第5章 提言

1 公的部門の果たすべき役割について
 ライフサポート(生活支援)情報通信システムのうち、福祉サービス提
供・支援システムであって、公共性の高いものについては、公共分野のアプ
リケーションとして、公的部門が率先して開発、普及を行っていくことが求
められる。
 それ以外のライフサポート(生活支援)情報通信システムについては、市
場を通じて提供されるサービスのための情報通信システムも多く、基本的に
は民間主導で行われることが望ましい。
 しかし、ライフサポート(生活支援)情報通信システムは、その意義、公共
性は高いものの、高齢者・障害者の情報通信の利用状況等からして、急速な
普及が期待できるものではなく、また、その技術的困難性、市場の狭隘性等
から、民間単独での開発・普及のインセンティブは必ずしも高くないため、
必要に応じ公的部門が側面から支援を行うことが必要となる。
 また、「情報バリアフリー」環境の整備等の、システムを円滑に機能させ
るための環境整備についても、情報格差是正等の観点から国が率先して推進
していく必要がある。

2 提言
 ライフサポート(生活支援)情報通信システムの普及を図るとともに、第
4章で示した将来モデルを実現するためには、以下の項目について実施及び
検討を行っていくことが望まれる。

(1)ライフサポート(生活支援)情報通信システムの普及方策
 
 普及を図る上での課題の解決に資するモデル事業、実証実験の実施
   現在一部の地域で導入されているライフサポート(生活支援)情報通
  信システムが本格的に普及するに当たっては、システム、用語、電文
  フォーマット等の互換性、相互接続性の確保等の技術面の課題、個人情
  報開示の基準づくり等の制度面の課題、各福祉機関間の連携を確保する
  等の運営面での課題の解決を図る必要がある。
   こうした様々な課題を解決するには、公共部門とシステム提供者、運
  営主体等が特定のフィールドでモデル事業、実証実験等を行い、これら
  の課題を抽出すると共に、統一的な対応策を検討することが有効である。
   こうした取組は、地方自治体等公的機関が運営主体となることが想定
  される福祉サービス支援システムに関して特に求められる。

 
 ボランティア等の非営利活動に対する支援
   高齢者・障害者の社会参加支援、情報通信の利用支援等においては、
  ボランティア等の非営利活動が大きな役割を果たしている。特に、高齢
  者や障害者にパソコン通信等の利用方法を指導するボランティア(パソ
  コンボランティア)やネットワークを利用した新たなボランティア
  (ネットワークボランティア)が、高齢者・障害者に対する情報通信の
  利用の普及・啓発に大きな役割を果たしつつある。こうした非営利活動
  の役割は今後も高まることが予想され、これに対し、円滑な活動を可能
  とするための環境整備や必要に応じた支援を行うことが求められる。

(2)高度なライフサポート(生活支援)情報通信システムの実現方策
 
 ライフサポート(生活支援)情報通信システムに関する研究開発の実施
   ライフサポート(生活支援)情報通信システムの機能の高度化を図る
  上で、様々な障害に対応したメディア変換技術など、高齢者・障害者の
  ニーズに応じた技術の研究開発の実施が必要となる。
   こうした研究開発については、採算性等の問題から民間企業単独では
  研究開発が期待できない場合が多いことから、国等による積極的な支援
  が求められる。
   その際、例えば郵政省と厚生省など、情報通信を所管する部門と高齢
  者・障害者福祉を所管する部門とがそれぞれの立場から協力して行うこ
  とが効果的である。

 
 電気通信設備のアクセシビリティ指針の運営協議会の設置と普及支援
   今回策定した指針について、解説を含めてその定期的な見直し、内容
  の充実を図るとともに、関係機関等に広く周知を行うことが必要。その
  普及を図るためには、関係者による協議会を設置するとともに、本指針
  を実現するために必要な研究開発を支援するなどのインセンティブを与
  えることが有効である。

 
 企業におけるユニバーサルデザインの理念の普及促進
   我が国では、ユニバーサルデザインの理念はまだ広く認識されている
  状況にはないが、ユニバーサルデザインを戦略的に普及していこうとい
  う欧米の動向を鑑みれば、我が国でもユニバーサルデザインの理念の普
  及・啓発に努める必要がある。
   その際、本調査研究会で策定した指針は、ユニバーサルデザインの考
  え方を実現した電気通信設備の機能を具体的に示したものであるため、
  本指針の普及と併せて行うことが効果的である。

 
 高齢者・障害者の情報通信利用特性に関する総合的な調査研究
   現在も個々の障害に対応した入力支援設備等は開発、提供されている
  が、高齢者・障害者の情報通信利用に関する特性に関する知識が不足し
  ており、各社が個別に開発を行っているのが現状である。
   アクセシビリティの確保を図りつつ、誰もが使いやすいライフサポー
  ト(生活支援)システムを実現するには、公的機関を中心に高齢者・障
  害者の情報通信利用特性を体系的、総合的に調査研究を実施し、これら
  の特性に関する知識の蓄積、体系化を行うことが必要。
   蓄積した知識については、広く公表すると共に、こうした知識をもと
  に、アクセシビリティを確保した情報通信システム(「バリアフリー情
  報通信システム」)の有効性の評価、利用に関する助言、相談等を広く
  行っていくことが求められる。

 
 システムの互換性・相互接続性確保のための企業間調整
   システムの広域的利用、福祉関連機関間による情報の共有化等を促進
  していく上で、各システムの互換性・相互接続性を確保する必要がある。
  そのための方策を検討すると共に、共通の技術基準の策定を民間企業に
  働きかけるなど、必要に応じて公的機関が調整を行う必要がある。

(3)ライフサポート(生活支援)情報通信システムが有効に機能する環境の
実現方策
 
 アドバイザーの育成、カリキュラムの開発等の人的支援体制の整備
   高齢者・障害者の情報通信の円滑な利用の確保のためには、
  ア 利用者の身体上の特性に応じた最適な電気通信設備を紹介する。
  イ 高齢者・障害者が直面した情報通信利用上の困難に対してアドバイ
  スを行う。
  等の人的な支援が必要。
   こうした支援を行う人材(アドバイザー)の育成、そのためのカリ
  キュラム開発等については公的機関の関与が必要。特に、高齢者・障害
  者の情報通信の利用特性に関する知識を活用することが極めて有効であ
  ることから、それを可能とする仕組みの構築を検討すべきである。

 
 高齢者・障害者の情報リテラシーの向上支援
   高齢者・障害者の方々の情報通信の利用は進んでいないが、それは主
  に新たな情報通信システム・サービスに対する知識・情報の不足に起因
  するといえる。しかし、「情報格差」を生じさせないためには、これら
  の方々の情報リテラシーの向上を図り、その利用を促進することが必要
  である。
   具体的には、情報化社会の意義、情報通信の利便性に関する周知、使
  いやすい情報通信設備の紹介、具体的な情報通信の利用にあたっての相
  談への対応等、多様な情報を提供することが求められる。
   また、現在郵便局の施設等を利用して開催されている地域の高齢者等
  を対象としたパソコン教室の充実等も必要である。

 
 福祉関係機関と情報通信関係機関の密接な連携
   ライフサポート(生活支援)情報通信システムの開発、普及及び運営
  に当たっては、関係機関間での情報の円滑な交換が不可欠である。そこ
  で、郵政省、厚生省等での情報の共有化と積極的な連携を図っていく必
  要がある。

 
 ネットワークインフラの整備
   映像等大容量の情報が高速で伝送可能であり、高度なサービスの提供
  に不可欠な次世代通信網を、辺地等に居住する高齢者・障害者にも等し
  く機会が確保されるよう配慮しつつ整備することが必要。そのため、光
  ファイバ等の固定系ネットワークインフラ、移動系ネットワークインフ
  ラ等の総合的な整備を早急に推進する必要がある。
   その際、情報の料金、通信料金、端末設備の料金等を含んだ情報通信
  の利用に係る料金全体が、適正なものとなるよう配慮することが必要で
  ある。



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