第4章 ライフサポート(生活支援)情報通信システムの今後の展開

1 ライフサポート(生活支援)情報通信システムの発展の方向性

(1)ライフサポート(生活支援)情報通信システムの将来モデルについて
  急速に進行する少子・高齢化社会は、高齢者や障害者に対し人手による
 十分な生活支援が困難となる一方、情報通信網の整備促進、情報通信技術
 の発達は、質の高い福祉サービスの効率的提供、高齢者・障害者の自立、
 社会参加支援の手段等として大きな意義があることから、今後ライフサ
 ポート(生活支援)情報通信システムは機能の高度化、統合化を図りつつ
 普及していくものと予想される。

(参考)                              
 想定される2005年〜2010年頃の通信関連インフラの整備状況      
・全国全ての家庭において映像等の大容量情報の受発信が可能。     
・外出先においても携帯端末(無線端末、有線端末)により映像等の受発信
 が可能。                             
・中山間地域、離島等においても都市部と同様に情報の受発信が可能(発信
 地の地理的要因による制限が解消)。                
・大量の情報を不特定多数に送信する場合は衛星通信を利用する等、情報の
 内容、量等に応じた効率的で最適な伝送路の選択が可能。       
・構築中の地理情報システム(GISシステム)完成により、情報通信端末
 上で詳細な地図データ(道路、家屋等がディスプレイ)の利用可能。  
・GPS利用技術が発展、何処にいても正確な位置データ入手が可能。  
・放送(地上波放送(TV、ラジオ)、衛星放送、CS放送)のデジタル化
 が促進、チャンネル増により視聴者ニーズに応えた専門放送が増加、コン
 テントの共通利用が促進。                     

  将来システムは利用者のニーズに配意すると共に、メディア変換が可能
 な使い勝手の良いインターフェース、異なるシステム間の相互接続性及び
 個人情報等を護るための情報セキュリティ確保が必要。今後普及・発展が
 予想されるシステムを以下に示す。
 
 福祉サービス提供・支援システム
  ア 福祉サービス支援システム
  (ア)在宅健康管理システム
    要介護者宅と健康管理センター等又は健康管理センター等間をネッ
   トワークで接続、自然な映像、蓄積された要介護者の健康管理データ
   の利用等により、保健婦等が直接健康相談、健康指導等を行うシステ
   ム。地区集会所等と健康管理センター等を結んだ健康に関する講習会
   等にも利用。健康データ(体温、脈拍等)の取込は、これまでのバイ
   タルセンサ等による本人の体に接触させる方法から、高精細カメラ等
   による非接触型のセンサを用いた方法(データは高品質画像を分析)
   に進展、要介護者の負担を軽減。これらのデータは健康管理センター
   等に蓄積、関係機関(者)が共通利用することにより高品質で効率的
   な福祉サービスが実現。

  (イ)訪問看護婦等支援システム
    要介護者宅を訪問する看護婦等が、要介護者の健康管理データを持
   ち歩くことなく、携帯する小型・高機能の端末を利用(訪問先でネッ
   トワークに接続)してデータ(映像を含む)を遠隔地のデータベース
   から取り込み、また看護の状況等を伝送し蓄積するシステム。訪問看
   護婦等の負担を軽減、より質の高い訪問看護を実現。

  (ウ)介護保険関連システム
    2000年からの介護保険導入により発生する各種事務を効率的に処理
   するシステム。介護保険に関係する各機関毎に発生し、分散して蓄積
   される関連データをネットワークの利用により共有・活用することに
   より事務を効率化。

  イ 福祉サービス提供システム
  (ア)緊急時対応システム
   A 緊急通報システム
     居宅(特に独居高齢者宅)または外出先で高齢者や障害者に緊急
    事態が発生した場合、居宅に設置された情報端末や携帯する端末に
    より自動的に福祉関連センター等に通報し、即座に対処するシステ
    ム。居宅からの通報は、これまでの本人が操作する(緊急ボタン等
    を押下)方法ではなく、これまで蓄積された日常生活パターン(室
    音、発声等)とその時の状態の変化を比較分析し、プライバシーを
    犯さない範囲で、室内センサーにより自動的に本人の行動を確認す
    る方法を採用。
     緊急信号が発信された後は福祉関連センター等から室内端末を遠
    隔制御。外出時の緊急事態に対しては、携帯端末からネットワーク
    (無線によるアクセス)を介して最寄りの福祉関連センター等に接
    続、迅速な対応を受けることが可能。

   B メーデーシステム
     交通事故、緊急事態や車両故障等が発生した場合に、車両の位置
    情報とトラブルの種類等を含むSOS情報を発信し、救急車両の出
    動を要請するシステム。

   C 行方不明老人等安全確認システム
     徘徊癖のある老人等が1人で外出し、自宅への帰路が不明となっ
    た場合、老人等が装着している小型・軽量の情報端末によりネット
    ワーク(無線によるアクセス)を介して家族等に現在の位置情報を
    伝送し安全を確保するシステム。老人等が携帯する端末は家族等か
    ら遠隔操作。老人等からは位置情報の他、個人識別情報、近辺の画
    像情報等も伝送可能。また家族等はGISシステムの利用により携
    帯端末のディスプレイ上で連続して近辺状況(道路名、家屋名等)
    の把握が可能。

  (イ)無障壁(バリアフリー)情報提供システム
    テレビ放送、ラジオ放送、データ放送、インターネット等により提
   供される行政情報、福祉情報、生活情報等を、高齢者や障害者が通信
   端末を利用して何時でも不自由なく(障害の種別や程度に応じた最適
   なインターフェース(メディア変換機能)を利用)入手することを可
   能とするシステム。なお、提供者側がメディア変換して情報を提供す
   ることにより、端末の技術的・経済的負担が軽減され、システムの普
   及が促進される。また情報は一方的な提供ではなく、高齢者や障害者
   (利用者)の請求による提供者とのコミュニケーションの結果得られ
   る対話型のシステムとすることも重要。

(メディア変換機能を利用したシステムの例)           
・自動点字翻訳システム                     
 視覚に障害がある高齢者や障害者が情報を入手する手段としてはテキ
ストを音声に変換し確認することが考えられるが、視覚と聴覚の両方に
障害がある人や量の大きな情報(書籍等)及び一旦手元に確保しておく
必要がある情報については点字とすることも重要。これに効率的に対処
するため、テキストを自動的に点字に翻訳・出力するインターフェース
機能を活用したシステム。                    

 
 社会参加支援システム
  ア 生活コミュニケーションネットワークシステム
    趣味に関する情報交換、各種ボランティアへの参加要請/参加、生
   涯学習への参加等、高齢者や障害者が情報通信ネットワークを利用し、
   地域住民等広く社会とコミュニケーションを図ることにより、自立、
   社会参加を進めるネットワークシステム。開発が進むメディア変換技
   術を利用することにより、高齢者や障害者も含めた誰もが参加出来る
   システムが完成。

  イ 音声ナビゲーションシステム
    視覚に障害を持つ高齢者や障害者が屋外で他人の支援を受けず1人
   で活動をするために現在地情報、近辺の状況等を通信端末を利用して
   音声により確認するシステム。外出時に携帯するDGPSシステムの
   高度位置確認機能を備えた小型の通信端末を利用し、情報提供機関に
   ネットワークで接続され一定間隔で配置されたローカル情報ポストに
   よる周辺情報(道路、建物、商店、イベント等)や三次元音場を利用
   したガイダンスによる周辺情報を音声で確認することにより、自力で
   の活動範囲拡大を可能。

(2)ライフサポート(生活支援)情報通信システムを円滑に機能させる環境
  ライフサポート(生活支援)情報通信システムの利用が高齢者や障害者
 の社会活動、日常生活にとって十分満足できるものとするためには、シス
 テムの運用等に関し制度的側面や情報通信基盤面の整備が必要。
 
 制度的側面
 ア 情報の標準化・共有化
   システムを効率的に利用するにはそれぞれの福祉関連機関等が運営す
  る異なったシステム間における情報の互換性確保が重要。このため各機
  関が個別に蓄積する利用者情報(健康履歴等)を各関連機関が必要に応
  じて共通利用出来るように標準化(共通化)しておくことが必要。情報
  の標準化による共有化は、福祉関連サービスの均一化、それによるサー
  ビス業務の効率化・高度化に大きく寄与する。

 イ プライバシーへの配慮
   情報が標準化・共有化され、各種の福祉関連機関での共通利用が促進
  されることによりプライバシー情報の保護に関する問題が発生。プライ
  バシー情報を保護するには、情報暗号化、電子個人認証、ファイアー
  ウォールの高度化等個人情報を無関係な侵入者から保護する一般的な対
  応の他、個人情報を誰(医師、保健婦、自治体職員等)にどこまで(健
  康履歴、家族構成等)開示するか等の情報の利用規定の整備及びそれを
  システムにおいて実行する技術の確立が必要。

 ウ 人的な支援
   高齢者や障害者が生活の一部としてシステムを十分利活用するには、
  利用者に利用可能な通信端末等に関する情報が十分に提供され、購入後
  においても継続的にサポートする体制があることが重要。このためには
  システムの使い勝手に加え、高齢者や障害者が利用を開始するにあたっ
  てのシステムセッテング、使用中おける機器の故障に対するアドバイス
  等を行うための人的支援(アドバイザーよるサポート)が必要。また人
  的支援を継続的に行うには、高齢者や障害者へのシステム構築、運用等
  を支援するアドバイザーを育成する社会的なシステムも必要。

 
 情報通信基盤面
 ア 通信インフラ等の整備と費用
   情報通信網の整備は通信料金の低廉化を促進。このため早急な光ファ
 イバ網の全国的整備、大容量衛星通信の利用促進が重要。またシステム
  の利用を促進させるには、通信端末設備及びソフトウェアの購入費用の
  一層の低廉化も必要。

 
 その他
 ア コンテントの充実
   高齢者や障害者が自立・社会参加を実現するには、まず情報通信シス
  テムを利用することが重要。システムの利用を促進するには高齢者や障
  害者にとって真に魅力ある情報内容(コンテント)であることが重要。
  このため今後のシステムを有効に機能させるは、設備の使い勝手に加え
  高齢者や障害者にとって魅力ある有用なコンテントを提供する環境を整
  備することが必要。


2 アクセシビリティ指針の策定

(1)平成8年度指針の考え方と本研究会における指針の策定
  前節においては、ライフサポート(生活支援)情報通信システムを普及
 させて、円滑に機能させるために必要な環境整備について、制度的な側面
 や情報通信基盤等の観点から考察を行った。しかし、ライフサポート(生
 活支援)情報通信システムには、高齢者・障害者自らが操作することを要
 求されるものもあり、そうしたシステムが有効に機能するには、制度や情
 報通信基盤の整備に加えて、高齢者・障害者自身がシステムを円滑に利用
 可能であることが前提となる。技術開発により複雑な操作を不要にしたイ
 ンターフェースの実現も有効であるが、操作自体を高齢者・障害者にとっ
 て易しくする工夫も必要である。
  さらに、情報通信技術の進歩やメディアの多様化により、福祉等の分野
 に限らず、社会生活の様々な局面で情報通信の利用が必要不可欠となって
 いることを考慮すると、高齢者・障害者を始めあらゆる人が情報通信シス
 テムにアクセス可能となるような環境を実現するための指針を策定するこ
 とが必要である。
  平成8年度に開催された「高齢者・障害者の情報通信の利活用の推進に
 関する調査研究会(座長:林喜男 日本人間工学会会長)」においては、
 このような考え方に基づき、高齢者・障害者が現在及びこれから出てくる
 情報通信ネットワークを利用し、様々な情報源に接続し、必要な情報を取
 得して利用するとともに、情報を作成し、発信する上での障壁を可能な限
 りなくし、高齢者・障害者が情報通信を円滑に利活用できるようなコミュ
 ニケーション環境を築く観点から、情報通信機器、ネットワーク、アプリ
 ケーションソフトウェア、コンテントについて、個別に要件を整理した指
 針を作成した。
  これは、高齢者・障害者のアクセシビリティを確保する上で、機器や
 ネットワークなどについて、それぞれの利用局面で様々な障壁が存在する
 ことに着目し、それらの障壁に個別に対処するための方策を検討したこと
 によるものである。
  しかしながら、
 ○ 電気通信技術の発達等により、端末等の機能やインターフェースが、
  機器、アプリケーション、コンテント等様々な手段を用いて、一体不可
  分のかたちで提供されるようになってきていること。
 ○ 情報通信機器等の指針を個別に定めることになれば、将来の技術開発
  の妨げとなる恐れがあること。
  などの点を考慮し、本研究会においては、平成8年度の指針を見直し、
 情報通信ネットワークのアクセシビリティを確保するための要件を、電気
 通信設備の機能面で再整理し、具備すべき機能についての基準を示すこと
 とした。
  なお、今回の指針は、本文では求められる機能について基本的な要件の
 みを定めることとし、その実現のための方法を示す指針は付属文書の形で
 別途定めた。

(2)指針(電気通信設備のアクセシビリティ指針)の意義
  インターネット、携帯電話などの新たな通信手段の目覚ましい普及は、
 時間と場所に制限されない情報の受発信手段、コミュニケーション手段の
 提供など新たな恩恵を我々にもたらしており、現在、様々な形での情報の
 やり取りがなされる時代を迎えている。
  本来、情報通信は、高齢者・障害者の身体機能の衰えを補完し、コミュ
 ニケーションや情報の受発信を可能とすることで、これらの人々の自立、
 社会参加を促進し、高齢者・障害者がその他の人々と同等に生活し活動す
 る社会の実現に大きな役割を果たすものである。
  しかし、高齢者や障害者の新たな通信手段の利用は必ずしも進んでおら
 ず、その利便を享受している状況とは言い難い。
  その要因として、我が国においてユニバーサルデザインの概念が未だ浸
 透していないことから、情報通信システムが高齢者や障害者にとって円滑
 に利用できるものとなっていないこと、すなわちアクセシビリティが確保
 されていないことがあげられる。
  こうした状況を踏まえ、本研究会において、別添のとおり指針(電気通
 信設備のアクセシビリティ指針)を策定した。本指針は、高齢者・障害者
 に配慮した情報通信利用環境を整備する上で、電気通信事業者、電気通信
 設備を開発する者等が考慮すべき指標として位置付けられるものであるが、
 同時にユニバーサルデザインの考えを実現した情報通信システムが具備す
 べき機能を示したものである。
  本指針により、ユニバーサルデザインの概念が我が国においても普及・
 定着することが望まれるが、そのためには、欧米においてユニバーサルデ
 ザインに基づく製品が戦略的に展開されているのと同様、本指針を満足し
 た製品を提供することが市場の拡大につながるという意識を民間事業者等
 が持つような啓発も必要である。
  今後、本指針を世の中に示し、電気通信事業者等関連業界にその遵守を
 呼びかけていくこととする。
  なお、本指針が継続的に効力を保ち続けるためには、情報通信技術の進
 展や社会制度等の変化を常に反映したものとなっていなければならない。
 そのため、本指針は継続的に調査を行い、定期的に見直しを行うことが必
 要である。



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