第1章 デジタルネットワーク社会の幕開け 〜変わりゆくライフスタイル〜
第1節 情報化の動向
第2節 生活と通信
4. 趣味・娯楽
8. 地方行政サービス
第3節 情報リテラシー
第4節 サービスが抱える問題(ネットワークサービスを安心して利用できる環境の整備)
第5節 デジタルネットワーク社会の実現に向けて
第2章 平成9年情報通信の現況
第1節 情報通信産業の現状
第2節 情報通信経済の動向
第3節 情報通信サービスの動向
1. 国内電気通信料金
第4節 通信料金の動向
1. 国内電気通信料金
第5節 電波利用の動向
第6節 情報流通センサス
第7節 情報通信と社会経済構造の変革
1. 産業の情報化
2. 地域の情報化
第8節 海外の動向
第3章 情報通信政策の動向
第1節 高度情報通信社会の実現に向けた政府の取組
第2節 高度情報通信社会の構築に向けた情報通信政策の推進
1. 情報通信21世紀ビジョン
第3節 第2次情報通信改革に向けた電気通信行政の推進
第4節 放送政策の推進
第5節 郵便局ネットワークの活用の推進
1. 郵便局ネットワークの開放・活用による国民生活への貢献
第6節 情報通信のグローバル化に対応した国際政策の推進
第7節 21世紀に向けた技術開発・標準化の推進
1. 情報通信の高度化・多様化を支える技術開発の推進
第8節 宇宙通信政策の推進
第9節 安全な社会づくりを目指す防災対策の推進
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第1章 デジタルネットワーク社会の幕開け〜変わりゆくライフスタイル〜
第3節 情報リテラシー
- 2. 諸外国の情報リテラシー政策
- (1) 米国の状況
ア 連邦政府の問題意識
米国においては、近年大きく分けて二つの問題意識から、国民の情報リテラシーを向上させる政策に取り組んでいる。一つは、情報通信技術を使いこなせる労働力を育成・確保することが急務になっているという点である。ゴア副大統領が1995年11月に行った演説によれば、2000年には、米国における新しい仕事の60%が情報関連スキルを必要とすると予想されているが、そのようなスキルを持っている労働力は、現時点では全体の20%にしか満たない。そのため、米国政府は、人材不足が米国経済の競争力の低下につながるとの危機感を募らせており、職場の情報化への動きに合わせて、教育現場の情報化を促進しなければならないと考えているのである。
また、第二の問題意識として、米国の教育レベルの向上を図ることが挙げられる。米国政府は、米国の教育、特に理系教育の現状に強い危機感をもっている。世界41か国の8年生(中学2年生)において行われた数学と理科の試験の得点が、それぞれ28位と17位という低さだったことが、その危機感に拍車をかけた。米国政府は、この理系教育のレベルを上げるために、情報通信技術を活用することが重要であると考えている。
イ 連邦政府の政策・施策
米国政府の情報リテラシー教育政策の基礎をなしているのが、1996年2月15日にクリントン大統領が発表した「情報技術リテラシーへの挑戦」である。
この中では、以下の四つの目標が定められている。
- [1]
- 生徒がパソコンや情報スーパーハイウェイを利用して学習する手助けができるように、すべての教師に必要な教育と支援を与える。
- [2]
- 学校の教育課程に不可欠なものとして、有効かつ魅力的なソフトウェアとオンラインの学習手段を開発する。
- [3]
- すべての教師と生徒が最新のコンピュータに触れられるようにする。
- [4]
- 米国のすべての学校と教室を情報スーパーハイウェイに接続する(注18)。
クリントン大統領は、これら目標の達成のために1997年から5年間で20億ドルの予算を充てることを提案し、1997年予算として2億ドル、1998年予算として4億2,500万ドルの予算を決定している。これらの予算は、マルチメディア・パソコンの設置、教師へのトレーニング、高品質の教育ソフトの開発のために使用される。
なお、連邦通信委員会(FCC)はこのような政府の政策、および1996年の通信法の改正(注19)を受けて、1997年5月、学校や図書館、病院等がインターネットに接続する場合のために、割引料金「E-rate (education rates)」の設定をプロバイダ、電話会社に義務づけた。これは、ほとんどの学校・図書館でインターネットへのアクセス費用が半額に、最も貧しい学校・図書館ではほとんど無料になることを意味しており、全米で年間25億円のディスカウントとなるとされている。
ウ NPO、NGOの活動
米国においては、政府の政策・施策以外に、NPOやNGOによる草の根の運動が活発に行われ、大きな成功を収めていることが特徴的である。
例えば、スマートスクールズ・ネットデイはスマートバレー公社というNPOが中心となり、民間企業や一般市民のボランティアとともに、地元の小中学校にパソコンを設置し、それをインターネットに接続する活動を展開している。
さらに、情報技術を使いこなせる者と使いこなせない者との間に格差が広がることを強く懸念し、高齢の人々のために、シニア・ネット等の活動が行われている。このNPOは、55歳以上の人たちのパソコンネットを運営する団体で、全米32州に125の支部を持つ大きな組織である。従来からインターネットのホームページで、医療や保健などの高齢者向けの情報を提供しているが、企業からの寄付による機器を利用しながら、ボランティアが全米でパソコン教室を開催するなど、高齢者のパソコン教育にも力を入れている。
(2) ヨーロッパの状況
ア EUの問題意識
EUにおいても米国と同様、将来の労働力の質について危機感を抱いている。しかもEUでは、労働市場の国際化の進展が激しく、それに耐えうる質の高い労働者を育成する必要がある。このためEUでは、人々の情報通信技術に対するリテラシーを向上させるとともに、情報格差のない社会を目指して、学校教育や職業訓練の場で基礎的な知識を与えることを重視し、米国と同様な政策を取り始めている。
また、EUが中心となって展開されたNetd@ys Europe 1997は、米国のスマートスクールズ・ネットデイのようなNPO、NGOやボランティアが中心の活動というよりは、EU及び各国政府が中心のイベントではあったが、インターネット上で学校が情報発信や情報交流を行い、各地で行われている300近くのプロジェクトの成果が公表されるなど、米国での活動と同様に、学校におけるインターネット利用の促進に貢献するものであった。
イ EUの政策・施策
EUにおいても、早くから、情報社会における教育がいかにあるべきかについて検討がなされてきた。例えば、1994年には欧州委員会に対して提出された「欧州並びにグローバル情報社会―欧州理事会への勧告」(いわゆるバンゲマン・レポート)を基に政策提言が取りまとめられるとともに、「情報社会に向けた欧州の取り組み方―行動計画」という行動計画が発表された。ここでは、欧州委員会が、情報格差や人々による新しい技術の拒絶を防ぐために、できるだけ多くの人に実際に情報技術を利用する機会を提供し、適切な教育やトレーニングを行う必要があることを指摘している。
また、1995年には、「教育と学習に関する白書」が発表され、上記政策提言と同様の認識が示されている。
そして、1996年にEUにおけるリテラシー教育の基礎をなすアクションプラン「情報社会における学習−欧州教育イニシアチブのための行動計画」が発表されている。これは、学校(特に小学校と中学校)をネットワーク化し、教師のトレーニングをし、必要なソフトを開発するという、国あるいは地域レベルでの様々な活動を促進するための行動計画である。この行動計画に従って、コンピュータ会社や通信会社などの企業が参加して、学校に対して、機器や技術的な支援、ネットワークへの接続、教師のトレーニング機会などを提供し、マルチメディアコンテントの開発に努めている。
また、1998年初頭には、この行動計画をより実行力のあるものとするために、「マルチメディア教育のためのヨーロッパ財団」が創設された。この財団は、EUの教育省大臣の下、企業経営者、組織、公共機関の利害関係を調整したり、テクノロジーの発展や教育の手段についてのシンクタンクとしての役割を果たすことになっている。
ウ EU各国の動向
(ア) ドイツ
ドイツでは、政府がドイツテレコムの協力のもと、1996年から「シューレン・アンス・ネッツ(SAN)プロジェクト」を遂行している。
これは、2000年までに1万校を目標として学校をインターネットに接続するために、ドイツテレコムで3,600万マルク、連邦教育学術研究技術省で2,300万マルクの合計5,900万マルクの予算を組んでスタートさせたプロジェクトである。現在、パソコンメーカー、出版社など約20社がスポンサーとして参加しており、参加校は既に6,500校に上っている。
具体的には、各校で、インターネット企画構想を提出し、それが審査機関で承認されると、企画に応じてパソコン、サーバー、ISDN回線、通信料などが提供されるというものである。1997年12月には、更にドイツテレコムが6,000万マルク、連邦教育学術研究技術省で4,000万マルクの合計1億マルクの追加投資を決めており、学校をインターネットに接続するだけでなく、教師、親、生徒のためのインターネット講座やネット管理部の設置、インターネットを使う校内・自宅用学習ソフトの開発も助成することを決めている。
(イ) 英国
英国では、1997年9月にブレア首相が、産業界などの協力を得て、2002年までに全英の小中学校をインターネットで接続することを柱とした学校教育の情報化構想を発表した。これに併せて、ブリティッシュテレコム(BT)などが協力を表明している。また、1998年を「英国ネット年」とし、同年秋には、構想実現のための政府と産業界の共同組織を発足させることになっている。
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