(4)国民目線に立ったICTサービスによる国民の便益 ●国民目線に立ったICTサービスを提供することにより、より大きな国民の利益を生み出す可能性  国民目線に立ってICTを活用した「医療・健康」「教育・就労」「生活・暮らし」の3分野における各サービスは、国民の利用意向が極めて高いことが明らかになった。しかし、このようなICTサービスが提供されていないことにより、国民の利用のインセンティブがなく、国民が享受すべき利益が失われていると考えられる。たとえば、医療機関における診察の待合時間や、引越に係わる諸手続の申請のために行政窓口まで出向く手間は、利用者が余暇や労働などの他の活動にあてる可能性のある機会を逸失しているといえる。また、地域全体で見ると生活習慣病が予防されたり、ゴミの量が減ったりすることによる提供者側の費用の削減などの効用がもたらされることもあろう。そこで、これらのICTサービスごとに、独自にロジックモデル7を設定し、このようなICTサービスが実現することにより、利用者や提供者にもたらされると考えられる便益(潜在価値)を、経済価値として評価・試算してみることにする。  むろん、このような経済価値の評価は、家事労働力の経済価値の把握と同様、直ちにはGDPに反映されない要素を対象に含む場合があるほか、時間の価額評価は平均的な賃金率による一律のみなし換算に馴染まない側面もある。しかしながら、利用対象者を限定し、さらにサービス効果の実現度8を低位推計(サービス効果が10%の場合)、中位推計(25%の場合)、高位推計(50%の場合)と段階分けすることで、当該サービスの提供による具体的経済価値の実現可能性を大枠で捉えておくことには意義があると考えられる。 ア 医療・健康  医療・健康分野では、生活習慣病の予防による医療費の削減、重複受診の減少による無駄(費用・時間)の削減、受診の際の待合時間の削減などを利用者(国民)が享受する便益として想定した(図表1-1-1-10)。この結果、利用者の便益の経済価値としては、3サービス計で約1兆4,900億円(中位推計:サービス効果25%の場合)と試算された。 図表1-1-1-10 「医療・健康」における国民の利益(試算) (出典)総務省「ICT利活用による地域活性化と国際競争力強化に関する調査研究」(平成22年) イ 教育・就労  教育・就労分野では、教師の校務負荷の軽減、有業者の最終学歴の向上、完全失業者の減少(就業者の増加)などを利用者(国民)が享受する便益として想定した(図表1-1-1-11)。この結果、利用者の便益の経済価値としては、3サービス計で約6,190億円(中位推計:サービス効果25%の場合)と試算された。 図表1-1-1-11 「教育・就労」における国民の利益(試算) (出典)総務省「ICT利活用による地域活性化と国際競争力強化に関する調査研究」(平成22年) ウ 生活・暮らし  暮らし・生活分野では、引越手続に係わる時間の削減、税申請手続に係わる時間の削減、粗大ゴミの処分に係わる負担費用の軽減などを利用者(国民)が享受する便益として想定した(図表1-1-1-12)。この結果、利用者の便益の経済価値としては、3サービス計で約450億円(中位推計:サービス効果25%の場合)と試算される。 図表1-1-1-12 「生活・暮らし」における国民の利益(試算) (出典)総務省「ICT利活用による地域活性化と国際競争力強化に関する調査研究」(平成22年)  今回の試算対象とした9つのICTサービスは、公的サービス分野における一例に過ぎない。このほかの公的サービスも同様に、国民目線に立ったICTサービスを提供することにより、より大きな国民の利益を生み出すことが想定される。 7 各ICTサービスの推計に係るロジックモデルの詳細については付注2参照 8 たとえば、診察の事前予約サービスにおける診察に係わる待合時間が、現状よりも50%削減される(高位)、25%削減される(中位)、10%削減される(低位)などである