第2章 ライフサポート(生活支援)情報通信システムを取り巻く環境

1 高齢者・障害者を取り巻く環境

(1)高齢者を取り巻く環境
 
 高齢化の進行に伴う要援護高齢者の増加
   我が国の2010年の65才以上の高齢者人口は2,813万人に達し、1995年と
  比較して987万人も増加することが見込まれており、高齢化率(全人口に
  占める65歳以上人口の割合)は22.0%と約5人に1人が高齢者という高
  齢社会となることが予測されている。また、その時点における、要援護
  高齢者数も約 390万人と、1993年の約2倍に増加すると推計されている。
  その後も高齢者人口及び高齢化率は、平均寿命の伸長や低い出生率を反
  映して上昇を続け、平成27年(2015年)には、高齢者人口は3,118万人と
  なって高齢化率は25%を超え、国民の4人に1人は高齢者という本格的
  な高齢社会が到来するものと予想される(国立社会保障・人口問題研究
  所の試算による)。

   高齢社会の到来は、経済発展等の成果でもあり、多くの高齢者が働き、
  または地域で活動するなど元気に活躍する社会となる一方、年齢ととも
  に身体機能が衰え、寝たきりになったり、アルツハイマー病などにより
  痴呆になる高齢者も増加することが予想され、全ての人々が健康で、生
  き甲斐を持ち、安心して生涯を過ごせるような社会とするための環境整
  備が必要となっている。

 
 社会全体としての介護への取組の必要性
   65歳以上世帯主の世帯数(高齢者単独世帯及び夫婦のみ世帯)は、
  2010年には約993万世帯になると推測されており、1995年に比べ約473万
  世帯増加し、こうした世帯における高齢者が要介護状態になった場合の
  介護の問題が拡大することが予想される(厚生省人口問題研究所「日本
  の世帯数の将来推計(平成5年10月推計)」)。また、寝たきり者の寝
  たきり期間は半数以上が3年以上となっており、さらに介護者の半数以
  上が60歳以上の高齢者であることなど、寝たきり期間の長期化、介護者
  の高齢化に対する問題も発生している(厚生省「平成7年国民生活基礎
  調査」)。

   高齢期の生活に対する不安については、自分や配偶者が「身体が虚弱
  になり病気がちになること」「寝たきりや痴呆性老人になり介護が必要
  になったときのこと」をあげており、要介護状態になることへの不安を
  強く持っていることがうかがえる(総理府「平成5年高齢期の生活イ
  メージに関する世論調査」)。さらに、老いた親の扶養に関する最近の
  社会意識は、我が国の伝統的な「老いた親を扶養することは子どもとし
  て当たり前」という意識から「高齢者は社会で扶養」という意識に移行
  しつつある(毎日新聞人口問題調査会「新しい家族像を求めて:第22回
  全国家族計画世論調査」)。

   このような、核家族化の進行、介護期間の長期化、介護者の高齢化、
  要介護状態になることへの不安の高さ、老親扶養に対する意識の変化を
  考慮すると、要介護者への介護は個人や家族だけの問題として捉えるの
  でなく、社会全体の問題として取り組むことが必要となっているといえ
  る。

 
 健康な高齢者の活力を活かした社会づくりの必要性
   健康面の意識調査では、65歳以上の人で健康状態が「よくない」「あ
  まりよくない」と答えているのは約2割のみであり、大多数の高齢者は
  自分が健康であると考えている(厚生省「平成7年国民生活基礎調
  査」)。高齢社会は、このように大多数を占める健康な高齢者が長寿を
  謳歌するといったプラスの面も大きいことから、今後は健康な高齢者の
  就労、生きがいづくり等を支援し、その活力を活かした社会のしくみづ
  くりが必要となる。

 
 利用者の希望を尊重したサービス提供のための福祉情報システムの必要性
   これまでの老人福祉法に基づく福祉制度は、行政が要介護者を措置す
  るというものであり、行政主導の考え方で福祉サービスの提供が行われ
  てきた。また、その対象は生活が困難な人など特定の人のみであった。
  介護保険制度の導入に伴い、今後は誰もが自らの意志と選択に基づき、
  質の高いサービスを総合的に受けることが可能な、利用者の希望を尊重
  した仕組みとなる。
   このような利用者の希望を尊重したサービス提供体制下では、
  ア サービス選択のための情報を「誰もが、いつでも、どこでも」手に
   入れられるような仕組み
  イ 多元的なサービスを組み合わせて利用するためのケアコーディネー
   ションシステムと、サービス提供側の情報共有化システム
  ウ サービスの予約状況の確認やスケジュールの変更ができるシステム
   が必要となるため、これらを実現する手段として、情報通信の活用に
  大きな期待が寄せられている。

 
 高齢者の生きがい支援策としての活用
   また、高齢者が生きがいを持って社会活動に参加することを支援する
  には、生活情報等の入手、情報交換等を通して、常に社会と触れ合うこ
  とが大切であるが、その際にインターネットやパソコン通信の利用が有
  効である。
   なお、米国では、1995年には、55歳以上の高齢者の5人に1人がパソ
  コンを所有するなど、日本に比べ情報通信の利用が進んでいる。

(2)障害者を取り巻く環境
 
 障害者の増加・高齢化
   障害者数は、身体障害者数が約295万人、知的障害者が約41万人、精神
  障害者が約157万人で年々増加している(厚生省「平成9年厚生白書」)。
  また、身体障害者の約半数が 65歳以上となるなど、障害者の高齢化が進
  行している。

 
 社会参加等へのニーズ(要求)の多様化
   障害者の障害発生時の年齢をみると、40〜64歳が多く、中途障害者の
  割合が増加している(厚生省「平成3年身体障害者実態調査」)。この
  ため、リハビリテーションや社会参加に対するニーズも多様化してきて
  おり、これに対応した施策がより重視されるようになってきた。

 
 国としての取組
   国においては、地域における障害者の自立と社会参加の促進を支援す
  るため、平成7年12月に関係19省庁からなる障害者施策推進本部におい
  て、「障害者プラン」を策定した。「障害者プラン」においては、身体
  的、精神的かつまた社会的に最も適した機能水準の達成を可能とするこ
  とによって、各個人が自らの人生を変革していくための手段を提供して
  いくことを目指し、かつ時間を限定したプロセスである「リハビリテー
  ション」の理念と、障害者が障害のない者と同等に生活し、活動する社
  会を目指す「ノーマライゼーション」の理念をふまえて、次のような7
  つの視点から、関係省庁が連携協力して、総合的な施策の推進を図って
  いる。
  ア 地域でともに生活
  イ 社会的自立の促進
  ウ バリアフリー化の促進
  エ 生活の質(QOL)の向上
  オ 安全な暮らしを確保
  カ こころのバリアを除去
  キ 我が国にふさわしい国際協力・国際交流

   このように障害者福祉についても、日常生活動作能力(ADL:
  Activity of Daily Living)の支援から、生活の質(QOL:Quality 
  of Life)や社会参加等への支援へと、その在り方が転換、拡張しつつあ
  る。

 
 障害者の社会参加支援のための情報通信の活用
   このように障害者福祉のあり方も現在変化が見られるが、「ノーマラ
  イゼーション」や「リハビリテーション」の考えから、社会参加の手段
  として、情報通信の活用が注目されている。情報通信を活用した障害者
  の社会参加支援の事例としては、難病や身体障害をもつ人々の医療、福
  祉、教育、就労等に関する情報提供や、障害者同士あるいは障害者と健
  常者相互の情報交換等を目的として(社)日本筋ジストロフィー協会が
  運営を行っている、全国福祉ネット「夢の扉」などがある。このような
  障害者ネットの広まりは、障害者の社会参加の促進や生活の質の向上に
  資すると考えられる。


2 最近の情報通信の動向

(1)情報通信技術の進展の方向性
  近年の情報通信技術は、光ケーブル化・モバイル通信の高速化・グロー
 バル化、放送のデジタル化等を通じ、使いやすく多彩で高機能なものへと
 高度化する傾向にある。具体的には、
 
 高速・大容量化
   通信回線容量の制限により困難であった動画像(映像)、大容量デー
  タ等の伝送が高速(短時間)で可能となり、利用者はいつでも、どこで
  も大容量マルチメディアサービスを利用できる。
 
 双方向化
   利用者は映画を見ながら主役の芸歴等を第2画面で見ることができる
  など異なった情報を同時に受信可能となる。また、これまでの情報提供
  者(組織)からの情報を一方的に受ける形態から、利用者が必要とする
  情報を選択・要求し、かつ、自ら情報を発信することが一般的となる。
 
 個人利用化
   情報通信の利用は企業や組織による利用が大半であったが、通信技術
  の進歩により利用が容易(いつでも、どこでも、誰とでも)となること
  等から、個人による利用が促進される。
 
 高信頼性
   医療画像等の決して誤りの許されない情報の高品質伝送を可能とする
  通信基盤や、無関係な第3者にネットワーク上を流通する情報を盗用さ
  れない技術の確立により、通信を誰もが安心して利用可能となる。
  が促進されると考えられる。
   高齢者・障害者が、これらを活用することによって、健康福祉相談、在
  宅介護、生涯学習等のサービスを享受したり、生活支援、社会参加支援等
  に積極的に取り入れていくことで、安心して暮らせる社会を実現すること
  が可能となる。

 郵政省電気通信審議会は、平成9年6月の答申「情報通信21世紀ビジョ
ン」において、ネットワークインフラ整備について、有線系と無線系、移
動系と固定型のデジタル化と併せて「トータルデジタルネットワーク」を
構築することにより、情報通信の利用者は、いつでも、どこでも、誰とで
も、世界中共通の端末で、画像、超高速データ伝送等の大容量マルチメ 
ディアサービスを受けることが可能になる、と提言している。     

(2)各情報通信網等の動向
 
 固定通信網
   光ファイバ網の整備については、2005年以降できる限り早期の全国整
  備完了を目指し努力しており、これにより、どの地域においても光ファ
  イバを利用したサービスに即応可能な状態が実現されると見込まれる。
   地理的条件等により各家庭まで光ファイバを直接引き込めない場合に
  ついては、無線による高速アクセス技術により代替することにより、各
  家庭から動画像等の大容量情報の受発信が可能となり、従来とは異なる
  柔軟な情報通信の利用が可能となる。また現在のISDN(64kbps,
  1,500kbps)を格段に高速化したB−ISDN(155Mbps)の実験も進め
  られており、世界的な普及を目指した国際標準化作業も電気通信連合
  (ITU)で進められている。
   現在は高齢者・障害者に対して、インターネットによる情報提供及び
  コミュニケーション支援や、テレビ電話やテレビ会議システムを利用し
  た遠隔健康・福祉相談システムの導入も進められているが、大容量情報
  の受発信が可能となることにより、更に自然な動画像等による双方向シ
  ステムの普及も期待される。

 
 移動通信網
   現在の移動通信の主役である携帯電話、PHSは、いずれも伝送速度
  の制約から音声やデータの伝送が主であり、かつ、その移動範囲は国内
  の一定地域に限られている。
   しかし、本年秋からは、低軌道周回衛星を利用し、全世界をカバーす
  る携帯電話システム「イリジウムシステム」が運用を開始し、さらに、
  2001年頃には、動画像等の大容量データの受発信など、マルチメディア
  サービスの提供が可能な世界共通の携帯電話システム「IMT−2000」
  も運用を開始する等、高速大容量伝送が可能な移動通信網が整備される。
  さらに、2002年頃からB−ISDN相当の伝送が可能な移動体通信(M
  MAC)が段階的に実現していくことが予想される。
   現在、移動通信網を利用して、屋外活動中の老人の位置を把握するた
  めの「行方不明老人等安全確認システム」や公共施設内や市街地等で視
  覚障害者に位置情報や生活関連情報を知らせる「歩行者音声誘導システ
  ム」の実証実験が行われているが、今後、移動通信網の発展に伴い、動
  画像等の大容量データの利用による、これらのシステムの機能の高度化
  が期待される。

 
 放送
   現在の地上放送(TV、ラジオ)、衛星放送、CS衛星放送はデジタ
  ル化により多チャンネル化されるとともに、コンテントの共通利用の促
  進が進む。また、多チャンネル化に伴う高齢者等を主な対象にした専門
  放送の充実や、情報提供者側の一方的情報伝送から受信者の様々なニー
  ズ(要求)に対応したオンデマンドのシステムへの応用も期待できる。
  現在、CATVを利用した在宅での健康管理や緊急時の通報機能を有す
  る在宅保健医療福祉支援システムの普及例がある。
   CS放送では、既に障害者向け専門放送が始まっているが、その他に
  CS衛星を利用したデータ通信サービスが開始されることから、高齢者
  や障害者向けの専門サービスの促進が期待される。 

 
 その他
   その他、現在カーナビゲーション等で利用中の、位置を測位するため
  の米国のGPS(Global Positioning system)システムは、当面の間安定
  して利用が可能と想定される。本システムを利用して、屋外で活動中の
  徘徊癖のある高齢者の位置を把握するための「行方不明老人等安全確認
  システム」や、公共施設内や市街地等で視覚障害者に位置情報や生活関
  連情報を知らせる「歩行者音声誘導システム」への一層の利用が可能で
  ある。
   また、三次元の地形データ、道路データ、家屋データ等を解析・表示
  する地理情報システム(GIS:Geographic Information system)につ
  いても、現在、国、地方自治体等で構築を進めており、2005年頃までに
  は完了し、運用が開始される予定であり、高齢者・障害者向けの情報通
  信サービス等への活用が期待できる。
   さらに、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport 
  Systems)についても、交通事故、渋滞といった道路交通問題の解決等を
  目指すものとして、その実現に向けた取組が積極的に推進されている。


3 ライフサポート(生活支援)情報通信システムの意義とその機能につい
て

(1)ライフサポート(生活支援)情報通信システムの意義
  ライフサポート(生活支援)情報通信システムの意義として、以下の2
 つがあげられる。
 
 社会福祉の転換の基盤のひとつとしての情報通信
   情報通信の利用は、地方自治体、福祉サービス提供機関間での情報の
  共有、福祉情報の円滑な提供等を通じ、自らの意志と選択に基づく利用
  者の希望を尊重した福祉サービスを、そのニーズ(要求)に応じ、きめ
  の細かく効率的に提供することを可能とする。
   すなわち、情報通信は、いわば社会福祉の転換の基盤のひとつとして
  位置付けられる。
   さらに、情報通信の利用により、高齢者・障害者のニーズに対応した
  新たなサービスの提供も可能となる。

 
 社会参加支援のための情報通信
   情報通信は、心身の機能が低下しつつある高齢者及び障害者にとって
  は、新たなコミュニケーションの手段となりうる。
   これにより、移動やコミュニケーション能力に制約を持つ高齢者・障
  害者の身体機能の衰えを補完し、コミュニケーションや情報の受発信を
  可能とすることでこれらの者の自立、社会参加を促進し、高齢者・障害
  者がそうでない者と同等に生活、活動する社会の実現に大きな役割を担
  う。

       ライフサポート(生活支援)情報通信システムの意義

(2)高齢者・障害者にとって有意義なライフサポート(生活支援)情報通信
システムの類型
  ライフサポート(生活支援)情報通信システムの意義を鑑み、高齢者・
 障害者にとって有意義なライフサポート(生活支援)情報通信システムの
 類型を整理すれば以下の2つが考えられる。

 
 福祉サービス提供・支援システム
 ア 福祉サービス支援システム
  地方自治体、福祉サービス提供機関間での情報共有や円滑な情報の提
  供を可能とするシステム
 イ 福祉サービス提供システム
  高齢者・障害者のニーズに対応した新たなサービスを提供するシステ
  ム
 
 社会参加支援システム
  高齢者・障害者に、新たなコミュニケーションの手段等を提供し、そ
 の社会参加を支援するシステム

     ライフサポート(生活支援)情報通信システムの意義と類型

(3)アクセシビリティの確保
  ライフサポート(生活支援)情報通信システムが円滑に機能するために
 は、高齢者・障害者自身による情報通信の利用が前提となる。
  しかしながら、高齢者・障害者は障害等から必ずしも情報通信を円滑に
 利用できない場合がある。
  そこで、高齢者・障害者でも円滑に情報通信を利用できること(アクセ
 シビリティ)の確保が必要である。
  その際、それぞれの障害の程度や特性に応じた適切なリテラシー向上策
 の実施を行うことも必要である。

(4)「情報バリアフリー」環境の実現
  情報化社会においては、高齢者・障害者等の「情報弱者」とそうでない
 人との間に情報通信の利便を享受できなかったり、大量の情報流通の中で
 必要な情報を選択・判断できないといった「情報格差」が発生し、それが
 社会的・経済的な格差につながる恐れがある。
  ライフサポート(生活支援)情報通信システムの開発、普及及びアクセ
 シビリティの確保は、情報格差を生じさせず、全ての人が情報通信の利便
 を享受できる「情報バリアフリー」環境の実現に資するものである。


4 我が国のこれまでの取組

 高齢化が一層進展する21世紀を目前に控え、政府においても、高齢者・障
害者を含めた全ての人が安心して暮らしていける社会の実現を目指して、
「新ゴールドプラン(平成6年12月策定)」や「障害者プラン(平成7年12
月策定)」に基づき、様々な取組を積極的に行っている。とりわけ福祉分野
の情報化に関しては、平成7年8月に「保健医療福祉分野における情報化実
施指針」が策定され、これに基づき保健医療福祉分野の情報化を総合的に推
進することとしている。

 郵政省では、高齢者・障害者の情報格差是正の観点から平成5年に「身体
障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に
関する法律」を制定し、これに基づき字幕番組・解説番組の制作に対する支
援等各種の施策を展開している。さらに、通信総合研究所や通信・放送機構
において手話認識生成システムや騒音の中でも使える補聴器などの先進的な
技術の開発を実施するなど、先進的なシステムの開発や普及を中心とした取
組を行っている。
 厚生省では、実用レベルのシステムの福祉行政への利用方策を中心とした
取組を行っているところである。

 これらの施策は、一定の成果を上げているが、ライフサポート(生活支
援)情報通信システムについては、多くはモデル事業的な位置づけの施策が
中心であり、今後のライフサポート(生活支援)に関するシステムの本格的
な普及策についての検討が課題である。

 なお、政府の高齢者・障害者施策における、平成5年以降の最近の主な取
組としては、以下に示すようなものがあげられる。

実 施 時 期  
主 な 施 策 等                  
昭和57年4月 
「障害者対策推進本部」設置              
平成5年3月 
       
障害者対策推進本部が、「障害者対策に関する新長期計画」
を策定し、今後の障害者施策の一層の推進を図る。    
平成5年4月 
       
労働省が、「障害者雇用対策基本方針」を策定し、障害者雇
用対策の一層の充実を図る。              
平成5年5月 
       
       
       
「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利
用円滑化事業の推進に関する法律」公布。        
本法に基づき、通信・放送機構により、字幕番組・解説番組
の制作促進を目的とした番組制作に対する助成制度を創設。
平成5年12月 
「障害者基本法」公布                 
平成6年3月 
       
厚生省が、「21世紀福祉ビジョン」で、21世紀における社会
保障の全体像と主要施策の進むべき方向について提言。  
平成6年3月 
       
       
郵政省が、「高齢化社会における情報通信の在り方に関する
調査研究会」を開催し、「情報長寿社会の実現」について提
言。                         
平成6年6月 
       
「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建
築の促進に関する法律(ハートビル法)」公布。     
平成6年6月 
       
       
建設省が、「生活福祉空間づくり大綱」を策定し、高齢者・
障害者を含む全ての人々が心豊かな生活を送れるような住宅
形成を目的にその整備促進を図る。           
平成6年12月 
       
厚生省、自治省、大蔵省が、「新ゴールドプラン」を策定 
し、高齢者介護施設等の定量的目標を提示。       
平成6年12月 
障害者基本法に基づく初めての「障害者白書」を刊行。  
平成6年度より
       
       
郵政省が、「自治体ネットワーク施設整備事業」を実施し、
高度なネットワークを通じて公共施設を接続し、公共分野の
アプリケーションの開発・導入を行う地方自治体等を支援。
平成7年4月 
       
       
郵政省が、「高齢者・身体障害者の社会参加支援のための情
報通信の在り方に関する調査研究会」を開催し、「共生型情
報社会の実現」について提言。             
平成7年4月 
       
通産省が、「障害者等情報処理機器アクセシビリティ指針」
を公表。                       
平成7年8月 
       
       
厚生省が、郵政省、通商産業省、文部省及び自治省と協力の
もと「保健医療福祉分野における情報化実施指針」を策定 
し、保健医療福祉分野の情報化を総合的に推進。     
平成7年11月 
「高齢社会対策基本法」公布              
平成7年11月 
       
「新経済計画」において、2010年の成長期待7分野の一つに
「医療保健・福祉」を位置づける。           
平成7年12月 
       
19省庁が合同で「障害者プラン(ノーマライゼーション7ヶ
年戦略)」を策定し、障害者対応の定量的目標を提示。  
平成7年度より
       
       
通信・放送機構において、肢体不自由者の障害の理由に応じ
て、情報の最適入力方法を自動的に設定する技術等、高齢 
者・障害者用情報通信システム技術を研究開発。     
平成7年度より
       
       
「金沢情報長寿のまちづくり協議会(会長:金沢市長)」 
が、金沢市において、高齢者のための保健・医療・福祉分野
にわたる情報通信アプリケーションの実験を実施。    
平成7年度より
       
       
厚生省が、「障害者ネットワーク」を構築し、障害者の社会
参加に役立つ各種情報を収集・提供すると共に、障害者の情
報交換の場を提供。                  
平成7年度及び
平成8年度  
厚生省が、「高齢者介護への情報機器導入効果に関する調査
研究事業」を実施。                  
平成8年1月 
       
「高齢社会対策会議」を開催し、政府全体として積極的に高
齢社会対策に取り組む旨の決意を表明。         
平成8年1月 
       
「障害者対策推進本部」が「障害者施策推進本部」に名称変
更。                         
平成8年7月 
       
       
「高齢社会対策大綱」を閣議決定し、国民一人一人が豊かな
社会を築くことができるよう、政府の基本的、総合的な指針
として定めた。                    
平成8年10月 
       
       
郵政省が、「高齢者・障害者の情報通信の利活用の推進に関
する調査研究会」を開催し、高齢社会におけるユニバーサル
アクセスの確保に向け提言。              
平成8年12月 
       
       
「経済構造の変革と創造のためのプログラム」閣議決定。今
後成長が期待される15の産業分野の一つに医療・福祉関連分
野。                         
平成8年度  
       
       
厚生省が、「障害保健福祉研究情報システム」を構築し、国
内外の障害者関係研究所や大学等から研究情報を、インター
ネット等を通じて広く一般に提供。           
平成9年5月 
       
       
「放送法及び有線テレビジョン放送法」の一部改正により、
字幕番組・解説番組に係る免許制度を改善するとともに、放
送事業者に対し字幕番組・解説番組の放送努力義務を規定。
平成9年11月 
       
郵政省が、字幕放送へのアクセス機会の拡大のため、行政運
営上の指針として字幕放送の普及目標を策定。      
平成9年12月 
「介護保険法」公布                  
平成9年度より
       
       
       
通信・放送機構において、「高齢者・障害者向け通信・放送
サービス充実研究開発助成金制度」を創設し、高齢者・障害
者向け通信・放送技術の研究開発を行う者に対し、所要経費
の一部を助成。                    
平成9年度より
       
       
       
郵政省と通産省が、「先進的情報通信システムモデル都市構
築事業」を実施し、モデル地域に選定された地方公共団体等
が先進的情報通信システムを整備する際に、所要経費の一部
を補助。                       


5 海外の動向

(1)ユニバーサルデザインの概念について
  高齢者・障害者をはじめとした全ての人々が使えるようにデザインする
 という考え方をユニバーサルデザインという。海外においては、本概念は
 特定の障害をもつ消費者だけでなく、障害をもたない人にとっても利便を
 もたらすものであると考えられており、高齢者・障害者のためだけでなく、
 研究開発や情報通信利用環境の整備を推進する際、一般的に考慮すべき考
 え方として重視されてきている。
  例えば、歩道の縁石のスロープは、車椅子がアクセスできるために設計
 されたものだが、ベビーカー、自転車などにとっても便利なものである。
 また、テレビの字幕は、主として聴覚障害者のために製作されたものであ
 るが、空港やレストランなど、番組の音声が聞き取りにくい騒がしい場所
 でも利用されている。
  本概念に基づき、電気通信のアクセシビリティの確保、高齢者・障害者
 が利用可能な情報通信システムの研究開発、普及促進等の施策が、欧米に
 おいては戦略的に展開されている。

(2)指針の策定
  ユニバーサルデザインを普及させるための中心的な施策として、欧米に
 おいては、ユニバーサルデザインを実現するための機能的基準、方策等を
 示す指針が策定されている。
  米国においては、例えば1996年に成立した電気通信法第255条で、電気通
 信事業者は、障害をもつ個人が電気通信サービスへアクセスができ、かつ
 それを使用できるようにするよう義務づけられており、同条に基づいて電
 気通信設備及び電気通信端末のアクセシビリティに関する指針が策定され
 ている。
  また、政府部内における情報通信設備の調達についても障害のある人の
 アクセシビリティに配慮したものとするよう義務づける動きも見られる。

○米国電気通信法アクセシビリティに関する指針について         
                                   
(1)指針策定の背景、経緯                       
  1996年2月に成立した電気通信法の第255条において、建築・輸送障壁適 
 合委員会(Architectural and Transportation Barriers Compliance   
 Board、以下、「アクセス委員会」という)はFCC(米国連邦通信委員  
 会)と連携して、1997年8月までに電気通信設備及び電気通信端末のアク 
 セシビリティに関する指針を策定することが義務づけられた。      
  これを受けて、1996年5月にアクセス委員会により電気通信諮問委員会 
 (Telecommunications Access Advisory)が招集された。電気通信諮問委 
 員会は、1996年6月から1997年1月までの作業を通じて指針の素案となる 
 勧告を作成し、アクセス委員会に提出した。              
  1997年4月に、アクセス委員会は指針案を公表し、広く一般からの意見 
 を受け付けた。こうして集まった意見をもとに規則案を修正し、1998年2 
 月3日、電気通信法アクセシビリティに関する指針の最終版を公表した。 
 この指針は1998年3月5日より施行されている。            
                                   
(2)指針の基本的な考え方                       
  電気通信技術の発達により、製品の機能やインターフェースが製品自体 
 の設計によるものなのか、通信事業者のソフトウェアによるものなのか、 
 あるいはネットワークによるものなのか区別することが困難となってい  
 る。そこで、本指針においては、機器別ではなく、入力や出力などの機能 
 別に項目が設定されている。                     
                                   
(3)指針の概要                            
  本指針は、1996年2月に成立した電気通信法の第255 条(e)項に基づ  
 き、電気通信設備及び電気通信端末についてのアクセシビリティ、ユーザ 
 ビリティ及び互換性を確保するのに必要な入力、出力などの機能について 
 の要件を定めたものである。                     
  本指針は、4つのサブパートから構成されており、サブパートAには一 
 般原則、サブパートBには一般要件、サブパートCにはアクセシビリ   
 ティ、ユーザビリティに関する要件、サブパートDには周辺機器と特別な 
 電気通信端末との互換性についての要件が示されている。また、電気通信 
 設備及び電気通信端末の製造業者に対し、それが容易に達成可能である場 
 合にはサブパートCを、そうでない場合にはサブパートDを容易に達成で 
 きる範囲内で遵守すべきであるとされている。             

 民間においても様々な取組が行われている。例えば、World Wide Web 
Consortium(W3C)はインターネットWWW(World Wide Web)の進展
及び相互運用性の確保を目的として成立した国際的コンソーシアムである
が、ここでウェブを障害をもつ人も利用可能にするための技術の開発や、
その技術に関するガイドラインの作成などが行われている。
 さらに、ITU(International Telecommunication Union)や米国のA
NSI(American National Standard Institute)においても、同様の動
きが見られる。

(3)研究開発の実施
  欧米においては、ユニバーサルデザインの概念の普及を図る観点から、
 高齢者・障害者向け情報通信システムの研究開発に対する公的機関による
 支援が行われている。
  欧州では、欧州委員会において、高齢者・障害者の生活の質の向上を目
 的とする新しい情報通信技術の研究開発を推進するTIDE(Telematics 
 for the Integration of Disabled and Elderly people)が推進されてい
 る。

○ TIDE(Telematics for the Integration of Disabled and Elderly 
 people)について                          
                                   
(1)TIDEの位置づけ                        
  TIDEとは、高齢者・障害者のニーズに応じてシステム開発や統合を 
 行うための高齢者・障害者の機能的な障害を補い、またこれらの人々の自 
 立を促進するための応用技術(支援技術)の開発・運用に取り組んでいる 
 プログラムであり、EUのフレームワークプログラム(欧州産業の競争力 
 の強化、経済成長の保障、雇用の創出・生活向上を目的とした研究開発活 
 動)の中のテレマティックスアプリケーションプログラムの一部である。 
  テレマティックスアプリケーションプログラムとはサービスの共通の  
 ニーズや機会、影響を把握し、このようなサービスに必要なネットワーク 
 の形態及び多様な選択肢を確立し、さらにテレマティクッスサービスイン 
 フラストラクチャの調整のとれた計画及び導入方策を準備することを目的 
 としたものである。したがって、これまでの新技術の開発を中心とするフ 
 レームプログラムの計画とは性格が異なり、情報通信の利用者の各種ニー 
 ズに重点を置く、いわば需要サイドのプログラムといえる。       
  なお、このテレマティックスアプリケーションプログラムでは、欧州に 
 おける通信の相互乗り入れを可能とする観点から、標準規格、アーキテク 
 チャ、機能仕様の構築等を通じて、最終的には欧州全域を統合する大規模 
 なテレマティックスシステムを確立することを目指している。      
                                   
(2)TIDEの概要                          
  TIDEは、高齢者・障害者の機能的な障害を補い、これらの人の自立 
 を促進する技術について、EUの各加盟国のさまざまな分野の参加者が共 
 同で行う研究開発プロジェクトである。研究技術開発プロジェクトに占め 
 る補助金の割合は50%で、残りの50%は参加者が負担する。       
  また、TIDEは、欧州の支援技術産業のための支えとなるインフラと 
 市場環境の開発を支援している。これは、標準化、規制、合理化を奨める 
 構想を含むもので、支援技術のとりこみと利用に関する要素とともに支援 
 技術市場を分析する「水平的アクション」または「支援的アクション」か 
 らなる。このようなプロジェクトはTIDEより100%の補助を受ける。 
  TIDEにおける研究の技術開発の対象となるのは以下のような人であ 
 る。                                
 
 大多数の高齢者(自分を障害をもつ者と思わない人)
 障害をもつ高齢者(先天性の障害を持つ高齢者と高齢により障害を持つようになった人)
 障害をもつ若年者
  TIDEでは、研究技術開発のすべての段階において、企業、研究者、 
 ユーザの参画が必要である。まず、研究予定(例えば作業計画)をつくる 
 段階で様々な分野間の連携が求められる。次に、欧州委員会の研究技術開 
 発補助金の公募に対し、プロジェクトの企画書を作成し、応募するために 
 は、複数の国の複数の参加者による研究コンソーシアムを形成しなければ 
 ならない。さらに、プロジェクトの企画は、あらゆる分野の人々から技術 
 面、経済面、管理面、戦略面での評価を受ける。            
  TIDEでは高齢者・障害者のニーズに適応した新しい製品やサービス 
 の開発を行うにあたって、積極的にユニバーサルデザイン(design for  
 all)の考え方を導入している。ユニバーサルデザイン(design for all)
 の考え方を導入する目的は、一般消費者向けの製品・サービスが高齢者・ 
 障害者にも利用できるようにすることにある。この考え方は消費者層を広 
 げるだけでなく、新しい製品やサービスの開発にも役立つ。これにより、 
 支援技術の市場規模が拡大し、高齢者・障害者のニーズに対応した製品や 
 サービスのコストダウンが図れる。                  

 また、米国においても、「テクノロジー関連の身体不自由者に対する援
護法(Technology Related Assistance for Individuals with 
Disabilities Act)」に基づき、研究開発が推進されている。

(4)その他
  EUでは、1997年6月に「音声電話サービス指令」(The Application 
 of Open Network Provision(ONP) to Voice Telephony and Universal 
 Service for Telecommunications in a Competitive Environment)を採択
 し、加盟各国に提示している。本指令のなかで、欧州連合加盟各国に対し、
 障害者や社会的弱者がユニバーサルサービスを利用出来るために具体的な
 措置をとることを求めている。
  また、英国においては、1998年2月、OFTEL(英国電気通信庁)が、
 「障害をもつ人のための電気通信サービス」と題する提案文書を発出し、
 関係者の意見を求めている。文書では全事業者が免許を取得する際に必要
 な実施規約に新たな内容を追加することを提案している。
  これにより、障害者はどの事業者の基本サービスでも利用できることと
 なる。




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