平成16年版 情報通信白書

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第1章 特集 「世界に拡がるユビキタスネットワーク社会の構築」

(3)企業におけるネットワーク活用の方向性

高度情報通信ネットワークは活用範囲が広がるにつれてその真価を発揮

1 情報通信ネットワーク環境の発展と事業・業務の高度化の過程

 現在、我が国の企業における情報通信ネットワークの利活用の段階は、ブロードバンド・モバイルネットワークの普及・活用が浸透し、新たな情報通信機器・端末・ツールの活用が始まりつつある状態にある。
 平成5年に我が国で商用インターネットサービスが開始され、平成15年末にはインターネット利用者が7,330万人に達している。また、携帯電話の加入数も平成15年度末には8,152万、携帯インターネット契約数は6,973万となった(1-1-1(2)参照)。我が国の各種企業においても、インターネット、携帯電話をはじめとする情報通信ネットワークを活用し、様々な消費者向けサービス提供や、自社業務の効率化等が図られてきた。インターネット上における商品販売サイトの構築や、取引先との間の受発注、資材の調達、在庫管理、製品の配送までを情報通信システムを使って総合的に管理するサプライチェーンマネジメント等が、その活用例として挙げられる。
 さらに、ここ数年、インターネット回線の広帯域化・低廉化、パソコン・携帯端末等の情報通信機器の高機能化・低価格化等により、情報通信ネットワークの質的・量的な高度化が進んでいる。例えば、当初は、ナローバンドのダイヤルアップ回線にパソコンをつなぐ、という利用形態が主流だったインターネットも、回線の広帯域化、携帯インターネットの普及により、大容量コンテンツの利用や外出先でのインターネット利用が、一般消費者にとって当たり前になりつつある。これを受けて、ブロードバンド・モバイルネットワークを活用した消費者向けのサービス事業を展開する企業も増加し、市場も拡大している(1-3-3(1)参照)。
 また、現在、多くの企業ではブロードバンド回線を導入すると同時に、各種携帯端末を業務に積極活用して、業務の効率化や企業間ビジネスの高度化・高付加価値化に取り組んでおり、企業内・間業務においてもブロードバンド・モバイルネットワークの進展によるメリットが生まれている(1-3-1(3)図表[3]参照)。
 このようなブロードバンド・モバイルネットワーク活用の進展とともに、新しい情報通信ネットワーク活用の萌芽が我が国で生まれつつある。
 例えば、電子タグ、非接触型ICカードは、業務の効率化や高付加価値サービスの提供を可能とするツールとして、既に一部の企業で実用化されている1-2-2(2)、(1-3-2(1)参照)。現在、様々な分野における実証実験が各種企業によって行われており、今後一層浸透が進むと考えられる。
 また、カー・ナビゲーション・システム、家庭用ゲーム機器、テレビ等、従来は単独で用いられていた機器が、新たにネットワークに接続することで、新しいサービスが利用可能となっている。加えて、放送のデジタル化、テレビへのネットワーク機能の付与、携帯電話端末によるデジタル放送受信等、今後は通信と放送とを連携した様々なサービスの展開が本格化すると予想されており、様々な分野の企業が、ネットワーク接続・デジタル放送との連携等を活用したサービスを検討している。

2 高度情報通信ネットワーク環境を活用したビジネス・サービスの今後の展開

 こうした高度化の動きは、個々の情報通信ネットワーク・機器・端末・サービスの高度化にとどまらない。今後、企業は、従来の回線や端末、通信容量の壁を乗り越えて、多様な端末環境に向けてサービスを提供することが可能となる。また、新しくネットワークに接続される様々な機器、電子タグ、非接触型ICカードを活用して、その人・モノに応じたサービスを展開できるようになるほか、モノとモノとが直接通信しあうことにより、一層の業務効率化や消費者向けサービスの付加価値の向上を図ることが可能となり、あらゆる分野においてビジネス・サービスの形態が変化することが予想される(図表[1]、[2])。

 
図表[1] 企業間取引における情報通信ネットワーク活用の進展

図表[1] 企業間取引における情報通信ネットワーク活用の進展

 
図表[2] 家庭内における情報通信ネットワーク活用の進展

図表[2] 家庭内における情報通信ネットワーク活用の進展

3 事業・業務における更なるネットワークの活用に向けて

 先進的な取組を行っている企業によるユビキタスツールの活用が着実に進みつつある一方で、多くの企業においてはユビキタスツールの導入はまだ始まったばかりであり、他のブロードバンドやモバイルネットワークの活用状況とは開きがある。また、先進的な取組を行っている企業に対するヒアリングにおいても、ユビキタスツールの本格的な活用が始まるのはこれからであるという意見が聞かれた。
 企業全体に対するアンケートや、先進的な取組を行っている企業へのヒアリングに基づき、今後の企業内・企業間業務及び消費者向けサービスにおける高度情報通信ネットワーク活用の進展について考察すると、以下のような段階を経て活用が進んでいくものと考えられる(図表[3])。

 
図表[3] 企業内・間業務及び消費者向けサービスにおける高度情報通信ネットワーク環境活用の発展プロセス

図表[3] 企業内・間業務及び消費者向けサービスにおける高度情報通信ネットワーク環境活用の発展プロセス

第一段階:高度情報通信ネットワーク環境を構成するインフラの個別導入の進展
 現在、ブロードバンド・モバイルネットワークは導入が着実に進んでおり、この動きは今後も順調に進んでいくと考えられる。他方、ユビキタスツール(電子タグ、非接触型ICカード等)の進展も、今後の機器の低廉化等に伴い徐々に進展するが、こうしたユビキタスツールの利用は、初期段階では特定業務中心(個別最適)や単一の企業内の環境下での導入にとどまり、その導入の狙いも業務スピード向上といった業務効率化に向けた動きが中心となると考えられる。また、消費者向けのユビキタスツールを活用したサービスに関しても、非接触型ICカードを用いた駅の自動改札サービス等、単独の分野・企業における活用が多い状況にある。

第二段階:高度情報通信ネットワーク環境による業務間最適化・インフラ間連携(業務横断的利用の促進及び個々のインフラ間をまたがるサービスの提供開始)
 今後、ユビキタスツールを活用した情報通信システムが、成功を収め効果を発揮していくにつれ、いくつかの単独業務での導入にとどまっていた各種高度情報通信ネットワーク環境上のアプリケーションが、サプライチェーンマネジメントの構築や製造部門と調達部門の情報連携等、業務横断的に利用されるようになる。そのことにより、更なる業務効率化、業務スピード向上につながっていく。また、消費者向けサービスも、非接触型ICカード埋込型携帯電話を活用したキャッシュレス決済等、個々のインフラ間をまたがるサービスの提供が行われていく。

第三段階:ユビキタスネットワークの社会基盤化(企業・業界を越えた利用促進、個々のインフラが有機的に連動したサービスの更なる高度化の進展)
 自社の異なる部門や取引先との連携にとどまっていた個々のインフラを利用した情報システム・サービスが、企業・業界の垣根を越えた標準化等の整備が進展することにより、例えば、製造(生産)−物流−卸−小売といった、複数の企業による一貫した情報流通が可能となる。
 こうした標準化等による一貫した情報流通が実現された結果、従来は単独のサービスが提供されるにとどまっていた消費者向けのユビキタスサービスが、生活全般をサポートすることが可能となる。例えば、生鮮食料品全般に電子タグが取り付けられ、生産者情報から価格までが閲覧できるようになることで、売り場での農薬使用方法等の確認からキャッシュレス決済までが可能となり、さらに冷蔵庫での食料品の鮮度管理や賞味期限切れの際のゴミ分別指示等、消費者向けのサービスも「点から線」につながることで、社会基盤として消費者の日常生活に浸透すると考えられる。

 ユビキタスネットワークは、従来のネットワークがさらに高度化した上で、固定・移動通信、通信・放送といった個別のネットワークや機器・端末が連携・融合することにより、より自由度の高いサービス・コンテンツ流通を技術的に可能としている。しかし、その真価を企業が享受するためには、単に自社メリットのみならず、業務横断・業界横断的な視点はもちろん、消費者にもメリットがあるサービスが提供できなければ、業界全体のシステム導入や消費者の活用は進まず、ネットワーク活用のための投資に見合うメリットが望めなくなる。
 日本の企業は、各種業務への情報通信ネットワークの導入率が米国と比較すると相対的に低い傾向にあり、導入が遅れている業務分野も見られる(図表[4])。

 
図表[4] 業務別情報通信ネットワーク利用率の日米比較

図表[4] 業務別情報通信ネットワーク利用率の日米比較※
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 今後引き続き、ネットワークの活用を進展させ、企業がメリットを享受し、ひいては消費者を含めてメリットを享受できるようなサービスシステム・インフラを構築するためには、各企業が従来以上に幅広い業務範囲について、単なる効率化のみならず高付加価値化を見据えた情報通信システムの活用を検討するとともに、業界・社会全体で一貫して活用されるサービス構築を念頭におく必要がある。

 

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