2 EU −電気通信規制パッケージを採択 (1)電気通信市場  2001年における欧州の電気通信市場について、欧州委員会が2001年11月に発表した「電気通信規制パッケージの実施状況に関する第7次実施報告書」をみると、電気通信サービスの総収益が2,180億ユーロ(約24兆円)、成長率が9.5%と見込まれており、景気が低迷しつつある中、堅調に推移していることが分かる。内訳としては、移動体通信サービスの成長が著しく、総収益が820億ユーロ(約9兆円)、成長率が約22.3%と見込まれている。他方、固定電話サービスについてみると、総収益が1,100億ユーロ(約12兆円)となっており、電気通信市場全体に占めるシェアが引き続き低下しているものの、51%と過半数を占めている。  また、電気通信事業者の動向については、EU加盟国全体で、1998年1月1日の電気通信完全自由化以降、旧独占事業者の固定電話における収益が市内電話で10%、長距離電話で20%、国際電話で30%減少したとの指摘もあるものの、依然として、市内網は旧独占事業者による独占状況にある。しかし、旧独占事業者は、新規事業者の電気通信市場への参入による競争の激化に伴い、軒並み収益を低下させており、また、第3世代携帯電話事業免許料等への巨額の資金投入が事業者の財務状況を圧迫し、ブリティッシュ・テレコム、フランス・テレコム、ドイツ・テレコム等の既存大手事業者の業績は悪化し、株価も大幅に下落した。 (2)「EUベンチマーク報告」(eEurope Benchmarking Report)  2010年までにEUを世界で最もダイナミックな知識経済にすることを目的として、1)より安く、より速く、より安全なインターネット、2)欧州市民の技能及びアクセス向上に対する投資、3)インターネット利用の促進の3分野に焦点を当てた「電子欧州行動計画」(eEurope-2002)が策定され、2000年6月にポルトガルのフェイラで開催された欧州理事会で承認された。また、欧州委員会は、各国からのデータを基にeEurope-2002の進展の評価を行った「電子欧州ベンチマーク報告」(eEurope Benchmarking Report)を2002年2月に公表しており、概要は下記のとおりである。 1)より安価なインターネット  家庭におけるインターネット普及率についてみると、18%(2000年3月)、28%(2000年10月)、36%(2001年6月)、38%(2001年12月)と上昇している。また、インターネット利用人口についてみると、家庭における普及率を上回り、2001年10月には15歳超の人口の50%以上が、家庭、職場、学校で、又は公的アクセスを通じて、更には旅行中にも、インターネットを利用している。  インターネットへのアクセスはより安価になってきており、特に、電話回線を通じたアクセス料金は一貫して低下している。他方、広帯域網によるインターネットへのアクセス費用は非常に高価であり、広帯域網の普及は、加盟国により相当の差がみられる。  また、eEurope-2002では、様々なネットワークの利用を拡大することも企図されていたが、ほとんど進展がみられず、衛星、双方向デジタルテレビ、広帯域無線アクセス及び家庭での光ファイバ接続は、依然として限界的なアクセス方法にとどまっている。 2)欧州市民の技能及びアクセス向上に対する投資  技能の向上については、インターネットを職場で利用する人はますます増えているが、多くの人は何らの訓練を受けていない。 3)インターネット利用の促進  インターネットを利用する代表的な分野の一つとして電子商取引が挙げられる。EUにおけるインターネット利用者のうち、オンライン上で財やサービスを購入したことがある利用者は、2000年10月時点で31%、2001年11月時点で36%となっているが、オンライン上で頻繁に購入する利用者は、わずか4%にすぎない。  また、電子商取引以外の重要な要素の一つとして、消費者の信頼の確立が挙げられる。紛争が発生した場合に補償が確保されることに確信が持てれば、消費者はオンライン上でもっと財やサービスを購入すると考えられる。しかしながら、欧州委員会が推奨した自主規制や行為規範は、残念ながらこれまでのところ十分に機能していない。  最後に、欧州委員会のこれまでの定期的な評価によれば、技術の進展は急速であり、インターネットの普及率も目を見張る結果を示しているが、社会の中で変化が起こるには時間がかかる。このような社会変化は、組織の変更、消費者心理とその行動の変化、更には規制や政策決定の現行化を含むとしている。したがって、eEurope-2002は、2002年以降も追求されていく必要があると結論付けている。 (3)電気通信規制パッケージ  従来の電気通信分野における規制の枠組を見直し、欧州経済において極めて重要な位置を占める電気通信産業における競争を更に促進させることを目的とした「電気通信規制パッケージ」が2001年12月12日に欧州議会、2002年2月14日に閣僚理事会によって採択され、2002年4月24日に公布施行された。これによって、EU加盟国は2003年7月24日までに同パッケージを国内法制化することが義務付けられた。同パッケージは、5つの指令、1つの規則及び1つの決定から構成されている(図表)。  EU加盟国における同パッケージの国内法制化により、欧州委員会は加盟諸国の規制制度を監視する権限を付与される。また、市場参入規制は原則として簡素化され、競争が更に促進されるとともに、欧州レベルでの協力体制が活発になるものと期待されている。 図表 電気通信規制パッケージの概要