平成19年版 情報通信白書

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第1章 ユビキタスエコノミーの進展とグローバル展開

(5)我が国のICTベンチャーの現状

ア ICTベンチャーの実態
 情報通信産業のベンチャー企業(以下「ICTベンチャー」という)は、技術革新の成果やユビキタスネットワークの特性等を活用した新たなビジネスモデル創出による市場の開拓等を通じて経済全般に活力をもたらすとともに、創意工夫に富む多様な情報通信関連の財・サービスの提供により、様々な企業の生産性向上や多くの消費者の利便性向上に資するという点で、産業競争力の向上や長期的な経済成長の実現のために極めて重要な役割を果たす。さらに、今後、グローバルなネットワーク環境の進展等を背景に、我が国のICTベンチャーが、積極的な海外進出を行い効率的な国際分業体制の一翼を担うとともに、ネットワーク外部性が強く働く情報通信関連の世界市場で海外企業に先行した事業展開を行うことにより、グローバルな成長企業に脱皮するような事例が多数生まれることが期待される。
 こうした認識の下、ICTベンチャーの現状、課題等について、今回新たに行った実態調査の結果等により分析する。
 なお、今回の実態調査では、今後の情報通信産業の重要な担い手として期待されるICTベンチャーを可能な限り網羅的に抽出するため、情報通信産業に分類される企業とインターネットがなければ成立しないビジネスを中核とする企業を「ICTベンチャー」と位置付け、平成6年以降に設立され、平成11年以降に東証1部、東証2部、マザーズ、ヘラクレス、JASDAQのいずれかに上場した企業から185社を選定して、調査の対象とした。
(ア)ICTベンチャーの現状
 ICTベンチャーの企業数の上場年別推移を見ると、平成14年に一度落ち込みが見られたものの平成11年以降順調に増加していることが分かる(図表1-2-163)。
 
図表1-2-163 年別の設立企業数と上場企業数の推移
図表1-2-163 年別の設立企業数と上場企業数の推移
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(イ)成長性と収益性
 ICTベンチャーの成長性と収益性を売上高と営業利益から分析するため、設立後の経過年数ごとの1社当たり平均売上高の推移を見ると60、設立後7年までは順調に売上高が増加し、その後、落ち込みが見られるものの、10年後に売上高のピークを迎えていることが分かる(図表1-2-164)。
 
図表1-2-164 設立後経過年数から見た1社当たり平均売上高の推移
図表1-2-164 設立後経過年数から見た1社当たり平均売上高の推移
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 また、1社当たり平均営業利益額の推移を見ると、平成14年以降右肩上がりに推移していることが分かる。平成14年における平均利益額の一時的減少はいわゆるITバブルの崩壊の影響によるものと考えられるが、その後は、年々順調に増加している(図表1-2-165)。
 
図表1-2-165 1社当たり平均営業利益額の推移
図表1-2-165 1社当たり平均営業利益額の推移
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イ ICTベンチャーに対するベンチャーキャピタルの投資状況
(ア)資金面での課題
 一般的に、ベンチャー企業の多くが、創業後しばらくして「死の谷」といわれる困難な状況を経験するといわれている。「死の谷」とは、必要な資金を確保し創業するものの、その後、利益を上げて資金を確保するまでには相当の期間が必要であるため、それまでの期間に資金不足が生じる現象である(図表1-2-166)。したがって、創業後間もないICTベンチャーにとっては、その後の成長のためには、最初の関門ともいえる「死の谷」の克服が、まず喫緊の課題となるといえる。
 
図表1-2-166 ベンチャー企業が陥るといわれる「死の谷」について
図表1-2-166 ベンチャー企業が陥るといわれる「死の谷」について

 企業の資金調達の方法としては、大きく分けて、間接金融と直接金融があるが、ICTベンチャーが「死の谷」に直面している時期は、民間金融機関からの資金調達は、担保不足のため、極めて困難な場合が多い。したがって、この時期に、ICTベンチャーの資金調達方法として、直接金融が果たす役割は非常に大きい。
(イ)ベンチャーキャピタル投資の日米比較
 1990年代後半以降の米国の高い経済成長には、シリコンバレーで台頭したICTベンチャーが重要な役割を果たしたとされる。そこで、直接金融による資金調達の有力な手段としてベンチャー企業の成長には欠かすことのできないベンチャーキャピタル投資の現状について、日米比較を行う。
 2000年(平成12年)以降のベンチャーキャピタルの年間投資額の推移を日米で比較すると、米国では、ITバブル期の2000年(平成12年)に12兆円を超えており、2001年(平成13年)には6割程度減少したが、その後も一貫して日本の10倍以上の規模を保っている(図表1-2-167)。また、2002年(平成14年)から2005年(平成17年)までの日本のベンチャーキャピタル年間投資額の対GDP比は、米国のほぼ1/5から1/6程度にとどまっている。この間の米国のGDPは日本の1.5倍から1.8倍で推移していることを考えると、日本のベンチャーキャピタル投資額の少なさが際立つ。
 
図表1-2-167 ベンチャーキャピタルの年間投資額の推移(2000〜2006年)及び年間投資額の対GDP比(2000〜2005年)
図表1-2-167 ベンチャーキャピタルの年間投資額の推移(2000〜2006年)及び年間投資額の対GDP比(2000〜2005年)
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 投資対象ベンチャー企業の成長段階を比較すると、金額ベース、件数ベースともに、日本は創業後間もないベンチャー企業、すなわち、「シード/スタートアップ」、「アーリー」の段階にあるベンチャー企業の割合が高く、日本のベンチャーキャピタルは、米国に比べハイリスクな投資を行っていると見ることができる(図表1-2-168)。しかし、実際には、先に見たように日米のベンチャーキャピタル投資額自体には大きな差があるため、創業後間もないベンチャー企業に対する我が国のベンチャーキャピタル投資額は米国に比べてはるかに少ない。
 
図表1-2-168 成長段階別ベンチャーキャピタル投資割合(2006年)
図表1-2-168 成長段階別ベンチャーキャピタル投資割合(2006年)
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 また、ベンチャーキャピタルの業種別投資先の割合を日米で比較すると、日本は情報通信関連の投資割合が、金額、件数ともに米国を下回っている(図表1-2-169)。一方で、日本においては情報通信関連以外の製品・サービス分野のベンチャー企業への投資割合が、金額、件数ともに大きい傾向がある。
 
図表1-2-169 業種別ベンチャーキャピタル投資割合(2006年)
図表1-2-169 業種別ベンチャーキャピタル投資割合(2006年)
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 また、ベンチャーキャピタル投資に占めるICTベンチャーへの投資割合を国際比較すると、日本は、イギリス、EU諸国平均よりは高いものの、米国と韓国を下回っており、OECD諸国の平均と比較してもはるかに低くなっている(図表1-2-170)。
 
図表1-2-170 ベンチャーキャピタル投資に占めるICTベンチャーへの投資割合
図表1-2-170 ベンチャーキャピタル投資に占めるICTベンチャーへの投資割合
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ウ ICTベンチャーの成長の特徴
 分析対象としたICTベンチャーの株主のうち、持ち株比率が最も大きい筆頭株主の業種を平成13年から平成18年までの期間について整理すると、図表1-2-171のようになる。
 
図表1-2-171 業種別の日本のICTベンチャー持ち株比率トップの推移61
図表1-2-171 業種別の日本のICTベンチャー持ち株比率トップの推移
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 この結果から、いずれの年においてもICTベンチャーの筆頭株主は個人の占める割合が最も高いことが分かる。これは、ベンチャー企業は起業家によって興され、起業家本人や経営陣が自社の株式を保有することが一般的であるためと考えられる。
 また、大手企業を中心とする既存のICT企業がICTベンチャーの筆頭株主になっているケースは個人に次いで多い。例年、筆頭株主は、個人を除くと、他のICT企業となっているが、ICTベンチャーと主に大手企業を中心とする既存のICT企業との強固な資本関係は、ICTベンチャー企業が長期的資本政策を有利に展開する効果がある一方で、これらの企業への依存体質を招いている可能性もあると考えられる。
 このような依存体質に関し、ICTベンチャーの主要仕入先企業と販売先企業の業種別傾向に関して分析を行った。図表1-2-172は、調査対象としたICTベンチャーの主要仕入先企業の業種内訳を平成13年から平成18年にかけて整理したものである。仕入先企業の割合の推移を見ると、株主同様、大手企業を中心とする既存のICT企業の割合が常に最も高く、平成14年以降、6割以上を占めている。
 
図表1-2-172 ICTベンチャー企業の業種別主要仕入先
図表1-2-172 ICTベンチャー企業の業種別主要仕入先
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 同様に、図表1-2-173は分析対象としたICTベンチャーの平成13年から平成18年までの主要販売先を業種別に整理したものである。販売先企業の割合の推移を見ると、仕入先企業の場合と同様、既存のICT企業の割合が常に最も高く、平成14年以降、ほぼ6割以上を占めている。
 このことから、日本のICTベンチャーの成長性や収益性は、既存のICT企業に大きく依存している可能性が高いことが示唆される。
 
図表1-2-173 ICTベンチャー企業の業種別主要販売先
図表1-2-173 ICTベンチャー企業の業種別主要販売先
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エ ICTベンチャーの海外展開
 日本のICTベンチャーの海外展開を把握するため、海外に関連会社を持つICTベンチャーの企業数に関する分析を行った。海外に関連会社を持つ企業数の推移を見ると62、その数は年々増加し、平成18年には、調査対象とした185社のうち約1/3が海外に関連会社を持つに至っており、日本のICTベンチャーの海外展開が拡大しつつあることが分かる(図表1-2-174)。
 
図表1-2-174 海外に関連会社を持つICTベンチャーの企業数及び海外における日本のICTベンチャーの関連会社数の推移
図表1-2-174 海外に関連会社を持つICTベンチャーの企業数及び海外における日本のICTベンチャーの関連会社数の推移
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 また、海外における日本のICTベンチャーの関連会社数も、ヨーロッパとアジアを中心に増加している。特にアジアにおける関連会社数は、平成18年には平成13年の6倍となっており、とりわけ中国での拡大が顕著である。
 これらの関連会社が担う役割は、自社製品の製造・販売、研究開発、情報収集等、多岐にわたると考えられる。他方、日本のICTベンチャーは国内の大手ICT企業等に依存している傾向があり、海外の関連会社を拠点として製品やサービスをグローバルに展開しているICTベンチャーはまだ必ずしも多くないと見られる。


60 本調査が分析対象とした185社のICTベンチャー企業のうち、分析可能な財務データを入手できた企業数は以下のとおりである
経過年数
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
企業数
12
76
175
123
148
161
153
119
99
82
53
23
6
61 「海外」とは、取得したデータにおいて株主の住所が国外であったケースである
62 各ICTベンチャー企業の各年有価証券報告書の「関係会社の概要」欄に記載されている企業のうち、所在地が日本国外にあるものについてのみ、調査を行った。ただし、日本の企業自体が、海外企業の子会社である場合、親会社である海外の企業は、海外の関連会社としてはカウントしていない

 第2節 情報通信と競争力

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