第1部 特集 ICTの利活用による持続的な成長の実現
第3章 ICTによる経済成長と競争力の強化

(4)事例から得られた示唆


●76世代のベンチャー経営者は我が国の先進ICT環境を、自然な感覚で、かつ最大限活用することにより、積極的な情報発信、本業への資金の集中投下、瞬時の情報共有によるコミュニケーションの活性化などを実現

ア 5社のICT活用事例分析結果のまとめ
 これまでにみた、J社(カーシェアリングサービス)、K社(タクシー相乗り・配車手配サービス)、L社(Web系サービス)、M社(地域の育児関連情報提供サービス)、N社(ICT関連の最先端技術開発)のICT活用事例の分析結果を以下にまとめる。
 まず、我が国のICT基盤(ブロードバンド環境、モバイル環境)が経営に寄与していることは5社とも疑う余地がないと断言していることがあげられる。このような姿勢の下、経営者自らがICTを駆使し、自社・サービス・商品について、積極的に情報発信を行うことで注目を集め、認知されることで「人・組織」「戦略」「ファイナンス・資本市場」の各面にプラスの効果を与えている。
 次に、ICT活用によって、どのような効果が得られているかを成長段階別にみると、seed段階での「情報収集面」、Start-Up段階以降での「情報発信面」という点で5社とも共通している。他にもStart-Up段階以降、社内マネジメント(情報共有・評価)、顧客向けサービス用の情報システム等を、クラウドを含む安価な外部サービスを活用して構築、維持することによりコストダウンを実現し、浮いた資金を本業部分に集中投下する傾向もみられる。
 さらに、ICTによるコミュニケーションのフラット化を強く意識している若手経営者も存在する。すなわち、ICTを活用することで従業員の誰もが瞬時に情報を共有できるようになっているため、従来のような階層型組織を必要とせず、フラット型組織での運営スタイルを確立している企業も複数存在した。このことにより、従業員ひとりひとりの自発性な行動を引き出し、モチベーションを高める効果を得られている。

図表3-2-2-10 若者のベンチャービジネスにおけるICT活用事例分析の結果
図表3-2-2-10 若者のベンチャービジネスにおけるICT活用事例分析の結果
経営者自身による積極的なICTを用いた情報発信、外部の安価なICTサービス活用でねん出した資金の本業への集中投下、ICTによる従業員のコミュニケーション活性化及び自発性向上といった点が特徴
総務省「我が国ベンチャー企業における課題克服のためのICT活用方策に関する調査研究」により作成

イ ICTがビジネスの前提:76世代ならではのビジネス観
 76世代の若手経営者は、10代後半でパソコンやインターネット等のICTに触れており、それ以降、生活の中に積極的にそれらを取り入れている世代である。このような背景から、我が国のブロードバンド、モバイル環境を当然の選択肢として「自然に」取り入れICTの利用を前提としつつ、ICTユーザーの視点に立ったビジネスを立案し既存のビジネスの枠組みを超えた新たなビジネスモデルを構築している。
 他にも、76世代の若手経営者には、ベンチャービジネスの起業をやりたいことを実現するための手段としてとらえることから、増資や負債借入等を経営の自由度が減少するリスクが高まると考え、自己資金での会社設立及び運営にこだわる傾向が認められる。

ウ ICTを活用するベンチャーを地方で起業することの優位性
 我が国では、既にICT基盤(ブロードバンド環境、モバイル環境)が全国に整備されており、ICT関連サービスを提供する企業が立地場所を選ばずに全国一律のサービスを展開しやすい現状があるため、都市部ではなく、むしろ地方に立地してこそICTを最大限活用するベンチャーが優位に立てる素地が存在する。

(ア)戦略及びファイナンス上の利点
 地方で起業したベンチャー企業は、業種や業態によっては近隣におけるライバルの数が限定され、大都市部ほど激しい競争に巻き込まれない可能性がある。さらに、地方で起業後、ある程度の期間が経過し認知度が高まると、地域内での信用が得やすくなる上、地元の自治体や金融機関から注目されることによりビジネスにつながるような情報面での支援及び資金的な支援が受けやすくなる傾向がある。他にも、「地域発ベンチャー」として話題になりやすく、マスメディアからの取材を受けるなど全国からの注目が得やすいといった利点が存在する。

(イ)人・組織面での利点
 ベンチャービジネスにおいては、何よりも人材の確保が重要である。ただし、一般的には地方は都市部よりも人口が少ないため、専門性が高くなればなるほど、自社のビジネス要件に適合する人材を地域内で探し出すことが困難となる傾向がある。
 しかし、都市部から適度に離れた地域に立地すると共に、ICTで情報発信を積極的におこなうことにより、都市部で立地する場合と同程度に専門性を持つ人材を確保することが可能となる。それに加えて、気軽に自社にアクセスできないことから、真にその企業で働きたいと考える熱意ある人材のみがアプローチしてくるため、自然とスクリーニングされた状態となり、採用活動への自社負担の減少と優秀な人材の確保の両立も可能となる。
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