平成20年版 情報通信白書

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第1章 活力あるユビキタスネット社会の実現

3 地域の情報化による地域活性化

(1)地域におけるICTの活用

ア ICTの活用による地域活性化の意義
 日本の経済は、戦後の高度経済成長を経て、1980年代後半から1990年代にかけては、世界的に見ても非常に高い経済水準を維持していた。しかしながら、近年では、世界における日本のプレゼンスは徐々に低下しつつある。例えば、1993年の国民一人当たり名目GDPを見ると、日本はルクセンブルクに次いで世界第2位であったが、2006年には18位とその順位を大きく下げている。
 今後の我が国の一層の発展、国民福祉の向上等のためには、各地域が独自性と創意工夫を発揮し、多様な考え方や独自性を生かしつつ、それぞれの地域が発展していくことが必要になってくる。
 しかしながら、地域の置かれている状況に目を転じると、少子高齢化が進展し、人口流出の傾向が顕著になってきている。その結果、伝統文化の衰退や地場産業の担い手不足、地域コミュニティの崩壊、さらには、自治体財政のひっ迫による行政サービスの低下、それに伴う一層の人口流出等、地域社会は、危機的な状況に直面している。また、国内の一人当たり県民所得における都道府県間のばらつきを示す変動係数を見ると、所得格差が4年連続で拡大していることが分かる(図表1-1-3-1)。
 
図表1-1-3-1 一人当たり県民所得の変動係数の推移
図表1-1-3-1 一人当たり県民所得の変動係数の推移
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 今日の地域は、地域外の企業を引き付けるような独自の技術を持つ優秀な人材や企業、また、そうした人材をアピールするために必要な情報や資本等が不足している状況にあると考えられる。しかしその一方で、各地域は、経済成長を達成していくための潜在的な可能性も十分に有している。例えば、農産物、観光資源、伝統文化、雄大な自然等の地域資源であり、地域に固有のこうした資源を、独自のアイディアや創意工夫によって生かしていくことが、今後の地域の発展には不可欠であるといえる。ICTは、こうした地域の強みを生かし、弱みを克服していくツールとして、非常に重要な役割を果たしていくと期待される。
 ICTの役割としては、第一に、情報格差の是正による地域の情報発信力の強化が挙げられる。例えば、ICTの活用による「地域ブランド」商品の宣伝や販路の拡大は、地域資源を外にアピールし、地域の魅力を高めるのに非常に有効であると考えられる。
 第二に、ICTの活用は、地域に多い中小企業や、人口減少に直面し人材不足に悩む地域の企業の労働生産性の向上に寄与すると期待されている。例えば、ASP・ SaaSの利用は、情報化投資を行う余力のない企業や、利用ノウハウが十分でない企業であっても、ネットワークを介してICTシステムを安価に利用できるサービスであり、このようなサービスをうまく活用することで企業の労働生産性の向上を図り、地域企業の活性化につなげていくことも可能である。また、テレワークの活用は、女性や高齢者の雇用機会の拡大につながり、人口減少に悩む地域の労働力不足の解消に寄与する。
 最後に、地域におけるICTの活用は、住民福祉の向上や地域コミュニティの再生に大きな役割を果たすと期待されている。自治体の財政状況が厳しい中で、業務の効率化を図りつつ、住民の利便性の向上を図るためには、これまで以上に電子自治体を推進する必要がある。また、遠隔医療や高齢者の見守りシステム等は、地域住民の暮らしの安全の確保に直結する。遠隔教育は、過疎地域等において次世代の人材の育成を支援する。つまり、地域におけるICTの活用は、地域が有する強みの発揮と弱みの克服を可能とし、ひいては、住民福祉の向上や地域コミュニティの維持再生につながると期待される。
 以下では、全国の市区町村を対象にアンケート調査した結果に基づき、各市区町村におけるICTシステムの活用状況、その効果及び取組方法等について分析していくことにする10

イ 市区町村別ICT活用指標の作成
 ICTの活用状況を把握するに当たっては、自治体の行政分野を、[1]防犯・防災、[2]福祉・保健、[3]医療、[4]教育・文化、[5]産業・農業、[6]交通・観光、[7]行政サービス、[8]住民交流の八つに分け、分野ごとにICTシステムの機能を7項目(交通・観光分野は6項目)に分類し、合計55項目について、自治体が整備しているシステムがどの機能を有しているかを尋ねた11。さらに、導入時期について、直近で導入されたシステムは、十分機能を発揮していないという観点から、2006年以前の導入を10点、2007年以降の導入を8点、未導入を0点とし、機能と導入時期をかけ合わせて得点化し、各市区町村の8分野それぞれにおけるICTの活用状況を表す指標として「ICT分野別活用指標」を、また、全体的なICTの活用状況を表す指標として、8分野を統合した「ICT総合活用指標」を、それぞれ作成した12

ウ 市区町村におけるICT活用の現状
(ア)総合的なICT活用の現状
A ICT活用の全体像
 今回作成したICT総合活用指標を用いて、全国1,748市区町村のICTの活用状況を見たものが図表1-1-3-2である。これを見ると、高いポイントの周辺にはほとんど分布しておらず、低いポイントの周辺に多数の市区町村が分布している。また、550点満点中、最高点は430点、最低点は0点、平均点は80.4点であり、非常に先進的な取組を行っている市区町村がある一方で、その他の多くの市区町村では、ICTを十分活用しているとはいえない状況にとどまっていることが分かる。
 
図表1-1-3-2 ICT総合活用指標の分布
図表1-1-3-2 ICT総合活用指標の分布
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B 都市区分別ICT活用の現状
 ICTの活用状況を都市区分別に見たものが図表1-1-3-3である。これを見ると、平均点が最も高いのは、政令市・特別区であり、次いで、中核市・特例市、それ以外の市、町村の順となっており、規模の大きな自治体ほど平均点が高くなっている。しかしながら、最高点に着目すると、政令市・特別区の最高点よりも、それ以外の市の最高点のほうが高くなっている。また、ICT総合活用指標の上位に位置している市区町村を見ると、政令市等以外の市や町も含まれており、先進的な取組を行っている自治体は、必ずしも大規模な自治体に限らないことが分かる(図表1-1-3-4)。また、最低点に着目すると、それ以外の市や町村では最低点が0点であり、都市規模が小さな市区町村の中には、ICTの活用が全く進んでいない自治体も存在している。
 
図表1-1-3-3 ICT総合活用指標の都市区分別分布
図表1-1-3-3 ICT総合活用指標の都市区分別分布
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図表1-1-3-4 ICT総合活用指標上位市区町村
図表1-1-3-4 ICT総合活用指標上位市区町村
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C 都道府県別ICT活用の現状
 ICTの活用状況を都道府県別に見たものが図表1-1-3-5である。これを見ると、都道府県間で大きくばらつきがあることが分かる。都道府県ごとのICT総合活用指標の平均点を見ると、平均点が最も高いのは神奈川県、次いで、兵庫県、東京都等となっており、逆に、平均点が低いのは、奈良県、高知県、青森県、沖縄県等であった。
 
図表1-1-3-5 ICT総合活用指標の都道府県別分布
図表1-1-3-5 ICT総合活用指標の都道府県別分布
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 また、同じ都道府県の中でも、それぞれの市区町村間で活用の度合いに差があることが分かる。神奈川県、大阪府、広島県、兵庫県等では、ごく一部の市区町村が非常に先進的な取組を行っており、これらの自治体が最高点を引き上げていると考えられる。なお、こうした先進的な取組を行っている自治体は、必ずしも都道府県庁所在地ではない。各都道府県で最高点を獲得している自治体の都市区分は、様々であり、各都道府県で中核的な機能を担っている自治体が、必ずしも先進的にICTの活用に取り組んでいるというわけではないことが分かる。

(イ)8分野における分野別ICT活用の現状
A 人口規模別に見た分野別ICT活用の現状
 全国1,748の市区町村を人口規模別に、30万人以上の市区、30万人未満の市区、町村の三つに分け、8分野における分野別のICT活用状況を見たものが図表1-1-3-6である。ここでは、8分野それぞれで作成したICT分野別活用指標を基に算出した、分野ごとの偏差値をプロットしている。つまり、各分野のICT活用指標の全体の平均点が、偏差値50に等しくなっている。
 
図表1-1-3-6 ICT分野別活用指標 (人口規模別比較)
図表1-1-3-6 ICT分野別活用指標 (人口規模別比較)
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 人口規模別にICTの活用状況を比較すると、すべての分野において30万人以上の市区が最も高く、次いで30万人未満の市区、町村の順になっている。行政サービス分野では、30万人以上の市区と町村との格差が最も大きい一方、医療分野では、両者間の格差が最も小さくなっている。
 人口規模別の比較では、市区町村の財政力や組織力の格差が、直接ICTの活用状況の差に反映されていることから、分野間の活用状況の特色を把握しがたくなっていると考えられる。そこで、次に、高齢化、過疎等の社会的属性や、離島、豪雪等の地理的属性の違いによって、分野間でICTの活用状況に違いが見られるかを考察する。

B 市区町村の属性別に見た分野別ICT活用の現状
(A)高齢化市区町村
 老年人口比率(総人口に占める65歳以上人口の割合)が30%以上の市区町村(以下「高齢化市区町村」という。)と、そうでない市区町村の分野別ICT活用状況を比較したものが図表1-1-3-7である13。高齢化市区町村は、そうでない市区町村と比較して、すべての分野においてICTの活用が進んでいないことが分かる。とりわけ、行政サービス、教育・文化、防犯・防災の分野において、両者間の差が大きい。一方、福祉・保健、医療、産業・農業、交通・観光、住民交流の分野においては、両者間の差は小さくなっている。
 
図表1-1-3-7 ICT分野別活用指標 (高齢化市区町村と非高齢化市区町村との比較)
図表1-1-3-7 ICT分野別活用指標 (高齢化市区町村と非高齢化市区町村との比較)
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(B)過疎
 過疎地域14を含む市区町村と、そうでない市区町村の分野別ICT活用状況を比較したものが図表1-1-3-8である。過疎地域は、高齢化が進行している地域が多いことから、過疎地域を含む市区町村のICT活用状況は、高齢化市区町村の特徴と非常に類似しており、行政サービス、教育・文化、防犯・防災の分野において、過疎地域を含む市区町村とそうでない市区町村の間の差が大きくなっている。一方、福祉・保健、医療、産業・農業、交通・観光、住民交流の分野においては、両者間の差は小さくなっている。
 
図表1-1-3-8 ICT分野別活用指標 (過疎地域を含む市区町村と含まない市区町村との比較)
図表1-1-3-8 ICT分野別活用指標 (過疎地域を含む市区町村と含まない市区町村との比較)
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(C)離島
 離島地域14を含む市区町村と、そうでない市区町村の分野別ICT活用状況を比較したものが図表1-1-3-9である。離島地域を含む市区町村では、そうでない市区町村と比較して、すべての分野においてICTの活用が進んでいることが分かる。離島地域を含む市区町村で分野横断的にICTの活用が進んでいる要因としては、離島地域を含む市区町村の中に、県庁所在地や人口規模が比較的大きい市区町村が含まれており、これらが離島地域を含む市区町村のICT活用指標を引き上げていることが考えられる。特に、交通・観光の分野では両者間の差が大きい。これは、離島地域を含む市区町村は、観光地として人気のある地域がある場合が多く、観光情報の発信や公共交通機関の情報提供におけるICTの利用が進んでいることが要因ではないかと考えられる。
 
図表1-1-3-9 ICT分野別活用指標 (離島地域を含む市区町村と含まない市区町村との比較)
図表1-1-3-9 ICT分野別活用指標 (離島地域を含む市区町村と含まない市区町村との比較)
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(D)豪雪
 豪雪地域14を含む市区町村と、そうでない市区町村の分野別ICT活用状況を比較したものが図表1-1-3-10である。豪雪地域を含む市区町村では、そうでない市区町村と比較して、交通・観光、医療分野でICTの活用が進んでいる一方、防犯・防災、教育・文化、行政サービスの分野では進んでいないことが分かる。豪雪地域で交通・観光分野でのICT活用が進んでいる要因としては、冬季レジャーを中心とした観光情報の発信や、雪による交通への影響の把握等においてICTの活用が進んでおり、ICTを利用して雪という固有の地域資源の活用・管理を図っているためではないかと考えられる。
 
図表1-1-3-10 ICT分野別活用指標 (豪雪地域を含む市区町村と含まない市区町村との比較)
図表1-1-3-10 ICT分野別活用指標 (豪雪地域を含む市区町村と含まない市区町村との比較)
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(E)市区町村の属性から見たICT活用状況の違い
 (A)から(D)において、自治体の社会的属性や地理的属性によってICTの活用状況に違いがあるかを考察したところ、高齢化市区町村や過疎等の条件不利地域を含む市区町村では、福祉・保健、医療、産業・農業、交通・観光及び住民交流の分野においてICTの活用が相対的に進んでいることが分かる。これは、こうした市区町村にとっては、高齢化や過疎化等への対応が、行政が直面する最優先の課題であるため、社会保障給付費の抑制や地場産業の育成、観光資源の活用等に効果があると考えられる福祉・保健、産業・農業、交通・観光の分野に対するウェイトが高くなっていることが推察される。この点については、後で統計的手法を用いて詳しく分析を行う。


10 アンケート調査の実施の詳細については、付注5を参照
11 各分野で尋ねたICTシステムの例は以下のとおり。[1]防犯・防災(高所災害監視カメラ、地域見守りシステム等)、[2]福祉・保健(独居老人見守りシステム、在宅健康管理システム等)、[3]医療(広域電子カルテネットワーク、遠隔医療等)、[4]教育・文化(遠隔授業システム、e-ラーニングシステム等)、[5]産業・農業(特産品ネット販売システム、企業誘致情報提供システム等)、[6]交通・観光(観光情報提供システム、バス位置情報配信システム等)、[7]行政サービス(公共施設予約システム、行政手続電子申請システム等)、[8]住民交流(地域SNS、行政・住民間電子会議システム等)
12 作成の詳細については、付注5を参照
13 各市区町村の老年人口比率の算出に当たっては、平成17年国勢調査データを用いた
14 過疎地域、離島地域、豪雪地域の定義については、付注5を参照

 第1節 情報通信による地域経済の活性化

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