発表日  : 1998年10月26日(月)

タイトル : 地上デジタル放送懇談会 報告書





       〜新デジタル地上放送システムの形成〜


              目   次


はじめに


第1章 放送のデジタル化の現状と展望
 1 情報通信分野とデジタル化
 2 デジタル放送に関する国際標準化の動向
 3 我が国におけるデジタル放送の現状と展望
 4 諸外国における放送のデジタル化の動向


第2章 地上放送のデジタル化の意義
 1 デジタル技術の特徴
 2 デジタル技術により実現される放送システム
 3 地上放送のデジタル化のメリット
 4 地上放送のデジタル化の社会的意義
 5 地上放送のデジタル化の経済波及効果


第3章 地上デジタル放送の導入の在り方
 1 地上デジタル放送を導入する対象分野
 2 地上デジタルテレビジョン放送の導入の在り方
 3 地上デジタル音声放送の導入の在り方


第4章 放送端末の在り方
 1 地上デジタル放送端末に関する基本的考え方
 2 地上デジタル放送端末への移行過程
 3 放送端末の将来像
 4 技術開発の考え方と課題


第5章 視聴者の視点からの円滑な移行
 1 地上デジタル放送導入に伴う視聴者側の対応措置
 2 視聴者側の円滑な移行策


第6章 支援措置の在り方
 1 放送事業者の設備投資
 2 支援措置


第7章 放送のデジタル化と放送番組ソフト
 1 番組制作
 2 番組流通
 3 番組保存
 4 国際協調及び共同研究


第8章 放送制度の在り方
 1 放送の免許形態
 2 柔軟な事業形態
 3 マスメディア集中排除原則の運用の在り方
 4 番組規律
 5 放送対象地域とあまねく普及義務
 6 経過措置


はじめに

 1925年、社団法人東京放送局のラジオ放送開始とともに、我が国の放送文化
の幕が明け、すでに73年が経過した。その間、1953年に登場したテレビ放送
は映像メディアとして多くの人を魅了し、テレビ受信機は「三種の神器」の一つと
して、国民生活の中に広く浸透していった。
 さらに、ラジオはFM放送の導入、テレビはカラー化という新たな技術の導入に
より、放送は情報通信メディアとして着実に進歩を遂げ、現在では、生活の中の基
本的な情報通信メディアとして、報道、教養、教育、娯楽、実用面での情報提供を
恒常的に行うことにより、我が国の文化の発展、経済の活性化に貢献している。
 近年のデジタル化という新たな技術革新を契機として、放送が情報通信メディア
として更に高度化し、飛躍的な発展を遂げる絶好の機会が巡ってきている。

 一方、世界に目を向けると、1972年に国際電気通信連合(ITU)でスタジ
オ規格のデジタル化の検討が開始され、放送分野へのデジタル技術の活用に対する
取組が始まり、1990年には伝送部分のデジタル化の検討が開始されるなど、国
際標準化への取組は着実に進んだ。そのような中で、視聴者がサービスとして享受
するデジタル放送については、1994年に米国で世界に先駆けて衛星デジタル放
送が開始されて以来、デジタル放送の導入は国際的な課題として、各国で積極的に
取り組まれており、この9月からは、英国でBBCが世界で初めて地上デジタル放
送を開始し、米国でも、11月から地上デジタル放送が開始される予定である。

 我が国においても、1996年にCS放送でデジタル多チャンネル放送が実現
し、本年からはケーブルテレビでもデジタル放送の導入が始まっている。また、B
S放送についても導入の道筋が明確化されている。
 最も国民に広く普及し、これまで放送文化の歴史を築いてきた地上放送が、放送
メディア、ひいては情報通信メディアの中でアナログアイランドとしてとどまれ
ば、基幹的な放送メディアとしての地上放送の役割が将来も続くことは期待できな
い。地上放送が、21世紀においても情報通信メディアとして、自ら飛躍し、我が
国の文化、経済、社会等に大きく貢献するためには、デジタル化は喫緊の課題であ
る。

 以上のような認識の下、本「懇談会」においては、昨年6月から「事業化専門委
員会」、「制度化専門委員会」、「事業化専門委員会」の下に「端末作業班」を設
置し、地上デジタル放送の円滑な導入の在り方について、関係者を含め各界の方々
にご参集いただき、幅広い観点から、精力的に検討を進め、本年6月には、中間報
告をとりまとめ、一般に公表したところである。その後、各方面からいただいたご
意見を踏まえ、審議を進め、ここに最終報告としてとりまとめたものである。

 今後、本報告書が、関係者が地上デジタル放送の導入に向けた具体的な取組を行
っていくにあたっての指針となることを期待するとともに、広く社会一般の地上放
送のデジタル化に対する理解の増進に資するものとなることを切望するものであ
る。 


第1章 放送のデジタル化の現状と展望

 情報通信分野におけるデジタル技術の急速な進展は放送メディアに大きな影響を
及ぼしており、国際的にも放送メディアへのデジタル技術の導入について活発な取
組が行われている。今や放送のデジタル化は、放送の機能・役割を飛躍的に向上さ
せるものとして避けてとおれない喫緊の課題として位置づけられる。

 1 情報通信分野とデジタル化

   近年の情報通信分野における技術革新はめざましく、技術革新を背景とした
  情報通信の高度化は、社会経済に大きな変革をもたらすものとして期待されて
  いる。
   その中でも、デジタル技術の進展は情報通信分野における最も大きな技術革
  新の一つとして、情報通信の高度化をもたらすもので、既に、我々の生活の中
  にも急速に浸透している。
   パソコンは言うに及ばず、通信メディアの世界では、1997年に最後のア
  ナログ加入者線交換機がデジタル化され、電気通信ネットワークのデジタル化
  が完了しており、電話、FAX、データ通信など性格の異なるサービスが単一
  の通信網で伝送処理されるISDNサービスが急速に普及している。また、移
  動体通信でも、周波数の利用効率が高く、秘話性に優れているデジタルシステ
  ムの導入が急速に進展している。
   さらに、パッケージメディアの世界では、80年代初頭に登場したCDはア
  ナログレコードにとって代わり、オーディオテープに代わる録音媒体として期
  待されるMDは高音質のデジタル録音を実現している。また、パソコンやゲー
  ム機の普及によるソフトのCD−ROM化が進み、デジタル映像を実現し、現
  在では映画1本を記録できるDVDも出現するなどデジタル化は着実に進展し
  ている。

   これらデジタル化の進展は、デジタル技術そのものの進展とともに、半導体
  技術の進歩によるLSIの集積度が高まり、コストが大幅に低下したことが大
  きな要素と考えることができる。こうした中で、高速処理が必要なテレビジョ
  ン映像信号のデジタル圧縮技術が急速に進歩したこともあり、放送電波のデジ
  タル化の実現の可能性が高まり、デジタル放送が現実味を帯びることになっ 
  た。
   このような中で、放送メディアのデジタル化は、デジタル化が先行する他の
  情報通信メディアとの接点を急速に拡大し、情報通信メディアとしての放送の
  飛躍的な発展を促進するものとして期待されている。

 2 デジタル放送に関する国際標準化の動向 

   デジタル放送方式の標準化については、ITUを中心に進められており、 
  1972年にスタジオ規格のデジタル化について検討が開始され、1982年
  に最初の勧告を採択している。
   一方、伝送部分のデジタル化については、1990年から衛星放送とケーブ
  ルテレビについて検討が開始され、1995年に勧告を採択している。
   これらの勧告は、技術の発展を反映して、これまで、スタジオ規格について
  は5回、衛星放送については2回改訂されている。
   地上放送については1992年に検討が開始され、1997年に欧米の放送
  方式とともに開発中の日本の放送方式を記述した勧告を採択したところであ 
  る。

 3 我が国におけるデジタル放送の現状と展望 

   我が国においても、情報通信分野の技術革新や国際標準化の動向に対応し 
  て、放送のデジタル化について検討を進めており、具体的には、1993年の
  電波監理審議会でデジタルHDTV方式について、映像メディアのデジタル化
  技術がある程度成熟した段階で導入する必要がある旨答申を得て以来、これま
  で数度に渡って、放送のデジタル化について検討し、審議会答申等を得てい 
  る。

 (1)衛星放送
    通信衛星を利用した衛星放送(CS放送)は1996年6月から衛星デジ
   タル多チャンネル放送が開始され、それまでアナログ放送を行なっていた事
   業者も順次デジタル放送に移行している。現在、2つの顧客管理代行会社を
   通じての衛星デジタル多チャンネル放送サービスが提供されており、標準テ
   レビジョン放送で約280チャンネル(1998年9月現在)の放送等が認
   定されている。
    一方、放送衛星を利用した衛星放送(BS放送)については、2000年
   頃に打上げ予定のBSー4後発機において高精細度テレビジョン放送を中心
   としたデジタル放送が開始される予定である。

 (2)ケーブルテレビ
    近年、ケーブルテレビ事業者は、デジタル化、光化によるネットワークの
   高度化を図り、広帯域、双方向機能を活かした映像多チャンネル放送や通信
   サービスを含む総合的なサービスへの取組が始まっており、本年7月から我
   が国最初のデジタル放送サービスが開始されている。

 (3)地上放送
    上記(1)、(2)で記述したように、他の放送メディアのデジタル化が
   進む中で、国民に最も身近なメディアである地上放送のデジタル化が残され
   た課題となっている。
    特に、放送システムの中でも、番組制作や番組素材伝送については既にデ
   ジタル化が進んでおり、放送局と視聴者を結ぶ無線伝送部分のデジタル化が
   課題と位置づけられる。
    これまで、放送のデジタル化を検討してきた中で、地上デジタル放送の導
   入目標は、1996年5月の「高度情報通信社会構築に向けた情報通信高度
   化目標及び推進方策〜西暦2000年までの情報通信高度化中期計画〜」 
   (電気通信審議会答申)において、2000年から2005年までの間とし
   ていた。
    その後、デジタル放送技術の急速な進展や他の放送メディアのデジタル化
   の動向や諸外国の動向など地上放送を取り巻く動きが早まってきていること
   から、郵政省は1997年3月に「地上デジタル放送が2000年以前に開
   始できるよう、放送方式、チャンネルプランの策定、制度整備等を進めるこ
   とを目標とする」旨発表し、同年6月の「情報通信21世紀ビジョン」(電
   気通信審議会)において、同趣旨の答申を得ている。

 (4)放送のデジタル化の展望
    放送のデジタル化の将来展望については、「放送高度化ビジョン」(19
   96年6月放送高度化ビジョン懇談会報告)では、2010年には各放送メ
   ディアが連携・競合しながら衛星放送・ケーブルテレビが進展すると共に、
   すべての放送メディアについてほぼ全体的にデジタル化が完了している旨の
   予測がなされている。 
    従って、この予測も踏まえ、本「懇談会」として、3つの放送メディアの
   将来の役割について展望したところ、次のとおりと想定される。
    衛星放送については、ケーブルテレビを経由しての視聴が多くなることが
   考えられ、その場合、BS放送もCS放送も視聴者にとっては、その差異は
   ほとんどなくなっていることも想定されるが、BS放送は高精細度テレビジ
   ョン放送を中心とするサービスの先導的メディアとして普及が進んでいる。
   一方、CS放送は専門放送中心の多チャンネル放送サービスを特徴として実
   施されている。
    ケーブルテレビについては、有線系メディアとして、通信機能を備えた双
   方向型メディアとしての特徴を発揮するとともに、他の放送メディアの再送
   信に自主放送を含めた多チャンネル放送サービスの統合型放送メディアとし
   て発展している。
    その中で、地上放送は、デジタル化されることにより、国民生活の中で、
   報道、教養、教育、娯楽、実用面での情報提供を恒常的に行う基本的な情報
   通信メディアとして、無料(又は低廉な価格)で簡易にアクセスできる、い
   わゆる基幹的放送メディアとして引き続き発展することが可能となってい 
   る。特に、デジタル化を契機として、ローカルメディアとして、地域の生活
   文化の充実に貢献するなどその存在価値が高まっている。

 4 諸外国における放送のデジタル化の動向 

 (1)米国のデジタル化の動向
    衛星放送については、1994年に世界に先駆けて、DirecTV等が
   デジタル放送を開始し、ケーブルテレビについても、1997年からTCI
   (テレコミュニケーションズ)がデジタル放送を開始している。
    地上放送については、米国連邦通信委員会(FCC)において、地上放送
   にHDTVを導入することを目的として、1987年から、次世代テレビジ
   ョン方式の規格化について検討が開始され、1990年にGI(ゼネラル・
   インストルメンツ社)がデジタル方式の次世代テレビジョンを提案したこと
   をきっかけとして、方式規格の選考対象がデジタル方式に絞られることとな
   った。
    その後、1996年12月にデジタル放送の技術基準を制定し、1997
   年4月には今後の導入スケジュール等諸規則を発表している。
    FCC規則では、1999年5月1日までに10大都市、1999年11
   月1日までに30大都市でネットワーク系列局は建設を完了しなければなら
   ないなど段階的なスケジュールが規定されており、具体的には、1998年
   11月から、41の放送局で地上デジタル放送が開始できるよう準備が進め
   られている。このようなスケジュールに沿ってデジタル放送が導入されるこ
   とにより、2006年には、期限の延長条件(※)に合致しない限り、アナ
   ログ放送は終了する予定である。
     ※期限延長条件
    (ア)4大ネットワーク系列局の一つ以上がFCCの定める施設の建設期
      限の延長条件を満たし、かつ当該地域で放送を開始していないこと
    (イ)デジタル/アナログコンバーターが当該地域で利用できないこと
    (ウ)15%以上の世帯でデジタル放送が視聴できないこと

 (2)英国のデジタル化の動向
    衛星放送については、1998年10月からBSkyBが約150チャン
   ネルのデジタル放送を開始している。また、ケーブルテレビについても、C
   WC(ケーブル・アンド・ワイアレス・コミュニケーション社)等が199
   9年春頃にデジタル放送を開始する予定である。
    一方、地上放送については、1995年に地上放送のデジタル化政策を発
   表し、1996年にはそのための放送法の改正を行った。
    既に地上デジタルテレビジョン放送については、1998年9月から、B
   BCが世界で初めて、放送を開始している。また、民間放送事業者について
   も免許交付から1年以内に放送を開始することを条件に、1997年12月
   にDigital3&4社等に免許が付与されており、1998年11月に
   は放送を開始する予定である。
    さらに、英国では音声のデジタル化も始まっており、BBCが1995年
   からデジタルラジオ放送の実験放送を実施している。民間放送事業者につい
   ては、1998年10月にDigital One社に全国免許が付与され
   ており、1999年10月には放送を開始する予定である。 

 (3)その他の国の動向
    欧州では、仏国、独国等で1996年から衛星デジタル放送が開始されて
   おり、アジア・太平洋地域でも香港、オーストラリアで衛星デジタル放送が
   開始されている。
    また、地上放送については、スウェーデンが、すでに1996年に地上デ
   ジタル放送について制度化し、現在、実験放送を行っている。1998年6
   月には地上デジタル放送免許が付与されており、1999年1月から、地上
   デジタル放送が開始される予定となっている。
    アジア・太平洋地域では、オーストラリアが、地上デジタル放送につい 
   て、主要都市部で2001年1月1日までに開始、地方部を含む全土で20
   04年1月1日までに開始する旨を内容とする地上デジタル放送政策を19
   98年3月に決定し、8月には、それを制度化したところである。さらに、
   韓国は1997年2月に地上放送のデジタル化の基本計画を発表しており、
   この計画では2000年から試験放送を開始し、2001年には本放送へ移
   行する予定となっている。
    このように、世界的に見ても、21世紀に向けて、地上放送が更に発展 
   し、高度化できるよう、デジタル化に向けた政策決定や取組が活発に行われ
   ている。


第2章 地上放送のデジタル化の意義

 1 デジタル技術の特徴 

  デジタル技術そのものには、一般的に言って、次のような特徴がある。

 (1)アナログ信号に比べて雑音に強く、送信電力が少なくてすむこと
 (2)誤り訂正技術を使用でき、伝送・複製・蓄積による劣化が少ないこと
 (3)どんな情報でもデジタル化すれば(0、1)信号に変換されるので、映
   像、音声、データ等を統合し同等に扱うことが可能なこと
 (4)映像・音声信号の大幅な帯域圧縮が可能なこと
 (5)情報の検索・加工・編集が容易なこと
 (6)変調方式としてOFDM方式を採用すれば、ゴースト妨害に強いこと
 (7)トランジスタ、ICが二進法に適しているため、LSI技術の活用が容易
   なこと

 2 デジタル技術により実現される放送システム 

  デジタル技術の特徴を活かしていかなるデジタル放送システムが実現されるか
 については、そのイメージを次のように整理できる。

 (1)高品質なデジタル放送が可能
    雑音の影響を受け難く、多少の雑音やアナログ放送よりも弱い電波でも良
   好に受信可能となるとともに、ゴースト妨害に強い変調方式の採用により、
   高品質なデジタル放送が可能となる。

 (2)一定の伝送帯域幅のもとで高精細度番組または複数番組の伝送が可能
    デジタル映像情報の効率的な圧縮や変調方式の採用が可能となり、一定の
   伝送帯域幅のもとで、多くの情報量を伝送することができるため、地上放送
   においても、高精細度番組の伝送(高画質化)が可能となるとともに、映像
   等の精細度に応じて複数の番組の伝送(多チャンネル化)が可能となる。

 (3)サービスの統合化や柔軟な編成が可能
    伝送容量の使用に際し、映像、音声、データ等へ柔軟に配分でき、多様な
   情報の統合化や柔軟な編成ができる放送が可能となる。

 (4)伝送された映像、音声、データ等の処理が容易
    受信機にコンピュータ機能が内蔵されている場合には伝送された映像、音
   声、データ等を受信・蓄積し、情報素材の処理が容易となる。

 (5)デジタル化された通信メディア等との接続が容易
    通信ネットワークやコンピュータなど他のデジタル化したメディアと放送
   との接続が容易となり、例えば、通信が有する双方向性を活用した放送サー
   ビスが実現する。

 (6)同一の周波数による中継網の構築が可能
    ゴースト等の妨害に強い変調方式を採用することにより、中継網において
   も同一の周波数の利用が可能となる。
    (注)放送波中継の場合、一定の送受分離度を確保する必要がある。

 (7)低コスト化が可能
    デジタル回路はLSI化になじみ、標準化により大量生産が可能となった
   場合には低コスト化が図れる。

 3 地上放送のデジタル化のメリット 

  デジタル放送システムを前提として、視聴者、放送事業者等関係者に対し、生
 じるメリットを次のように例示できる。

 (1)視聴者にとってのメリット
   1)高品質な映像・音声サービスの享受
     地上放送のアナログ電波は、視聴者に届くまでの間に、雑音で映像・音
    質が劣化したり、高い建物や山などの影響による電波の遮断や反射電波に
    よるゴーストが生じることがあるが、デジタル化により、雑音の影響を受
    けにくくなり、またゴースト等に強い変調方式の採用によって、高品質な
    映像・音声サービスの享受が可能となる。
     さらに、従来のアナログ放送1チャンネル分と同じ周波数帯域幅で、高
    精細度テレビジョン放送が受信可能となることから、衛星放送でしか視聴
    できなかった臨場感あふれる高精細度テレビジョン放送を最も身近なメデ
    ィアである地上放送でも視聴可能となる。

   2)チャンネルの多様化の実現
     従来のアナログ放送1チャンネル分と同じ周波数帯域幅で、アナログ放
    送と同程度の画質であれば、3チャンネル程度のデジタルテレビジョン放
    送が可能となることから、最も身近なメディアである地上放送においても
    チャンネルの多様化が実現し、視聴者の選択範囲が拡大する。

   3)テレビ視聴の高度化が可能
     広く普及している地上放送が視聴可能なテレビ受信機に、大容量のメモ
    リー等が備わることにより、放送された番組そのもののほか、文字・静止
    画の情報等の全ての情報が受信機側で蓄積され、視聴者は好きな時に好き
    なだけ視聴できるようになり、また、あらかじめ希望する番組を選択して
    蓄積すること(テレビ番組がいつでも取り出せる番組の缶詰)も可能とな
    る。
     さらに、通信ネットワークとの組み合わせによる視聴者参加番組が実現
    されるほか、番組関連情報をインターネットを通じて取得しながら番組の
    視聴が可能となるなど双方向的な番組視聴が可能となる。

   4)高齢者・障害者にやさしいサービスの充実
     映像番組にデータ放送を組み合わせることにより字幕・解説放送サービ
    スが一層充実するとともに、音声が聞き取りにくい場合に音声の速度を変
    換したり、点字等による操作が可能な受信機の開発により、人にやさしい
    サービスの享受が可能となる。

   5)安定した移動受信サービスが可能
     ゴーストや受信電界の変動に強い変調方式等の採用により、自動車等の
    移動受信において、ちらつきのないきれいな放送の受信が可能となる。

 (2)放送事業者にとってのメリット

   1)多彩な放送サービスの提供によるビジネスチャンスの拡大
     視聴者にとってのメリットで記述したとおり、地上アナログ放送では実
    現できない新しい多彩な放送サービスが可能となることから、広告収入の
    増大、一部有料放送の導入等により、放送ビジネスのチャンスが拡大す 
    る。

   2)番組制作の多様化・効率化の実現
   (ア)CG技術やバーチャルスタジオなどを活用した多彩な番組制作が実現
     する。
   (イ)コンピュータを用いたノンリニア編集機等によって、編集時間の節約
     などにつながり、番組制作の効率化が実現する。

   3)省エネルギー化の実現
     送信電力がアナログ放送の場合よりも少なくすむことから、省エネル 
    ギーにもつながる。

   4)放送番組ソフトのマルチユース化への寄与
     ダビングや長期保存による劣化がほとんどなく、また、圧縮可能である
    ことから、スペースを節約して保管が可能となり、他の放送メディアやパ
    ッケージメディアにおける再利用の促進につながる。

   5)視聴者との一体化
     通信の双方向性を活用した放送サービスが可能となることから、クイズ
    番組やアンケート調査など視聴者参加型番組によって視聴者の反応をリア
    ルタイムで把握できるなど、一層、視聴者ニーズに応じた番組制作・提供
    が実現する。

 (3)機器製造業者・放送番組ソフト制作業者にとってのメリット

   1)デジタル受信機市場の拡大
     各家庭に約2台の割合で普及している約1億台弱のアナログテレビ受信
    機と約5千万台弱のテレビチューナー付きVTRがそれぞれデジタル放送
    受信対応に切り替えられると想定すると大きな新規市場を創出するととも
    に、デジタル放送受信機能を有するモバイル系受信機など新たなデジタル
    受信機市場を創出する。

   2)LSI、液晶、プラズマディスプレイ等新デバイスの需要拡大
     最先端技術に支えられる新デバイスの国内需要の飛躍的拡大が図られ、
    電子機器産業の発展と高度化に寄与する。

   3)放送番組制作需要の増大
     多チャンネル放送や高精細度番組を含めたデジタル技術を活かした多彩
    な番組サービスのための制作需要が増大する。

   4)放送番組の国際市場進出機会の拡大
     欧米とほぼ同時期に地上放送のデジタル化を進めることにより、放送番
    組の海外提供等、放送番組の国際市場進出を促進する。

 4 地上放送のデジタル化の社会的意義 

  地上放送のデジタル化が有する社会的意義を次のように整理できる。
 
 (1)視聴者主権を確立し、新たな放送文化の創造に貢献
   1)地上放送の視聴時間は他の放送メディアに比較して圧倒的に長く、これま
    では、視聴者は放送される番組にあわせた受動的な視聴スタイルが一般的
    であったが、デジタル化により視聴者自らが番組・情報を選択する能動的
    な視聴スタイルの時代が到来する。
   2)視聴者は、地上放送を通じて、好きな時に好きな番組、情報を好きなだけ
    視聴・検索・入手し、自らの知的好奇心を満たす多彩な番組、情報を主体
    的に享受することが可能となることから、これに対応する新たな放送文化
    が創造されていく。

 (2)経済構造改革に貢献
   1)経済フロンティアを切り開き、新産業の創出や雇用の拡大を実現するな 
    ど、我が国経済の構造改革に貢献する。
   2)米国においては地上デジタル放送の迅速な導入によって国際的な技術的優
    位性を確保しようとしているが、我が国においても、早期に地上放送のデ
    ジタル化に取り組むことにより、技術面はもとより、放送分野全般にわた
    る我が国の国際競争力を維持・強化する。

 (3)国際的な相互理解と相互信頼の増進に貢献
    欧米とほぼ同時期に地上放送のデジタル化を進めることにより、最も普及
   が進み、映像ソフト市場での位置づけも大きい地上放送の放送番組の国際的
   な交換・流通が容易になり、その拡大を通じて国際的な相互理解と相互信頼
   の深化に寄与する。

 (4)高度情報通信社会におけるトータルデジタルネットワークの完成
    通信ネットワークのデジタル化に続き、ほぼ100%の世帯普及を実現し
   ている地上放送のネットワークがデジタル化されることにより、高度情報通
   信社会を支える通信とのシームレスなトータルデジタルネットワークが実現
   する。また、デジタル化が進むパッケージメディアとの接続も容易になり、
   パッケージソフトのネットワーク流通を促進するなど、国民に直結する無線
   デジタル伝送路として放送ネットワークの飛躍的な発展性・拡張性をもたら
   し、放送ネットワークを利用した多彩なサービスが実現する。
                     
 (5)電波の有効利用の促進に貢献
    地上デジタル放送において、ゴースト妨害に強いOFDM方式の採用によ
   り、単一の周波数のくり返し使用(SFN)が技術的に可能となり、周波数
   の有効利用が実現する。このような周波数有効利用技術等の活用により、ア
   ナログテレビジョン放送終了後においては、新たな周波数資源を生み出し、
   新たな放送サービスの実現など将来の多様な電波ニーズに対応できる。

 5 地上放送のデジタル化の経済波及効果 

 (1)経済波及効果
    地上放送のデジタル化に伴い、放送事業者側は、現行の地上アナログテレ
   ビジョン放送の約1万5千局にも及ぶきめ細かい膨大な中継ネットワークを
   すべてデジタル化するための設備投資を進めることになる。
    その一方で、視聴者側は、すでに各家庭に約2台の割合で普及している約
   1億台弱のアナログテレビ受信機から新たなデジタル放送受信機への買い換
   えを中心とした購入が進むことになる。
    また、放送事業者側の収入については、地上放送の広告収入等が増加する
   とともに、放送番組のマルチユース化に伴う2次利用収入やPDA等モバイ
   ル向け放送サービスの創出、双方向サービス等の導入など新しい放送サービ
   スの実現によって、有料放送収入等の新規放送収入が増加する。さらに、新
   規コンテンツ制作やそのためのシステム開発関連投資なども進むことが想定
   される。
    これらの投資等により、通信や電気機械はもちろん出版、化学、不動産、
   金融等関連産業への幅広い波及効果が生じることが考えられ、10年間の経
   済波及効果を試算したところ、総額で約212兆円と推計される。
    また、経済波及効果に相当する雇用創出効果を試算したところ10年間で
   総計約711万人の雇用の創出が推計される。

 (2)将来の放送市場規模
    平成8年度の我が国の放送市場は全体で約3兆3千億円となっており、こ
   のうち地上放送が約3兆円と全体の90%以上を占めている。
    今後、地上放送の広告収入等が増加するとともに、放送番組のマルチユー
   ス化に伴う2次利用収入やPDA等モバイル向け放送サービスの創出、双方
   向サービス等の導入など新しい放送サービスの実現によって、有料放送収入
   等の新規放送収入が増加する。さらには、デジタル放送受信機をはじめとし
   て、デジタル映像、音楽ソフト、DVD機器などの放送関連市場も大きく成
   長することが想定される。
    これら市場の拡大要素を前提として試算したところ、2010年の放送市
   場は、新規放送サービス市場も含め約16兆円と推計され、関連市場も含め
   た市場規模は約35兆円と推計される。


第3章 地上デジタル放送の導入の在り方

 1 地上デジタル放送を導入する対象分野 

 (1)現行アナログ放送との関係
   1)映像メディアとして広く普及している現行のアナログ方式による地上テレ
    ビジョン放送については、基幹的放送メディアとしての役割がさらに発揮
    できるようデジタル放送へ早期に全面移行する。
   2)音声メディアとして広く普及している、AM、FMのアナログ方式による
    地上音声放送については、その受信機の簡易性、非常災害時等における情
    報通信メディアとしての役割等に配慮し、存続することとし、新規のサー
    ビスとしてデジタル音声放送を導入する。

 (2)地上デジタル放送のサービス類型
    地上デジタル放送として、次の2つの放送を実現する。
   1)「地上デジタルテレビジョン放送」
      映像を中心に音声及びデータも提供できる「地上デジタルテレビジョ
     ン放送」を実現する。
   2)「地上デジタル音声放送」
      音声を中心にデータも提供できる「地上デジタル音声放送」を実現す
     る。
             (注)データの中には、静止画及び簡易動画を含む。

 2 地上デジタルテレビジョン放送の導入の在り方 

   地上アナログテレビジョン放送は、全国あまねく普及することを目標に、こ
  れまで、約1万5千局にも及ぶ膨大な数の中継局をきめ細かく整備し、基幹的
  放送メディアとして各家庭に広く普及している。
   デジタル放送への全面移行に当たっては、これらの膨大な中継ネットワーク
  でアナログ放送を並行的に行いながら、アナログ方式のネットワークに代替す
  るデジタルネットワークを整備しなければならないが、我が国の周波数事情は
  極めて厳しく、デジタル放送用の周波数確保には固有の困難性を伴う。
   このような現況を認識しつつ、以下のような考え方に立って、地上デジタル
  テレビジョン放送の円滑な導入を図ることが適当である。

 (1)基本的考え方
   1)アナログ放送からデジタル放送への全面移行を早期に実現する。その際、
    放送事業者の低コストでの移行が実現するよう配慮する。
   2)行政当局及び放送事業者は、地上デジタル放送の放送対象地域別の導入ス
    ケジュール及びアナログ放送の終了時期の目安を可能な限り明確化するよ
    う努める。
   3)現行アナログ放送との周波数調整を少なくすることにより、円滑な移行を
    促進するとともに、アナログ放送を並行的に行いながらデジタル放送ネッ
    トワークを整備する既存事業者の負担に配慮する観点から、新規事業者の
    参入機会は、原則としてアナログ放送終了後とする。
   4)衛星放送、ケーブルテレビ、地上放送の3つの放送システムが、デジタル
    化によって、それぞれの役割が発揮できるようにする。特に、地上放送に
    ついては、既に国民に広く普及している基幹的放送メディアとしての役割
    が更に発揮できるようにする。
   5)視聴者側が無用な混乱を生じることがないよう、行政当局、放送事業者、
    機器製造業者等の関係者が連携し、視聴者にとって円滑な移行方策の実現
    を図る。

 (2)全国導入までの目標スケジュール
    我が国の地上デジタル放送の円滑な導入を図るため、行政当局、放送事業
   者、機器製造業者等の関係者が取り組む目安として、地上デジタル放送の全
   国導入までの目標として期待されるスケジュールは、次の通りとするが、そ
   の計画化・具体化にあたっては、周波数事情等を十分に勘案して検討する必
   要がある。

   1)親局レベル
   (ア)関東広域圏(独立U局は除く)では2000年からデジタル放送の試
     験放送を開始し、2003年末までに本放送を開始することを期待。
   (イ)近畿・中京広域圏(独立U局は除く)では、2003年末までに本放
     送を開始することを期待。
   (ウ)その他の地域(三大広域圏独立U局含む)では、2006年末までに
     本放送を開始することを期待。
   (エ)以上により、2006年末までに親局レベルでの全国的導入は完了す
     ることを期待。

   2)中継局レベル
   (ア)各放送事業者は中継局の整備計画を明示し、親局導入後は、その計画
     に従って、中継局のデジタル化を進めることを期待する。
   (イ)中継局のデジタル化を進めるに当たっては、既存鉄塔の活用など既存
     施設の有効活用や民間放送事業者とNHKの共同建設を進めるなどの効
     率的な整備が望まれる。
   (ウ)さらに、放送事業者が共同で中継局のネットワーク整備会社を設立し
     一元的に中継局ネットワークを整備するなどの方策についても検討が望
     まれる。
      なお、将来のデジタル放送時代には、CSやケーブルテレビなど他メ
     ディアの活用も含めこのような整備方策によることが、放送インフラの
     整備を一層効率的に進め、多様なデジタル放送サービスを実現する上 
     で、有効であるということになれば、ハード(放送局免許主体)・ソフ
     ト(放送番組編集主体)の分離による地上デジタル放送の運営を視野に
     入れた検討が望まれる。

   3)同一放送対象地域内の放送事業者間では、親局レベル、中継局レベルのそ
    れぞれにおいて、足並みをそろえて同一時期に地上デジタル放送を開始で
    きるように努めることが望ましい。

 (3)導入プロセス

   1)既存事業者限定の申請受付期間の設定
     アナログ放送からデジタル放送へ早期に全面移行を行うため、親局レベ
    ルについて既存事業者に限定した、デジタル放送免許の申請受付期間を設
    定することが必要である。
     なお、既存事業者限定の申請受付期間内に既存事業者から申請がない場
    合においては、その申請限定期間経過後、新規事業者の参入の機会を確保
    し、意欲のある新規事業者の積極的な参入に配慮する。
     既存事業者限定の申請受付期間は、関東、近畿、中京の三大広域圏(独
    立U局は除く)については、2003年末まで、その他の地域(三大広域
    圏独立U局含む)は、2006年末までとする。

   2)周波数の帯域幅
     デジタルテレビジョン放送の免許に当たっては、その放送サービスを魅
    力あるものとするため、地上放送において、HDTV等デジタル技術を活
    用した多彩なサービスが実現可能となるよう、6MHzの帯域幅(伝送容
    量:暫定方式によれば、最大23.234Mbps)を割り当てることが望ましい。
     (参考)BSデジタル放送の場合、1事業者は、HDTV1番組の放送
    が可能で、仮にHDTVを実施しない場合はSDTVの複数チャンネル放
    送が実施可能となっている。

 (4)アナログ放送の終了時期
    アナログ放送の終了時期の目安を示すことにより、視聴者にとっては、テ
   レビの買い換え等デジタル放送への移行にスムーズに対応できる。また、放
   送事業者や機器製造業者等にとっても、設備投資計画等の策定に寄与し、デ
   ジタル放送への円滑な移行につながる。
    したがって、デジタル放送への円滑な移行を促すためには、アナログ放送
   の終了時期の目安をあらかじめ示すことが望ましい。
    現時点で、具体的な終了時期の目安を示すことは困難であるが、3年ごと
   に放送対象地域ごとの地上デジタル放送の普及状況等を十分勘案して見直す
   ことを前提として、現時点で予測すると、全国的なアナログ放送の終了時期
   の目安は2010年とすることが望ましい。
    その場合、次の2つの条件に沿って、見直し等を行うこととする。
    1)当該放送対象地域の受信機(アダプター、ケーブルテレビ等による視聴
     を含む)の世帯普及率が85%以上であること。
    2)現行のアナログ放送と同一放送対象地域をデジタル放送で原則100%
     カバーしていること。

 (5)アナログ放送終了後の周波数
    アナログ放送終了後に新たに割当て可能となる周波数については、その時
   点での総合的な周波数事情と新規事業者の参入機会の確保など将来の電波 
   ニーズを踏まえ検討する必要がある。

 (6)放送方式
    電気通信技術審議会では、1)高精細度放送(HDTV)の実現、2)多チャ
   ンネル放送の実現、3)高機能化、4)移動体向け放送サービス、5)単一周波数
   中継(SFN)などが実現可能となることを基本的要求条件として、199
   8年9月に、地上デジタルテレビジョン放送方式の暫定方式がとりまとめら
   れた。
    この方式は、セグメント化したOFDM方式であり、セグメント毎に変調
   方式を任意に変更できることから、柔軟な放送サービスが可能となる。
    今後、技術性能確認試験による検証等を行いつつ審議を進め、1999年
   春頃、放送方式を策定する予定である。

 (7)チャンネルプラン
    放送用電波の割当計画であるチャンネルプランについては、本「懇談会」
   における基本的事項の審議、放送方式、受信機等の開発及び置局に関する技
   術的条件の検討を踏まえ、1998年12月には原案を作成し、調整した上
   で、他の制度整備と併せて、1999年秋頃に策定する予定で検討が進めら
   れている。

   1)周波数帯
     地上アナログテレビジョン放送においては、その全国普及を図るため、
    これまで、約1万5千局にも及ぶ膨大な数の中継局を整備しており、しか
    も、それぞれの中継局は相互に電波干渉しないようなチャンネルを選定し
    ていることから、我が国のテレビジョン放送用の周波数事情は厳しい。
     その中で、テレビジョン放送が、開始当時に技術的に使用が容易であっ
    たVHF帯で開始されたことから、VHF帯は親局等の大電力局で多く使
    用され、その一方、UHF帯は多数の中継局等で使用されている。
     従って、全国的にアナログ放送に割り当てられていない周波数は、13
    チャンネルを除けば、存在しないというのが現状である。このような状況
    下で将来を見通した安定的なデジタル放送の周波数を準備するためには、
    地域によっては、既にアナログ放送で利用されている周波数の変更(チャ
    ンネル変更)等が避けられないものと見込まれる。
     アナログ放送からデジタル放送への移行を円滑かつ早期に行うために 
    は、上述したチャンネル変更等を可能な限り少なくする必要があり、この
    ためには、比較的に利用が少ないUHF帯のローバンドをデジタルテレビ
    ジョン放送用の周波数として原則利用し、一部事情に応じて他の周波数帯
    も利用することが適当である。
     以上のような調整を行いつつ、デジタル放送の周波数を準備していくこ
    とになり、全国的な周波数の逼迫状況を考慮すると、アナログ放送からデ
    ジタル放送への移行期において、新規参入のための周波数を用意すること
    はそれだけ現行アナログ放送との調整を多くし、既存事業者や視聴者への
    影響は大きなものとなる。従って、デジタル放送への円滑な移行を促進す
    るためには当初は既存事業者の移行を重点的に実施することとし、新規事
    業者の参入機会は、移行完了後、すなわち、アナログ放送終了後に生み出
    される周波数帯を使用することが適当である。

   2)放送対象地域等
     移行期においてはアナログ放送とデジタル放送が混在することから、周
    波数がさらに逼迫するとともに、テレビジョン放送についてはアナログ放
    送からデジタル放送への早期全面移行という基本的考え方を踏まえ、現行
    の放送対象地域を基本とし、固定受信を前提にチャンネルプランを策定す
    ることが適当である。

   3)現行アナログ放送の周波数変更
     (7)の1)で述べたとおり、デジタル放送の導入に伴い、地域によって
    は、アナログ放送の周波数変更等が部分的に必要になるが、このための送
    信側・受信側対策費用はデジタル放送の周波数を割り当てられた放送事業
    者をはじめとする関係者間でその分担方法について検討する必要がある。
     その際、これらの放送事業者の送信側・受信側対策に当たっての分担に
    ついても、同一放送対象地域の既存事業者において、全体として円滑に移
    行できるような分担方策の検討が望まれる。

 3 地上デジタル音声放送の導入の在り方 

   AM/FMの現行の地上アナログ音声放送は、小型で簡便な受信機で手軽に
  聴取できることから、国民の間に広く浸透しているとともに、1995年の阪
  神・淡路大震災において、ラジオの有用性を認識させるなど非常災害時等にお
  ける情報通信メディアとしての役割を有している。
   このような現況を認識した上で、音声放送のデジタル化のメリットである高
  音質音声放送等に対するニーズにも対応できるよう、以下のような考え方に立
  って、地上デジタル音声放送の円滑な導入を図ることが適当である。

 (1)基本的考え方
   1)アナログ音声放送は存続した上で、新規のデジタル放送サービスとして、
    高音質の音声も可能である音声放送を中心にデータも提供できる地上デジ
    タル音声放送を実現する。
   2)その際、現在のAM/FMのアナログ放送用周波数帯でデジタル放送用の
    周波数を見出すことは周波数事情等から困難であるため、テレビジョン放
    送用の周波数帯でデジタル音声放送の実現を図る。
   3)新規の地上デジタル音声サービスとして、新規事業者の参入機会を確保す
    るとともに、デジタル音声放送の普及を図る観点から、既存音声放送事業
    者の経営資源とノウハウが活用できるようにする。

 (2)目標スケジュール
    周波数の割当て可能な地域で2000年から試験放送を含め放送が開始さ
   れることを期待する。

 (3)導入プロセス
   1)デジタル音声放送については、周波数事情から、エリアの限定された新規
    サービスとして導入することから、既存事業者を優先するような既存事業
    者限定の申請受付期間は設けず、既存音声放送事業者と新規事業者の参入
    機会を平等に確保することが適当である。
   2)周波数の帯域幅は、サービス条件と大きく関係することから、後述する 
    (4)放送方式の検討の中で、暫定放送方式の決定に併せて決定する予定
    である。

 (4)放送方式
    現在、電気通信技術審議会において、高品質なステレオ放送サービス、音
   声及びデータ放送も可能とする多様な放送サービスの実現と移動受信・携帯
   受信に特に配慮するような放送方式の策定に向けた検討が進められている。
    今後、野外での実験等を経て、1998年秋頃、暫定放送方式を決定し、
   1999年夏頃、放送方式を策定する予定である。

 (5)チャンネルプラン
    地上デジタル音声放送のチャンネルプランについては、本「懇談会」にお
   ける基本的事項の審議、放送方式、受信機等の開発及び置局に関する技術的
   条件の検討を踏まえ、地上デジタルテレビジョン放送のチャンネルプランの
   検討の中で策定作業を進め、テレビジョン放送とほぼ同時期に策定する予定
   である。

   1)周波数帯
     現在のAM/FMのアナログ放送用周波数帯でデジタル音声放送用の周
    波数を見出すことは周波数事情等から困難であるため、テレビジョン放送
    用の周波数帯でデジタル音声放送の実現を図る必要がある。
     具体的には、デジタルテレビジョン放送用周波数については、原則、U
    HF帯のローバンドを割り当てることから、VHF帯(当該地域でアナロ
    グテレビジョン放送に使用されていない周波数)を利用することが適当で
    ある。
     その場合には、移動受信を前提として、既存のアナログテレビジョン放
    送に影響を与えず、また、その影響を受けないようにする必要がある。
     なお、テレビジョン放送のアナログ放送からデジタル放送への移行完了
    後、VHF帯内でのデジタル音声放送の再編成について検討が必要であ 
    る。

   2)放送対象地域
     テレビジョン放送のデジタル放送への移行期は、周波数事情が特に厳し
    いため、その放送対象地域は、これまでの音声放送のような県域等を対象
    とすることは困難であって、現行のテレビジョン放送に影響を及ぼさずに
    カバーできる範囲に限定される。すなわち、放送サービスの提供が可能な
    地域としては、県庁所在地又はそれに準ずる都市を中心とし、周辺都市を
    カバーするエリア(三大都市圏においては大都市圏内の1の送信点から放
    送する場合には、他地域に比較して広域的な放送も可能と考えられる)と
    なるものと想定される。


第4章 放送端末の在り方

 1 地上デジタル放送端末に関する基本的考え方

 (1)今後、地上デジタル放送受信機の普及促進を図るためには、視聴者にとっ
   て選択の幅が広がるとともに、視聴者の利便性に応えることが必要である。
    そのためには、地上デジタル放送受信の基本的な機能を有する放送端末
   (基本機能放送端末)、地上デジタル放送サービスの発展性に対応が可能な
   インターフェイス等を有する放送端末(機能拡張可能な放送端末)及びサー
   バ機能等高度な機能を有する放送端末(高機能放送端末)が市場にあること
   が望ましい。

 (2)地上デジタル放送受信機が家庭の情報端末として最低限必要な基本的な機
   能としては、多チャンネル番組の簡単な検索・選択支援等が可能なヒューマ
   ンインターフェイス機能、情報サービス受信のためのデータ放送受信機能及
   び簡単な双方向機能があげられる。
    ただし、デジタル放送受信機として最低限必要とされる機能については、
   データ放送方式の開発と並行して検討を行うことが望ましい。

 (3)基本的なヒューマンインターフェイス機能に加え、高齢者、身障者の特別
   な事情を考慮し、音声、点字入出力インターフェイスなど、目的を特化した
   ヒューマンインターフェイスが容易に機能拡張できることが望ましい。
 
 (4)デジタル放送受信機普及の観点から、BS放送、CS放送、ケーブルテレ
   ビ等他のメディアの受信機との共用化を進めることが必要である。

 2 地上デジタル放送端末への移行過程 

 (1)地上デジタル放送導入開始時においては、主として既存のアナログ受信機
   をディスプレイとして使用し、それにアダプターを接続して、地上デジタル
   放送を視聴することが想定される。その後、徐々にアダプター機能を予め組
   み込んだ内蔵型放送端末や高機能放送端末での視聴が進むことが想定され
   る。

 (2)なお、開始時から、最低限、基本機能放送端末と機能拡張可能な放送端末
   の双方が市場にあることが、視聴者ニーズにも対応でき、地上デジタル放送
   受信機の普及に寄与する。

 3 放送端末の将来像 

 (1)ホームネットワーク対応型放送端末
    BS放送、CS放送、ケーブルテレビ等他のメディアとの放送受信機の共
   用化が進み、さらに、視聴者にとっては、通信メディアを含め全伝送メディ
   アを1台で享受可能となるホームネットワーク対応型放送端末の出現が見込
   まれる。

 (2)モバイル情報端末
    地上デジタル放送の移動受信と携帯電話等移動通信端末との共用が可能と
   なったモバイル情報端末の出現が見込まれる。

 4 技術開発の考え方と課題 

 (1)地上デジタル放送研究開発用共同利用施設等の積極的活用
    地上デジタル放送パイロット実験は2000年からの地上デジタル放送の
   開始に向けて、放送事業者による地上デジタル放送のノウハウの蓄積、機器
   製造業者による放送端末開発のためのテストベッドとして重要である。ま
   た、地上デジタル放送研究開発用共同利用施設は地上デジタル放送の全国規
   模での早期普及のため、デジタル放送の潜在能力を活かした新サービス・新
   技術の開発を幅広い分野から参加を得て行うもので、事業性の飛躍的な向
   上、ニュービジネスの創出に貢献する。これらへの積極的な参加と施設の有
   効活用が期待されるとともに、全国的な規模で行っていくことが必要であ
   る。
    これにより、特にマルチメディアサービス放送の可能性、全貌の見極めが
   できれば、いわゆる高機能放送端末の仕様設定の目処が付け易くなると考え
   られる。

 (2)技術開発課題等
    地上デジタル放送端末の鍵となるOFDMのLSIについては、導入開始
   当初からの供給体制の確立が必要である。その他回路規模の小型化と省電力
   化、各種インターフェースの標準化、室内/内蔵アンテナの利得の向上、受
   信機の受信感度の向上等、放送端末の開発上、配慮すべき課題は多数ある
   が、これらの課題を克服することが、地上デジタル放送端末の低コスト化、
   機能アップ等に必要不可欠であり、技術開発に積極的に取り組む必要があ
   る。


第5章 視聴者の視点からの円滑な移行

 1 地上デジタル放送導入に伴う視聴者側の対応措置 

 (1)地上デジタル放送の視聴のための新たな機器の購入
    地上デジタル放送を視聴するためには、現行のアナログ受信機にアダプ
   ターを付加するかデジタル放送受信機を購入する必要が生じる。 
    なお、これまでVHF帯のアンテナだけでテレビを視ていた視聴者には、
   UHF帯のアンテナが必要となるなど、地域によっては、デジタル放送受信
   のための新たなアンテナを設置するなどの必要が生じる。

 (2)アナログ受信機のチャンネル設定の変更
    第3章、2、(7)でも記述したとおり、デジタル放送の導入に伴い、地
   域によっては、既にアナログ放送で利用されている周波数の変更を要する場
   合が考えられることから、現在、視聴しているアナログ受信機のチャンネル
   設定の変更等の必要が生じる。

 2 視聴者側の円滑な移行策 

 (1)視聴者への周知徹底
   1)行政当局、放送事業者、機器製造業者等の関係者が、それぞれデジタル放
    送への移行に関して、整合性のとれたPRに努めるとともに、地上デジタ
    ル放送サービスのメリットについても積極的なPRを行い、国民・視聴者
    の十分な理解を得ることが求められる。
     その際、デジタル化により、高齢者・身障者への対応を考慮した番組制
    作などが技術的に容易になり、種々の番組提供が可能となることなど、国
    民・視聴者各層のニーズを踏まえたきめ細かな配慮が望まれる。

   2)放送対象地域ごとの導入計画等の関連情報のオープン性、フリーアクセス
    性を確保するとともに、相当期間にわたって、十分周知徹底に努め、視聴
    者の混乱を回避すること、また必要に応じ、関係者が適宜・適切に対応す
    ることが求められる。

   3)全国的な地上デジタル放送研究開発用共同利用施設を活用した実験等は国
    民の理解を深め、社会的なコンセンサスを形成するためにきわめて効果的
    である。

 (2)視聴者側の対応の最小限化
    同一放送対象地域は放送事業者間で、可能な限り、足並みをそろえて地上
   デジタル放送を開始できるよう努めることにより、視聴者側のアンテナ、受
   信機などの設置工事、調整などの対応が最小限で済むようにする必要があ
   る。
    これらの措置により、地上デジタル放送の視聴コストの低廉化につながる
   ことが期待される。
    また、現在、地上テレビジョン放送の視聴者の約3割がケーブルテレビを
   介して視聴しており、これらの有線系共同受信者が、地上デジタル放送を受
   信できるよう、デジタル化に対応したケーブルテレビ施設の高度化方策につ
   いて今後早急に検討する必要がある。

 (3)地上デジタル放送の視聴の低コスト化等
    放送端末標準仕様の合意形成により、地上デジタル放送受信機やアダプ
   ターについて、家庭の情報端末として必要な機能を保ちつつ、低廉化を図る
   必要があり、今後、関係者による努力が求められる。
    また、既存のアナログ機器やアンテナが地上デジタル放送の受信にあたっ
   て、活用できるようにすることが重要であり、このことが視聴者に対してわ
   かりやすく周知されることが求められる。
    さらに、デジタル化に伴い、テレビ受信機の買い換え需要が生じることも
   想定されるが、テレビ受信機については、生活環境保全の観点から、リサイ
   クルなどの適切な対応が望まれる。

 (4)デジタル放送でもアナログ放送の番組を視聴可能とするサイマル放送の
   実施
    アナログ放送からデジタル放送への移行過程では、デジタル放送とアナロ
   グ放送を並行して行うことから、アナログ放送受信機の視聴者は、現在視聴
   しているアナログ放送番組は、当然、引き続き視聴可能となる。
    一方、デジタル放送でもアナログ放送の番組を視聴可能とするサイマル放
   送を行うことによって、デジタル放送受信機の視聴者は現在視聴しているア
   ナログ放送番組をデジタル放送受信機においても視聴可能となる。
    なお、サイマル放送については、同一時刻、同内容の編成も想定される
   が、デジタル放送の普及の観点から、サイマル放送の編成の柔軟性にも留意
   することが望まれる。 

 (5)多彩な地上デジタル放送サービスを享受可能
    放送事業者によってデジタル技術の特性が最大限発揮され、視聴者の関心
   を高めるデジタル放送サービスが提供されることが、視聴者が円滑にアナロ
   グ放送受信からデジタル放送受信に移行する上で特に重要である。


第6章 支援措置の在り方

 1 放送事業者の設備投資 

   我が国の放送事業全体の設備投資の動向を見ると、平成8年度で約5,50
  0億円となっており、前年度を大幅に上回っているが、平年ベースでみると約
  2,000〜3,000億円の間を推移しており、最近では、地上放送はこの
  うちの約半分程度を占めている。
   放送事業者は、番組制作設備のデジタル化については逐次進めているが、地
  上デジタル放送を実現するには、送信設備等のデジタル化のために新たな設備
  投資が必要となる。
   地上アナログテレビジョン放送については、その全国普及を図るため、これ
  まで、約1万5千局にも及ぶ膨大な数の中継局をきめ細かく整備してきた。
   放送事業者は、移行過程にあっては、アナログ放送を並行的に行いつつ、逐
  次デジタル放送を導入し、アナログ方式のネットワークに代替するデジタル方
  式のネットワークを整備しなければならない。
   放送事業者の中にもその企業規模は千差万別であり、特に経営基盤が脆弱な
  ローカル局や最近開局した放送局、今後開局予定の放送局にとっては、デジタ
  ル化に伴う設備投資の経営的な負担は特に大きい。このほか、デジタル放送の
  導入に伴うアナログ放送の周波数変更やそれに伴う受信側のチャンネルの再設
  定などの受信対策経費も必要となる。
   これら必要な設備投資額を一定の条件の下で試算したところ、約9,300
  億円と推計される。
   従って、これらの投資については、行政当局としてもできるだけ放送事業者
  が低コストで実現できるような方策の検討が求められる。

 2 支援措置 

 (1)デジタル放送の導入期の対応

   1)技術開発支援
     平成10年度の総合経済対策において、地上デジタル放送研究開発用共
    同利用施設の全国的な整備が盛り込まれているが、放送事業者をはじめ機
    器製造業者等がデジタル放送の潜在能力を活かした、新サービス・新技術
    の開発を行い、地上デジタル放送の事業化等につなげることが重要であ
    る。
     このような共同利用施設の全国的整備も含め、将来にわたって、デジタ
    ル放送の効用を引き出すアプリケーションの高度化のための研究開発が必
    要である。

   2)設備投資に対する金融、税制上の支援
     民間放送事業者がデジタル放送の導入に当たって、必要となるデジタル
    放送設備等の投資負担を軽減し、デジタル放送の円滑な導入が促進される
    よう金融、税制上の支援措置を講ずる必要がある。
     平成10年度の総合経済対策において、地上放送番組制作設備デジタル
    化促進税制が創設される等、既に、デジタル放送の番組制作設備について
    は、金融、税制上の支援措置が講ぜられているが、さらに、デジタル放送
    設備の取得に必要な資金を創出するための税制面の優遇措置を含めて、デ
    ジタル放送に必要な送出・送信設備の取得について、金融・税制上の支援
    措置を講ずる必要がある。
     また、デジタル放送の導入に伴い既にアナログ放送で利用されている周
    波数の変更が必要となることから生じる施設整備に対しては、すでに一部
    金融上の支援措置が講ぜられているが、その支援措置の充実についても取
    り組む必要がある。

   3)免許申請の簡素化と処理の迅速化
     既存の放送事業者がデジタル放送への移行のために、新たにデジタル放
    送局を開設する場合の免許申請に当たっては、添付書類の提出を一部省略
    することができることとする等免許申請手続きの簡素化を図るとともに、
    他の無線局との混信について、電波有効利用促進センターの照会・相談業
    務を活用する等、申請処理事務の迅速化についても検討が必要である。
                
 (2)アナログ放送終了に向けての対応
    現在、民放テレビジョン放送が1波も視聴できない地域、民放の中波放送
   が良好に受信できない地域に対しては、地域間の情報通信格差是正という観
   点から、放送中継局や共同受信施設に対して財政上の支援措置が講ぜられて
   いる。
    したがって、地上デジタルテレビジョン放送についても、普及が進んだ段
   階で地上デジタル放送が受信できない地域においては、地域間のデジタル放
   送の格差是正という政策的配慮から、同様に地上デジタルテレビジョン放送
   の中継局や共同受信施設の整備に対する国及び地方自治体の支援が必要であ
   る。


第7章 放送のデジタル化と放送番組ソフト

 1 番組制作 

 (1)番組制作におけるデジタル化の進展
    デジタル技術の進展により、放送システムや放送番組ソフト制作において
   もカメラ、VTR機器等の高度化により、全体としてデジタルシステムへの
   移行が進んでおり、番組制作の効率化や多彩な番組制作等に貢献している。
    行政当局も、第6章で示したとおり、制作設備の取得に対して、金融・税
   制上の支援措置を講じており、制作設備のデジタル化は一層加速するものと
   予想される。

 (2)教育機関に専門学科の設置等人材育成の充実
    放送番組ソフトの需要増大に対応し、番組制作に携わる人材の育成・確保
   のために、教育機関に専門学科の設置等が望まれる。

 (3)資金調達手段の多様化のための環境整備
    多種多様なニーズに対応した放送番組ソフトの制作を支える制作事業者の
   財政基盤の充実が不可欠であり、そのための資金調達手段の多様化が望まれ
   る。

 2 番組流通 

 (1)デジタル化に伴う番組流通量の増大
    デジタル化に伴うチャンネル数の増加やデジタル化により、放送番組ソフ
   トの長期保存や複製などが劣化せずに可能となることから、放送番組ソフト
   のマルチユース化への可能性は広がり、海外流通需要の拡大も含め、放送番
   組ソフトの流通量は増大する。

 (2)放送番組ソフトの権利情報の提供方策と著作権処理ルールの確立等
    映像系ソフトの流通市場規模の過半を占める地上放送番組ソフトの二次利
   用は映画と比較してもその規模ははるかに小さい。これは、現状では、1〜
   2回の放送のみを対象とした権利処理が行われている場合が圧倒的に多く、
   二次利用の際には、新たに権利処理が必要であることが原因である。
    従って、円滑な放送番組ソフトの流通を促進するためには、地上デジタル
   放送を含む二次利用を前提とした権利処理ルールの確立、放送番組ソフトの
   権利所在のデータベース化、文書契約の締結慣行の確立等が必要であり、早
   期実現が望まれる。

 3 番組保存 

 (1)放送番組ソフトのマルチユース化
    デジタル化に伴うチャンネル数の増加に対応し、既存の放送番組ソフトや
   番組素材を映像素材として活用して、新たな放送番組ソフトの制作が増加す
   ることが考えられる。
    その際、デジタル化により、放送番組ソフトの劣化の防止、大容量ディス
   クでの記録・保管が可能となり、放送番組ソフトのマルチユース化が促進さ
   れる。

 (2)放送番組ソフト・ライブラリーの整備
    放送番組ソフトを貴重な文化資産として劣化なく保存蓄積を行うととも
   に、デジタル化による広範な利用を可能とするために放送番組ソフトを保存
   するライブラリーについてもデジタル化への対応が必要である。

 4 国際協調及び共同研究 

 (1)アナログテレビジョン放送においては、世界には、日本・米国・韓国など
   のNTSC方式、英国・独国などのPAL方式、ロシア・東欧などのSEC
   AM方式という3つの大きく異なる方式が存在し、カメラから受像機に至る
   まで互換性がなく、映像番組の交換にも課題があったが、デジタルテレビジ
   ョン放送においては、MPEGー2の映像圧縮技術方式を共通に採用するな
   どアナログに比べれば、方式間の互換性が格段優れている。
    なお、特にデジタル放送時代においては、今までの映像番組以外に、デー
   タ放送と連動した放送番組ソフト、双方向型放送番組ソフトなどが出現し、
   異なる方式間での放送番組の流通・交換を複雑化させることから、国際間で
   の一層の互換性確保のための国際協調及び共同研究が必要である。

 (2)日米欧以外の国においてもデジタル放送に関する関心が急速に高まってお
   り、特に、地域的なつながりが深いアジア・太平洋諸国間での情報格差をな
   くし、相互理解を深めるためにも、今後地上デジタル放送の導入を検討する
   国々と最適なシステムや番組交換技術などについて、共同して研究し、国際
   的にも貢献していくことが求められる。
    更に、同一方式が世界的にも普及することによって、放送機器や受信機な
   どの低廉化・性能向上も期待できる。


第8章 放送制度の在り方

  地上デジタル放送であっても、アナログ放送を前提として制定された現行の放
 送法に定める次に示す放送の基本理念は維持すべきである。

 【放送法第1条「目的」】
  1)放送の最大限の普及とその効用の発揮
  2)放送の不偏不党、真実及び自立の保障による表現の自由の確保
  3)放送に携わる者の職責を明確にすることによる放送の健全な民主主義の発達
   への寄与

 【放送法第2条の2第2項】
  4)放送をすることができる機会をできるだけ多くの者に対し確保することによ
   り、放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されること

  これら基本理念を維持した上で、第3章で示した「地上デジタル放送の導入の
 在り方」等の考え方に沿って、制度課題を検討した結果は、以下のとおりであ
 る。

 1 放送の免許形態 

   デジタル放送では、割り当てられた伝送容量の範囲で、映像、音声、データ
  等を統合、編成し、多様なサービスの提供が可能となることから、このような
  デジタル放送の特徴を十分発揮できるような放送の免許形態を実現することが
  望ましい。
   したがって、地上デジタル放送の実現にあたって、地上デジタルテレビジョ
  ン放送と地上デジタル音声放送の2つのサービス類型を設定した趣旨を踏まえ
  つつ、1の放送事業者の地上デジタルテレビジョン放送サービスについては、
  現行の標準テレビジョン放送と同等以上の映像を中心に、音声及びデータも提
  供できる、また、地上デジタル音声放送サービスについては、音声を中心に、
  データも提供できるような放送の免許形態を実現することが望ましい。
   
 2 柔軟な事業形態 

   現在、地上アナログ放送では、ハード(放送局免許主体)とソフト(放送番
  組編集主体)の一致の原則の下で放送サービスが提供されているが、デジタル
  放送導入に当たって、特にテレビジョン放送についてはデジタル放送への移行
  という観点から、既存事業者にその役割を期待しており、これまでのハード・
  ソフト一致の形態を基本とする考え方でのデジタル放送の導入が適当である。
  しかしながら、デジタル放送用周波数を割り当てられた放送事業者の未使用周
  波数帯域や未使用時間については、放送設備を保有しない者に対しても、これ
  を利用できる機会を与えることは、周波数資源の有効活用につながるととも
  に、放送市場の活性化に寄与すると考えられる。
   したがって、現行アナログ放送のハード・ソフト一致を基本として、放送設
  備を保有していない者であっても、デジタル放送事業に参入できるような柔軟
  な事業形態が実現できるような制度が望ましい。
   その際、設備保有者の非保有者に対する優越的地位の抑制や非保有者間の公
  正な条件の確保を図る必要がある。

 3 マスメディア集中排除原則の運用の在り方 

   現在、有限稀少な周波数資源の使用と放送の有する社会的影響力の大きさか
  ら、放送をすることができる機会をできるだけ多くの者に対し確保することに
  より、放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されるよう制
  度的に確保しているが、この基本的考え方はデジタル放送においても変わるも
  のではない。従って、この基本的考え方の下で、デジタル放送の普及促進等が
  可能となるようなマスメディア集中排除原則の運用の在り方については、次の
  ような視点での検討が必要である。
   デジタル技術の特徴を活かし、地上デジタルテレビジョン放送サービスで 
  は、映像、音声、データを組み合わせた多彩なサービスが、地上デジタル音声
  放送では音声とデータを組み合わせた多彩なサービスが提供可能となり、視聴
   また、地上デジタル音声放送については、第3章でも記述したとおり、デジ
  タル音声放送の普及を図る観点から、既存音声放送事業者の経営資源とノウハ
  ウを活用できるよう、既存音声放送事業者の参入が可能となるようにする必要
  がある。
   なお、デジタル化投資が将来にわたって困難な場合に円滑な資金調達等を可
  能とするなど、経営基盤の強化に寄与する複数局支配の在り方については、今
  後検討する必要がある。

 4 番組規律 

   現在、放送事業者の番組編集については、放送の有する社会的影響力等に鑑
  み、番組編集準則、番組調和原則等、一定の番組規律が設けられている。
   これらの規律は、地上デジタル放送においても、その重要性は変わることは
  ないと考えられることから、現行どおり維持することが適当である。
   なお、これらはサービス内容とその発展性を見極めつつ、将来、再検討が必
  要である。

   (注1)番組編集準則
       番組編集に当たっては、公序良俗を害しないこと、政治的に公平、
      事実をまげない報道、対立意見の多角的取扱の準則に則る必要があ
      る。
   (注2)番組調和原則
       テレビジョン放送とNHKのラジオ放送の番組編集に当たっては、
      教養番組又は教育番組並びに報道番組及び娯楽番組を設け、放送番組
      相互間の調和を保つようにする必要がある。

 5 放送対象地域とあまねく普及義務 

   現在、同一の放送番組の放送を同時に受信できることが相当と認められる一
  定の区域を放送対象地域とし、放送事業者はその地域へのあまねく普及義務が
  ある。
   デジタル放送の導入に当たっては、テレビジョン放送については、アナログ
  放送からデジタル放送への全面移行ということから、放送対象地域は、現行を
  基本とする。
   また、あまねく普及義務についても、現行どおり考えていくことが適当であ
  る。
   なお、地上デジタル音声放送については、第3章、3、(5)、2)でも記述
  したとおり、その周波数事情により、これまでの県域等のような放送対象地域
  の設定は行わないが、現行のテレビジョン放送に影響を及ぼさずにカバーでき
  るエリアの範囲において、放送対象地域を設定することとし、あまねく普及義
  務についても現行どおり考えていくことが適当である。

 6 経過措置

   テレビジョン放送については、アナログ放送からデジタル放送への移行とい
  う考え方に基づき地上デジタル放送を導入するため、当分の間は、アナログ放
  送とデジタル放送が並行的に存在することになるなど、デジタル放送への円滑
  な移行の観点から、次のような経過措置が必要となる。

 (1)デジタル放送でもアナログ放送の番組を視聴可能とするサイマル放送の
   実施
    アナログ放送からデジタル放送への移行過程で、地上デジタルテレビジョ
   ン放送でも地上アナログテレビジョン放送の番組を視聴可能とするサイマル
   放送を行うことについて制度的な担保措置を講ずる必要がある。

 (2)既存事業者限定の免許申請受付期間の設定
    地上デジタルテレビジョン放送の免許(親局レベル)については既存事業
   者限定の申請受付期間を設定し、その限定期間の経過後、新規事業者と既存
   事業者の参入機会が平等になるようにする必要がある。