別添
          電気通信設備のアクセシビリティ指針

 高齢者・障害者をはじめとした全ての人が情報通信の利便を享受できる「情報バ
リアフリー」な環境を実現するためには、電気通信事業者等の民間事業者は、アク
セシビリティの確保に配慮しつつ情報通信ネットワークの構築・提供を行う必要が
ある。その際の指針となるべき基準を、電気通信設備の機能面から整理して策定し
たものが本指針である。
 本指針に準拠した電気通信設備が提供されることにより、高齢者・障害者を始め、
全ての人が円滑に電気通信を利用することが可能となり、「情報バリアフリー」な
環境の整備が進展することが期待される。
 なお、本指針は社会の変化、技術の変化などに対応できるものとするため、定期
的に見直されなければならない。また、見直しにあたっては、関係者の意見を幅広
く反映できるような仕組みとなっていることが必要である。

第1 目的
 電気通信のアクセシビリティを確保するための指標としての電気通信設備の機能
の基準を示すことにより、高齢者・障害者に配慮した情報通信利用環境を整備する
こと。

第2 定義
 本指針において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ当該各号に定めると
ころによる。
1 「電気通信設備」とは、電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気
 的設備をいう。
2 「アクセシビリティ」とは、利用者が円滑に電気通信を利用することが可能で
 あることをいう。

第3 アクセシビリティを確保するために必要な機能的基準
1 障害に関わらず入力を可能とするための基準
  電気通信設備は、視覚や聴覚に機能の低下がみられる者や知的障害者等の入力を
 可能にするように配慮したものであると共に、以下の事項を満たす必要がある。
 (a) 視覚に頼らなくても入力可能であること
 (b) 色の識別を必要とせずに入力可能であること
 (c) 聴覚に頼らなくても入力可能であること
 (d) 限られた運動機能でも入力可能であること
 (e) 義肢により入力可能であること
 (f) 時間制限を設けることなく入力可能であること
 (g) 発話に頼らなくても入力可能であること

2 障害に関わらず出力結果を利用するための基準
  電気通信設備は、それを利用するのに必要な情報の出力および表示に関し、視覚
 や聴覚に機能の低下がみられる者の利用に配慮したものであると共に、以下の事項
 を満たす必要がある。
 (a)視覚的な情報を視覚に頼らない機能で提供可能であること
 (b)動画方式の情報を静止させる機能を提供可能であること
 (c)聴覚的な情報を聴覚に頼らない機能で提供可能であること

3 入出力の容易性を確保するための基準
  電気通信設備は、その入出力の容易性を確保するために、以下の事項を満たす必
 要がある。
 (a)入出力操作に必要なキー、ボタン等の位置が容易に確認できること
 (b)基本的な通信環境の設定を、一つの指定・動作で行うことが可能であること
 (c)操作中にいつでも初期状態または任意の状態に戻すことが可能であること
 (d)ネットワークや通信相手との接続過程が、表示されること
 (e)少なくとも一つの特定相手先へは、一つの指定・動作で接続可能であること
 (f)一度入力した接続相手番号、接続相手アドレスなど接続に必要な相手先の情報
  を登録し、再利用することが可能であること
 (g)ユーザインターフェースのカスタム化が可能であること
 (h)代替性および選択可能性
  電気通信設備の入出力機能は、複数の方式で利用できるようにすること。また、
 入出力の際に希望の方式を選択できること

第4 相互接続性の確保
 電気通信設備が第3の1から3の事項を満たすことが困難なときは、当該設備は、
障害者等が通常使用している、障害を補いコミュニケーションを支援するための機
能を有する設備と相互接続性を有する必要がある。
 なお、これらの設備を接続する際には、当該設備に対して電波障害等の妨害を与
えないようにする必要がある。

第5 その他の配慮事項
1 設計、開発、評価
  電気通信設備の設計、開発にあたっては、アクセシビリティおよび相互接続性
 を評価し、できる限り早期にその評価を反映する必要がある。
2 仕様に関する情報・マニュアル
  電気通信設備の仕様に関する情報とマニュアルは、できる限り公開され、かつ
 媒体としてすべての人が容易にアクセス可能なものとする必要がある。
3 アクセシビリティおよび相互接続性の維持 
  電気通信設備のアクセシビリティおよび相互接続性については、製品の変更後
 も、本指針が定めている基準を引き続き満たす必要がある。


        「電気通信設備のアクセシビリティ指針」の解説

第1 目的                                
 電気通信のアクセシビリティを確保するための指標としての電気通信設備の機能
の基準を示すことにより、高齢者・障害者に配慮した情報通信利用環境を整備する
こと。                                  
【解説】
 本指針は、高齢者・障害者をはじめとした全ての人が、円滑に電気通信を利用す
ることを可能とするため、電気通信設備が満たすべき機能の基準を包括的な表現に
より定めたもの。
 今般本指針を、電気通信設備の機能の基準として定めたのは、近年の電気通信技
術の発達等により、端末の機能やインターフェースが端末設備、回線、アプリケー
ションソフト等様々な手段を用いて、一体不可分の形で提供されるようになってき
ていることから、機器等の種別毎に個別・具体的な規定を設けることは適切でない
こと、情報通信ネットワーク全体のアクセシビリティを考慮する上で、電気通信設
備の機能の在り方が主要な位置を占めること等による。
 高齢者・障害者をはじめとするユーザが情報通信を利用する際に、電気通信設備
のアクセシビリティを確保することが、全ての人が情報通信の利便を享受できる
「情報バリアフリー環境」の整備を図る上で極めて重要であることから本指針を定
めているもの。
 なお、本指針の対象は本指針策定以降に新たに開発される電気通信設備とするが、
既存の電気通信設備の仕様等を変更する場合も、可能な限り本指針に配慮すること。
 また、本指針の見直しは、毎年行うこととし、その際には高齢者・障害者をはじ
め電気通信事業者、製造業者等関係者の意見を幅広く反映できるようになっている
ことが必要。


第2 定義                                
 本指針において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ当該各号に定めると
ころによる。                               
1 「電気通信設備」とは、電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気
 的設備をいう。                             
2 「アクセシビリティ」とは、利用者が円滑に電気通信を利用することが可能で
 あることをいう。                            
【解説】
 本項では、指針の中に使われる用語として、「電気通信設備」と「アクセシビリ
ティ」について定義を行った。これは、指針の対象が「電気通信設備」であること、
指針の目的が「アクセシビリティ」の確保であることから、本指針を正しく解釈す
る上で、この2つの用語の明確な定義が不可欠なためである。
 「電気通信設備」については、電気通信事業法(昭和59年12月法律第86号)の第
2条における定義を準用した。すなわち「電気通信設備」とは、電気通信を行うた
めの一切の物的手段としての機械、器具、線路その他の電気的設備をいう。電話機、
ファクシミリを始めとする各種の入出力装置、交換機、搬送装置、無線通信設備、
ケーブル、電子計算機、通信用電力装置及びこれらに附属する機器の総称であって、
これらの通信資材を相互に結合して、電気通信が可能な状態に構成され、かつ、電
気通信を行う主体が支配・管理している状態にあるものをいう。
 本指針は、アクセシビリティを確保するための機能の基準を、ユーザが直接操作
する電気通信端末のみでなく、交換機、ケーブル等を含めた電気通信設備により構
成される電気通信網全体として満たすことを求めたもので、必ずしも個々の設備全
てが単体として本指針の機能の基準の全てを満たすことを求めているのではない。
しかし、端末やネットワーク等、それぞれの設備の機能分担は、利用環境、目的、
サービスの種類等によって異なるものであり電気通信設備の設計・開発の際にはそ
の点を考慮すべきである。
 「アクセシビリティ」については、利用者が円滑に電気通信を利用することが可
能であることと定義した。
 英語の「accessibility」は、「接近可能性」、「利用のしやすさ」、「便利であ
ること」などど訳されるが、本指針は、電気通信の利用に限ったものであるため、
電気通信を利用する際の障壁を無くすという観点からこのような定義を行ったもの
である。

第3 アクセシビリティを確保するために必要な機能的基準          
1 障害に関わらず入力を可能とするための基準               
 電気通信設備は、視覚や聴覚に機能の低下がみられる者や知的障害等の入力を可
能にするように配慮したものであると共に、以下の事項を満たす必要がある。  
(a) 視覚に頼らなくても入力可能であること                 
(b) 色の識別を必要とせずに入力可能であること               
(c) 聴覚に頼らなくても入力可能であること                 
(d) 限られた運動機能でも入力可能であること                
(e) 義肢により入力可能であること                     
(f) 時間制限を設けることなく入力可能であること              
(g) 発話に頼らなくても入力可能であること                 
【解説】
 高齢者・障害者が通信を行う場合、障害を持っているがために電気通信設備の入
力操作を困難と感じる場合がある。しかし、原則として障害のある方も体の一部分
が動かせれば、その動きを感知することで情報通信機器の操作は可能である。(one 
key operation)そこで、電気通信設備の入力操作について、個々の障害に配慮した
基準を設け、その基準を満たすことにより、操作を行う者が障害を有している場合
も、不自由なく入力可能な電気通信設備とすることを目指したものが本項目である。
 なお、ここでいう入力とは、電気通信を行うために必要な信号、コマンド、情報
等の入力を指している。
 本文では、視覚や聴覚に機能の低下がみられる者や知的障害者等の操作に配慮す
べき旨記載した。これは、例えば弱視者であれば、
 □小さな文字が読みづらいので、操作ボタンの刻印文字を大きく濃淡のはっきり
  したものにする
といった配慮が有効となるし、知的障害者等は、複雑な操作が覚えられない場合が
あるため、パソコン端末など操作面にキーが多数あるような場合は、
 □色、形等により類似の機能毎に区分けする
 □ユーザの思考順序に沿った操作手順の設計とする
などの工夫が有効となる。
 なお、これらの障害への配慮に関する部分については、障害の程度とそれに対応
する解決手段を具体的に特定しづらいため、(a)〜(g)の細目の中には入れず、本文
中に入れることで、他の障害への配慮と区分した。
 以下、細目(a)〜(g)について、解説する。
(a) 視覚に頼らなくても入力可能であること
  視覚障害者は、目で見ることが要求される操作は不可能である。本項を実現す
 るための手段として次のようなものが考えられる。
 □どのボタン、スイッチ等を今、操作しているかを確認できるようにするため、
  押下確認音を付加する
 □ボタン等のタッチ基準点に突起マークを付けたり、大きいキーに突起物を張り
  付けるなど、キーそのものに触覚表示を備え付ける
 □一つ一つのボタン等を分離したり、キーボードが平面の場合、キーの周りの端
  を突き出させたりして、位置をわかりやすくする
 □接続方向のわからないプラグには触知できる印を付ける
 □誤ったキー、ボタンの入力に対応するため、すべての操作は取り消し可能にし、
  取り消しが不可能な操作は、ユーザがその旨確認できるようにする
 □ダイヤル等に移動止めをつけて、ユーザが触知してその位置を確認できるよう
  にする

 (b) 色の識別を必要とせずに入力可能であること
  色盲の人、色弱の人等の色の組み合わせを識別できない人のため、機器を操作
 する際に、色を識別する必要がないようにすることが必要である。そのため、パ
 ソコン通信やインターネットなど入力操作の際に画面表示を目で確認する必要の
 あるものについては以下ような対応が有効である。
 □赤と緑、青と黄などの組み合わせを避ける
 □白黒画面でも区別できるように色合いや明暗が異なる色を使用する
 □低輝度の色の使用を避ける
 □ユーザが視覚能力に合わせて色を調節できる機能を提供する

 (c) 聴覚に頼らなくても入力可能であること
  聴覚障害者にとっては、音声による入力指示や音声ベースで対話方式により、
 操作することを要求する電気通信の実行は不可能である。このため、聴覚に頼ら
 なくても入力を可能とすることが必要である。「2 障害に関わらず出力結果を
 利用するための基準」を満たすことは、本項に関する問題の解決にも役立つもの
 である。具体的な実現手段として以下のようなものが考えられる。
 □音声だけでなく文字による入力指示等ができるようにする

 (d) 限られた運動機能でも入力可能であること
  一定の範囲でしか手を動かせなかったり、手が震えたり、握力がほとんどない
 など身体の運動機能面でさまざまな障害を持っている人でも操作可能であるよう
 な配慮が必要である。このような障害を持っている人は、受話器を握ったり、ボ
 リューム調整ボタンをつまんだり、ねじったりする動作、複数のキーやボタンを
 同時押下する動作などが困難であるため、このような動作を要求する操作は避け
 るべきである。以下のような手段が有効である。
 □電話機や携帯電話等の場合、ハンズフリー通話機能を付加する
 □パソコン端末等を扱う場合、ダブルクリックや複数のキー、ボタン等を同時に
  押す必要がある操作については、クリックの有効時間を長くしたり、キー、ボタ
  ン等を順番に押すことができるようなオプションをつける
 □音声認識や赤外線による入力機能を付加する
  また、このような障害を持っている人は、誤って目的外のキーやボタンに触れ
 たり、動かしてしまうことも考えられるため、以下のような配慮が必要である。
 □キーやボタンを大きめにしたり、キーやボタンの間のスペースを広くすること
  により、ユーザが誤って隣のキーやボタンを押さないようにする
 □ボタンの間やボタンの近くに保護バーをつけ、不測の動作による誤ったボタン
  入力を防止する
 □キーを押してから反応するまでの時間調整を可能とし、時間を長くすることに
  より、不注意でキーを押したのかどうかの区別ができるようにする
 □誤った入力をしやすい、タッチパネルなど、人間の皮膚の接触を要求する入力
  方式の場合は、キーやボタン等による入力方式も併せて提供する
 □誤ったキー、ボタンの入力に対応するため、すべての操作は取り消し可能にし、
  取り消しが不可能な操作は、ユーザがその旨確認できるような表示を行う
 □キーやボタンが使いやすいよう、その形状は中央が窪んだもので、かつ表面が
  滑らないようにする
 □電源のオン/オフ等の機能は、機械的操作によるものの他、ソフトウェア(コ
  マンドの入力)で対応できる方法も併用する
 □スロットやコネクタの周りに傾斜をつけて、カードやコネクタを挿入しやすく
  する

(e) 義肢により入力可能であること
  義肢をつけている人が入力操作を行う際にはさまざまな困難がある。このよう
 な人でも入力を可能とするため以下のような手段が考えられる。
 □タッチパネルなど、人間の皮膚の接触を要求する入力方式の場合は、キーやボ
  タン等による入力方式も併せて提供する
 □ボリューム調整ボタンなどつまんだり、ねじったりする動作が必要なものにつ
  いては、単純な動作により入力可能な代替方式を提供する

(f) 時間制限を設けることなく入力可能であること
  高齢者・障害者の中には、電話番号、アドレスの入力などの動作に時間のかかる
 人もみられる。このように入力動作の遅い人のために、入力中に制限時間が訪れ、
 入力が無効になったり、通信断になったりすることのないような配慮が必要である。
 以下のような実現手段が考えられる。
 □ユーザからの応答時間や入力完了時間を任意に設定できるようにする
 □制限時間が近づいていることをユーザに警告し、延長できるようにする

(g) 発話に頼らなくても入力可能であること
  話すことができない人や明瞭に話せない人にとって、口頭による個人認証など音
 声入力を要求される通信は利用することができない。このような機能を組み込んで
 ある電気通信設備には、代替入力方法を用意する必要がある。例えば以下のような
 手段が考えられる。
 □キーボード、マウス等によるID、パスワードの入力
 □手書き文字等によるID、パスワードの入力

2 障害に関わらず出力結果を利用するための基準              
 電気通信設備は、それを利用するのに必要な情報の出力および表示に関し、視覚
や聴覚に機能の低下がみられる者の利用に配慮したものであると共に、以下の事項
を満たす必要がある。                           
(a) 視覚的な情報を視覚に頼らない機能で提供可能であること         
(b) 動画方式の情報を静止させる機能を提供可能であること          
(c) 聴覚的な情報を聴覚に頼らない機能で提供可能であること         
【解説】
 高齢者・障害者が通信を行う場合、障害を持っているために電気通信設備を利用
するのに必要な情報の出力及び表示される内容の把握が困難な場合がある。そこで、
そのような出力及び表示に関して、障害に関わらず誰でも把握し、利用できるよう
な基準を設けたのが本項目である。
 本文では、視覚や聴覚に機能の低下がみられる者の利用に配慮すべき旨記載した。
 弱視者であれば、画面にテキストやグラフィックス等の情報が出力される際など、
大きく、明暗のはっきりしたものとすることが必要である。
 また、難聴者が、聴力を使い製品の音声による情報を利用できるようにするため、
 □高い信号対雑音比を持つ音量調節機能を用意すること
 □複数のトーン音がある場合、警告音は周波数を離し、良く聞こえるように配慮
  すること
 □補聴器と相互接続性をもつ受話器等を使用できるようにすること
  などの配慮が必要となる。
 なお、これらの障害への配慮に関する部分については、「1 障害に関わらず入
力を可能とするための基準」の場合と同様、障害の程度とそれに対応する解決手段
を具体的に特定することが困難であるため、細目の中には入れず、本文中に入れる
ことで、他の障害への配慮と区分した。
 以下、細目(a)〜(c)について、解説する。
 (a) 視覚的な情報を視覚に頼らない機能で提供可能であること
  視覚障害者は、パソコン通信等の画面に表示される情報を認知することができ
 ない。このため、できる限り音声等によっても情報を提供できるようにする。そ
 の手段としては次のような方法がある。
 □表示されるすべての文字情報を音声に変換して出力できるようにする。なおそ
  の際には繰り返し聞くことができる機能を持たせる
 □絵やグラフィックスなどにより表現される情報は、音声に変換可能な文字情報
  あるいは音声による説明を合わせて付加する
 □点字による出力を可能とすること

(b) 動画方式の情報を静止させる機能を提供可能であること
  高齢者・障害者にとっては、画面上を文字が動くような動画方式の情報を認識
 することが困難な場合がある。このため、通信を行う際に必要な情報が動画方式
 で提供される場合には、その情報を把握することが必要であり、そのためには、
 次のような機能を提供することが有効である。
 □文字の情報が動いているときに、一時的に止めて文字をゆっくり読めるように
  する
 □1行単位で文字情報を表示し、読み終わってから次の行へ移れるようにする

(c) 聴覚的な情報を聴覚に頼らない機能で提供可能であること
  聴覚障害者は、ファクシミリのエラー時の警告音や電話の着信音など音による
 出力情報を聞くことができないが、これらは通信を行う上で重要な情報である。
 こうした情報を聴覚に頼らずに認識できるようにするためには、以下の方法があ
 る。
 □音声による出力情報は、文字形式でも同時に表示できるようにする
 また、電話やファクシミリなどの着信を知らせたり、注意を促す方法としては、
 □発光信号や画面表示など目で見える情報に変換する
 □バイブレーションなど触知できるような合図を行う(携帯可能な設備で特に有
  効)
 ことなどがある。その他に、
 □ファクシミリ受信時に不在通知を行う場合には、音声による通知の他に、ファ
  クシミリメッセージによる通知方法を備える
 ことも有効である。

3 入出力の容易性を確保するための基準                  
 電気通信設備は、その入出力の容易性を確保するために、以下の事項を満たす必
要がある。                                
(a) 入出力操作に必要なキー、ボタン等の位置が容易に確認できること     
(b) 基本的な通信環境の設定を、一つの指定・動作で行うことが可能であること 
(c) 操作中にいつでも初期状態または任意の状態に戻すことが可能であること  
(d) ネットワークや通信相手との接続過程が、表示されること         
(e) 少なくとも一つの特定相手先へは、一つの指定・動作で接続可能であると。 
(f) 一度入力した接続相手番号、接続相手アドレスなど接続に必要な相手先の情報
 を登録し、再利用することが可能であること                
(g) ユーザインターフェースのカスタム化が可能であること          
(h) 代替性および選択可能性                        
 電気通信設備の入出力機能は、複数の方式で利用できるようにすること。ま  
た、入出力の際に希望の方式を選択できること                
【解説】
 本項は、電気通信設備の入出力について、高齢者・障害者を始め、誰にとっても
容易なものであることを確保するための基準を示すものである。
 なお、ここでいう操作とは、通信を行うために必要な操作を対象としており、直
接通信の実行とは関係のない操作、例えば、端末の持ち運び操作であるとか、電池
の挿入操作等については、考慮していない。
 以下、細目(a)〜(h)について、解説する。
(a) 入出力操作に必要なキー、ボタン等の位置が容易に確認できること
  視覚障害者に限らず、一般の人でも、パソコン端末の電源ボタンやリセット
 キーの位置を苦労して探すといった事例がよく見られる。通信を行うために必要
 なキーやボタンの位置は容易に確認できるよう設計の際に使用方法、使用頻度に
 応じたレイアウト面での配慮が必要である。
  なお、通信の実行中に誤って触れることでエラーや通信断につながるキー、ボ
 タン等もあるので、設計にあたっては、単に分かりやすい位置にレイアウトする
 ということだけでなく、誤動作防止への配慮との両立が必要である。
  特に視覚障害者や肢体不自由者は、意図しないキーに誤って触れる可能性が高
 いため、注意が必要である。

(b) 基本的な通信環境の設定を、一つの指定・動作で行うことが可能であること
  パソコン通信等の初期設定時には、ユーザの使用している端末の機種やOSな
 どに応じて、通信速度、回線種別、モデム設定等の通信環境を個別に設定する必
 要ががある。しかし、複雑な設定を煩わしいと思う人は多く、特に知的障害者等
 にとっては、設定行為自体がアクセスへの障壁となりうることも考えられる。そ
 こで少なくとも基本的な通信環境については、一つの指定・動作で行うことが可
 能であるような機能を備えていることが必要である。カーソル移動による画面上
 での場所の指定、マウスクリックなどの簡単な動作による設定が考えられる。
  その他、以下のような手段も有効である。
 □接続に必要な環境設定を誘導してくれるプログラムの提供
 □ユーザ側の操作に任せるのではなく、ネットワーク側(通信事業者側)からの
  遠隔操作により、端末を自動設定する機能を持たせる方法

(c) 操作中にいつでも初期状態または任意の状態に戻すことが可能であること
  インターネット接続中に、誤った操作により予期しない状態に陥って、元の状
 態に戻れず、通信を中断せざるを得ない場合がある。このような問題を解消する
 ため、操作中にいつでも初期状態または任意の状態に戻すことを可能とする機能
 を備え付ける必要がある。
  実現手段としては、リセット機能、バック機能、ジャンプ機能等をハードウェ
 ア又はソフトウェアにより提供することが考えられる。

(d) ネットワークや通信相手との接続過程が、表示されること
  ファクシミリ送信時、パソコン通信実行時等に通信相手との接続がスムーズに
 いかない場合や、時間のかかる場合がある。また、ネット上で重たいファイルの
 ダウンロードを行う時には特に時間を要することが多い。このような場合に、通
 信が確実に実行されているのか、今どの過程にあるのか等を操作する者が把握で
 きないと困ることが多い。
  「ネットワークに接続中」、「相手を呼び出し中」、「接続完了」等のメッ
 セージを画面表示したり、表示部の光の点滅により知らせたり、音声で伝えるた
 りすることが解決手段として有効である。

(e) 少なくとも一つの特定相手先へは、一つの指定・動作で接続可能であること
  何度も通信のやり取りをする相手先に接続する場合、一から接続の指定・動作
 を行うことは、ユーザにとって手間であり、時間がかかる。また、緊急時に迅速
 に連絡すべき相手と通信を行う場合は、単純な操作で短時間に接続できることは
 必要不可欠な機能である。
  このため、少なくとも一つの特定相手先へは、一つの指定・動作で接続できる
 機能を有していることが必要である。
  例えば、特定の相手先をアイコンやボタンに登録しておき、通信を行う度毎に
 相手のアドレス、番号等を入力しなくても、マウスクリック、ボタン押下等の単
 純な操作により、アクセスすることなどが考えられる。

(f) 一度入力した接続相手番号、接続相手アドレスなど接続に必要な相手先の情報
を登録し、再利用することが可能であること
  長い桁数の電話番号の入力や電子メール送信時の相手アドレスの入力等は、高
 齢者等にとって容易な操作ではない。そこで、通信を行う度毎に同じ手間をかけ
 る必要のないように、一度入力した番号、アドレス等は登録し、容易に再利用で
 きるような機能が必要である。
  再利用を容易に行えるようにするには、登録した情報の目的別並べ替え、検索
 等が行えるようにすることが望ましい。
  また、直前に通信した相手との通信頻度の高さを考慮すると、このような通信
 相手を優先登録する機能の付加も有効である。

(g) ユーザインターフェースのカスタム化が可能であること
  電気通信設備のユーザインターフェースについては、ユーザの特性や電気通信
 設備を使用する状況に応じて、ユーザが使いやすいようにカスタム化できること
 が必要である。例えば、キーボード等多数のキーやボタンが配列されたインター
 フェースの場合、タッチパネルによりフレキシブルな操作ボタンの配置とする機
 能を併せ持つことなどが有効である。
 
(h) 代替性および選択可能性
  電気通信設備の入出力機能は、複数の方式で利用できるようにすること
 また、入出力の際に希望の方式を選択できること
  障害者にとっては、障害の種類や程度によって利用できる入出力機能が異なる。
 このため、入出力のために複数の方式を製品に組み込むことと、各方式をユーザ
 が自分の特性や使用する状況に応じて容易に選択できることが必要である。製品
 に組み込む入出力方式としては、以下のようなものが考えられる。
 □キーボードによる入力
 □マウスによる入力
 □画面上での入出力(タッチパネル)
 □マイク、スピーカを活用した音声による入出力

第4 相互接続性の確保                          
 電気通信設備が第3の1から3の事項を満たすことが困難なときは、当該設備 
は、障害者等が通常使用している、障害を補いコミュニケーションを支援するため
の機能を有する設備と相互接続性を有する必要がある。            
 なお、これらの設備を接続する際には、当該設備に対して電波障害等の妨害を与
えないようにする必要がある。                       
【解説】
 高齢者や障害者が電気通信を行う際には、電気通信設備が第3の1から3の事項
を満たすことが望ましいが、その実現が困難な場合もある。そのような場合には、
高齢者や障害者が通常、使っている補聴器、点字プリンター、点字ディスプレイ等
の障害を補いコミュニケーションを支援するための機能を有する設備と電気通信設
備を接続可能にすること、すなわち相互接続性を確保することにより、電気通信設
備のアクセシビリティが確保されることとなる。
 相互接続性を確保するために、以下のような手段が考えられる。
□電気通信設備の設計・開発段階で、補助器具等との接続を可能とするような配
 慮を行う
 例えば、外部の音声処理装置の接続のためのインターフェースを確保する方法
としては、聴覚障害者の利用する補聴器、ヘッドホン、アンプ等の機器、装置を
直接プラグインする有線接続方式や、赤外線接続ポイント、無線接続ポイントな
どによる接続方式がある。特に、補聴器を使用しての電話機等の利用時には、周
囲の雑音も同時に拾うため、直接音声信号を伝えられる接続機能を付加すること
が有効である。


第5 その他の配慮事項                          
1 設計、開発、評価                           
 電気通信設備の設計、開発にあたっては、アクセシビリティおよび相互接続性を
 評価し、できる限り早期にその評価を反映する必要がある。         
2 仕様に関する情報・マニュアル                     
 電気通信設備の仕様に関する情報とマニュアルは、できる限り公開され、かつ媒
 体としてすべての人が容易にアクセス可能なものとする必要がある。     
3 アクセシビリティおよび相互接続性の維持                
 電気通信設備のアクセシビリティおよび相互接続性については、製品の変更後 
 も、本指針が定めている基準を引き続き満たす必要がある。         
【解説】
1 設計、開発、評価
 メーカーおよび電気通信事業者等には、電気通信設備のアクセシビリティおよび
相互接続性を評価し製品に反映させるため、製品設計、開発、製造、流通の一連の
工程の中で、一貫してそれらのアクセシビリティおよび相互接続性に対する障壁を
把握できるような工程づくりが必要となる。そのためには、例として次のような対
応が考えられる。
 まず、市場調査、製品設計、性能テスト、製品試用等を行う際には、その対象と
して、高齢者・障害者を含めることを考慮する。高齢者・障害者を含めることによ
り、アクセシビリティの障壁となる問題点が明らかになり、それを解決する方法を
見つけることが可能となる。製品のターゲットを限定して想定する場合においても、
高齢者・障害者がそのなかに含まれるよう配慮することが重要である。
 また、上記の一連の工程において、高齢者・障害者関連組織と協力して作業する
ことなども、製品の評価を行ううえでは重要な視点となる。

2 仕様に関する情報・マニュアル
 電気通信設備の仕様に関する情報およびマニュアルは、企業の利益を損なわない
範囲内で、公開する必要がある。
 これらの情報およびマニュアルの提供形式としては、高齢者・障害者等を含めた
すべての人がアクセス可能なよう、従来の文字や紙ベースによるもののみでなく、
音声、点字等の他の形式でも提供する必要がある。提供する実質的手段としては、
点字を含む紙ベースのものに加え、ファクシミリ、インターネット、フロッピー
ディスク、カセットテープなどがある。

3 アクセシビリティおよび相互接続性の維持
 今後、技術の進展等により、その都度、電気通信設備の改良があると想定される。
その改良により、より高度な機能が使えるようになることは望ましいことではある
が、そのために高齢者・障害者の使用が困難になることは避ける必要がある。
 このため、メーカーおよび電気通信事業者等がアクセシビリティおよび相互接続
性について本指針の基準を満たしている製品の改良を行う際には、引き続き本指針
の基準を満たすことが必要である。


                研究会構成員

 「ライフサポート情報通信システム推進研究会」構成員 
                           (敬称略、五十音順)

 安藤 豊喜  財団法人全日本聾唖連盟 理事長

 井上  皎  社団法人テレコムサービス協会 事務局長

 伊原 正躬  財団法人長寿社会開発センター 専務理事

 大島眞理子  シニアライフアドバイザー

 加々見 隆  内閣総理大臣官房 参事官(総理府障害者施策推進本部担
        当室長)

 川尻 禮郎  財団法人全国老人クラブ連合会 事務局長

◎酒井 善則  東京工業大学工学部 教授

 高岡  正  社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事長

 高橋 紘士  立教大学社会学部 教授

 角田 兼久  社団法人日本ケーブルテレビ連盟 専務理事

 浜田  淳  総務庁長官官房 参事官(高齢社会対策担当)

 林  喜男  日本人間工学会 会長/慶應義塾大学 名誉教授

 古川 弘志  社団法人電波産業会 専務理事

 増澤 孝吉  通信機械工業会 常務理事

 松尾  榮  社会福祉法人日本身体障害者団体連合会 会長

 松尾 武昌  社会福祉法人全国社会福祉協議会 常務理事

 水野  忠  高齢者・障害者支援情報通信提供・開発協議会

 宮原 英明  社団法人電気通信事業者協会 専務理事

 村谷 昌弘  社会福祉法人日本盲人会連合 会長

◎座長


   「無障壁(バリアフリー)推進部会」構成員   
                           (敬称略、五十音順)

 猪木 誠二  郵政省通信総合研究所情報通信部ユニバーサル端末研究室 
        室長

 小澤 邦一  松下電器産業(株)研究本部 健康医療開発推進室 室長

 勝又 和夫  社会福祉法人東京コロニー常務理事

 河村  宏  財団法人日本障害者リハビリテーション協会

 清原 慶子  ルーテル学院大学文学部 教授

 高岡  正  社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合 理事長

◎高橋 紘士  立教大学社会学部 教授

 詫間登喜男  日本電気(株)BIGLOBE VAN販売本部 官庁・
        自治体営業担当部長

 竹中 ナミ  プロップ・ステーション 代表

 鶴野 和応  日本デジタル放送サービス(株)(パーフェクTV) シス
        テム技術部長

 野本 清隆  マイ・テレビ(株) 営業統括部長

 長谷川昌雄  三菱電機(株)官公CCV事業推進センター ソリュー
        ションサービス1部総合システム課 担当部長

 牧田 克輔  社会福祉法人日本盲人会連合 情報部長

 米川 達也  日本電信電話(株)通信機器事業推進部 第二商品部長

◎部会長


    「指針(ガイドライン)推進部会」構成員    
                           (敬称略、五十音順)

 井関  治  (株)NECデザイン ヒューマンインターフェースデザ
        イン部 デザインン課長

 遠藤 隆也  NTTアドバンステクノロジ(株)HITセンター 所長

 小澤 邦昭  (株)日立製作所 情報事業本部事業企画本部 情報機器
        アクセシビリティ推進室 室長

 垣内 良規  富士通(株)総合デザイン研究所 ソフトデザイン部プロ
        ジェクト課長

 小松 尚久  早稲田大学理工学部 教授

 関根 千佳  日本IBM(株) スペシャル・ニーズ・システムセン
        ター 課長

 薗部 英夫  日本障害者協議会 情報通信ネットワークプロジェクトプ
        ロデューサー

 高村 明良  筑波大学付属盲学校 教諭(第3回会合)

 高沼 正三  社団法人テレコムサービス協会 事務局長代理

 寺澤 幸男  社団法人電気通信事業者協会 企画部長(第1、2回会
        合)

 都倉  満  社団法人電波産業会 研究開発本部 周波数資源グループ
        担当部長

 豊田興太郎  松下通信工業(株) マルチメディア・クリエイトセン
        ター ヒューマンインターフェイスクリエイト室 室長

 浜田  洋  日本電信電話(株)通信機器事業推進部 第一商品部長

◎林  喜男  日本人間工学会 会長/慶應義塾大学 名誉教授

 藤塚 光一  社団法人電気通信事業者協会 調査広報部長(第3回会
        合)

 松井  徹  通信機械工業会 第2マーケティング部長

 横田 充洋  社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 情報保障
        部(第3回会合)

◎部会長



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