第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第1章 ICTによる地域の活性化と絆の再生

(3)ICTを活用したチャレンジドの社会参加・生活支援の事例


 以下ではICTを活用したチャレンジドの社会参加事例や、地元やNPO法人が連携してチャレンジドを支援している事例を中心に紹介し、そのスキームの特徴などについて分析する。

ア 特例子会社制度による重度障がい者の雇用

●親会社の技術支援により、ICTを活用して障がい者社員の能力を引き出す工夫

 事業主が、障がい者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立し、一定の要件9を満たす場合には、特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算定できる「特例子会社制度」がある。本制度の下、平成21年6月1日現在で認定を受けている企業は265社あり、約1万3,000人の障がい者の雇用が実現している10
 たとえば、「沖電気工業株式会社」がCSR11の一環として設立した特例子会社の「株式会社沖ワークウェル」は、ICTによる支援技術を活用して障がい者社員の能力を引き出す工夫をしており、重度障がい者34名を在宅勤務で雇用している(図表1-3-2-7)。在宅勤務での仕事を進めるために親会社の技術的な支援も受けて多地点音声コミュニケーションシステムを開発し、円滑なコミュニケーションを実現して作業効率を確保している。さらにこのシステムはスキルアップのための社内面談や自主勉強会の開催、顧客との打合せへの参加など、多様な用途に使われている。

図表1-3-2-7 株式会社沖ワークウェルによる重度障がい者の在宅勤務
図表1-3-2-7 株式会社沖ワークウェルによる重度障がい者の在宅勤務
親会社の技術支援により、ICTを活用して重度障がい者向けにオフィスと一体感のある在宅勤務環境を整備
(出典)総務省「我が国のICT利活用の先進事例に関する調査研究」(平成22年)

 また、業務管理システムで各人の状況に応じた無理のない範囲での仕事の調整を行い、Webカメラシステムで本社の様子を常時発信することで、在宅勤務者が孤独感を持たないような工夫をしている。このような工夫を重ねることで、当初は単純作業が多かった同社の受注業務も技術者のスキルアップを背景にして、Webサイト構築、Webアプリケーション開発、ポスターデザイン、DTP12、人事総務部門作業、名刺作成画面編集、障がい者向け在宅Web制作訓練の請負等、高付加価値な業務へと幅が広がっている。

イ まるく株式会社(愛媛県松山市)

●障がい者自らが起業し、インターネット電話等を活用したテレワークも実施

 愛媛県松山市にある「まるく株式会社」は、元々東証1部企業の人事部局に在籍していたX氏が自らが障がいを持ったことで、障がい者の雇用機会の厳しさの解決を志し、独自に立ち上げた会社である(図表1-3-2-8)。障がい者である従業員は通勤している職員とテレワークで働いている職員の両方から構成されている。

図表1-3-2-8 まるく株式会社(愛媛県松山市)
図表1-3-2-8 まるく株式会社(愛媛県松山市)
対面でのコミュニケーションを大切にし、インターネット電話等を活用したテレワークも実施
(出典)総務省「我が国のICT利活用の先進事例に関する調査研究」(平成22年)

 同社では社会福祉法人からスキャニングの仕事を安定的に受けているが、受注業務だけではなかなか業務が拡がらないため、元カフェ経営者Y氏をメンバーに加えて、イベント会場等にケータリングを行う「出張カフェ事業」を推進している。この「出張カフェ」は「いつ・どこに出店するか」といった情報発信が重要だが、そのためのWeb作成やメールマガジン発行はテレワーカーが担っている。
 X氏はテレワークの職員に対しても対面でのコミュニケーションが大事だと考えており、本社職員が定期的に在宅職員を訪問するようにしている。その際にセキュリティ機能付きのUSBメモリでデータ交換を行っている。また、インターネット電話を使って常時接続し、本社職員と随時コミュニケーションをとることにより、同じ空間を共有して仕事をしている雰囲気を醸成している。テレワークを志向する職員は元々孤独だった人も多いが、このような工夫で職員間の仲間意識が高まってきているという。
 なお、テレワークに関しては松山市地域経済課が補助金等の支援をしており、同社はこの補助金対象企業第1号で13、市側にとっても同社からの意見がその後の補助金制度の改善に役立っている。

ウ 特定非営利法人活動法人プロジェクトゆうあい(島根県松江市)

●産学官及びNPOなどの4者の連携・協働により、ICTを活用したチャレンジドを支援する機器や仕組を開発・普及

 島根県松江市にある「プロジェクトゆうあい」は、地域内外のチャレンジドの社会参画の支援、情報化の推進、ひとにやさしいまちづくり活動に取り組む特定非営利活動法人(NPO)である(図表1-3-2-9)。同法人は常勤者7名の組織であり、うち視覚障がい者2名、聴覚障がい者1名の構成となっている。理事長のX氏は視覚障がい者である。

図表1-3-2-9 特定非営利法人活動法人プロジェクトゆうあい(島根県松江市)
図表1-3-2-9 特定非営利法人活動法人プロジェクトゆうあい(島根県松江市)
産学官野の4者の連携・協働により、ICTを活用したチャレンジドを支援する機器や仕組を開発・普及
(出典)総務省「我が国のICT利活用の先進事例に関する調査研究」(平成22年)

 同法人では、情報化の進展には産学官及びNPOなどの4者の協力が必要との理念の下、ICTを活用しチャレンジドを支援するための機器や仕組の開発に取り組んでいる。活動の主な内容はバリアフリーマップ作成等まちづくり活動やコンテンツ制作の他、チャレンジド向けに携帯ゲーム端末・テレビ電話・パソコンなどを活用した情報支援機器、音声案内ソフトや触覚ディスプレイなどの技術開発で、情報発信活動にも積極的に取り組んでいる。
 また同法人は島根県内において地元行政、しまねOSS協議会、企業に対してチャレンジドの視点から助言をおこなっている。


9 要件として、[1]親会社が子会社の議決権の過半数を有すること、[2]雇用される障がい者が5人以上で、かつ全従業員に占める割合が20%以上であること、また、雇用される障がい者中に占める重度身体障がい者及び重度知的障がい者の割合が30%以上であることなどが挙げられている
10 厚生労働省「平成21年6月1日現在の障害者の雇用状況について」
11 Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)の略
12 Desktop publishing(卓上出版)の略。出版物の編集、校正等をコンピュータ上で行うことを指す
13 松山市「松山市テレワーク在宅就労促進事業について」(http://www.city.matsuyama.ehime.jp/chiikike/1180177_1019.html)を参照
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