平成11年版 通信白書

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第1章 特集 インターネット

3 米国の動向

インターネット関連法案の成立が相次ぐ

1)次世代インターネット開発法の成立
 米国政府は、1998年から3年間、毎年1億ドルの予算を投入し、DARPA(米国国防総省)、NASA(米国航空宇宙局)等米国の関係機関のほか大学、産業界が参加して、現在のインターネットの約100倍(100 Mbps)から約1,000倍(1Gbps)の超高速テストベッド(開放型実験施設)上で、様々な実験やアプリケーションの開発を進めることを目的とする次世代インターネット(NGI:Next Generation Internet)計画を推進している。その概要は以下のとおりである。
(i)基礎研究
 様々なサービスを効率的かつ安全に提供するために、ネットワーク拡大への対応、最終消費者への良質なサービスの提供、セキュリティの3つをテーマとして研究を行う。
(ii)テストベッド
 1999年までに、DARPA、NSF(全米科学財団)、DOE(米国エネルギー省)、NASAの有する622Mbpsのバックボーンに100以上の機関を155Mbpsで接続する。また、2000年までにDARPAの超高速テストベッドに10以上の機関を2.4Gbpsで接続する。
(iii)アプリケーション
(i)の基礎研究や(ii)のテストベッドの能力を生かすことができるアプリケーションを開発する。
 また、米国政府は全米120の大学で組織する研究・教育用ネットワークを構築することを目的とするインターネット2(Internet2)計画を支援することとしている。
 さらに、1998年10月には、「次世代インターネット開発法」(Next Generation Internet Research Act)が成立した。
 同法は、1991年の「高性能コンピューティング法」を改正する法律である。具体的には、次世代インターネット計画の目的(図表1))を明示するとともに、次世代インターネット計画のための予算として、6,700万ドル(1999年度)及び7,500万ドル(2000年度)を計上した。また、大統領情報技術諮問委員会に対して、次世代インターネット計画の実施状況を監視し、これに関する助言を大統領に提供すること及びその活動について議会に報告することを要求している。
2)サイバーテロ対策
 クリントン大統領は、1999年1月の米国科学アカデミーにおける演説の際に、コンピュータネットワーク破壊を狙った「サイバーテロ」への対策を発表した。大統領は、コンピュータ侵入等のサイバーテロ対策に14億6,000万ドルを投入するとともに、専門家を雇用して「サイバー部隊」を創設することを認めるよう議会に要求した。
3)デジタル2000年著作権法の成立
 1998年10月には、「デジタル2000年著作権法」(Digital Millenium Copyright Act)が成立した。
 これは、ネットワーク上でやり取りされるデジタル画像や音声、文字等の著作物の効果的な保護を目的とするものであり、デジタル化時代の著作権制度を確立するための包括的な法律としての性格を持つ(図表2))。また、同法の成立により、米国では、デジタル著作権の保護に関する枠組みを決めた1996年のWIPO著作権条約及びWIPO実演・レコード条約を締結するための環境が整ったことになる。
4)新しい暗号政策
 クリントン政権は、1998年9月に高度暗号製品の米国からの輸出に関する管理を緩和することを決定した。これまで銀行その他の金融機関に限って、輸出許可を取得することなく暗号製品の輸出が認められるとしていた方針を、7か国(イラン、イラク、リビア、シリア、スーダン、北朝鮮、キューバ)以外にある全ての米国会社の海外子会社、米国と広く取引がある45か国にある保険・医療機関(生化学品及び医薬品の製造業者を除く。)及びクライアントサーバのオンライン取引業者に拡大することにした。また、上記7か国以外向けの暗号製品の輸出に関しては、政府の許可を必要とする暗号技術製品の暗号強度を40bitから56bitに引き上げた。
5)「オンライン児童保護法(COPA)」の成立と仮差止命令
 1998年10月には子供にインターネットポルノを見せないことを狙った新たな法律「オンライン児童保護法」(Child Online Protection Act)が成立した。
 本法は、インターネット上の商用サイトを対象とし、17歳未満の子供に「有害」なものを見せないことを要求するものである。ただし、子供が持つことができないクレジットカード等の利用を求めることにより、17歳未満の子供がポルノ映像等にアクセスすることを制限していた場合には、刑罰及び民事制裁金が科されないこととされている。1997年、最高裁で違憲とされ、その一部が失効した「通信品位法」が、規制内容を「わいせつな又は下品なもの」及び「現代の基準に照らして明らかに不快なもの」とし、その送信等を禁止していたが、このうち「下品な」及び「明らかに不快な」という表現があいまいなために憲法で保障された表現の自由を損なうと判断された。このため今回は「子供にふさわしいかどうかの観点から明らかに害悪であり、かつ真の学問性、芸術性、政治性、科学性に欠けるもの」として「子供に有害」の定義を絞り込んでいるのが特徴である。
 これに対し、人権団体のACLU(米国市民自由連合)は、新法は違憲となった「通信品位法」同様、インターネット上での内容の検閲につながり、憲法修正第1条に規定した言論の自由を侵すものとし、「通信品位法」の提訴の時と同じフィラデルフィア連邦地裁に提訴し、同法の執行を禁止するための緊急差止命令を求めた。原告にはACLUのほか、ニューヨーク・タイムズ、CBS、ワーナーブラザーズ、ソニー等が参加するインターネットコンテンツ同盟(ICC)等17団体が加わった。
 これを受けて、フィラデルフィア連邦地裁は、1998年11月に緊急差止命令を認め、さらに1999年2月に、「オンライン児童保護法」の合憲性が最終的に判断されるまで執行を停止する仮差止命令を発した。現在、この仮差止命令に対して政府側が争っており、同法の合憲性が判断されるまでにはなお時間を要するとみられている。有害なコンテンツを青少年に見せないためのインターネット規制に関して再び民間団体と政府が法廷で争ったことは、インターネット規制の難しさを浮き彫りにした形となった。

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