1−2−11図 PHSの利用者属性(グラフ)
(2) 家族・友人関係と情報通信メディアの利用実態

ア PHS
(ア) 利用実態
 PHSは、家族・友人とのコミュニケーション手段として、プライベートな利用が中心である。このことは、第一に、PHSの利用目的を見ると、家族とのコミュニケーション(66.4%)や友人とのコミュニケーション(56.9%)を挙げている者の割合が高いこと(「生活調査」)、第二に、PHSは15.3%(9年)の世帯に普及しており(「動向調査(世帯)」)、利用者属性について見ると、女性の割合が高く、主婦、パートの割合が高いこと(第1−2−11図参照)、第三に利用時間について見ても、20時から4時までの夜間における通話回数比率が多いことから分かる(第1−2−12図参照)。

第1−2−12図 移動体通信等時間帯別通話回数(グラフ)
(イ) 生活の変化
 PHS利用者の生活の変化について見ると、家族・友人との会話等が増加する傾向がある。また、PHS利用者の多くが、家族・友人とのコミュニケーションが手軽にできるようになった点について期待どおりの効果があったと回答している。このことから、PHSにより、相手がどこにいても連絡がとれるようになった結果、家族・友人との絆が強まったと考えられる。
 また、会社関係以外の知人が増加し、活動範囲が拡大する傾向にある(「生活調査」)。

イ ファクシミリ
(ア) 利用実態
 ファクシミリは、26.4%(9年)の家庭が保有している(「動向調査(世帯)」)。ファクシミリの利用者は、ほぼ男女同率であるが、主婦の利用が高い割合(23.6%)を示している(第1−2−13図参照)。利用頻度は、「よく利用する」及び「ときどき利用する」との回答が約60%を占めており、よく利用されている(「生活調査」)。また、ファクシミリの利用目的としては、通販の申し込み(44.0%)、アンケートの応募・投稿(33.8%)、様々な情報の入手(33.3%)、友人との親密なコミュニケーション(29.5%)が挙げられており、友人とのコミュニケーションに使われている面もある(「生活調査」)。

第1−2−13図 ファクシミリの利用者属性(グラフ)
(イ) 生活の変化
 ファクシミリ利用者の生活の変化について見ると、家族・友人との会話等が増える傾向にある。これは、ファクシミリ利用者は、相手が不在の場合であってもコミュニケーションが図れるようになり、家族・友人との連絡が容易化して意思の疎通が円滑に行えるためと考えられる。また、様々な情報を容易に入手できることから、環境問題、ボランティア等の社会問題への関心が高まる傾向にある(「生活調査」)。

(3) 新しいコミュニティ活動と情報通信メディアの利用実態

ア インターネット
 従来は、有線電話やオフトーク通信が、その同報性、速報性によって、地域コミュニティ内の情報共有化に寄与していたが、近年、インターネットホームページや電子メールを活用し、情報提供やコミュニティ内の情報共有を行う新しいコミュニティが現れつつある。

イ 有識者インタビュー
 情報論、ネットワーク論、意思決定論などを通して、ボランタリーな組織原理を研究し、VCOMプロジェクト(注7)では、地域コミュニティの情報化、障害者の社会参加の仕組み作りなど、ネットワークコミュニティの実験を実施している金子郁容慶應義塾大学大学院教授にインタビューを行った。
(ネットワーク型組織)
 組織には、「統制型」「市場型」「ネットワーク型」の3つの形態がある。「統制型」は従来の官僚組織や企業組織のような組織であり、「市場型」は1人1人が独立して活動する組織である。コミュニティ活動は、「ネットワーク型」組織にあたる。
 自己利益のために「統制型」「市場型」組織からは「いい情報」しかでてこない。「ネットワーク型」は、「危ない情報」「悪い情報」「楽しい情報」がでてくる可能性があり、それが強みでもあるが、統制力や直接的な経済的動機を持たない「ネットワーク型」組織は、脆弱な組織である。情報の独占ではなく、情報共有によって強みを産み出し、脆弱性をつながりに転じていくことが、「ネットワーク型」組織の存在価値である。そして、情報通信ネットワークは、そのための情報共有の手段として活用できる。
 例えば、藤沢市(神奈川県)で電子会議室プロジェクトを行っているが、ゴミ問題が話題になった時、市がゴミ処理に関する視察会を実施したことが契機となり、それまで単純に市を批判してきた市民も、市の対応に理解を示すようになった。これは、情報の独占よりも、情報通信ネットワークを通じた情報共有の方が、結果として強みを増す例である。
(ネットワークが普及した社会)
 インターネットにより、世界は均一化する面がある一方、他とは違う面、個性が尊重され、多様化する面もある。その中で、他とつながることで個人の様々な能力を発揮する場が提供され、誰でもが主役になれる世界が実現されるともいえる。
 しかしながら、情報通信ネットワークが普及した社会は、楽観的にいえば、多様で豊かな社会であるが、悲観的にいえば、統制のとれない危ない社会であるともいえる。
 これからは、1人が複数の人的ネットワークに参加していくと考えられる。日本人は、歴史的に「結」「講」「座」等様々な複数の人的ネットワークに参加するのが得意であったことから、今後の見通しは明るいと考えてよいのではないか。

ウ 先進的な活用事例
(ア) 地域コミュニティ活動
 三田市(兵庫県)ゆりのき台自治会の取組は、インターネットを活用してコミュニティ活動を活性化させた好事例であるといえる。
 ホームページ開設のきっかけは、発展途上のニュータウンだからこそ「街づくりには情報の共有が大切」という思いからであった。自治会内の大手電気メーカー社員やシステムエンジニアらマルチメディアに精通したメンバーがボランティアで協力し、9年2月、自治会としては全国でも珍しいホームページを発足させた。
 ホームページの内容で注目を集めているのが、住民の意見交換のスペースである「街のビジョン作りを目指す住民トーク」である。地域の問題、行政への要望等が多数寄せられ、様々な年齢層からの共感・反発など、街の発展のための意見で溢れている。
 住民のインターネット利用率について、9年6月にアンケートを実施(注8)したところ、自治会のホームページを見たことがある人は、47%おり、そのうち81%の人がホームページは役に立つと回答している。
 課題としては、「情報内容の更新や充実のための作業が負担」、「インターネットを使えないメンバーがいる」、「一部の人に負担が集中」などの情報リテラシーの差異に起因する問題が挙げられている。
(イ) 広域的コミュニティ活動
 インターネット等のネットワークにより、誰でも手軽に簡単に情報の受発信が可能となったことから、関心を同じくする者の地域性に限定されない広域にわたるコミュニティが新たに成立しており、ネット上で自由かつオープンな双方向のコミュニケーションが積極的に行われている。
  [1]
 WOM(Women's Online Media)は、全国各地の女性グループ間のネットワーク作りを目的として、7年に、会社員、主婦、学生等女性7人により設立された任意団体であり、インターネットにより子育て等の女性のための情報を収集・提供している。子育てについて は、ホームページ上で「保育所情報」等の提供を行っているほか、電子メールにより「子供」「育児」「子育てと仕事の両立」などの問題についてメンバー間で意見交換を行っている。WOMへの参加は、インターネット上で可能であるため、メンバーが増え、9年9月現在、31人が参加している。
  [2]
 この他、インターネット上で地域コミュニティ情報の交換などを行う「おがれ27」(北海道)等、様々なコミュニティがインターネット上に存在する。

(4) ボランティア活動と情報通信メディアの利用実態
 ボランティア団体においては、従来は、情報提供や会員間の情報交換は定期的に発行する機関誌によるものが中心であったが、近年、インターネットホームページや電子掲示板(ホームページ上)を利用して、メンバー間の情報交換を実施したり、広く一般向けに広報活動を行う例が見られる。
 ボランティア団体のホームページ開設の効果としては、「活動内容が社会により広く知られるようになった」、「他のボランティア団体との交流が活発になった」、「メンバーの数が増大した」、「メンバー同士の情報交換が活発になった」などのボランティア活動の活発化が挙げられている(郵政省調査(注9))、(第1−2−14図参照)。

第1−2−14図 ボランティア団体のホームページ開設の効果(グラフ)
 これは、もともとボランティア活動に参加したいという意欲のある人が、インターネットを通じてその活動に関する情報に接する機会を得た結果、積極的な取組を行うようになったためと考えられる。また、インターネットを利用することで簡単に情報交換できることから、ボランティア団体相互間・メンバー相互間のつながりが強まったと考えられる。

(5) 効用と課題
 情報通信ネットワークの発達により、時間、空間を問わずに誰とでも情報交換ができるようになることから、 [1] 家族・友人関係の絆がさらに強まり、 [2] 社会的関心を同じくする者どうしの新たな人的ネットワークが構築され、 [3] ボランティア活動団体相互のつながりの強化やボランティア団体の活動の活発化などの効用が生じている。
 課題としては、ネットワークに参加するための情報通信機器・ネットワークに対する情報リテラシーの問題や通信料等の費用負担軽減等が挙げられる。



 

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