第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第1章 ICTによる地域の活性化と絆の再生

(2)農林水産業×ICT


ア 「内子フレッシュパークからり」におけるICTによる中山間地域農業の活性化(愛媛県内子町)

●操作の簡単なPOSシステムにより農産物直売所の売上増、農家の意識も変化

 「内子フレッシュパークからり11」は、愛媛県の中山間地域である内子(うちこ)町と町民などから出資を受けて設立された第3セクターであり、農産物直売所、レストラン、加工事業などを行っている(図表1-1-2-3)。同地域はもともと果樹栽培が盛んで観光農園が多くあったことが本事業のきっかけとなっており、町役場から派遣されたX氏と、JA出身でICTに強いY氏がICTを活用した事業立ち上げの初期段階の中心人物となった。

図表1-1-2-3 「内子フレッシュパークからり」におけるICTによる中山間地域農業の活性化(愛媛県内子町)
図表1-1-2-3 「内子フレッシュパークからり」におけるICTによる中山間地域農業の活性化(愛媛県内子町)
POSシステムにより農産物直売所の売上増、農家の意識も売上向上の工夫をするよう変化
(出典)総務省「我が国のICT利活用の先進事例に関する調査研究」(平成22年)

 ICT活用のきっかけは、平成6年に町内農業の閉塞化打破のために産直実験を行ったところ、精算業務の迅速化、生産者名の明示、残品情報のニーズといった課題が浮上し、その解決のため、松山市にあるシステム開発企業がPOS12による販売管理システム「からりネット」を開発したことにある。「からりネット」の特徴は徹底した操作のわかりやすさであり、中高齢者が多い農家も人から人へと操作方法を教えあうことで普及してきた。これにより、直売所の売上は当初の約4,200万円から平成20年度には約4億6,000万円になっている。また、農家の意識も変わり、効率的な出荷計画や作付計画を立てるなどして売上向上の工夫をするように変化してきたという。また、からりネットをベースとした農産物直売所向けPOSシステムは、「内子フレッシュパークからり」という成功事例をショーケースとして全国約40箇所に普及しており、地域独自にカスタマイズされていることも多い。

イ ICTを活用した首都圏への海産物の住民参加型プロモーション(島根県海士町)

●Iターン者の新鮮な視点で撮影・編集された海産特産品映像を首都圏に配信。第1次産業の再生に貢献

 島根県隠岐島にある海士(あま)町は、岩がきや白いかなどの海産特産品が多くある地域であるが、深刻な過疎化・少子高齢化による地域活力の低下が著しく、海産資源を活かした第1次産業の再生が課題となっている。その対策の1つとして、ICTを活用した首都圏への特産品の住民参加型プロモーションが行われている(図表1-1-2-4)。これは同町住民が自ら撮影した地域特産品に関する映像を、海士専用サイト「海士テレビ」に投稿し、管理者による番組編成を経て、首都圏の飲食店に設置されている大型公衆ディスプレイに配信する仕組である13。むろん住民は映像の専門家ではないが、海士町役場が東京から招聘したクリエータが講習会で指導を行い、3年間の取組で映像のレベルも上がってきている。また、担い手の住民のほとんどが従来から海士町に多いIターン者(生まれ育った故郷以外の地域に就職する人)で、そのためか映像も新鮮な視点のものができあがっているという。なお、海士町では過疎化・高齢化対策として商品開発研修生や次代を担う若者(高校生)の島留学制度などのIターン者の受け入れの様々な施策を行っている。

図表1-1-2-4 ICTを活用した首都圏への海産物の住民参加型プロモーション(島根県海士町)
図表1-1-2-4 ICTを活用した首都圏への海産物の住民参加型プロモーション(島根県海士町)
Iターン者の新鮮な視点で撮影・編集された海産特産品映像を首都圏に配信して第1次産業の再生に貢献
(出典)総務省「我が国のICT利活用の先進事例に関する調査研究」(平成22年)

 配信先の首都圏の飲食店では、特産の岩がきや白いかの映像で産地のすばらしさや安心・安全をPRし、それを契機にして注文が入っているという。同町は、今後はこの仕組を他の産地とも連携をして活用し、都市と地域の交流を促進して特産品販売や観光客の増加に繋げ、地域の活性化に結び付けていくことを目指している。


11 「からり」という名称には、「果楽里(果物を楽しむ里)」「花楽里(花を楽しむ里)」「香楽里(香りを楽しむ里)」「加楽里(加工することを楽しむ里)」、「カラリ」と晴れ晴れした気分、「カラリ」としたすがすがしい時間、「カラリ」とした爽やかな人間関係、出会いを楽しむと多くの意味が込められているという
12 Point Of Salesの略
13 配信システムは総務省のICT利活用モデル構築事業を活用して整備。平成19年度から継続して実証実験を行っており、開発しているサービスの総称をlocomiといい、「海士テレビ」はlocomiエンジンを利用して制作された海士専用サイトである。「モバイル版 海士テレビ」もある
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