平成19年版 情報通信白書

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第3章 情報通信政策の動向

2 放送政策の展開

(1)放送政策概況

ア 放送のデジタル化の進展を踏まえた放送政策の検討
 地上放送、衛星放送、ケーブルテレビのいずれの分野においても放送のデジタル化が進展しつつあり、今後、デジタル化された放送インフラの高度利活用や、高度化する情報通信ネットワークとの連携による新しいサービスの展開、ユビキタスな放送利用環境の充実及びデジタル環境下における放送番組等のコンテンツ利活用等が円滑に進展することにより、放送が国民生活の利便性向上、活力ある経済社会の構築、新たな文化の創造等に大きく寄与していくことが期待されている。
 総務省では、このような環境変化の中において、デジタル放送への円滑な移行と多様な国民視聴者のニーズ等に的確に応え得る放送の発展に向けた放送政策について検討するため、平成16年7月から「デジタル化の進展と放送政策に関する調査研究会」を開催し、同調査研究会は、平成17年8月の中間取りまとめに続いて、平成18年10月に最終報告を取りまとめた。
 同最終報告では、
[1] マスメディア集中排除原則については、その見直しの基本的考え方として、同原則の意義や政策目的に変更がないことを前提としつつ、メディアの増加と多様化や経営環境の変化等を踏まえ、見直しによるメリットとデメリットを十分に勘案した上、視聴者の利益が増大する方向で行うことが適当であり、緩和を行う場合には多元性の確保等への影響を見定めながら、段階的に進めることが適当であること
[2] 放送事業者を子会社とする持株会社の制度化については、放送を取り巻く環境が大きく変化する中にあって有意義であるが、国民生活において放送が持っている機能や影響力に照らしてデメリットが極力少なくなるように制度を整備することが不可欠であり、持株会社形態が採用される場合も、マスメディア集中排除原則等の規律が引き続き的確に確保されるようにすることが必要であること
[3] CS放送についての規律の在り方については、周波数の希少性が緩和傾向にあることを踏まえ、CS放送についてのマスメディア集中排除原則を一般的に緩和することが考えられること(地上放送やBS放送については、引き続き、その他の事業者よりも厳しい制限を課すことが必要)、また、CSプラットフォーム事業を制度上位置付け、所要の規律を課すことが考えられること
[4] サーバー型サービスについては、リアルタイム型、蓄積型ともに放送法上の「放送」に該当し、放送としての規律を受けるものであるが、今後同サービスが普及し、その具体的な視聴形態等が明らかになった段階で、メディア特性を十分に踏まえ、より適切な放送規律を設けることについて検討することが必要であること
[5] 地上デジタルテレビジョン放送(以下「地上デジタル放送」という。)の携帯端末向けサービス(ワンセグ)については、本放送とは別の内容を放送する「独立サービス」が実現できるよう、法改正を含む制度整備を行うことが必要であること
等について、提言を行っている。
 これらの提言を受けて、総務省では、「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」(平成18年6月)を踏まえ、認定放送持株会社制度の導入、有料放送管理業務の制度化、ワンセグ放送の独立利用の実現等を内容とする放送法(昭和25年法律第132号)の改正案を含む「放送法等の一部を改正する法律案」を第166回国会に提出したところである。

イ 国際放送の新展開
(ア)国際放送2の現状
 国際放送は、国際社会の我が国に対する理解を促進し、在外邦人に対して適時・適切に情報を提供する上で、重要な役割を果たしている。
 現在、我が国では、NHKが主体となり、音声国際放送として「NHKワールド・ラジオ日本」を、映像国際放送として「NHKワールドTV」及び「NHKワールド・プレミアム」を、それぞれ実施している。
[1] NHKワールド・ラジオ日本
 国内1箇所の送信所及び海外9箇所の中継施設から送信される短波を利用した、音声国際放送である。1日延べ65時間、日本語・英語を含む22言語により放送を行っている(平成19年10月からは、1日延べ49時間20分、日本語・英語を含む18言語となる予定)。
 また、平成18年10月からは、人工衛星により、欧州、中東・北アフリカ地域向けに、1日30分、アラビア語による放送を開始している3
 なお、同放送で提供されるニュース等については、インターネットによる配信も行われている(図表3-2-4)。(http://www.nhk.or.jp/rj/index_j.html
 
図表3-2-4 「NHKワールド・ラジオ日本」放送エリア(平成18年度末現在)
図表3-2-4 「NHKワールド・ラジオ日本」放送エリア(平成18年度末現在)

[2] NHKワールドTV
 人工衛星を利用した、無料(ノンスクランブル)の映像国際放送4である。平成7年4月に放送を開始した後、順次、放送時間・対象地域を拡大し、現在は、全世界の在留邦人居住地域のほぼ100%をカバーし、ニュース・情報番組を提供している。
 また、NHKワールドTVは、日系法人(北米ではJNG(Japan Network Group, INC.)、欧州ではJSTV(Japan Satellite TV Limited))が行う現地の衛星放送「テレビ・ジャパン」の一部(北米では1日約6時間、欧州では1日約6.5時間)としても放送されている。
 
図表3-2-5 「NHKワールドTV」放送エリア(平成18年度末現在)
図表3-2-5 「NHKワールドTV」放送エリア(平成18年度末現在)

[3] NHKワールド・プレミアム
 現地のケーブルテレビや衛星放送を経由した、有料(スクランブル)の映像国際放送5である。現在は、約40の国・地域の現地事業者の放送(北米及び欧州では、上記「テレビ・ジャパン」の一部)として、ニュース・情報番組に加え、娯楽番組、子供向け番組、スポーツ、文化・芸能等のNHKの番組が提供されている。
(イ)映像国際放送の強化
 近年のグローバル化の進展等に伴い、対外情報発信力の強化、すなわち、「ソフトパワー」の強化が重要な課題となっており、「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」(平成18年6月)においても、外国人向けの映像による国際放送の早期開始が提言されたほか、現在の政府の最重点施策6、分野横断的な総合施策7においても同様な提言がなされている。
 総務省では、上記「政府与党合意」を受け、平成18年8月、情報通信審議会に対し、「外国人向けの映像による国際放送」の在り方とその推進方策を諮問した。この結果、同審議会に設置された「映像国際放送の在り方に関する検討委員会」が具体的な検討を進め、同年12月、検討状況の中間とりまとめを提示するに至った。
 以上の検討状況に対応し、総務省は、「放送法等の一部を改正する法律案」に関連制度整備を盛り込み、第166回国会に同法案を提出したところである。
 また、総務省では、「通信・放送分野の改革に関する工程プログラム」(平成18年9月)に従い、平成19年度から、映像国際放送についても放送の実施を命じ、実施費用として3億円を予算計上するなど、既存映像国際放送の強化についても併せて取組を進めている。
(ウ)拉致問題に関する音声国際放送
 放送法は、総務大臣が、放送区域、放送事項その他必要な事項を指定して国際放送の実施をNHKに対し命じることができる旨定めている。
 平成18年度の実施命令(平成18年4月)は、音声国際放送を対象とし、放送事項として、
[1] 時事
[2] 国の重要な政策
[3] 国際問題に関する政府の見解に関する報道及び解説
を指定していた。
 その後、北朝鮮による日本人拉致問題が国を挙げて取り組むべき重要課題とされ、拉致被害者にとって極めて重要な我が国からの情報源として、また拉致問題に対する国際的理解の更なる深化に資するものとして、音声国際放送を積極的に活用することとし、同年11月、北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意する旨を放送事項に追加することとした。
 また、平成19年度(平成19年4月)の音声国際放送の実施命令においても、引き続き同内容の留意事項を盛り込んでいる。

ウ 放送法等の改正
 「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」(平成18年6月)等を踏まえ、通信・放送分野の改革を推進するため、NHKに係る事項を中心として放送制度を改正するとともに、電波利用をより迅速かつ柔軟に行うための手続を創設するなどの所要の改正を行う「放送法等の一部を改正する法律案」を第166回国会へ提出したところである。
 同法案における放送制度の改正に係る主な内容は、次のとおりである。
(※)※印は、「政府与党合意」関連項目
(ア)NHK関係
[1] ガバナンス強化(※)
 NHKのガバナンスを強化するため、経営委員会について、監督権限の明確化、一部委員の常勤化、議決事項の見直し等を行うとともに、経営委員から構成される監査委員会の設置(現行の監事制度は廃止)、外部監査の導入等を措置する。
[2] 番組アーカイブのブロードバンドによる提供(※)
 NHKが放送した放送番組(番組アーカイブ)をブロードバンド等を通じて有料で提供することをNHKの業務に追加するとともに、利用者保護のため、その業務の実施基準について認可を要すること等を措置する。
[3] 新たな国際放送の制度化(※)
 我が国の対外情報発信力を強化するため、NHKの国際放送の業務を「外国人向け」と「在外邦人向け」に分離し、それぞれに適合した番組準則を適用する。また、外国人向けの映像国際放送について番組制作等を新法人に委託する制度を設ける。
[4] 命令放送制度の見直し
 国際放送の命令放送制度について、「命ずる」との文言を「要請する」に改め、NHKはこれに応じるよう努めるものとすること等を措置する。
(イ)民放関係等
[1] 認定放送持株会社制度の導入(※)
 経営の効率化、資金調達の容易化等のメリットを有する「持株会社によるグループ経営」を経営の選択肢とするため、複数の地上放送事業者の子会社化を可能とするマスメディア集中排除原則の適用緩和や外資規制の直接適用等を内容とする「認定放送持株会社制度」を導入する。
 (注)マスメディア集中排除原則については、電波法及びその省令で措置
[2] 有料放送管理業務の制度化
 相当数の有料放送契約を代理等する有料放送管理業務(いわゆるプラットフォーム業務)の影響力が増大してきていることを踏まえ、受信者保護を図るため、その業務を行う者は、業務開始の事前届出と業務運営の適正確保のための措置を講ずること等を規定する。
[3] ワンセグ放送の独立利用の実現
 地上デジタル放送の携帯端末向け放送(「ワンセグ放送」)について、一般のテレビで受信する番組とは異なる番組の放送(独立利用)を可能とする。
[4] 委託放送事業の譲渡に伴う地位の承継規定の整備
 委託放送事業を譲り受けた者は、総務大臣の認可により、委託放送事業者の地位を承継できることとする。
[5] 有料放送の料金に関する規制緩和
 地上放送による有料放送の料金設定等に関する総務大臣の「認可制」を「届出制」に改める。
[6] 再発防止計画の提出の求めに係る制度の導入
 虚偽の説明により事実でない事項を事実であると誤解させるような放送により、国民生活に悪影響を及ぼすおそれ等がある場合、総務大臣は、放送事業者に対し再発防止計画の提出を求めることができる制度を導入する。
(ウ)施行期日
 公布の日から1年以内の政令で定める日とする。
(※)※印は、「政府与党合意」関連項目

エ 次世代放送技術に関する政策の検討
 放送は、国民に最も広く普及しているメディアの一つであり、昨今の急速な技術の進展の中で、通信との更なる連携や、超臨場感放送等の新しい放送の実現は、国民生活をより豊かにするものとして期待される。
 こうした新しい放送システムを実現するための技術開発については、デバイス、ディスプレイ等のハードウェアから、ヒューマンインターフェース部分における人間工学的な側面等まで幅広い分野にわたるものであり、国が中・長期的な研究開発の方向性を提示することは、新たな放送システムの円滑な導入を図る上で極めて重要である。
 このような状況を踏まえ、総務省では、平成18年9月から「次世代放送技術に関する研究会」を開催し、5〜20年後を想定した次世代放送システムのイメージの確立及びその実現に必要な研究開発課題等について検討を行っており、同研究会は、平成19年6月に報告書を取りまとめる予定としている。


2 放送法上の「国際放送」は、国内の無線局から短波を用いて行うものに限られるが、本白書では、一般的な用法に従い、広く「放送を利用した対外情報発信」とする
3 放送法上は、「委託協会国際放送業務」と「受託協会国際放送」の組み合わせとして整理される
4 放送法上は、「委託協会国際放送業務」と「受託協会国際放送」の組み合わせとして整理される
5 放送法上は、NHKから現地事業者への「番組提供」と「現地事業者の放送」組み合わせとして整理される
6 「イノベーション25」(平成19年5月)、「アジア・ゲートウェイ構想」(平成19年5月)、「ICT国際競争競争力強化プログラム」(平成19年5月)、「ICT改革促進プログラム」(平成19年4月)とこれを含めた「成長力加速プログラム」(平成19年4月)等
7 「IT新改革戦略」を受けた「政策パッケージ」(平成19年4月)及び「重点計画2007」(平成19年5月)、「知的財産推進計画2007」(平成19年5月)等

 第2節 情報通信政策の展開

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