3 アジア −IT政策の推進によりネットワークの整備と市場開放が進展 (1)中国  中国における電気通信市場の成長は著しく、中国情報産業部によると、2000年末から2002年1月末にかけて、固定電話の加入数が1億4,400万から1億8,193万、携帯電話の加入数が8,526万から1億4,991万へと急速に増加しており、固定電話は米国に次いで世界第2位、携帯電話は世界第1位の加入者数となっている。  情報通信政策の動向についてみると、中国は2001年12月にWTOへの正式加入を果たし、法制度の整備とともに、電気通信市場の開放を進めている。法制度については、2000年9月に電気通信分野の基本法ともいうべき「電信条例」が制定され、電気通信事業を「基礎通信業務」と「付加価値通信業務」に分類し、「基礎通信業務」への外資の出資を49%まで認めるとともに、「付加価値通信業務」では外資制限に関する規定を設けないなど、外資に対し市場が開放された。これを受けて、2000年12月にAT&Tが中国企業と合弁で上海に「上海信天通信有限公司」を設立し、初の外資参入が実現した。また、外資と中国企業との合弁によって電気通信事業に参入する際の条件や手続等を規定した「外商投資電信企業管理規定」が2002年1月より施行されている。  国内事業者についてみると、「中国電信」の1社独占体制を是正し、市場競争を促進するため、1999年3月に中国電信の分割が決定され、2002年4月に固定、移動、衛星、無線呼出しの4事業体への分割が完了した。さらに、2001年12月には、「中国電信」の南北2分割が決定している。分割により、北部地域の会社は、中国網絡通信、吉通通信と合併し「中国網絡通信」として新たに設立され、南部地域の会社は引き続き「中国電信」の名称を使用することとしている。 (2)香港  香港におけるIT戦略についてみると、1998年に発表された「デジタル21」の後継として、「2001デジタル21戦略」を2001年5月に発表し、香港を地球規模で接続された世界の中で主導的な電子商取引コミュニティかつデジタル・シティとすることを目標としている。また、電気通信事業における競争環境についてみると、域内(香港内)固定通信では、従来は香港テレコム(後のC&WHKT)の独占であったが、1995年から新規参入事業者が登場し、現在では5社による競争が行われている。また、2000年1月には無線による域内固定通信の免許が5社に交付され、有線と合わせ、域内(香港内)固定通信市場全体で10社による競争が行われている。なお、有線での域内固定通信への参入については、2003年1月より完全自由化される予定である。域外(国際)通信については、当初2006年9月まで香港テレコムインターナショナル(後のC&WHKTI)の独占が認められていたが、1998年に自由化前倒しが決定され、1999年1月から事業ベース(回線設備はC&WHKTI)での自由化、2000年1月から設備ベースについての自由化が図られている。2000年8月には香港資本のベンチャー企業であるパシフィック・センチュリー・サイバー・ワークス(PCCW)がC&WHKT(旧香港テレコム)を買収した。  免許制度についてみると、2000年6月に「電気通信(修正)条例」が成立し、これに基づき、2001年4月より、11に分類されていた免許を、「固定伝送者免許」、「移動伝送者免許」、「衛星基地伝送者免許」の3つに整理した「キャリア・ライセンス制」が導入された。なお、放送の中継・伝送に係る免許についてもキャリア・ライセンス(固定)の対象とされているが、番組等のサービス提供については、新放送条例(2000年7月発効)による「テレビ番組サービス免許」が必要となる。 (3)韓国  韓国では、DSLを利用した高速インターネット加入者が急速に増加しており、Korea Network Information Centerによると、2001年12月末時点におけるインターネット利用者数は2,438万人に達している。  情報通信政策の動向についてみると、1994年4月に「CYBER KOREA 21」を発表している。「CYBER KOREA 21」では、創造的地域基盤国家の形成へ向けて、知識情報の創出・蓄積、活用能力の先進化を推進し、2002年に世界で10位圏の情報化先進国になることを目標としている。また、2000年1月には、「CYBER KOREA 21」の一部である「国家情報化計画」の前倒しを発表しており、2005年までにほぼすべての世帯においてマルチメディア・データをいつでもどこでも送信できる国内高速インターネットインフラが利用可能となる環境の整備を行うために、約40兆ウォン(約4兆円)を投入することとしており、当初2010年を目標としていたが、2005年へと5年間の前倒しを行うこととしている。さらに、2001年2月には、情報通信部が2001年度業務計画として、これまでに構築した情報通信インフラを基盤としつつ、国家社会全般の知識情報化を促進し、韓国を知識情報強国「e-Korea」として建設する旨の内容を大統領に報告したところである。  そのほか、1995年3月にはブロードバンド推進計画である「超高速情報通信網構築計画」を発表し、超高速情報通信基盤(KII:Korea Information Infrastructure)の構築により、社会基盤の充実、新たな雇用の創出、産業の高度化、国民生活の向上を図ることとしている。2005年までに、約20兆ウォン(約2兆円)を投入し、超高速インターネットサービスが社会のあらゆる場面で利用できるインフラ環境の整備を進めている。 (4)インド  インドでは、1885年に制定されたインド電気通信法が100年以上にわたって電気通信政策の基礎となっていたが、電気通信サービスの自由化、事業体の民営化等の変革に対応するため、1994年に通信の自由化(開放)政策として「1994年電気通信政策」が発表された。また、1997年には規制機関であるインド電気通信規制庁(TRAI)を設立するなど、自由化政策の推進体制を整備している。さらに、1999年には一層の自由競争市場の実現へ向けた改革として、新たな電気通信政策である「1999年電気通信政策」を発表し、同政策に従って、通信省電気通信局(DOT)から事業部門が分離され、新たに電気通信サービス庁(DTS:2000年に公社化、現在はBSNL)が設立された。現在、2002年4月に自由化された国際通信を含むすべての電気通信サービスが民間に開放されている。 (5)シンガポール  シンガポールでは、国土、人口の制約を踏まえ、経済の持続的発展には高付加価値産業の集積が不可欠であるとして、他国に先駆けて1980年代より政府主導によるIT施策の推進に取り組んできたところである。この結果、Nielsen NetRatingsによると、2002年2月のインターネットの普及率が人口の50%に達しており、また、道路料金システムのIT化を実現するなどアジアにおいて最もIT化が進んだ国の一つとなっている。  2000年には、IT分野における2001年からの10年間の国家計画である「ICT21マスタープラン」を発表し、1)通信の自由化を含む情報通信関連産業の振興、2)企業のIT化、3)生活のIT化、4)公共分野のIT化、5)人材育成等を推進することによって、シンガポールをダイナミックで活力のある世界的な情報通信の中心地とすることを目標としている。  また、2002年1月に我が国との間で、貿易・投資の自由化及び経済連携の強化を目的とした経済連携協定に両国首脳が署名し、本協定に基づいて、IT分野における協力等、両国間の経済上の連携強化が期待されている。 (6)マレイシア  マレイシアでは、多様な民族構成を踏まえ、従来から調和のとれた安定した複合国家構築のための人づくりを重視した政策を推進している。1991年に発表した「ビジョン2020」では、2020年までに先進国入りを目指し、科学技術立国構想を国家開発目標の一つに掲げ、これに基づき、IT化の推進を国家開発の重点分野として政府主導の取組を推進している。  1996年には、首都クアラルンプールと新国際空港を結ぶ四方地域を「マルチメディアスーパーコリドー(MSC)」としてIT産業の集積地とする国家プロジェクトを発表しており、IT時代のテストベッドとして企業集積、フラッグシップ・アプリケーションの開発・実用化、インテリジェント都市開発の3つの手法により情報通信産業の一大拠点づくりに取り組んでいる。また、MSC開発の推進母体であるマルチメディア開発公社(MDC)を中心に、公共分野におけるIT活用の代表的アプリケーションとして、「電子政府」、「多目的カード」、「スマート・スクール」、「遠隔医療」等の開発・実用化が行われており、今後全国展開が期待されている。