平成20年版 情報通信白書

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第1章 活力あるユビキタスネット社会の実現

(3)ICT活用の評価と分析

ア ICTの活用に対する自治体の主観的な評価
 各分野においてICTを活用している自治体を対象に、ICTを活用することによって、それぞれの分野において、[1]行政コスト削減等の効率性の向上、[2]新たな行政サービス提供等の対象範囲の拡大、[3]住民に提供する情報等の精度の向上、[4]住民ニーズへの対応の時間短縮等の迅速性の向上、[5]住民に提供する情報量の増大、の5項目で効果があったかどうかを尋ねた結果が図表1-1-3-17である。これを見ると、すべての分野において、いずれの項目についても、「効果があった(「十分効果があった」と「かなり効果があった」の合計)」との回答が7割を超えている。分野ごとの特徴を見ると、福祉・保健、教育・文化の分野では、「効率性の向上」が最も高く、産業・農業、交通・観光、行政サービス、住民交流の分野では、「情報提供量の増大」が最も高くなっている。また、防犯・防災の分野では、「効率性の向上」、「情報提供量の増大」、「情報等の精度の向上」が同程度となっており、医療分野では、「効率性の向上」、「情報等の精度の向上」が同程度となっている。また、産業・農業、交通・観光、行政サービスの分野では、5項目に対する回答の割合にそれほどばらつきは見られず、それぞれの効果が平均的に実感されているのに対して、防犯・防災、福祉・保健、医療の分野においては、項目ごとに回答の割合にばらつきがあることが分かる。
 
図表1-1-3-17 各分野におけるICTの活用に対する評価(「十分効果があった」と「かなり効果があった」の回答の合計)
図表1-1-3-17 各分野におけるICTの活用に対する評価(「十分効果があった」と「かなり効果があった」の回答の合計)
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 こうした効果の実感について、市区町村の人口規模別にその傾向を見たものが図表1-1-3-18である。ここでは、[1]から[5]について、「十分効果があった」との回答を2点、「かなり効果があった」との回答を1点、それ以外の回答を0点とし、各分野の[1]から[5]に対する回答の得点の合計の平均点を人口規模別に見ている。分野ごとの特徴としては、産業・農業を除く7分野では、30万人以上の市区の得点が最も高く、次いで、30万人未満の市区、町村の順になっており、規模の大きい市区町村ほど効果を実感していることが分かる。これに対し、産業・農業分野については、町村の得点が最も高く、次いで、30万人以上の市区、30万人未満の市区となっている。
 
図表1-1-3-18 人口規模別に見た各分野でのICTの活用に対する評価
図表1-1-3-18 人口規模別に見た各分野でのICTの活用に対する評価
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 市区町村の人口規模別の特徴としては、30万人以上の市区及び30万人未満の市区では、行政サービス分野の、また、町村では、産業・農業の平均点がそれぞれ最も高く、効果を実感している。これに対し、医療、住民交流の分野では、平均点が低くなっており、ICTの活用に対する効果が実感されていないことが分かる。これは、これらの分野においては、単にICTシステムを導入しただけでは効果が発揮されず、利用者の習熟度を高めるなど人材面の育成が併せて必要であること等が要因であると考えられる。

イ ICTの活用状況と地域活性化との関係
 こうした効果は、各市区町村の実感に基づくものであるが、以下では、ICTの活用状況と各種データとの関係を見てみることにより、客観的な視点から、市区町村におけるICT活用と地域活性化との関係について分析を行うこととする。なお、市区町村レベルでのデータ整備等の制約から、以下では、産業・農業、教育・文化、福祉・保健、行政サービス及び住民交流の5分野について分析する。
(ア)産業・農業分野
 全国1,175の市区町村17を、産業・農業分野においてICT活用が非常に進んでいる市区町村(ICT分野別活用指標の偏差値70以上)、やや進んでいる市区町村(偏差値50超70未満)、進んでいない市区町村(偏差値50以下)の三つに分け、それぞれの市区町村における農家1戸当たりの2000年から2005年の生産農業所得18の増減を見たものが図表1-1-3-19である。これを見ると、ICTの活用が進んでいない偏差値50以下の市区町村では、減少率が3.9%と最も大きく、ICTの活用が非常に進んでいる偏差値70以上の市区町村では、減少率は0.9%と最も小さくなっており、その差は3.0ポイントであったことから、ICTの活用状況と生産農業所得の増減との間に相関関係があることが分かる。
 
図表1-1-3-19 ICT活用状況別農家1戸当たり生産農業所得増加率
図表1-1-3-19 ICT活用状況別農家1戸当たり生産農業所得増加率
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 この背景としては、インターネットを通じた販売システムの導入等、ICTの活用が、生産農業所得に影響を与えているものと考えられる。これにより、例えば、これまで近隣市区町村内でしか販売されていなかったような地元の農作物や特産品を、インターネットを通じた販売システムを導入することによって、全国へと販路を拡大し、遠く離れた消費者にも販売することが可能となる。実際、偏差値70以上の市区町村でネット販売システムを導入している市区町村の割合は50%と半数に上っているのに対し、偏差値50以下の市区町村では、同システムを導入している市区町村はゼロであった(図表1-1-3-20)。
 
図表1-1-3-20 ICT活用状況別インターネット販売システムの導入率
図表1-1-3-20 ICT活用状況別インターネット販売システムの導入率
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(イ)福祉・保健分野
 全国1,748の市区町村を、福祉・保健分野においてICT活用が非常に進んでいる市区町村(偏差値70以上)、やや進んでいる市区町村(偏差値50超70未満)、進んでいない市区町村(偏差値50以下)の三つに分け、それぞれの市区町村における扶助費19及び歳出額の2000年度から2005年度の増加率を見たものが図表1-1-3-21である。これを見ると、偏差値70以上の市区町村では、扶助費の増加率が55.3%、偏差値50超70未満の市区町村及び偏差値50以下の市区町村では64.4%となっており、ICTの活用が非常に進んでいる市区町村と進んでいない市区町村との差は9.1ポイントに上る。さらに、同期間における各市区町村の歳出額19全体の動きを見ると、偏差値50以下の市区町村では6.5%の減少となっており、偏差値70以上の市区町村では4.6%の減少となっている。つまり、偏差値50以下の市区町村では、歳出額全体は減少率が高いにもかかわらず、扶助費の増加率は大きく、これに対して、偏差値70以上の市区町村では、歳出額全体は減少率が低いにもかかわらず、扶助費の増加率が最も小さくなっており、ICTの活用状況と扶助費の増加抑制との間に、明確な相関関係が見られた。
 
図表1-1-3-21 ICT活用状況別人口一人当たり扶助費増加率と歳出額増加率
図表1-1-3-21 ICT活用状況別人口一人当たり扶助費増加率と歳出額増加率
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(ウ)教育・文化分野
 全国1,748の市区町村を、教育・文化分野においてICT活用が非常に進んでいる市区町村(偏差値70以上)、やや進んでいる市区町村(偏差値50超70未満)、進んでいない市区町村(偏差値50以下)の三つに分け、それぞれの市区町村における学校1校当たりの教育用コンピュータ平均設置台数、高速インターネット接続を導入した学校の割合、市区町村内の全普通教室におけるLAN整備率20を見たものが図表1-1-3-22である。これを見ると、いずれにおいても、ICTの活用が非常に進んでいる偏差値70以上の市区町村が最も高く、次いで、偏差値50超70未満、偏差値50以下の順となっている。これは、教育・文化分野におけるICTの活用状況と、学校におけるICTの基盤整備への取組との間に、相関関係があることを示している。
 
図表1-1-3-22 ICT活用状況別学校におけるインターネット利用環境の整備状況
図表1-1-3-22 ICT活用状況別学校におけるインターネット利用環境の整備状況
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(エ)行政サービス分野
 全国739の市区を、行政サービス分野においてICT活用が非常に進んでいる市区(偏差値70以上)、やや進んでいる市区(偏差値40超70未満)、進んでいない市区(偏差値40以下)の三つに分け、それぞれの市区における行政サービスの取組状況21を見たものが図表1-1-3-23である。これを見ると、議事録のホームページでの公開や重要な政策形成過程での素案の公表といった行政情報の公開、監査委員への民間登用や審議会・委員会への一般住民公募といった行政への住民参加の促進、本庁窓口事務のワンストップ化の実施や本庁・出先機関以外での各種証明書受付・交付の実施といった行政事務の効率化への取組の実施状況は、いずれの項目においても、ICT活用が非常に進んでいる偏差値70以上の市区の実施率が最も高くなっている。例えば、重要な政策形成過程での素案の公表や、本庁・出先機関以外での各種証明書の受付・交付の実施率については、ICTの活用が非常に進んでいる自治体と進んでいない自治体との間に、2倍以上の開きがあることが分かる。なお、偏差値70以上の市区の中には、人口規模の大きな市区が多く含まれる傾向にあるが、重要な政策形成過程での素案の公表、監査委員への民間登用、審議会・委員会への一般住民公募については、ほぼ100%に近い実施率となっており、必ずしも規模の大きな自治体だけがこれらの取組に積極的というわけではないことが分かる。
 
図表1-1-3-23 ICT活用状況別行政サービス等の実施状況
図表1-1-3-23 ICT活用状況別行政サービス等の実施状況
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 ICTを行政サービス分野に積極的に活用している市区ほど、行政情報の公開、行政への住民参画の促進、行政事務の効率化に対して意識的に取り組んでいる市区が多いという結果から、行政情報の公開、行政への住民参画の促進、行政事務の効率化に対して意識の高い自治体が、ICTを行政サービス分野に積極的に活用している可能性が示されたといえる。

(オ)住民交流分野
 全国739の市区を、住民交流分野においてICT活用が非常に進んでいる市区(偏差値60以上)、やや進んでいる市区(偏差値50超60未満)、進んでいない市区(偏差値50以下)の三つに分け、それぞれの市区において、住民の意見や要望への回答を必須とする規定を設置している自治体の割合22を見たものが図表1-1-3-24である。これを見ると、偏差値60以上の市区の実施率が41%、偏差値50超60未満の市区が36%、偏差値50以下の市区が27%となっており、ICT活用が非常に進んでいる自治体の実施率が最も高くなっている。住民交流の分野においても、同様に、行政・住民間の意見の交流に対する意識の高い自治体が、ICTを住民交流分野に積極的に活用している可能性が示されたといえる。
 
図表1-1-3-24 ICT活用状況別住民の意見や要望への回答を必須とする規定の設置状況
図表1-1-3-24 ICT活用状況別住民の意見や要望への回答を必須とする規定の設置状況
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ウ ICTの活用から見た市区町村の分類
 最後に、多変量解析手法の一つである主成分分析23を用いて、各市区町村におけるICT分野別活用指標から、ICTシステム間の関係の強さ等の構造を示す新たな指標を作成し、その指標に基づいて市区町村を分類してみる。
 本分析においては、新たな分析軸として、主成分分析から抽出された福祉軸(第2主成分)と地域活性化軸(第3主成分)を用いて、市区町村の分類を試みた24(図表1-1-3-25)。図表1-1-3-26は、縦軸に福祉軸、横軸に地域活性化軸をとり、それぞれの市区町村をプロットしたものである。
 
図表1-1-3-25 主成分分析の結果
図表1-1-3-25 主成分分析の結果
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図表1-1-3-26 市区町村の分類(縦軸:福祉軸、横軸:地域活性化軸)
図表1-1-3-26 市区町村の分類(縦軸:福祉軸、横軸:地域活性化軸)

 福祉軸の上側に位置する市区町村は、福祉・保健、医療分野に、また、地域活性化軸の右側に位置する市区町村は、産業・農業、交通・観光分野に集中してICTを活用しているという特徴を持つ。両方の軸で高い得点を得ている第1象限に位置する市区町村の属性を調べてみると、その43.0%が過疎地域を含む市区町村や高齢化市区町村であった。また、その割合は、福祉軸で高い得点を得ている第2象限では27.7%、地域活性化軸で高い得点を得ている第4象限では38.0%、両方の軸で低い得点となっている第3象限では18.0%であり、過疎地域を含む市区町村や高齢化市区町村が、福祉・保健・医療分野や産業・農業、交通・観光分野で集中的にICTを活用していることを明確に示す結果が得られた。こうした市区町村では、地場産業の育成、観光資源の活用といった地域の活性化や高齢化への対応に対する行政需要が高いと考えられることから、これらの分野に特化してICTを活用していると考えられる。
 これに対して、大都市圏にある人口規模の比較的大きな市区町村は、本分析での得点があまり伸びていないことが分かる。こうした自治体では、様々な属性の住民を多数抱えており、行政需要が多岐にわたることから、特定の分野で集中的にICTを活用するのではなく、総合的にICTシステムを整備していることが要因と考えられる。


17 2000年及び2005年の生産農業所得のデータを入手できた市区町村に限って分析を行った
18 生産農業所得のデータは、農林水産省「生産農業所得統計」に基づく。なお、生産農業所得=農業産出額×農業所得率+交付金、農業産出額=農産物の産出額+加工農産物の産出額、農業所得率=農業所得÷農業収入×100として計算されている
19 扶助費及び歳出額のデータは、総務省「市町村別決算状況調」に基づく。なお、扶助費は、社会保障制度の一環として自治体が各種法令に基づいて実施する給付や、自治体が単独で行っている各種扶助にかかる経費(例:社会福祉費、老人福祉費、児童福祉費)
20 学校1校当たりの教育用コンピュータ平均設置台数、高速インターネット接続を導入した学校の割合、市区町村内の全普通教室におけるLAN整備率のデータは、いずれも文部科学省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(平成17年度)」に基づき、総務省が分析を行ったもの
21 行政サービスの取組状況に関するデータは、いずれも日経産業消費研究所「2006年(第5回)全国市区の行政比較調査データ集」に基づく。ここでは、各データを入手できた739の市区に限って分析を行った
22 住民の意見や要望への回答を必須とする規定の設置に関するデータは、日経産業消費研究所「2006年(第5回)全国市区の行政比較調査データ集」に基づく。ここでは、各データを入手できた739の市区に限って分析を行った
23 多量のデータから少量の合成変数(主成分)を作成して、少ない次元で元のデータの構造を把握するための統計手法の一つ
24 第1主成分は、ICT総合活用指標とほぼ同傾向にあるため、分析軸としては採用しなかった

 第1節 情報通信による地域経済の活性化

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