平成15年版 情報通信白書

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第1章 特集「日本発の新IT社会を目指して」

2 次世代を担う情報通信ネットワークの展望と課題

(1)次世代を担うユビキタスネットワーク

我が国の優位性を活かした日本発のモデル

1 ユビキタスネットワークの意義

 急速に普及しているブロードバンド、携帯電話、デジタル放送等を更に発展させ、次世代を担うと期待されている情報通信ネットワークが、「いつでも、どこでも、誰でも利用可能なネットワーク」(ユビキタスネットワーク)である。「ユビキタス(Ubiquitous)」とは、元来、ラテン語で「遍在する(いたるところに存在する)」という意味の言葉に由来しており、ユビキタスネットワークでは誰もが地球上のあらゆる場所から、いつでも、通信速度等の制約なく利用でき、あらゆる情報やコンテンツを流通させることができる。
 従来の情報通信ネットワークにおいては、空間的・地理的制約、通信対象の制約、ネットワーク、端末、サービス・コンテンツの選択の制約、通信能力の制約、ネットワーク・リスクといった各種の制約が存在していた。ユビキタスネットワークにおいては、これらの制約を克服する。ユビキタスネットワークの基本コンセプトは、図表1)の5点に集約できる。
 また、ユビキタスネットワークが実現することにより、我が国が抱えている経済及び社会上の問題を解決ないし軽減することができる。ユビキタスネットワークは、1)日常生活を豊かで、便利なものにするとともに、2)安心できる社会生活の実現、3)障害者・高齢者等の社会参加の促進、4)環境問題への対応といった社会システムの革新に寄与する(図表2))。また、経済的には、5)新たな価値を創造する産業を創出し、日本経済の活性化に寄与する。

 
図表1) ユビキタスネットワークの基本コンセプト

図表1) ユビキタスネットワークの基本コンセプト
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図表2) ユビキタスネットワークの利用イメージ

図表2) ユビキタスネットワークの利用イメージ

2 我が国の優位分野を活かした国際競争力の確保

 ユビキタスネットワークを実現するには、どこでも、長時間にわたり利用可能な小型かつ操作性の良い端末、利用者に合わせたネットワークのサービス提供形態の変更、ネットワークの情報通信技術の開発が必要である。
 世界の情報通信機器市場において、インターネット関連機器やパソコン関連機器では、米国企業が高いシェアを持っている。他方、カメラ付き携帯電話や家電関連機器では我が国も高いシェアを保有している(図表3))。
 また、情報通信技術の日米欧間の優位性について、我が国及び海外の情報通信研究者に対し調査を行ったところ、ソフトウェア技術、インターネット技術、コンテンツ制作支援技術、コンピュータシステム技術、セキュリティ技術では米国が優位にあるとの回答が顕著に多い。他方、情報家電技術、モバイル端末技術、光通信技術、モバイルシステム技術においては、我が国が優位にあるとの回答が多い(図表4))。

 
図表3) 世界の情報通信機器のマーケット・シェア(注1、2、3)

図表3) 世界の情報通信機器のマーケット・シェア(注1、2、3)
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図表4) 情報通信技術の優位性に関する国際比較

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 このように、従来のパソコンを中心としたインターネット、さらにはその延長にあるコンテンツ制作やセキュリティの技術分野においては、マーケット・シェアでも、技術開発面でも、米国が優位にある。しかし、ユビキタスネットワークにおいては、空間的・地理的制約を克服する移動通信技術、通信対象や端末の制約を克服する端末技術、通信能力の制約を克服する光技術が中枢的な技術になる。これらの技術については、我が国では先見性のある研究開発を官民連携で推進してきており、我が国にも優位性がある。今後、我が国が、これらの優位性を活かして、世界に先駆けてユビキタスネットワークを実現し、モデルを世界に向けて発信すれば、国際競争力の確保や国際貢献にも資すると考えられる。

3 利用者の期待と不安

 ユビキタスネットワークには、多大な可能性があるものの、その実現する世界は、未知の世界である。ネットワークの広がりは、プライバシー等の新たな問題をもたらす可能性もある。ユビキタスネットワークが今後普及していくには、利用者のリアルなニーズを把握するとともに、プライバシー侵害等の不安を抱かせないことが必要であると考えられる。
 そこで、ユビキタスネットワークが実現するサービス・システムの利用意向について調査を行ったところ、「家族等に犯罪等の危険が迫ったときに自分や警備会社に通知してくれるサービス」が56.3%、「無線タグ等を身に付けた人等が接近したとき、自動車のセンサで感知して交通事故を避けることができるシステム」が40.5%と家族や自分の安全性を確保するシステム・サービスに対する利用意向が高かった(図表5))。
 ユビキタスネットワークに対して抱く不安については、個人情報が漏洩したり、悪用されたりするなどの「個人情報の流出」が81.5%と際だって高く、端末の操作中に接続が切れ、誤操作が起きるなど「ネットワークの信頼性」が52.2%とこれに次いでいる(図表6))。コストや操作性以上に、ユビキタスネットワークが社会に受容されるには、プライバシーや情報セキュリティに関する不安を払拭していくことが必要であることを示している。

 
図表5) ユビキタスネットワークに対する利用者の期待(3つまで回答)

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図表6) ユビキタスネットワークに対する利用者の不安(重視するもの上位2つを選択)

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(注1)デスクトップパソコン、携帯電話端末は生産台数(生産した工場の所在地ごとに台数を集計)、その他は出荷台数(製品を出荷した企業の本社の本拠地ごとに台数を集計)
(注2)ルータ、CPU:三菱総合研究所調べ サーバ、プラズマディスプレイ、デジタルスチルカメラ:矢野経済研究所資料により作成 デスクトップパソコン:富士経済資料により作成 携帯電話端末:日経マーケットアクセスレポートにより作成 カメラ付き携帯電話端末:Siliconvalley.com記事により作成 カラーTV、VTR、ゲーム機、デジタルビデオカメラ、カー・ナビゲーション・システム:中日社資料により作成
(注3)デジタルスチルカメラとカー・ナビゲーション・システム以外は、企業別シェアを基に、各企業の本社が所在する国・地域に、再集計して地域別シェアを計算

関連ページ:ユビキタスネットワークの実現に向けた技術の研究開発については、3-8-2(1)参照

 

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