第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて  ブロードバンドの普及1やBS放送のデジタル化が本格的に始まったのは、約10年前である。本情報通信白書の10年前の平成13年版情報通信白書においては、「今回の白書が対象としている平成12年から平成13年初旬にかけてのITの特徴は、一言でいえば、光ファイバ網等への支援や競争促進の環境整備等によりもたらされた、DSLやケーブルインターネットの急速な普及、常時接続サービスの普及・低廉化に象徴される本格的なブロードバンド時代の到来であり、まさしく「ブロードバンド元年」と位置付けられる。」としている。  その後、ケーブルインターネットやADSL接続といったブロードバンド接続サービスは、帯域幅による料金課金と相まって、常時接続形態が一般化し、それまでのインターネットの利用形態から大きな変革を迎えた。平成17年には、FTTHの純増者数がDSLの純増者数を逆転するなど、FTTHによるインターネット接続が普及しつつある。また、第3世代携帯電話や携帯電話によるインターネット接続サービスの普及は、モバイル・インターネットを一般化させた。さらに、BSデジタル放送(平成12年開始)や地上デジタル放送(平成15年開始)は、各家庭でハイビジョンの高画質映像を受信できるようになっただけでなく、データ放送やインターネットとの連携機能を使った通信・放送連携サービスの実現を可能とした。  このように、この10年間、激変したICTインフラ環境は、多様なICTサービスを生み出した。ネットワークの融合、サービスの融合などによる、相互サービス・プラットフォーム間の競争が起こるとともに、ソーシャルメディアなど「第4のメディア」とも言うべき新たなメディアの進展等が起こりつつある。  3月11日に発生した東日本大震災においては、ライフラインであるICTインフラにも大きな被害が発生し、震災直後に多くの情報空白域が発生した。このような中でも、復旧・復興に向け、ソーシャルメディア等インターネットを活用した「助け合い」などICTを活用した様々な取組が行われ、災害時におけるICTの果たす役割の大きさが改めて認識された。  このような、ICTを取り巻く環境の大きな変化は、国民生活にどのような影響を与えたのだろうか。そして、現在、ICTをめぐる課題はどのようなものがあり、そして、今後、ICTにより国民生活はどのように変わっていくのであろうか。  平成23年版情報通信白書では、特集テーマを「共生型ネット社会の実現に向けて」と設定し、今起こりつつある新たな胎動を、「共生」というキーワードを基に検討することとした。  まず、第1章では、「ICTにより国民生活はどう変わったか」として、ICTインフラ、サービス環境の変化やライフスタイルの変化、社会課題の変遷について検証する。第2章及び第3章では、「ICTにより国民生活はどう変わるのか」とし、第2章では、ICTの利活用を更に進め、利用者本位の豊かな社会を実現するためには、どのような課題が残されているかについて、安心・安全への懸念の払しょく、デジタル・ディバイドの解消や地域におけるICT利活用の観点から検証する。そして、第3章では、ソーシャルメディアをはじめとするICTの利活用が人と人とのつながりや個人の不安、地域コミュニティの課題の解消等にどのような影響を与えるかについて検証し、ICTの利活用が進み、社会に浸透した次世代ICT社会像として「共生型ネット社会」を提示する。 1 1990年代後半から、ケーブルテレビのネットワークを用いた高速インターネット接続サービスの普及が始まっている。これはDOCSIS (Data Over Cable Service Interface Specifications)という規格を用いることで、数100kbps程度の通信速度を提供するものであり、いわゆるブロードバンド接続サービスの先駆けとなるものである