5 著作権等の保護と利用者の利便性向上 −ネットワークコンテンツの円滑な流通に向けた取組  ネットワーク社会におけるコンテンツ流通の促進のためには、著作権者等の権利の保護と利用者の利便性の双方を充足させることが必要である。これらのバランスをとりつつ両者の利益を最大化し、コンテンツの流通を促進するためには、著作権者とその権利の利用者であるコンテンツプロバイダ間の権利処理、及びコンテンツプロバイダと一般ユーザー間における安全、簡便かつ権利を侵害しないコンテンツ配信・課金処理の双方が適切に運用される必要がある。 (1)権利処理の円滑化  映像コンテンツには多数の著作物が使用され多数の者が製作に関与することが多いため、その権利関係は複雑である。したがって、例えば、放送番組をインターネット上で配信する場合、番組製作者の著作権はもとより、原作者や脚本家の著作権、番組中で使用されている音楽の作詞・作曲家の著作権、出演者や演奏家の著作隣接権等、多数の関係者の様々な権利処理をしなければならない。総務省では、こうした諸権利を円滑に処理するための仕組の構築等、放送番組に代表されるブロードバンド・コンテンツの著作権等の保護とネットワーク流通の円滑化に向けた諸課題の抽出とその具体的方策等について検討するため、「デジタルコンテンツのネットワーク流通市場形成に向けた研究会」を平成13年2月より開催し、同年7月に報告書を取りまとめた。  本報告を受け、総務省では、ブロードバンド・コンテンツのネットワーク流通に当たり必要な著作権等の処理をネットワーク上で円滑に行うための権利クリアランスシステムに関し、そのコンセプトについて検討し、平成13年12月に検討結果を公表するとともに意見募集を行った。  これらを受け、権利者とその権利の利用者との間で、放送コンテンツのネットワーク流通に向けた権利クリアランスシステムの在り方に関する議論も開始されている。ここでは、放送局や権利者団体等が保有する既存のデータベースを相互に結び付けるためのメタデータ(コンテンツに関する情報)交換用フレームワークの在り方(図表1))、ブロードバンド・コンテンツのネットワーク配信に求められる権利保護技術、ブロードバンド・ネットワーク向けのコンテンツのビジネスモデル/権利処理、コンテンツの二次利用申請の効率化などについて幅広く議論されている。特に、メタデータ交換用フレームワークは、様々な分野に広く適用可能な、権利クリアランスシステムの基本機能として重要な検討テーマである。  これらを踏まえ、総務省では、ブロードバンド・コンテンツのネットワーク流通の円滑化に向けて、平成14年度から、権利クリアランスシステムに関する実証実験を実施する予定である。 (2)CDN(Contents Delivery Network)  「ITと国民生活に関する調査分析」によれば、著作権保護システムの利用意向について、「手間や時間がかかるのであれば利用しない」という回答が56.4%と最も多かった(図表2))。前述のネットワークコンテンツに対する利用者の利用意向(1-5-3参照)と併せて考えると、ネットワークコンテンツの一層の流通に向け、課金システム等の信頼性が確保されることに加えて、コンテンツ入手における利便性を高めることも、重要な要素であることが示されている。  高品質のコンテンツをインターネット経由で配信するためのプラットフォームは、一般にCDN(Contents Delivery Network)と呼ばれ、コンテンツの配信とともに、課金や利用者の認証、著作権保護を同時に行うソリューションサービスとして提供されている。このようなサービスを提供する事業者が我が国においても続々と増加しているところであり、今後のコンテンツ配信ビジネスの普及に向け、活躍が期待されている。  CDN JAPANは、CDNの構築及びビジネスモデルの検証を目的として、大手ISPを中心とした約30社により平成13年3月に組織された団体である。同年11月に統合ブロードバンド配信システム「CDN-Jプラットフォーム」を稼働し、ブロードバンドコンテンツの配信実験を行い、平成14年1月より有料配信を開始、同年4月からは事業を開始した(図表3))。CDN-Jでは、ブロードバンド利用者を前提として、300kbps及び1Mbpsの回線速度で、不正利用防止のために「コンテンツIDフォーラム(cIDf)」が提唱する「コンテンツID(cID)」を付したコンテンツの配信を行い、同時に課金・決済のシステムも提供する。「コンテンツID(cID)」とは、著作権を保護しながらコンテンツの流通を促進するために必要となるデジタルコンテンツに付与される固有の識別子等の属性情報セットである。コンテンツIDは、電子透かし等の技術を用いて、当該コンテンツの権利関係や作成年月日などの属性情報や、コンテンツの流通履歴、販売履歴等を記録することが可能となり、このコンテンツIDを基に、ネットワーク上での不正利用コンテンツを検出することが可能となるものと期待されている(図表4))。 図表1) メタデータの交換フレームワークのイメージ 図表2) コンテンツ配信時における著作権保護システムの利用意向 図表3) CDN-Jプラットフォームの仕組 図表4) コンテンツIDの発行処理フロー