コラム 電子書籍は日本のペーパーレス化を推進するか  本節1(1)イでは、各種コンテンツ販売のオンライン化、オフィスや家庭でのペーパーレス化といった「モノの電子・情報化」によるCO2排出量削減に言及した。そして、昨年(平成21年)以来、米国で特に注目を浴びている電子書籍が我が国にも広く普及することによって、本節2の推計値の実現性が高まり、さらには推計値以上のCO2排出削減が実現される可能性がある。本コラムでは、このような電子書籍に関する米国及び国内の最新動向を紹介する。  まずは米国の動向をみてみよう。米国ではネット通販最大手のアマゾン・ドット・コムの電子書籍端末「Kindle(キンドル)」の躍進と共に電子書籍市場は急速に拡大しており、2009年第4四半期の売上は5,590万ドル(約50億円)で、前年同期の3倍以上の規模となっている1。さらに、「Kindle(キンドル)」の最大の競合製品と見なされているアップルの携帯端末「iPad(アイパッド)」が2010年3月に発売され、より一層の市場の活性化が期待されている。  一方、日本の動向はどうであろうか。実は日本の電子書籍の国内市場規模は平成20(2008)年時点で約464億円を誇り、金額的には既に米国と比べても遜色のないマーケットが確立されている。その内訳を詳しく見ると、配信端末(PCまたは携帯電話)別では全体の約87%を携帯電話が占め、かつコンテンツ種類別では電子コミックが全体の約7割を占めているといったように「ケータイコミック」が市場をけん引している2。  さらに、日本の電子書籍は、どのような利用者によってどのようなコンテンツが読まれているかについて、総務省が実施したWebアンケート調査結果3からみることにしよう。  まずは性別・年代別の電子書籍の認知・利用経験(図表1左側)については、50歳以上の女性を除いたすべての層で電子書籍の認知度が9割を超える結果となった。また、利用経験については10代男女及び20代女性が5割近くにせまるなど、若年層、特に女性が比較的利用しているといった実態が明らかになっている。  これらの利用経験者における過去1年間の電子書籍コンテンツ購入経験をみると(図表1右側)、全体では約4割が1年以内にコンテンツを購入しており、20代男性と30代女性については、購入経験者数が未購入者(電子書籍を利用したが有料コンテンツは未購入、及び過去1年間は未利用の合計)数を上回っている。 図表1 電子書籍の認知・利用経験及び過去1年間のコンテンツ購入経験(性別・年代別)  続いて、電子書籍購入時の利用端末種類(図表2左側)をみると、多くの世代で携帯電話・PHS(スマートフォン除く)による購入が多数派であることがわかる。さらに購入ジャンル(図表2右側)をみると、コミック・マンガが他のジャンルを突き放している上、同ジャンルの一か月辺りの平均購入作品数が11作品以上と回答した層が2割弱存在しているなど、先述した「ケータイコミック」の、特にヘビーユーザーが市場をけん引している状況がうかがえる結果となっている。 図表2 電子書籍購入時の利用端末種類及びジャンル別一か月あたり平均購入作品数  最後に、電子書籍のメリットについてみてみよう(図表3)。性別及び年代によって細かい差異はあるものの、電子書籍を利用したい理由として、すべての層が「いつでも、どこでも読める」と「保管に場所をとらない」の2点を特に評価していることが判明した。また特筆すべきは、50歳以上の層が他の年齢層と比べて「文字の大きさを調整できる」点を高く評価していることである。  今後、このような電子書籍のメリットが広く周知され、幅広い層に一層普及することにより、さらなるCO2排出削減につながることが期待されよう。 図表3 電子書籍を利用したい理由(性別・年代別) 1 米国の電子書籍出版の業界団体であるThe International Digital Publishing Forum (IDPF)が、IDPFに加盟している電子書籍出版社の卸売価格を集計、公表した値(http://www.openebook.org/doc_library/industrystats.htm) 2 日本の電子書籍市場については、インプレスR&D、インターネットメディア総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書2009」(http://r.impressrd.jp/iil/ebook2009)を参照した 3 平成22年3月にインターネットを用いて全国10歳以上の個人(男女別、10代/20代/30代/40代/50代以上別、各セグメント103(計1,030)サンプル)を対象に実施した。なお、「電子書籍」の範囲については、オンラインで閲覧または購入できる電子的な書籍、コミック、新聞、雑誌等を対象とし、ネット通販で購入する紙の書籍、新聞社のニュースサイト、雑誌社のホームページ、カートリッジやメモリ等の記録メディアによる電子コンテンツについては対象外とした