平成20年版 情報通信白書

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第1章 活力あるユビキタスネット社会の実現

(3)購入・共有

ア 購入
 最近1年間に各商品を購入した人に対してその商品の購入方法として最も多く利用した方法を商品別に尋ねたところ、「店頭」との回答が多い商品は、自動車(92.9%)、食品・飲料(91.2%)、生活家電(84.6%)の順であった(図表1-3-3-13)。これに対して、「パソコン・携帯電話」との回答が多い商品は、旅行・チケット(53.4%)、音楽・映像(32.5%)、パソコン・周辺機器(25.1%)であった。この結果は、(2)ウの選択肢評価で「メーカーサイト」を利用する商品群と、購入方法として「パソコン・携帯電話」を多く利用する商品群とが一致していることを示しており、これらの商品では、情報収集から購入決定までのプロセスが短いという仮説を裏付けるものである。また、5年前と比較すると、インターネットで商品を購入する人の割合は急速に増加している5。特に、旅行・チケット、音楽・映像等、品質が一定で、情報収集から購入決定までのプロセスをインターネットで行える商品群については、その傾向が顕著であり、例えば、旅行・チケットでは、既にその割合が店頭で購入する人の割合を上回っており、インターネットは、購入方法として広く定着しつつあり、店頭の地位を脅かしつつある。
 
図表1-3-3-13 最近1年間で商品購入した際に、最も利用した購入方法
図表1-3-3-13 最近1年間で商品購入した際に、最も利用した購入方法
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 そこで次に、それぞれの購入方法を最も多く利用する理由を尋ねた結果が図表1-3-3-14である。ここでは、購入方法としての利用が多かった「店頭」及び「パソコン・携帯電話」に着目し、各項目について、「店頭」との回答割合の値から「パソコン・携帯電話」との回答割合の値を引いたものをプロットしている6
 
図表1-3-3-14 購入方法として、「店頭」及び「パソコン・携帯電話」を選択した理由(「店頭での購入」の回答割合の値から「パソコン・携帯電話」の回答割合の値を引いたもの)
図表1-3-3-14 購入方法として、「店頭」及び「パソコン・携帯電話」を選択した理由(「店頭での購入」の回答割合の値から「パソコン・携帯電話」の回答割合の値を引いたもの)
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 店頭での購入を選択する理由については、いずれの商品でも「商品の実物を試せるから」との回答が多い傾向にあり、特に、生活家電、衣類・アクセサリーでは、それぞれ54.9%、54.2%の回答があった。次いで、「店員の接客対応が良い、購入のサポートをしてくれるから」との回答が多く、実際に店員とのやり取りを通して、安心して購入できることを重視する人が店頭での購入を選択していると考えられる。
 一方、パソコン・携帯電話での購入を選択する理由については、「商品の価格が安いから」の回答が多くなっているほか、「ポイント等の購入特典が充実しているから」との回答も多い傾向にある。また、衣類・アクセサリー、食品・飲料では、「そこでしか売っていない商品だから」との回答が比較的多くなっている。この背景としては、第一に、インターネットを通じた商品販売では非常に多くの種類の商品を扱っており、一般の店舗では取り扱っていないような商品の購入が可能であること、第二に、自分の住む地域以外の特産品をインターネットを通じて購入する、いわゆる「お取り寄せ」が食品や飲料を中心に広がっており、わざわざ遠くの店舗に出向かなければ購入できなかった商品も手軽に買うことができるようになったこと等があるのではないかと考えられる。
 このように、購入方法として「パソコン・携帯電話」に向いている商品群の存在や、商品価格の安さ、「お取り寄せ」消費の動向が背景にあり、日本の消費者向け電子商取引市場規模は、平成18年には約4.4兆円(対前年比27.1%増)と拡大しており、パソコン及び携帯電話は店頭に次ぐ第二の購入方法として確立しつつあることが分かる(図表1-3-3-15)。
 
図表1-3-3-15 消費者向け電子商取引の市場規模
図表1-3-3-15 消費者向け電子商取引の市場規模
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イ 購入方法と消費志向特性との関係
 購入方法の選択に当たっては、消費に対する志向が深く関係していると考えられる。そこで、購入方法と消費志向特性との関係について見てみたものが図表1-3-3-16である。ここでは、実際に、店頭、パソコン、携帯電話で商品を購入したことがあると回答した人が、それぞれの購入方法を選択するときに考えることについて尋ねた。
 
図表1-3-3-16 それぞれの購入方法を選択する際に考えること
図表1-3-3-16 それぞれの購入方法を選択する際に考えること
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 店頭で購入する際には、「品質の良いものを」、「品ぞろえが豊富な店で」、「安心できる店で」購入したいと考える人がパソコンや携帯電話で購入する場合よりも多くなっている。店頭で購入する際には、実際に商品を手にとって見たり、店員とのやり取りから接客対応の良し悪しを感じ取るなど、より良い商品を安心して購入したいと考える消費者が多いと考えられる。
 また、パソコンや携帯電話で購入する際には、「入手困難なものを」購入したいと考える人が店頭で購入する場合に比べて多いことが分かる。従来型の店舗販売では、消費者からの多様で小規模な需要にこたえるには、膨大な在庫を抱えるスペースや費用の点から困難であり、これまでは限られた少数の商品のみが店頭に並ぶというのが一般的であった。市場でやり取りされる商品をその販売数量の大きい順に図表化すると、個々の販売数量は非常に大きい少数の商品に続いて、個々の販売数量は非常に小さいが膨大な数の種類がある商品群が恐竜の尾のように長く伸びて並んでいることから、これを「ロングテール」と呼ぶこともある。これまで、このロングテール部分に位置していたような販売数量の小さい商品は、店頭に並ぶことも市場で売買されることもほとんどなかった。ところが、インターネットを経由した商品販売は、店頭在庫にかかる費用が不要であり、「売れ筋」商品だけでなく、小規模な需要しかない多くの商品もネットショップに「陳列して」おくことができる。このため、実際の店舗では購入できないようなものであっても買うことができるようになったことから、ネットショップを利用して入手困難なものを購入するという動きが広がりを見せていると考えられる。

ウ 購入体験の共有
 先に、新たな消費行動プロセスにおいては、自らの購入体験を他の消費者と共有することによって、その情報が別の消費者の消費行動プロセスに利用され、消費者間でネットワークの多層化が進展していくのではないかと述べた。そこで、自分の購入体験を他の人に伝えたことがあるかを商品別に尋ねたところ、いずれの商品についても「他の人には伝えていない」との回答が最も多く、次いで「じかに話して伝えた」となっている(図表1-3-3-17)。一方、「パソコン・携帯電話のウェブサイトを通して伝えた」との回答は、1割未満にとどまっており、自らの購入体験をネットワークを通じて不特定多数の人に伝える行為はまだ広がりを見せておらず、伝える場合は特定の身近な人に伝えることが多いことが分かる。ただし、若年層に限ってみると、「パソコン・携帯電話のウェブサイトを通して伝えた」との回答は、「書籍・雑誌」で最も多く20.8%、次いで「旅行・チケット」で17.0%、「音楽・映像」で16.7%となっており、パソコンや携帯電話のウェブサイトを通して、不特定多数の人と自分の購入体験を共有する動きが広がりを見せつつあるといえる(図表1-3-3-18)。今後は、こうした動きが世代を超えて拡大していくことが期待される。なお、自らの購入体験や商品に対する評価をネットワーク上で他の消費者に発信し、他の消費者の消費行動に大きな影響力を持つ人々を、アルファブロガーあるいはインフルエンサー等と呼ぶ。自らの購入体験を他の消費者と共有しようという動きは、現在はまだ、こうした影響力のある少数の消費者が発信する情報を多数の一般消費者が利用しているという段階にあると考えられる。
 
図表1-3-3-17 自らの購入体験を他の人に伝えたことがある人の割合(複数回答)
図表1-3-3-17 自らの購入体験を他の人に伝えたことがある人の割合(複数回答)
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図表1-3-3-18 若年層において、パソコン・携帯電話のウェブサイトを通して自らの購入体験を他の人に伝えたことがある人の割合
図表1-3-3-18 若年層において、パソコン・携帯電話のウェブサイトを通して自らの購入体験を他の人に伝えたことがある人の割合
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 このような新たな動向に対し、企業においても、インターネットを軸に消費者との新たな接点を模索する動きが広がりつつある。例えば、従業員100人以上の企業が自社のホームページを開設している割合は、全体で83.6%に上っており、企業が取引相手や消費者に向けて情報発信する手段として広く普及していることが分かる(図表1-3-3-19)。また、ビジネスブログ又はSNSのうち、少なくともどちらか一つを開設している割合は、全体では6.8%と約15社に1社となっている。従業員規模別に見ると、従業員数が2,000人以上の大企業においてはその割合は15.5%と高くなっており、大企業を中心に、消費者が参加可能なCGM(消費者発信型メディア:Consumer Generated Media)を企業活動に利用する動きが進展していることが分かる。
 
図表1-3-3-19 企業のホームページ開設率及びビジネスブログ、SNS開設率(従業員規模別)
図表1-3-3-19 企業のホームページ開設率及びビジネスブログ、SNS開設率(従業員規模別)
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 ホームページ、ビジネスブログ又はSNSのうち、少なくともどれか一つを開設している企業に対して開設の目的や用途を尋ねたところ、「商品等の紹介」が68.6%、「定期的な情報提供」が38.8%、「消費者の意見等の収集」が11.2%となっており、企業がネットワークを利用した様々な手法を消費者とのコミュニケーション手段として利用していることがうかがえる(図表1-3-3-20)。
 
図表1-3-3-20 企業のホームページ、ビジネスブログ、SNS開設の目的(複数回答)
図表1-3-3-20 企業のホームページ、ビジネスブログ、SNS開設の目的(複数回答)
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 さらに、消費者が開設しているブログやSNS等を閲覧・分析しているか尋ねたところ、「よく利用」、「たまに利用」を合わせた回答は全体で17.7%であった(図表1-3-3-21)。これを業種別に見ると、サービス業や金融・保険業等、一般消費者との接点が比較的多い業種については、利用している割合が高く、インターネットを通じた消費者との新たな接点の確保に向けた動きが広がってきているといえる。
 
図表1-3-3-21 消費者が開設するブログやSNS等の閲覧・分析の実施状況
図表1-3-3-21 消費者が開設するブログやSNS等の閲覧・分析の実施状況
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 また、近年大きな話題となっている3D仮想空間での支店開設や販売促進活動等の企業活動の実施については、「実施している、またはしたことがある」との回答が3.2%、「今後実施する予定がある」との回答が1.2%とまだ低い回答にとどまっており、3D仮想空間の企業活動への利用拡大については今後の動向が注目される(図表1-3-3-22)。
 
図表1-3-3-22 3D仮想空間での企業活動の実施状況
図表1-3-3-22 3D仮想空間での企業活動の実施状況
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 このように、ユビキタスネットワークの進展により広がりを見せている、いわゆる「Web2.0」と呼ばれる環境の中で、消費者自身が、自分たちの意見を公開したり、他の消費者の評価を自分の消費行動の判断材料として取り入れるなど、消費をめぐる情報の流れは、これまで商品の供給者である企業が消費者に向けて伝達していた一方向的なものから、消費にかかわるすべての参加者が情報を発信し受信する双方向的なものになってきている。そこでは、企業や商品に関する情報は肯定的なものばかりとは限らず、これまで企業が公開するのをためらってきたような批判的、否定的な情報が含まれることもある。
 したがって、様々な情報があふれる状況の中で、企業が商品に関する情報を効果的に消費者に届けるためには、こうした消費者から発信される情報を企業が積極的に利用したり、より効果的に広告を展開するなど、これまでの企業戦略を見直し、消費者との新たな関係を構築していく必要性が高まっていると考えられる。


5 平成14年末のデータは、総務省「平成14年通信利用動向調査」に基づく。なお、同データは、15歳以上のインターネット利用者に対する過去1年間のインターネットによる購入経験の有無についての回答結果。対象となる商品・サービスについて、「書籍・雑誌」及び「音楽・映像」については「書籍やCD」、「パソコン・周辺機器」については「パソコン関連商品」、「生活家電」については「家具、家電、家庭用品」、「旅行・チケット」は「各種チケット」、「衣類・アクセサリー」は「服飾雑貨や貴金属」、「食品・飲料」は「食料品」、「自動車」は「自動車」をそれぞれ対応させている
6 なお、最近1年間にパソコン・携帯電話のウェブサイトから自動車を購入したとの回答は7人と少なかったことから、ここでは参考として掲載している

 第3節 ユビキタス化がもたらす新たな国民生活

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