(2)電波の与える影響 −人体電波防護対策  昨今の携帯電話等の急速な普及に伴い、無線設備が生活圏の付近に整備されるようになり、これらの無線設備から発射される電波が人体に好ましくない影響を及ぼすのではないかという懸念が提起されるようになっている。そこで、総務省では無線通信に用いられる電波について、それが人体に好ましくない影響を与えないための適切な基準の策定及び継続的な研究等を実施している。 (1)携帯電話端末等への電波防護規制の導入  平成9年4月に、携帯電話端末等の身体に近接して使用される無線機器に適用される電波防護指針(局所吸収指針:比吸収率で規定)が策定され、無線機器の製造等におけるガイドラインとして活用されてきた。  他方、携帯電話端末等に対する比吸収率の測定方法については、これまで複数の方法が開発・提案されてきた。欧米の標準化機関では、局所吸収指針の制度化に使用することを目的として、比吸収率を統一的に評価するための測定方法について標準化が進められており、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)において、国際標準化が近々完了する見込みである。我が国においても、比吸収率を統一的な方法で測定し、評価するための測定方法が求められている。そこで、安全な電波利用のより一層の徹底を図ることを目的に、局所吸収指針の制度化に向けて、平成12年5月、電気通信技術審議会において「携帯電話端末等に対する比吸収率の測定方法」について諮問し、同年11月に一部答申を受けている。答申では、人体側頭部の側で使用する携帯電話端末等に対する比吸収率の測定方法について統一的な評価方法が提言された。  これを受けて、平成13年3月に電波監理審議会に対して関係省令の一部改正について諮問したところ、同年5月に諮問のとおり改正することが適当である旨の答申が出され、本答申に基づく「無線設備規則及び特定無線設備の技術基準適合証明に関する規則」の一部改正を行った(平成13年6月1日公布、14年6月1日より施行)。この一部改正により、人体側頭部で使用する携帯電話端末等に対して比吸収率の許容値が規定され、携帯電話端末等を製造するメーカー等に対してこの許容値を遵守することが義務付けられることになった。 (2)電波の人体に対する影響に関する研究等の推進  総務省では、電波の生体への影響を科学的に解明するため、関係省庁や大学の医学、工学の研究者等により構成される「生体電磁環境研究推進委員会」(委員長上野照剛東京大学教授)を平成9年度より開催している。  本委員会は、これまでの研究成果によれば、現時点では電波防護指針値を超えない強さの電波により、非熱効果を含めて健康に悪影響を及ぼすという確固たる証拠は認められないことを発表した(平成13年1月)。  現在は、長期的な電波ばく露による影響調査のための2年間(実験で使用するラットの一生に相当)にわたる長期ばく露実験や、携帯電話端末使用と脳腫瘍との関係についての疫学調査等を実施している。総務省では、今後も電波の人体安全性に関する研究等を継続し、我が国の電波防護のための基準の根拠となる科学的データの信頼性向上を図るとともに、研究成果を正確に公表することにより、安心して安全に電波を利用できる環境の整備を推進していく予定である。