第2部 情報通信の現況と政策動向
第5章 情報通信政策の動向

(2)「ICT安心・安全」領域


 総務省では、安心・安全な社会の確立を目指す「ICT安心・安全」領域について、防災、自然環境、福祉等、様々な分野における課題をICTで克服し、安心・安全な社会を実現する研究開発や、社会の基盤であるICTを頼りがいのあるもの(ディペンダブル)にし、誰もが有効に活用できるようにする研究開発を推進している。

ア 宇宙通信技術の研究開発
 総務省では、安心・安全な社会の実現に向けて、大規模災害等における通信の確保に向けた技術等の確立を目的に、衛星通信技術の研究開発を推進している。
 通信・放送分野では、小型端末による移動体衛星通信技術の確立を目的とした技術試験衛星VIII型(ETS-VIII:愛称「きく8号」)を利用した災害対策等の利用実証を推進している。また、ギガビット級インターネット衛星通信技術の確立を目的とした超高速インターネット衛星(WINDS:愛称「きずな」)を利用した災害対策、高画質の遠隔教育、離島でのインターネット通信等の国内実験及び、アジア・太平洋地域の各国と協力した国際共同実験を推進している。さらに、山岳地帯や大規模災害時等、携帯電話の不感地域においても利用可能な地上/衛星共用携帯電話システムや、航空機や衛星等を用いた観測システムにおいて増大する観測データを瞬時に地上に伝送可能となる光空間通信技術の研究開発を実施している。
 測位分野では、高精度な測位サービスの提供を可能とする準天頂衛星システムの研究開発において、時刻を高精度に管理する技術の研究開発を実施している。平成22年度の夏期に予定されている準天頂衛星初号機(愛称「みちびき」)の打ち上げ後、技術実証を実施する。

イ リモートセンシング技術の研究開発
 総務省では、都市スケールでの大気汚染や突発的局所災害の検出・予測精度を向上させるため、風向風速を高精度・高分解能で計測するドップラーライダーやウィンドプロファイラ、瞬時に雨雲等の動きを計測する次世代ドップラーレーダー(フェーズドアレイ方式)の研究開発を実施している。
 また、地球温暖化による気候変動や水循環の仕組みの解明とその予測精度の高度化に貢献するため、日米協力による全球降水観測(GPM)計画の衛星に搭載される二周波降水レーダー、日欧協力によるEarthCARE(雲エアロゾル放射ミッション)の衛星に搭載される雲プロファイリングレーダー、CO2濃度を立体的・高精度に計測するCO2計測ライダー、大気中の水蒸気・温室効果ガス等を高精度に計測するテラヘルツセンサー等について研究開発を実施している。
 さらに、大規模災害等が発生した際、被災者対策や復興計画等に必須となる被災地の状況について、広範囲かつ詳細な把握を可能とするため、電波による地球表面可視化技術(合成開口レーダー)の研究開発を実施しており、平成20年度からは、1m以下の分解能を持つ航空機搭載型高性能合成開口レーダーの試験観測を実施している。

ウ 情報セキュリティ技術に関する研究開発
(ア) ネットワークセキュリティ基盤技術の推進 
 ネットワークに対する不正アクセス、サービス不能化(DoS)攻撃、コンピュータウイルス等が急速に悪質化しており、セキュリティに関する被害が深刻化している。このため、情報セキュリティの飛躍的向上を図るべく、情報セキュリティに関する基盤技術の研究開発等を一層積極的に推進し、継続的にセキュリティ対策の高度化を図ることが必要である。
 総務省では、我が国の高度情報通信ネットワークの安全性及び信頼性を確保することを目的として、種々の脅威に対するネットワークセキュリティに関する基盤技術についての研究開発を平成13年度から実施している。

(イ) 情報漏えい対策技術の研究開発
 ファイル共有ソフトの利用等による情報漏えいが大きな社会問題となっており、利用者の自助努力のみでは対処が困難な状況となっている。そのため、総務省では、平成19年度から情報漏えいの予防・対策の高度化・容易化を図る技術開発を実施した。

(ウ) 経路ハイジャックの検知・回復・予防に関する研究開発
 インターネット上の通信経路を確立するためにネットワーク同士で交換している経路情報を、不正広告することで起こる通信障害「経路ハイジャック」が、国内でも年数回程度発生しており、障害の検知回復に時間を要しているのが現状である。
 そのため、総務省では平成18年度から経路ハイジャックの検知・回復・予防に関する研究開発を実施した。

エ ロボットとユビキタスネットワークの融合
 家庭やオフィスでの利用が期待されるロボットとユビキタスネットワークとの融合を図るネットワークロボット技術により、今後、新たなライフスタイルが創出され、少子高齢化等の様々な社会的問題への対応が図られることが期待されている。
 そのため、総務省では、平成21年度からは、チャレンジド(障がい者)や高齢者の生活・社会参加を支援するサービスをネットワークロボット技術により実現するため、必要な研究開発を推進している。
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