平成21年版 情報通信白書 資料編

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付注9 中長期的な経済予測シミュレーションの手法について


(1)マクロモデルの概要
 「第1部第3章第1節 3.情報化投資の加速が経済再生の鍵」における中長期的な経済予測シミュレーションは、篠崎・飯塚(2009)「企業投資と日本経済の中期成長率―情報技術への投資加速を織り込んだシミュレーション―」において作成されたマクロ計量モデルを用いて行っている。同モデルは他の先行研究と同様、標準的なIS-LM型のフレームワークの下に設計されているが、以下の3つの特徴を備えている。
[1] 国内要因による日本経済の変動に注目して機動的なシミュレーションを行うべく、方程式数は63本(内生変数63、外生変数42)と小型のものにとどめた。したがって、為替レートは外生化し、海外経済要因はベースライン、シミュレーションともに同じになっている。
[2] 本シミュレーションのカギを握る企業の設備投資行動については、最近の研究動向を踏まえて設備投資関数の推定を行い、その結果を織り込んだ。ここでは、企業の投資行動における期待成長率の役割に注目し、企業の期待成長率が潜在成長率によって影響を受けるというメカニズムを取り入れている。
[3] 篠崎(2008)「人口減少下の経済成長とイノベーション」及び日本経済研究センター(2009)「情報経済研究:ネットの台頭とメディア融合:不況を乗り越える創造的破壊の芽」を踏まえて情報化投資の効果を明示的に織り込んだ。具体的には、情報資本の対民間企業資本ストック比率上昇が企業の業務を効率化させ、売上高経常利益率を高める効果と潜在成長率を高める効果となる。

(2)シミュレーションの手順
[1] ベースラインシナリオの導出
 はじめに、マクロ計量モデルを用いて、シミュレーション結果と比較するためのベースラインシナリオを導出する。前提条件となる外生変数は日本経済研究センター(2009)「第35回中期経済予測:世界経済の構造調整と日本の行方」の中期予測を採用、同予測の内容をモデル予測値で再現できるようにアドファクター修正を行った。同予測を採用するのは、2011〜2020年までの平均成長率がその他の民間調査期間の平均的な見通しとも一致し、マクロ計量モデルによるシミュレーションに必要な諸変数のデータが利用可能となるためである。
[2] 投資加速シナリオ
 次に外生変数のうち、設備投資関数の説明変数となっている税制要因と除却率をベースラインとは異なる値にすることによりマクロ計量モデルを動かし、予測値を導出する。税制要因については、国の法人税率(基本税率)が2011年度から引き下げられると想定した上、近年は横ばいで推移している除却率が2011年度から緩やかな上昇トレンドに戻ると考えた。除却率の上昇は、設備の更新が活発化することを意味し、税率引き下げとともに設備投資を加速させることになる。
[3] 情報化投資加速シナリオ
 最後に、[2]の条件に加えて、情報化投資が設備投資全体に占めるウエート(情報化投資比率)をベースラインとは異なる値にすることによりマクロ計量モデルを動かし、予測値を導出した。ベースラインにおいては、情報化投資比率は近年の状況を踏まえて、予測期間でも横ばいが続くが、本シナリオでは、2010年代初頭以降、情報化投資比率が過去のトレンド並みに上昇するという前提を加えた。具体的には2010年代平均でベースラインに比べて情報化投資比率を2ポイント上昇させた。

 

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