平成10年版 通信白書

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第3章 情報通信政策の動向

第3節 第2次情報通信改革に向けた電気通信行政の推進

  3. 電波ビジネスの振興

(1) 次世代移動通信システム(IMT-2000)
 我が国においては携帯・自動車電話やPHSをはじめとした移動通信システムの利用が急速に拡大し、国民生活に深く浸透してきており、今後もますます普及していくものと予想されている。
 これらの移動通信システムについては、その需要に対応するため、様々な周波数有効利用方策が検討・実施されているが、将来的には既存の移動通信システムの周波数がひっ迫することが予想されており、新たな周波数を使用した次世代移動通信システムの開発が求められている。
 郵政省では8年10月から、 [1] 高速性(〜2Mbps、簡単な動画の伝送が可能)、 [2] 世界中のどこででも使えるグローバルサービスの実現、 [3] 固定網並みの高品質等の特徴を有する次世代移動通信システムの展望を行うことを目的として「次世代移動通信システムに関する調査研究会」を開催し、9年6月に次の提言を含む報告書を取りまとめた。
[1]  2001年の実用化に向けた標準の早期策定と国際連携の推進
[2]  国際的に受け入れられる標準の策定
[3]  我が国での次世代移動通信システム用周波数の利用計画
[4]  広帯域CDMA方式等の技術開発の推進
[5]  次世代移動通信システムの開発促進のための実験用周波数の設定
[6]  2GHz帯固定局の早期周波数移行推進
 郵政省では、この報告を受け、9年9月、電気通信技術審議会に対し「次世代移動通信方式に関する技術的条件」に関する諮問を行い、国内規格の策定を行う「次世代移動通信方式委員会」を開催した。答申時期は11年4月ごろを予定している。
 なお、ITUでは、4年3月のWARC-92においてIMT-2000の周波数を決定した(2GHz帯の230MHz幅)ほか、1999年末の次世代移動通信システムの標準化に向けて各国から無線伝送方式に関する提案を受け付けている。我が国においても、上記電気通信技術審議会で審議の上、10年6月までに日本提案を取りまとめ、提案を行う予定である(第3−3−3図参照)。

第3-3-3図 次世代移動通信システム(IMT-2000)の概要
(2) マルチメディア移動アクセス(MMAC)に関する取組
 MMACとは、マルチメディアを「いつでも、どこでも」取り扱うことができ、光ファイバとシームレスな接続が可能な超高速・高品質な移動体通信システムのことである。
 郵政省では、「マルチメディア移動アクセスに関する調査研究会」の報告(8年5月)を受け、2002年の実用化を目標として、以下の二つのシステムの検討を行っている。
[1] 超高速無線LAN(屋内)
 ミリ波帯(30〜300GHz)の電波を利用した大容量伝送(〜156Mbps)無線LAN。高精細画像でのテレビ会議が実現可能。
[2] 高速無線アクセス(屋外、外出時)
 SHF帯等(3〜60GHz)の電波を利用した25〜30Mbpsの伝送が可能な移動体通信システム。高度携帯テレビ電話が実現可能。
 10年度は、9年度に引き続き、 [1] 準ミリ波、ミリ波帯の移動通信環境下における電波伝搬特性技術試験を実施するほか、 [2] 通信総合研究所及び民間123団体が加盟するマルチメディア移動アクセス推進協議会において共同基礎研究を実施する予定である。
 また、高速移動中において最大156Mbpsの伝送速度を可能とする高度なMMACついては、2010年ころの実用化を目標として、10年度から新たな研究開発を実施する予定である(第3−3−4図参照)。

第3-3-4図 MMACの利用イメージ
(3) 高度道路交通システム(ITS)への取組
 ITSは、最先端の情報通信技術等を用いて、ナビゲーションシステムの高度化、有料道路等の自動料金収受システムの確立、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化等を図るシステムの総称である。
 8年7月、「高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想」が、関係5省庁(郵政省、警察庁、通商産業省、運輸省及び建設省)によって取りまとめられ、ITSが目標とする機能、開発・展開に係る基本的な考え方等が今後20年間の長期ビジョンとして示された。これを受けて、各省庁はITSにかかわる施策に積極的に取り組んでいる(第3−3−5図参照)。

第3-3-5図 ITSの具体的なシステム
ア VICS(道路交通情報通信システム)サービスへの取組
 VICSは、電波ビーコン、光ビーコン及びFM多重放送の3メディアを用い、渋滞情報、交通規制情報等の道路交通情報を移動中の車両に対してリアルタイムに提供するシステムである。その運営主体として、7年7月に、(財)道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)が設立され、8年度には、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の一般有料道路を除くすべての道路(以上8年4月)、大阪府の一般道路(8年12月)及び東名・名神高速道路(8年4月)等においてサービスを開始したのに続き、9年度には、愛知県(9年4月)、京都府(9年11月)長野県(10年1月)及び兵庫県(10年3月)の一般道路並びに全国の高速道路(9年4月)においてサービスを開始した。

イ 有料道路における自動料金収受システム
 自動料金収受システムは、車両が有料道路の料金所を通過する際に、いったん停止することなく、無線通信を利用し自動的に料金の支払い手続を行うことにより交通渋滞解消を目指すものであり、9年3月、電気通信技術審議会により、その無線設備の技術的条件につき答申され、それを受け、9年9月に電波法施行規則、無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明に関する規則の各一部改正が実施された。

ウ 76GHz帯小電力ミリ波レーダーの導入
 自動車走行中の衝突防止等のために小電力のミリ波帯電波を用いて障害物を検知する小型レーダーについて、60GHz帯の周波数を利用するものについて実用化が図られているが、引き続き、9年5月、76GHz帯の周波数を利用する小電力ミリ波レーダーについて、電気通信技術審議会においてその技術基準が策定され、9年12月、電波法施行規則、無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明に関する規則の各一部改正が実施された。

エ ITSモデル地区実験構想
 郵政省をはじめ、警察庁、通商産業省、運輸省、建設省の関係5省庁は連携して、ITSの早期実現とその有効性の評価を行うために、モデル地区で行うべき具体的な実験内容の検討等のフィージビリティ・スタディ(必要な事前調査・設計)を実施し、将来のモデル地区実験(実証実験)に反映することとしている。

オ ITS実現に向けた情報通信技術の技術試験
 郵政省では、ITS実現に向けた以下の情報通信技術の円滑な導入に向け、9年度から次の技術試験等を実施している。
  [1]
車両と情報センター等との間で、走行状況等の情報を交換するための路車間通信技術
  [2]
走行中の車両間の連携(発進、停止、車線変更等)運行を可能にする通信技術
  [3]
自動車通信を安全に活用するための通信技術(音声認識技術等)
  [4]
前方車や側方車との車間距離や障害物を、電波を利用して検知する車両検知センサー技術

(4) 成層圏無線プラットフォーム(スカイネット計画)
 成層圏無線プラットフォームとは、高度20km程度の成層圏に通信機材を搭載した飛行船を滞空させ、通信・放送等の情報通信を利用するものである。利点としては、
  [1]
衛星に比べ地上との距離が短く、比較的小電力でKa・ミリ波帯等の周波数の利用が可能なため、端末機の小型化、高速・大容量通信の実現が容易であること
  [2]
地上での定期的保守が可能なため、衛星システムに比べ運用・保守コストが低廉であること
  [3]
空を移動できるため地上網に比べ回線設定やシステム構築が容易であることなどが挙げられる。
 郵政省は、8年12月から「成層圏無線中継システムの実用化に向けた調査研究会」を開催してきたが、9年5月に成層圏無線中継システムの実現の可能性を確認し、開発・導入に向けた技術的課題及び開発指針を明示する報告書を取りまとめた。
 この報告を受け、郵政省は、本システムの開発指針を策定するためのより詳細な調査研究を10年度から実施する予定である(第3−3−6図参照)。

第3-3-6図 成層圏無線プラットフォームの概要
(5) LEO(低軌道周回衛星)システム
 LEOシステムは、低軌道の周回衛星(十数個〜数十個)等を用い携帯端末で、世界中どこにいても全世界との通信を可能とする移動衛星通信システムである。
 郵政省は、日本イリジウム(株)に第一種電気通信事業の許可を9年12月に行った。これはLEO事業者に対する初の事業の許可であり、同サービスの業務開始は10年9月を予定している。
 郵政省は、LEOシステム等で使用される携帯端末の無線局について、外国で免許を受けたものについては、我が国に持ち込んだ場合に、改めて我が国の免許を取得することなく使用することができるように法改正を行った(第3−3−7図参照)。

第3-3-7図 LEO(低軌道周回衛星)システムの概要
(6) 効率的な周波数利用のための方策
 郵政省は、携帯・自動車電話の急増に対応するため、周波数の有効利用について、7年7月から電気通信技術審議会において検討を行ってきたが、9年2月、携帯電話等の周波数有効利用方式であるCDMA方式の携帯・自動車電話システムの技術的条件が取りまとめられた。
 郵政省は、本答申を受け、9年4月、無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明に関する規則の各一部改正を電波監理審議会へ諮問し、同年6月答申を得た。本答申を受けて、CDMA方式の導入が可能となり、同年7月より導入された。

 

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