平成19年版 情報通信白書

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第1章 ユビキタスエコノミーの進展とグローバル展開

(1)企業のICT利用と業務・組織改革による効果

ア 業務領域別の分析
(ア)基幹業務
A ICTシステム導入と業務・組織改革
 基幹業務(調達と販売に関する取引先との連携やそれに伴う様々な社内業務処理等)におけるICTシステムの導入状況について見ると、「全社的な共通基幹系データベースの構築」、「販売先からの受注」、「調達先への発注」についてはいずれも約7割から8割の高い導入割合となっており、基幹業務の中でも基礎的部分については特にICTの利用が進んでいることが分かる。一方、自社と取引先の在庫状況の情報の共有というような高度なアプリケーションについてICTシステムの導入が進んでいると回答した企業は、関連4項目とも40%未満となっている(図表1-2-175)。
 
図表1-2-175 基幹業務におけるICTシステム導入状況
図表1-2-175 基幹業務におけるICTシステム導入状況
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 ICTシステム導入に伴う業務・組織改革の実施状況について見ると、上記で述べた基礎的部分でのICTシステムの導入割合に比べて、全般的に、業務・組織改革の実施割合は低く、業務・組織改革に先行して基礎的部分へのICTシステム導入を行っている企業が多いことが分かる。また、「社内基幹業務のムリ・ムダを省き、合理化した」企業が70%超であるものの、「自社独自の業務プロセスをパッケージソフトに合わせて変更した」企業は30%未満であり、企業の業務改革は、企業独自の方法で実施される傾向にあることが分かる(図表1-2-176)。
 
図表1-2-176 基幹業務における業務・組織改革実施状況
図表1-2-176 基幹業務における業務・組織改革実施状況
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B ICTシステム導入と業務・組織改革による効果
 ICTシステム導入と業務・組織改革による効果について、変化があったと認識されているのは「業務の正確性が向上した」、「オペレーションの速度が上がった」という業務処理の効率化に関するもので、「大きな変化があった」又は「やや変化があった」と回答した企業はいずれも70%程度となっている。一方、「部品在庫が減少した」、「完成品在庫が減少した」という在庫の効率化に関するものや、「調達部品の単価が抑制・削減された」、「基幹業務のコスト(人件費以外)が削減された」、「基幹業務の人件費が削減された」というコスト削減に関するものについては、変化があったと回答した企業は40%から50%程度で、上記の2項目よりかなり低い。したがって、ICTシステム導入と業務・組織改革による効果は、在庫減少やコスト削減という具体的な形ではまだ十分には顕在化していないといえる(図表1-2-177)。
 
図表1-2-177 基幹業務におけるICTシステム導入と業務・組織改革実施による効果
図表1-2-177 基幹業務におけるICTシステム導入と業務・組織改革実施による効果
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(イ)マーケティング・商品開発業務
A ICTシステム導入と業務・組織改革
 マーケティング・商品開発業務(新商品開発のための顧客ニーズの把握や関連するコールセンター業務、社内の関連部門の連携等)におけるICTシステム導入状況について見ると、「全社的な顧客データベースの構築」を実施している企業は60%超で、最も割合が高い。一方、「コールセンターに寄せられた声の集約」、「ターゲットとなる顧客・市場の多様なニーズの把握」、「既存顧客の意見の吸い上げ」という顧客ニーズに関するものと「技術情報等「シーズ」に関する情報の収集と共有」についてはそれぞれ40%未満となっている(図表1-2-178)。
 
図表1-2-178 マーケティング・商品開発業務におけるICTシステム導入状況
図表1-2-178 マーケティング・商品開発業務におけるICTシステム導入状況
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 ICTシステムの導入に伴う業務・組織改革の実施状況について見ると、業務・組織改革の実施割合は、上記で見た「全社的な顧客データベースの構築」に関するICTシステムの導入割合に比べて全般的に低く、業務・組織改革に先行して顧客データベースの構築が行われている状況がうかがえる。個別項目では、「新商品開発が営業など他の部署と協力して行われるように決めた」が50%超で最も高い(図表1-2-179)。
 
図表1-2-179 マーケティング・商品開発業務における業務・組織改革実施状況
図表1-2-179 マーケティング・商品開発業務における業務・組織改革実施状況
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B ICTシステム導入と業務・組織改革による効果
 ICTシステム導入と業務・組織改革による効果について、いずれの項目に関しても変化があったと回答した企業は40%未満であり、ICTシステムの導入割合(図表1-2-178)や業務・組織改革の実施割合(図表1-2-179)に比べると、全般的に低くなっている。したがって、ICTシステム導入と業務・組織改革実施による効果は、実際の取組状況ほどは十分に実感されていないといえる(図表1-2-180)。
 
図表1-2-180 マーケティング・商品開発業務におけるICTシステム導入と業務・組織改革実施による効果
図表1-2-180 マーケティング・商品開発業務におけるICTシステム導入と業務・組織改革実施による効果
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(ウ)間接業務
A ICTシステム導入と業務・組織改革
 間接業務(会計・予算管理や社内情報共有等)におけるICTシステム導入状況について見ると、「管理会計システム」や「グループウェア」については80%以上の企業で導入されているのに対し、「eラーニングシステム」や「ナレッジマネジメント支援システム」については、30%未満となっている(図表1-2-181)。
 
図表1-2-181 間接業務におけるICTシステム導入状況
図表1-2-181 間接業務におけるICTシステム導入状況
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 ICTシステムの導入に伴う業務・組織改革の実施状況について見ると、業務・組織改革の実施割合は、上記で見た「管理会計システム」、「グループウェア」、「予算管理システム」といったICTシステムの導入割合に比べて全般的に低く、ICTシステムの導入が業務・組織改革に先行して行われている状況がうかがえる。なお、「ナレッジマネジメント支援システム」等の導入に比べると業務・組織改革の方が進展しており、高度なシステム導入は業務・組織改革よりも遅れる傾向があると考えられる(図表1-2-182)。
 
図表1-2-182 間接業務における業務・組織改革実施状況
図表1-2-182 間接業務における業務・組織改革実施状況
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B ICTシステム導入と業務・組織改革による効果
 ICTシステム導入と業務・組織改革による効果について、変化があったと回答した企業の割合は、「社内で周知すべき情報の浸透度・共有度が向上した」以外のいずれの項目についても30%から50%までの間となっており、業務・組織改革の実施割合と比較すると、「ある部署の情報を他部署でも見られるようにした」以外の項目と全般的にほぼ同水準となっている。また、「社内で周知すべき情報の浸透度・共有度が向上した」については、70%弱の企業で変化があったと回答しており、業務・組織改革の実施に関するいずれの項目よりも高い。したがって、間接業務においては、ICT導入に伴い業務・組織改革を行った企業は、その効果が相当程度得られていると考えられる(図表1-2-183)。
 
図表1-2-183 間接業務におけるICTシステム導入と業務・組織改革実施の効果
図表1-2-183 間接業務におけるICTシステム導入と業務・組織改革実施の効果
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(エ)業務領域別のICTシステム導入と業務・組織改革による効果の要因分析
 企業のICTシステムの導入と業務・組織改革に関する取組の積極性が、それによって得られる業務効率化や付加価値向上等の効果とどのように関係するのかについて、取組の積極性を以下の四つのグループに分類し、それぞれで得られる効果を比較することにより分析する。

■Aグループ:ICTシステム導入度も業務・組織改革の実施度も低い
■Bグループ:ICTシステム導入度は高いが、業務・組織改革の実施度は低い
■Cグループ:ICTシステム導入度は低いが、業務・組織改革の実施度は高い
■Dグループ:ICTシステム導入度も業務・組織改革の実施度も高い

 図表1-2-184から1-2-186に示したとおり、基幹業務、マーケティング・商品開発業務、間接業務のいずれも、Dグループ(改革高×システム高)において取組の効果が最も高くなっている。したがって、ICTシステムの導入は、業務の種類にかかわらず、業務・組織改革の実施が伴うことにより企業の業務遂行に最も高い効果を与えることが分かる。
 
図表1-2-184 基幹業務におけるICTシステム導入及び業務・組織改革とそれによる取組効果の関係
図表1-2-184 基幹業務におけるICTシステム導入及び業務・組織改革とそれによる取組効果の関係
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図表1-2-185 マーケティング・商品開発業務におけるICTシステム導入及び業務・組織改革とそれによる取組効果の関係
図表1-2-185 マーケティング・商品開発業務におけるICTシステム導入及び業務・組織改革とそれによる取組効果の関係
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図表1-2-186 間接業務におけるICTシステム導入及び業務・組織改革実施とその取組効果との関係
図表1-2-186 間接業務におけるICTシステム導入及び業務・組織改革実施とその取組効果との関係
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 また、基幹業務及び間接業務の業務領域では、Cグループ(改革高×システム低)の方が、Bグループ(改革低×システム高)より効果が高く、また、Bグループの取組効果は、Aグループ(改革低×システム低)とほぼ同程度か、若干上回る程度でしかない。
 一方、マーケティング・商品開発業務では、Bグループ(改革低×システム高)とCグループ(改革高×システム低)の取組効果はほぼ同程度となっている。
 このことから、基幹業務と間接業務の領域では、ICTシステムの導入の影響は企業の業務全体に及ぶことから、業務・組織改革を伴わないICTシステムの導入は、例えば現場等の混乱を招くなどマイナス要因も働き、効果が極めて限定的になるのに対し、マーケティング・商品開発業務では、他企業と直接競合する領域のため、導入が他企業に先行した場合等、ICTシステム導入自体による効果も比較的高くなっていると解釈することができる。

イ 企業規模別の分析
(ア)ICTシステム導入と業務・組織改革
 アンケート調査対象となった企業を従業員数から三つの企業規模に区分して、それぞれにおけるICTシステムの導入状況を比較すると、基幹業務、マーケティング・商品開発業務、間接業務のいずれの業務領域においても、規模の大きい企業ほどICTシステムの導入が進んでいることが分かる(図表1-2-187)。
 
図表1-2-187 業務領域別ICTシステムの企業規模別導入状況
図表1-2-187 業務領域別ICTシステムの企業規模別導入状況
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 また、業務・組織改革の実施状況についても同様で、いずれの業務領域においても、規模の大きい企業ほど業務・組織改革が進んでいることが分かる(図表1-2-188)。
 
図表1-2-188 業務領域別業務・組織改革の企業規模別実施状況
図表1-2-188 業務領域別業務・組織改革の企業規模別実施状況
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 ここで、ICTシステム導入度と業務・組織改革の実施度で区分した前述のAからDまでの4グループに属する企業の割合を企業規模別に見ると、企業規模が大きくなるほどDグループ(改革高×システム高)に属する企業の割合が大きく、Aグループ(改革低×システム低)に属する企業の割合が小さくなっている(図表1-2-189)。
 
図表1-2-189 業務領域別ICTシステム導入と業務・組織改革への企業規模別取組状況
図表1-2-189 業務領域別ICTシステム導入と業務・組織改革への企業規模別取組状況
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(イ)ICTシステム導入と業務・組織改革による効果
 ICTシステム導入と業務・組織改革による効果について、企業規模別に比較すると、「大きな変化があった」又は「やや変化があった」と回答した企業の割合が最も高いのは、三つの区分のうち、最も規模が大きい企業規模1,000人以上の企業である。300人未満の企業と300人以上1,000人未満の企業を比較すると、変化があったと回答した企業の割合は、基幹業務と間接業務では、300人未満の企業の方が少し高くなっている。しかしながら、「全く変化がなかった」と回答した企業は、いずれの業務領域においても300人未満の企業が最も多くなっており、規模が小さな企業では、取組の効果が表れる企業と表れない企業との差がつきやすいことが分かる(図表1-2-190)。
 
図表1-2-190 業務領域別ICTシステム導入と業務・組織改革への取組の企業規模別効果
図表1-2-190 業務領域別ICTシステム導入と業務・組織改革への取組の企業規模別効果
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ウ 企業規模別ICTシステムマネジメントの状況
(ア)売上高に対するICT投資比率
 売上高に対するICT投資比率について企業規模別に比較すると、比率の最も低い0.5%未満の企業と最も高い4.0%以上の企業のいずれについても、300人未満の規模の小さい企業においてその割合が最も高い。
 300人未満の企業における対売上高ICT投資比率が0.5%未満の企業は50%を超えているが、これは、規模の小さな企業においてはICT投資予算が十分に確保できない場合が多いことを示していると考えられる。一方、対売上高ICT投資比率が4.0%以上の企業は9.3%と他の規模の企業よりも大幅に高い値を示しているが、これは、必要なICT投資については、ICT投資予算の制約が大きい中でも確保しようと考える企業が多いことを示していると考えられる(図表1-2-191)。
 
図表1-2-191 企業規模別対売上高ICT投資比率
図表1-2-191 企業規模別対売上高ICT投資比率
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(イ)ICT投資ポートフォリオの構成
 ICT投資は、総額で見るだけではなく、複数のカテゴリーからなる「ポートフォリオ」として管理することが重要である。ICT投資を機能面から図表1-2-192に定義する四つのカテゴリーに分類し、ICT投資総額に占める各カテゴリーに対するICT投資額の割合を企業規模別に比較すると、企業規模の違いによって各カテゴリーに対する投資額の割合に多少の差はあるものの、全体としてICT投資ポートフォリオの構成は企業規模の大きさにかかわらず似通ったものになっており、「業務処理系」に区分されるカテゴリーへの投資額の割合が大きく、「市場・顧客系」に区分されるカテゴリーへの投資額の割合が小さいことが分かる(資料1-2-193)。
 
図表1-2-192 ICT投資カテゴリーの定義
図表1-2-192 ICT投資カテゴリーの定義
 
図表1-2-193 企業規模別ICT投資ポートフォリオ
図表1-2-193 企業規模別ICT投資ポートフォリオ
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(ウ)マネジメント体制とプロセス整備
 ICTシステムのマネジメント体制とプロセスの整備について企業規模別に比較すると、全体として、企業規模の大きい企業ほどICTシステムに関するマネジメント体制とプロセスの整備が進んでいることが分かる。
 特に、各規模の企業における項目間の順位を見ると、1,000人以上の企業では「情報通信関連投資の方針に関する文書は、経営戦略・中期計画に基づいて作成される」や「CIOがいる」といった項目が特に大きくなる傾向にあり、大きな規模の企業でこれらの項目が重視されていることがうかがえる(図表1-2-194)。
 
図表1-2-194 企業規模別ICTマネジメント体制・プロセスの整備状況
図表1-2-194 企業規模別ICTマネジメント体制・プロセスの整備状況
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 第2節 情報通信と競争力

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